第五十五話 降り注ぐ障害 ③
「ん? というか、今の話っておかしくないかな?」
ツッコミを入れた流れで僕はさらなるツッコミポイントに気付いてしまった。
「なんですの?
「いや、おかしいのはその部分じゃなくさ。僕をボコボコにする見本のためにルナさんは僕と同じ競技全てに出場して、それで実際僕をボコボコにするんだよね?」
「そう言いましたでしょう? それの何がおかしいんですの?」
「いやさ、つまり他の人は僕をボコボコにする機会がないんじゃないかなって」
「…………………………にゃ?」
理解が追い付かなかったのか、ルナさんが動物のような鳴き声と共にフリーズする。
「ほら、この障害物走もだけど、基本的に競技って一回しか出場しないでしょ? 騎馬戦だってボコボコにされたときに騎馬が崩れたらそこで敗。僕とルナさんと同じ走順でいたとしても、競技に出ながらルナさんのお手本を見るのは難しいだろうし、仮に見れたとしてそのお手本と同じことをするだけの時間は多分ないよね」
「………………………………」
「唯一玉入れくらいがお手本見てから行動に移せそうだけど、玉入れってそんな動き回る競技でもないから、入れ替わり立ち代わりで僕に近寄ってボコボコにしてたら物凄く目立つわけだけど……」
「…………………………………………」
呆然としたままルナさんが動かない。
流石は行き当たりばったり。
絶対に気付いていなかったんだろうな……。
でも、事実は事実。
僕の指摘は間違ってないし、むしろ競技が進行してから気付くよりもど頭で気付けただけマシだと思ってもらいたい。
さて、アンチ代表のルナ・アッシュ・フェイクさん。この状況をどうお考えでしょうか?
「…………………」
「あの、ルナさん?」
「…………ぐすっ」
「泣き始めただと……‼」
それは流石に想定外すぎる!
ってか、やめてよ⁉
僕が泣かせたみたいに見えるから⁉
それが配信されたら絶対に僕が悪者にされるんだからさぁ‼
「ぐす……私も色々と考えて、これが一番と思ってましたのに……。ひぐっ、そうやっで、わだぐしを、バカにずるんでずのね‼」
まずい……マジ泣きだ。
これは僕一人だと荷が重い。
助けを求めてお姉さんを見てみる。
「わ、わぁ~! どうやってこの障害物を攻略しようかなー!」
ちぃ……!
あの人生過半数引き籠りめ……!
他人のフリをしてやがる……!
くそぅ、他に誰かいないか⁉
僕を助けてくれる誰か!
チカッチカッと目の端で光が瞬いたのはその時だ。
あれは──
さすがはサポートを約束してくれただけある!
このアクシデントにいち早く気付いてくれたみたいだ!
(先生! 僕は今どうしたらいいんでしょうか!)
(泣き止ませてください)
(そんなことはわかってるんですよ⁉ どうやってって聞いてるんです⁉)
(フェイクさんが泣いている理由がわからないので私は的確なアドバイスをいたしかねます。ですので一般論としてですが、泣かせた理由を謝罪し、泣いたきっかけに対して別の視点を持っていただけばよいのではないでしょうか)
(別の視点……)
驚くほど的確に行われたアイコンタクトによる意思疎通によって、ほんの少しの光明が見えた気がする。
そうだ。他の人だと納得してもらえないかもしれないけど、ルナさんなら誤魔化せるかもしれない……!
「……ルナさん、これはむしろルナさんに与えられた使命なんじゃないかな」
我ながらあまりに胡散臭い言葉だと思う。
だけど、ルナさんは涙で潤んだ瞳を僕に向けながら、今言われた言葉を反芻した。
「し、めい……?」
「そうだよ。僕という悪を寄ってたかってボコボコにするのも一つの選択肢だったかもしれない。でも、ルナさんが代表として何度も一騎討をして僕を倒すというのは寄ってたかるより何倍も意味のあることなんじゃないかな」
だって、結果論とするなら、
自分で手を下したいってよりかは最終的に僕が倒されればいいわけでしょ?
その誤解を解くのが僕の目的なわけだけど、まずルナさんが僕をボコボコにして、その後夜空谷姉妹を手籠めにしている鬼畜野郎って誤解を解けば丸く収まるわけだし。
言動からしてリーダーとして敬われることはルナさん的にも嬉しいんだろうから、一騎討で僕を倒すという名誉は悪くない話のはず……!
「……確かに、そうかもしれませんわ!」
……ほらね?
もう少し押しが必要かと思ったけど、ルナさんの顔から涙が消える。
さすがは行き当たりばったり。
正直心配になるチョロさだ。
「
そう言い残し、颯爽とルナさんが去っていく。
よし、とりあえず何とかなったな。
「ほら、いつまでも他人のフリしてないでください。僕たちも待機場所に行きましょう」
「や、やだなぁ! 他人のフリだなんてしてないよ! ただちょっと話を聞いていなかっただけで……」
そんな誤魔化しはサクッと無視して、もう一度僕は鶴屋先生にアイコンタクトを送った。
さっきお姉さんと話していた二人での参加方法、そこのところをどうするのか知りたかったんだけど、鶴屋先生はそのまま待機場所に行くよう目配せをしてくる。
流れに身を任せればわかるってことかな?
なら、素直に従うことにしよう。
とにかくこの障害物走がこのあとの競技の厳しさを図る物差しだ。
油断しないで挑もう!
ちなみに余談として。
「……また会ったね」
「なんで隣にいるんですのぉ⁉」
「同学年で同じ組で別のクラスだからじゃないかな……」
「また辱められましたわ……」
颯爽と別れたルナさんとはほんの数分後にまた再会を果たしました。
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