第三十八話 嫌われる理由   ③


「断る‼」

「くっ、やはり素直に頷きは致しませんわね……!」

「当たり前でしょ!」


 いや、でも違うのか?

 鶴屋つるや先生から僕はボコボコにされるように頼まれているわけだし。

 むしろ相手の出る競技がはっきりわかっているのは僕としてはラッキーなのかもしれない。


 もしも僕と全然被らないで不完全燃焼のまま体育祭を終えれば、結局僕のアンチの面々は溜飲を下げることなく僕に対するフラストレーションが高ぶったままになる。


 これは……むしろ乗るべき罠なのかもしれない!

 でも、その前に━━。


「……一つ聞いてもいいでしょうか?」

「構いませんわ。それとさっきから半端に敬語を使っていますが、私とあなたは同級生です。普段のあなたの話し方で構いませんわ」

「あ、そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えて。ルナさんたちが僕を目の敵にしてるのは僕がこの学園の和を乱したからって聞いてるんだけど、それって本当なのかな?」


 そう。僕はそこが一番気になっていた。

 雨瑠うるちゃんが僕を憎んでいたのはわかる。

 大好きな姉が騙され誑かされたって思っていたわけだし、僕のことを率先して目の敵にするだけの理由があった。


 でも、他の人が僕を目の敵にする理由がいまいち腑に落ちない。


 鶴屋先生の話が理解できないわけじゃない。

 確かに僕はこの学園に今までなかった不協和音みたいな存在だ。


 でも、それでわざわざ団結して変な一派を作って、そのためにこそこそと準備をするなんて手間を取るだろうか?


 言ってしまえば、その行動だって和を乱すことになりかねない。


 排除するために団結した結果、気付いたら自分たちが排除される側になっていた。


 そんな展開だって十分考えられるし、それに僕が気付くくらいなんだから、その辺りの嗅覚は僕よりも鋭いお嬢様方がそれに気付かないとも考えにくい。


 もしくはそれに気付かないくらい躍起になっている。

 どうして?


 その答えを今の僕が考えても堂々巡りになってしまう。

 だから、僕は本当の所が聞きたい。

 どうしてそこまで僕は嫌われているのかを!



「……あれだけ授業中に騒いでおいて、和を乱していないとでもお思いで?」

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」



 バカか僕は⁉

 そうだよ、同級生たちがアンチって知った時にその可能性はすぐ閃いていたじゃないか!


「でもルナさんはクラスメイトじゃない! 一番の迷惑は被っていないはずじゃないか!」

「廊下を爆走しているだけでもあれですのに、クラスではもっとひどいんですの……?」


「え? そりゃ授業している先生が僕を追跡するんだから、僕の脱走がある度に授業が中断して自習になってるわけだし」

「ひどいですわね……」


 僕を見るルナさんの目が汚物を見るものに変わる。

 ……そんな目で見ないで欲しい。


 確かに僕に非があるのは明白だけど、僕がそういう奴だとわかった上で入学させたのは学園の判断なんだ!


 恨むなら学園と折半で憎んでください!

 しかも学園の対応は僕をボコってガス抜きさせろだしね!

 諸悪の根源はどちらかと言えば学園ですよぉ!


「ですが、それはそれで興味深いですわ」


 僕の願いが奇跡的に通じたのか、蔑んだ目が一転、ルナさんは不思議そうに目を細める。


 その目は僕を観察しているというより、頭の中で疑問とにらめっこしているみたいだった。


 僕の蛮行に何か思うところがあったみたいだけど、一体何が興味深いんだろう?


「私の知る限り、あなたのクラスメイトは私たちに与しておりませんわ。一番あなたに対して思うところがあるでしょうに」

「え? そうなの?」


 それは確かにびっくりだ。

 むしろクラスメイトが先陣切って僕のアンチやってると思ったのに。


 でも、考えてみたら、僕のクラスメイトが一派にいるなら、わざわざこうしてルナさんが出向いてきて、僕の出場競技を頼んだりしないのか。


 それとなく誘導したり、勝手に決めたりしてしまえばいいわけだし。

 全部は無理でもクラスメイトが細工をすれば、ある程度僕の出る競技を操作することは可能なはずだ。


 つまり、あれだけ迷惑をかけていても、僕のクラスメイト達は僕の味方でいてくれていることになる。


 ……くぅ! もう足向けて眠れないよ‼


「その辺りはあなたを知るから故ですわね。正直に言ってしまえば、私たちも別に全員が全員あなたの行動に目くじらを立てているというわけでもありませんし。私にして、あなたのことは面白い人という認識でしたもの」


「それならなんで僕のアンチなんてやってるのさ」

「その部分に関しては先ほどあなたも言った和を乱すが影響してくるんですのよ」


 意味がわからなくて何も言えなくなる。

 僕の行動が疎ましいわけじゃないんだ。


 そういえば、鶴屋先生も僕の行動を迷惑がってるとはいってないな。

 僕を排除したい理由は変化を怖がっているからって言ってたっけ。


 結果論としては正直あまり変わっていない気がするけど、周りから見れば夜空谷よぞらだにさんを変えてしまった僕を危険視してる。


 つまり授業中の僕の行動は目障りではあっても、勉学自体は出来てるから変化としては割合が少ない。


 だから、そのことに対して含みを持ってる人も少ないってこと?


「あなたをどうにかしたい一番の要因は彼氏という部分なのです」

「……うん。それは何となく聞いてる。僕が夜空谷さんを変えてしまったからだって」

「うん? 少し認識に違いがありますわね」


 あれ? 違うの?

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