第四十九話 体育祭、開幕! ⑦
「あんぎゃあああああああああああああああああああああ⁉」
激痛と共に視界がブラックアウトする。
どうして⁉
僕は今悪いことをしていないと思うんだけど⁉
「
「いや、
「やめてぇ……! チクチク言葉でいじめないでぇ……!」
「確かにこの状態で参加するのは色々と危ないのは事実ですね……。制服や体操服ってどこかで買えないんでしょうか?」
「たしか進学と同時に支給されるのでありましたか。それならば買うというよりも学園に言えば予備のサイズがあるかもしれませんな」
「確かにそうですね! では、古奈橋さん。一緒に服を支給してもらいに行きましょう!」
「ふぇ⁉ 散々引き籠っておきながら、制服がきついから新しいのをくださいなんて言うの恥ずかしい……」
「その程度で恥ずかしがってどうするでありますか。これからは毎日キツイ制服姿で毎日を過ごすのでありますよ、羞恥心なんて感じてる余裕はないであります」
「うええええええん! 制服がきついってそういうキツイって意味じゃないもぉぉん!」
視界が効かない僕の腕を誰かがガシッと掴んだ。
誰だろう?
話は聞こえているけど、皆の動きがわからないからいきなり触られるびっくりするんだけど……。
「こうなったら仕方ありません。
「何が⁉ 僕は夜空谷さんのせいで全然周りの状況がわかってないんだよ⁉」
「私を悪者にしないでください! 不可抗力だったんです!」
「それは流石に逆ギレがひどいんじゃないかな⁉」
「……なんですか? じゃあ、空森君はえっちな古奈橋さんが見たくて仕方ないとそう言いたいわけですか?」
「物凄い退路の塞ぎ方をしてきたな⁉」
そして、見たくないと言ったら嘘になる。
でも絶対にそんなことは言わない。
だって……。
「カラ、早く否定するであります……。夜空谷殿がボールペンを握ったであります……」
「同い年の彼女がいるのに年上お姉さんに目移りなんてするはずないじゃないかぁ‼」
「え⁉ 夜空谷ちゃんが影響を受けている乱暴彼氏って君なの⁉」
「誤解です! それに見てもらった通り、乱暴を受けているのは僕のほうです!」
「じゃあ、彼氏が出来たことで夜空谷ちゃんの隠れていた本性が出て来てるってこと……?」
見えないけど、お姉さんがちらりと夜空谷さんのほうを見た気がした。
少しの沈黙。
「さぁ、空森君! 制服を取りに行きましょう!」
どんな顔をしているのかはわからないけど、次に聞こえてきたのはやけに明るい声色の夜空谷さんの声だった。
そういえば、寮でも結構しっかりボコボコに殴られたな。
今までは必要がなかったというだけで、僕たち同様に割と手が出るコミュニケーションがお好きなタイプなのかもしれない。
そんな彼女の意外な一面に気付いたのはそれとして、さっき聞き捨てならないことを言ってたような気がする。
「……お姉さんの制服を僕が?」
「そうです!」
「断る‼」
「何でですか⁉」
何故かって?
そんなの簡単は話だ!
「男子である僕が女子の制服をくださいなんて言ったら、また変な噂が増えるのが目に見えているからだよ!」
「では、私も行きます! それなら問題ないですよね!」
「断固断る‼」
「何でですか⁉」
僕と夜空谷さんが付き合っていることはもはやこの学園に知れ渡っている。
そんな二人が進学してまだ一ヶ月で新しい制服を一緒に要求するなんて……良からぬことをして制服をダメにしたって思われても不思議はない!
僕が一人で行くのとは別ベクトルでやばい噂が流れかねない軽率な行動を許すわけにはいかないんだ‼
「そこは古奈橋が行くでありますよ」
夜空谷さんにがくがくと体を揺すぶられていた僕の隣でナルシ―がそんな提案をしてくれた。
「カラはまだ目が見えていませんし、古奈橋ならば事情を話せばすんなり行くでありましょうから」
「なら、急ぎましょう。開会式ももう始まってしまいますし」
「えぇ。ですので、カラと夜空谷殿は先に会場に行ってくだされ。ここからは古奈橋が引き受けるであります。元はと言えばこれは古奈橋の使命。二人にこれ以上の迷惑をかけるのは筋が通らないでありますから」
「別に僕は遅刻とか気にしないけど」
「カラが気にしなくても、周りにその姿がどう映るのかという話でありますよ。今回の体育祭でカラもやることがあるのでありましょう? 敵前逃亡と勘違いされて良いことはないはずでありますよ」
確かにそう言われたら何も言い返せない。
というよりもナルシ―の言う通りだ。
ルナさんたちに僕が逃げたと思われるのは話がよりこじれる可能性がある。
「……わかった。じゃあ、僕と夜空谷さんは先に行くよ。夜空谷さんもいいよね?」
「もちろんです。古奈橋君、古奈橋さんをよろしくお願いします……って、私が言うのも変ですね」
「そんなことないでありますよ。彩姉の話し相手になっていて頂き本当に感謝するであります。必ずや夜空谷殿と体育祭に参加させますからもう少しだけ待っていてほしいであります」
「が、頑張るからね。夜空谷ちゃん、またあとで」
「よし、じゃあ急ごう夜空谷さん!」
「はい! ……きゃあ⁉」
僕の顔に再びのビンタがぶち込まれた。
「何故いきなり手を握るんですか⁉」
「いまだに目がちゃんと見えないからだよ⁉ 責任取って僕を連れて行ってよ⁉」
「両手を繋いで一緒に会場まで走るつもりですか⁉」
「両手は繋がないよ⁉ ちょっと落ち着いて⁉」
「手を握りながら走るなんて……そんな青春みたいなこと私たちにはまだ早いです! 後ろから背中を押しますから、空森君は押されるままに走ってください!」
「いや、それ凄く危ない気が──いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい⁉」
背中をグイっと押された瞬間、僕の顔面が恐らく扉の角に激突した。
ほら、夜空谷さんから前が見えてないからすごく危険!
即刻中止を要請します!
「問答無用です! ほら、行きますよ! ほらほらほらほら‼」
「本当にこれで行くの⁉ すごく怖い⁉ すごく怖いんだけど⁉」
「カラ、健闘を祈るでありますよ~」
ナルシ―に見送られながら、僕は押されるがままに移動を開始した。
ちなみにここから会場まで走って二十分くらいかかる。
まぁ、無事に到着できるはずもなく。
『ただいま各学年点呼を開始しています。生徒は速やかに整列してください。繰り返します。ただいま点呼を──』
会場のアナウンスが聞こえてくる場所までたどり着いた頃には僕の目もだいぶ回復してくれていたけど、代わりに体中がズキズキと痛みまくっていた。
「……ごめんなさい」
流石のマイハニーも良心が痛んだらしく、目を泳がせながら素直に謝ってくれたくらいだ。
……文句は言うまい。
照れ隠しなんて可愛いじゃないか。
そう思うことにしよう。うん。
トラブルはあったけど、とにかくここからは体育祭に集中だ。
夜空谷さんに良いところを見せつつ、アンチ派の人の誤解を解いていくぞぉ!
「頑張ろうね、夜空谷さん」
「はい、空森君も頑張っ……」
「ん? どうしたの?」
「…………ぷいっ」
どうやらお姉さんの一件でうやむやだった僕との確執を思い出したらしい。
前途多難だ……。
でも、多難だろうと体育祭は始まる。
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