第六十三話 ちょっとした意識 ③
「まったく……バカは死んでも治らないとはよく言ったもんだよ」
「いきなりずいぶんな物言いじゃないですか。僕をバカだと断言する根拠は何です?」
「普段の行いでも十分だったのに、あの配信を見たら誰だってそう思うさね」
「ふっ……カッコよかったでしょう?」
「バカだねぇ……」
呆れた顔をしている
おかしいな。無茶をした自覚はあるけど、カッコよかった部分もあると思っているんだけど、どうやら婆さんはそういう目で見てくれていないみたいだ。
さて、婆さんがいるからわかっているかもだけど、僕が
お嬢様はもちろんとして、先生たちも含めた学園にいる人間のほとんどが体育祭の期間中は街に行っている。
街にいる状況でランチを食べるならば、わざわざ食堂に戻って来たりはしない。
ちょっと一息をつくにしてもそれこそカフェに行くだろう。
だから、いつもならお嬢様で賑わっている時間にも関わらず、食堂の中はものの見事にガラガラだった。
よしよし、目論見通りだ。
「それで? 競技の後なんだ、せっかく街にいたのにここに来たのはどういう了見だい?」
「いやだなぁ~、何言ってるんですか。
「
街から戻って食堂に来たときは少し不思議そうな顔をしていた夜空谷さんだけど、僕の言葉を聞くなりニコニコと笑顔になってくれた。
ちょっと胸を撫で下ろす。
良かった。
万が一……いや、億が一にでも「えぇ~……食堂で食べるんですか?」みたいな反応されたらどうしようとか思っていただけに一安心だ。
だが、もちろん婆さんはそんな言葉に騙されてくれるはずもない。
それでも何か訳ありということは察してくれているらしく、話には乗ってきてくれた。
「なら、悪ガキはちょっとキッチンに来な。人が来ないと思って、今日はアタシしかいないんだ。少し手伝ってもらうよ」
「こう言ったらあれですけど今日くらい、いや体育祭期間中くらい閉めちゃえば良かったんじゃ? 婆さんだって連休が取れたし、別に困る人もいないでしょうに」
「ここに来たお前さんがそれを言うのかい?」
「……確かに説得力がないか」
「わかったらさっさと来な。夜空谷のお嬢さんは適当に座って待ってておくれ」
「わかりました」
夜空谷さんはガラガラの席を物珍しそうに見回しながら、比較的キッチンに近い席へと腰を下ろす。
僕からしたら、というか男子からしたら
席に座っても夜空谷さんはどこかそわそわと落ち着かない様子だ。
「で? 本心はなんなんだい?」
キッチンに入るなり、婆さんからそんなことを聞かれた。
「さっきの理由を信じてくれないんですか? 心温まる話だったじゃないですか」
「よく言うよ、アタシの料理なんざお前さんは食ったことないだろう」
「はっはっはっ、そういえばそうだ。まぁ、そんな込み入った内容じゃないですよ。ちゃんとした食事を摂りたくなかったと言いますか。お腹に余裕がないから、レストランとか連れていかれると物凄く面倒な状況だったと言いますか……」
言いながら少しだけ言葉が濁る。
婆さんが気にするとも思えないけど、今の言葉は聞きようによっては婆さんの飯はちゃんとしてない上にレストラン以下だと言っているようじゃないだろうか?
言葉選びを間違えたことを反省しつつ、婆さんの顔色を窺ってみた。
「おや、珍しい。こうして食事をしようとしているということは夜空谷のお嬢さんに奢られたというわけでもないんだろう? 街で食事を摂るとはずいぶんとブルジョワになったじゃないか」
「えぇ、まぁ、色々とありまして」
「………………」
僕の言葉を気にした様子もなかったのに、何故かこのタイミングで婆さんの目が汚物を見るものになった。
ん? 何故そんな眼になるの?
タイミングがなんかおかしくない?
「お前さん……まさかこの学園で浮気を……」
「ルナさんみたいなことを言わないで⁉」
「ルナさん? ……あぁ、フェイクのお嬢さんか」
流石は食堂を切り盛りする婆さんだ。
ルナさんのこともしっかり把握しているらしい。
「なるほどね、確かにあのお嬢さんも勘違い激しいところがあるからねぇ」
そして、ルナさんに対するこの解像度の高さ。
うんうん。これなら婆さんの勘違いも早々に解けて──
「お前さんはああいう行動力のある天然が好みということかい」
「誤解が深まっただと……⁉」
しまった……!
僕の好みが透けて…………ない!
だって、僕からはアタックしていない!
二人共向こうから━━いや、ルナさんも括るのは違うか?
なにはともあれ僕はルナさんと別に浮気したりしてないから!!
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