第四十話  嫌われる理由   ⑤


 僕が作り上げたパズルがバラバラと崩れていく。

 おかしい。

 何一つ文句なくハマったはずのピースがいきなり何もハマらなくなった。


 え?

 そんな庶民的な理由が一番の理由なの?

 つまり、リア充許すまじって集団が僕のアンチってこと⁉


 すごく嫌なんだけど⁉


「あの瞬間、夜空谷よぞらだに詩織しおりわたくしたちよりも一歩進んだ存在になりましたわ。仲間などと私たちが言うのはおこがましい。それほどの存在に!」

「そこまで⁉」


「あたりまえでしょう? 基本的に私たちは横並びを強いられている者。ですが、根っこはマウント取りたくて仕方ない世間一般的な女性と同じですわ。そんな私たちにとって、この学園の中で男が出来たというのは他の追随を許さない最強のカードなんですのよ!」


 知りたくなかった!

 お嬢様のそんな真実知りたくなかったよ!


「ですから、この学園に存在していなかったカーストというものがいきなり夜空谷詩織の一人天下で出現したのです。そんな大きな変化を見逃せるほど私たちは大人ではありません」


「……和を乱すとか、変化が生まれたとか、色々とかっこよく言ってるけどさ。つまりは嫉妬に狂ったと?」


 ルナさんが物凄い真顔になった。

 これはまずい。

 地雷を踏んでしまったのかもしれない。


 でも……事実だよね⁉


「……恋人自体は別に作れるんですのよ? この学園にだって恋がなかったわけではありません。今までもこれからも同性同士の清いお付き合いがなくなるわけではありませんし?」


 遠い目をしながら、うわ言のようにか細い声でルナさんが何か言っている。


 それは僕に対する言い訳というよりも、自分に言い聞かせているような何とも言えない悲壮感を漂わせていた。


 けれど、やはり自分に嘘はつけなかったらしい。


「でも……やっぱり彼ピは欲しいですわぁ‼」

「やだぁ⁉ 僕のアンチの正体がこれとか本当に嫌だぁぁぁ‼」

「仕方ないではありませんか! 他の方々とは違って、私は思春期を迎えるまで普通に同年代の男子と過ごしていたんですのよ⁉ 特定の誰かに好意を寄せていなくても口癖のように彼氏が欲しいと言って過ごしていたんですのよ⁉ そこに男子が現れて、しかも恋人になるなどありえないとか言われていたのにあっさりカップルが爆誕したんですのよ‼」



 そう言われると納得しかけてしまうけども!

 でも、それで僕をボコボコにするのってイコールで繋がらなくない⁉


 さっきのマウントがどうって話を信じるなら、それってつまり夜空谷さんがマウント取ってるってことでしょ?


 それなら恨むべきは夜空谷さんのほうであって、僕にその矛先を向けるのはなんかおかしくない⁉


 いや、別にやるなら夜空谷さんをやれとかそういうことを言いたいわけではないけれども‼


「あ、でも待って。それなら彼氏を作ればいいじゃん! それで解決じゃん!」


 そうだよ!

 僕という前例が出来たんだし、プライドさえ邪魔しなければ彼氏くらいお嬢様方なら簡単に作れるはず!


 恋愛感情はなくて、彼氏が欲しいから作る恋人関係なんてどうなんだとは思うけど……そこに関しては僕は何も言えないしね!!


 そこは僕たちみたいに後から愛を育んでください!


 結構本気でそう思ったんだけど、ルナさんはものすっごい渋い顔になる。


「おのれリア充……そうやって悔しかったら恋人を作れと私を煽るんですのね‼」

「そういう意図じゃないよ⁉」

「だいたいこの学園でそんなポンポン恋愛が解禁されるのは危険ですのよ!」


 そう言われてみれば、確かに見えていなかった部分があることに気がついた。

 悔しまぎれの捨て台詞にも聞こえるけど、その意見には同意できる。


 なんせ男子の数が圧倒的に少ない。


 さっきのルナさんの言葉を信じるならば、僕たち男子はマウントにおいて最強のカード。

 そして、彼女たちは



 そう、ようは恋愛ハードルが下がれば、それを悪用する手段ももれなく解禁となる危険性がある。



 問題児枠として編入が認められている僕にして、そんなことをしようとは思わない。


 解禁されたところでそんな考えを持つ生徒がどれだけいるのかって話だけど、選択肢が生まれるってこと自体が危険なことには変わりない。


 鶴屋つるや先生は恋愛肯定派で僕と夜空谷さんを応援してくれているけど、学園の説明がルナさんの言ったとおりであるならば、やっぱり学園としてはトラブル回避も含めて恋愛関係は生まれてほしくないというのが本音のはずだ。


 思い切った共学化が色んな地獄を生む結果にはしたくないだろうし、もしもそんな可能性が生まれたら、僕たち男子が一斉退学を喰らうなんてことにもなりかねない。


 ……改めて、自分がなかなかに危ない橋を渡っているんだなと実感した。


「…………気まずくなるでしょう?」

「え?」

「恋人のままずっといられる人が全員ではありませんわ。そして、恋は新たに実るのが常。つまりは恋愛がポンポン解禁されたら、大抵の女子は誰かの元カレと付き合うことになるんですのよ! マウントを取りたい気持ちはありますが、そんな気まずい学園生活なんて送りたくありませんわ!」


 あ、僕よりも心が綺麗だ。

 ちゃんと恋愛って部分を最優先に考えてる。

 真っ先にマウントのカードとしての価値を考えた僕が恥ずかしい。


「ですから、この問題を解決するためにはあなたをボコボコにするしかないのですわ‼」

「そう、そこ! 僕はその話がしたかった‼ 何で僕に矛先が向いてるわけ⁉」


 脱線しかけたけど、僕が一番聞きたかった疑問にやっとたどり着いた!


 ちょっと気になる危険性に気付いちゃったけど、僕が知るべきはまずはそっち!


 どうして僕をボコボコにすることとリア充を妬む感情がイコールになったのか!


「そんなの簡単な話ですわよ?」


 目をぱちくりさせながら、ルナさんはさも当然のように僕の疑問に答えてくれた。

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