第三十九話 嫌われる理由 ④
「
初耳だ。
そして、この感じだと結構な人数が夜空谷さんが変わっていることにも気付いているのかもしれない。
そこを補って余りある人望はあるし、他学年からはその変わっている部分が見えにくいから真面目で素敵なお嬢様として認識されているけど、同級生から見れば変人枠にはしっかり収まっている気がする。
そしてだ。その話が本当だとするなら確かに認識が、というよりも話が違ってくる。
僕が夜空谷さんを変えていないなら、僕は変化の種になっていない。
つまり和を乱したことにならない。
それでなんで僕が排除の対象になってるんだろう?
……単純に嫌われ者ってオチは正直落ち込むんだけど。
「
「引いたとか?」
「それも少しありましたが、ありえないと笑って流していたんですのよ。このありえないというのは夜空谷詩織の考えがではなく、お付き合いをするという部分に対してですけれど」
「……同じこと言ってない?」
「全く違いますわ。前者は夜空谷詩織の考えそのものを否定していますが、後者は物理的に付き合うという段階に行くわけがないという、言ってしまえば楽観視のようなものですもの」
「…………僕たち男子が告白をすることはあり得ないし、もしも夜空谷さんが告白してもそれを受ける男子がいるわけがないって思ってたってこと?」
「その通りですわ」
……それだと更に話が変わってくる。
しかも僕たちには面白くない方向に。
何故かって?
ブサイク入学が生徒に知られていた可能性が出てきたからだよ!
どうせ入ってくる男子はブサイクばかり、告白なんてありえませんわ!
みたいな悲しい話になってくるからだよ!
「何故顔を険しくしているんですの?」
「ブサイクにも夢を見る権利はあるのではないかと憤っているからです」
「別にあなた方がブサイクだから、告白する勇気もないなんて言ってませんでしょう⁉」
嫌な奴と思われたと勘違いしたのか。ルナさんは少し焦った様子で僕の言葉を否定する。
「じゃあどういう理由でその考えを持っていたのさ」
否定されたのだから、当たり前の疑問を投げかけてみた。
するとルナさんは言葉を選んでいるように眉根をきゅっとお寄せになられる。
おいおい、言い訳を考えているようにしか見えないんですけど……。
「……私たちはそういう偏見をもともと持っていなかった。それを前置きした上で聞いてくださいまし。男子の入学が決まった時点で色々と私たちも説明を受けましたわ。その中に男子は基本的に私たちのような富裕層ではないという話がありましたの」
言いにくそうに、というか若干気まずそうにしているのは金持ちアピールをしているように聞こえているかもしれないとでも思っているのだろう。
さっきのブサイク発言に対する反応然り。
ルナさんはそういう人目を気にするタイプみたいだ。
別に事実だし、初めからお嬢様学園だとわかって飛び込んでいる僕たちなのだから、貧富の差に振り回されることはあっても傷つくことは多分そうそうない。
気にしてないよと伝えるために少し肩を竦めてみれば、ルナさんはほっとした顔で続きの話をし始めてくれた。
「それを理由の一つとして挙げて、だから私たちに対して危害を加えたり、ましてや求婚を迫ってくるような男子はいないと学園は言っておりましたわ。ですから私たちは……嫌な言い方でしょうけど、あなた方のことはいわば使用人のような目で見ていましたのよ」
警戒心を解くための前準備としての説明としては良い落とし所だろう。
実際、お嬢様に気に入られてそのまま仕事としてついて行く選択肢もあり得るという話は僕たちも学園から聞いていたし、嘘というわけでもないし。
鶴屋先生は思いっきりぶっちゃけて恋人が出来ないような奴ばかり選んだって言ってたけど、確かにそういう説明があったなら夜空谷さんの考えは夢物語に聞こえても不思議はない。
普通ならリスクを考えて、告白なんてしないし、そういう見方をしているなら告白をされても断るに決まっていると考えて当然だ。
僕みたいにラッキーとか思えるのは少数、というかいない想定だったんだろう。
……まぁ、僕も告白受けた時点ではすぐに飛びついたわけじゃないけどね。
なんせ握った手を消毒され、消毒したハンカチを燃やされた身である。
普通ならその時点で関係は終わっている。
我が事ながら僕たちは特殊なんだろう。
「僕が告白を受けてしまったのはルナさんたちにとって、あまりにも衝撃だったと」
「どちらが告白をしたのかは存じませんが、そういうことですわ。そして、それによって確かな変化が私たちに起きましたの」
ヤバい奴がいるって警戒心が上がったみたいな?
ありえるはずがなかったのに夜空谷詩織と付き合った変な奴がいるぞって。
そういえば、夜空谷さんに告白された次の日はすぐ噂になってたもんなぁ。
しかも仙人とあれな関係疑惑が出て好奇の目に変わるまでは警戒心に全振りした反応だった気がする。
教えられていた男子像とかけ離れた僕の登場。
なるほど、たしかにそれは大きな変化だし、お嬢様方からしたら、躾けのなっていない使用人がいるようなものだ。
使用人と違って解雇が出来ないのだから、僕を迫害するしか自衛の手段がないと考えれば、過激なアンチが生まれたのも納得がいく。
ここに来てパズルのピースが一気にハマった気がした。
そんな腑に落ちていた僕の前で、ルナさんは拳をギュッと握ると震える声でこう続けた。
「優劣などほとんどなかった私たちの仲にリア充が生まれたと!」
「あれ⁉ 思ったよりも下賤な変化⁉」
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