三章 開幕! 百合咲学園体育祭‼
第四十三話 体育祭、開幕! ①
雲一つない快晴。
晴れ渡る空はどこまでも青く、降り注ぐ日差しはただ浴びているだけでも気持ちが良い。
まさしく絶好の運動日和だ。
何もかもがトチ狂っているが、幼~大まで全生徒が参加し、体育祭としては異常としか言いようがない三日間に及ぶ長期開催となる催しになる。
赤組と白組に分かれるのは世間一般的な普通の体育祭と変わらない。
ただし、全生徒が校庭へと一堂に会して、学年関係なく応援の目が集中する中、競技に勤しむことはなく、競技はすべて校舎からは遠く離れた各運動ドーム(もうツッコむことすら野暮だろう)で参加者が集合し、時間で決められた競技を行っていく。
その間、競技参加者ではない生徒はドーム自体が街の中に点在しているため、街で自由に過ごしながら、街の中のモニターやこの体育祭のためにインストールするアプリで競技の進行を確認する形になる。
現在時刻は朝の七時半。
開会式も各学年でドームに集まり行われるため、そろそろ僕も移動を始めなくちゃいけない。
いけないんだけど……。
「あの~
「ぷいっ」
「見たことのないあざとい技を習得している⁉」
寮を出るなり、まるで待っていたかのように夜空谷さんがいたので、話しかけてみたんだけどさっきからずっとこの反応だ。
というか、これは今日に限った話ではなく、最近ずっとこんな感じだ。
女心がわからなくて喧嘩するカップルは多いと聞くけど、なるほど確かにこれは難解かもしれない。
だがまぁ今回に関しては心当たりがある!
何故ならメッセを返さなかった次の日からこうなったから‼
返信しなかったことを怒ってるのかな?
それならそれで可愛い理由だから、ちょっと微笑ましくなる僕がいるんだけど、いかんせん数日この調子だとそろそろ僕がごめんなさいするべきなんだろう。
反応が可愛いから勘違いしそうになるけど、もしもこれが本当に怒っているならそれこそ破局の危機だ。
せっかくこの体育祭でかっこいい姿や良いところを見せようと計画しているのに始めからこれでは上手くいくはずがない。
上手くいくはずがないというか、そもそも僕を見てくれていないから意味がない!
「えっと、メッセを返さなかったのは悪かったよ? でもさ、今回のことは夜空谷さんにも責任があると思うんだ」
「そんな言い訳は聞こえません」
「じゃあ、一方的に続けるけど。僕に話があるってルナさんを使って、彼氏が浮気するか確かめるのはどうかと思うわけですよ」
「だって、二人きりで話があるなんて言われたらそういう話だって思うじゃないですか……」
「仮にそうだとして、けしかける側にはいかないで欲しかったんだけど……」
「恋愛は自由です。私という彼女がいたとして、空森君に恋をすることを止める権利はありません」
権利というか感情論で止める側に回って欲しいものだ。
いや……違うのか?
僕といることは楽しいようだけど、そもそも恋愛感情はないのが夜空谷さんだ。
そして、彼女の目的は男子と恋仲になることで僕たち男子に対するお嬢様の認識を変えること。
つまり、極論で言えば別に他にカップルが生まれたら、わざわざ夜空谷さんが僕と恋人関係を続ける必要はない。
僕に別の恋人が出来る可能性が出て来たなら、むしろ嬉々としてその立ち位置を明け渡すほうが自然なのかもしれない。
「……浮気してたほうが良かった?」
パッと夜空谷さんが僕のほうを向く。
その目は怒ってるようにも拗ねているようにも見えた。
「私の送った文面をちゃんと読んでいないんですか?」
「え? 来たのはちゃんと見たけど」
「なら、もう一度読んでください。それでわからないなら空森君なんて知りません」
またぷいっとそっぽを向かれてしまう。
そうは言われても、送られてきた文面は見返さなくても覚えている。
僕が夜這いをしようとしているんじゃないかって、あらぬ疑いを掛けて来て、その前に来たのは浮気しなかったようだって安心し……。
「あ……」
思わず声が出た。
そうだよ。浮気しなくて安心したって言ってたじゃないか。好感度アップだって。
それで浮気したほうが良かったのかって聞くなんて、確かに最低な質問だった。
「ごめん……」
「気付いてくれたならいいです」
「…………そのことから察するになんだけど」
夜空谷さんがチラリと横目で僕に視線だけ向けてきた。
それはへそを曲げている理由に僕が気付いたと思っての反応に違いない。
でも……合ってるか?
今、僕が頭に思い浮かべている理由で本当に大丈夫か?
なんかまた溝を生みそうな気もするけど、今の話の流れからして僕にはそれしか理由が思い浮かばない。
えぇい、なるようになれだ!
どうせこのまま何も言わなかったら平行線なんだし!
やらないで後悔するよりもやって後悔したほうが良いって言うよね?
「夜這いを待っていたのに僕が来なかったからへそを曲げていると──」
「そんなわけないじゃないですかぁ‼」
パシーンと綺麗な平手打ちが僕の頬をはたき、夜空谷さんがダッシュで逃げていく。
新たな溝よ、こんにちは。
「空森君のエッチ! 変態ぃぃぃぃぃぃ‼」
「その台詞はやめて夜空谷さん‼」
ルナさんからただでさえ変態扱いされてヘイトを買ってるんだから!
恋人であるあなたまでが変態呼ばわりを始めたらもうそれは確定情報として流布されてしまうのよ‼
幸いすでにドームへの移動は始まっているどころか、なんなら少し遅刻気味だ。
この叫びが聞かれる心配は低いけれど、その誤解を解かぬまま行かせてしまったら同じことになる気がする。
だから、僕は逃げる夜空谷さんを追いかけることにした。
「なんで走って追ってくるんですか⁉ さては人のいない寮に連れ込む気ですね!」
「前もホテルがどうって言ってたけど、そういうことばっかり考えているのは夜空谷さんのほうなんじゃないかな⁉」
「私はえっちな女の子じゃありません‼」
ちょっと性癖に刺さりそうなセリフを吐きながら走る夜空谷さんの足はそこまで早くなく、割とあっさり追いついた僕は彼女の腕を掴んで──
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