第三十七話 嫌われる理由 ②
「ですが、
キッと睨むような目つきで僕を見るお嬢様はなんだか不思議な雰囲気を持っていた。
なんて言えばいいのかな。敵意を向けられているけど、敵視はされていないみたいな。
今までみたいに僕に対して何かを感じているというよりも、偶然僕が何かの対象になったから意識しているみたいな。
僕個人というよりも僕の立ち位置について何か含みを持っている。
そんな感じがした。
「……失礼」
睨んでいた目をフッと緩ませて、お嬢様がその場で浅く頭を下げる。
「あなたの反応にばかり目が行って、私も礼を欠いておりましたわ。こうして呼び出しておきながら名前すら名乗らなかったこと謝罪いたします」
「それはどうも」
「ルナ・アッシュ・フェイクですわ」
「あれ? 思いっきり外国人?」
思わず口から出た言葉だけど、大概失礼なことを口走ったと思う。
慌てて口を抑えたけど、言ってしまった言葉が帳消しになるわけじゃない。
けれど、フェイクさんは気分を害した様子もなく、肩を竦ませた。
「生まれはアメリカですがクォーターですから。見た目であなたが私を判断できないのは無理ありませんわ」
「生まれはアメリカってことは留学的な扱いってこと?」
「……なんとも言えませんわね。確かに私は中等部の頃に編入していますし。その頃お母様と一緒に日本に来て、お父様の指示でこの学園に入りましたわ。扱いは普通に一般生徒だと思いますが、お父様のさじ加減一つでいつでもこの学園をやめて、お父様の所に戻ることになる。そんな私をほぼ間違いなく卒業までここにいる皆様と同じと語るのはいささか違和感がありますから」
しれっと重いものを背負っていることを匂わされた気がする。
お父様とお母様の関係絶対に良好じゃないよね……。
お母様が連れて行ったけど、一緒にいさせないためにお父様がお金にものを言わせてこの学園に閉じ込めたように聞こえたんだけど……。
「その同情したような眼はおやめなさい。あまり聞いていて楽しいものではない身の上話を聞かせたのは私ですが、あなたが聞かれたことに答えただけですわ。別に私は今の立場を悲観していません。もっとも……お嬢様学園に入るならばとお母様から教わったこの話し方はどうやらお母様の勘違いだったみたいなので、そこだけは少し不満を持っていますけれど……」
しかも何やら悲しい行き違いでテンプレお嬢様口調になっているらしい。
そこに関しては多分同情しても怒らないだろう。
「それで、えっと、フェイクさん。僕にどういうご入り用で──」
「ルナでお願いしますわ。この話し方に加えて、フェイクと呼ばれると私が紛い物呼ばわりされているようで嫌なんですの!」
「口調を変えればいいんじゃ……」
「この口調で二年を過ごしてしまったんですのよ? ここで変えたら、私がキャラを作ってこの学園に入って、しかもそのキャラが保てなくなったと思われてしまいかねませんわ! 毒を食らわば皿までとも言いますでしょう? 今更後に引くわけにはいきませんのよ!」
見栄っ張り……とも違うのか。
高校デビュー、いやルナさんの場合だと中学デビューの最初に一歩を踏み間違えたってことなんだろうけど、そのスタンスを貫けるのは素直に尊敬できる。
「じゃあ改めて……ルナさんは僕に何の御用なんでしょうか?」
「学園であなたを快く思わない一派がいることはご存じですわよね?」
「まぁ話程度には」
「私もその一派に属しております」
「薄々わかっていたけどやっぱり敵だぁ⁉」
そりゃそうだよね⁉
ワンチャンあった告白の可能性が潰えた以上、僕をわざわざ呼び出すようなのはそういう人に限られるよね⁉
「でも、待った! 体育祭で仕掛けてくるって話じゃなかったんですか!」
「意外とこちらの情報が筒抜けですわね。まぁ、そこまで高い志を持っている集団というわけでもありませんから仕方のないことですけど」
髪を搔き上げるルナさんは少し苛立っているようにも見えた。
「では、本題です。体育祭で私たちがあなたを狙っているのはその通りですわ。そのための練習もすでに積ませて頂いております。ですが、本番を間近に控えた今になって、私は最も大事なことを見落としていることに気付きましたの」
ルナさんはそう言いながら、メモのような小さな紙を取り出すとそれを僕に差し出して来た。
とりあえず受け取って、中身を確認する。
そこにはいくつかの競技名とその横には何か数字が書かれていた。
「これは?」
「あなたをボロボロにするために私たちが練習した競技です。横の数字は走順ですわ」
「それをどうして僕に?」
こんなの僕が見たら、この競技を避けることくらいわかっているはずだ。
それをわざわざ見せてきたということは、ルナさんは今回の作戦を台無しにしようとしているってことなのかな?
こうやって深夜の屋上に呼び出したのも他の生徒に見られないためというより、仲間の一派に見られないためと考えれば納得も行く。
もしかして、ルナさんは僕を助けてくれようとしている?
「……出てください」
「え?」
「その競技に出ていただきたいのです」
「…………」
「あなたがその競技に出ないと、私たちの作戦は失敗してしまうのです……!」
違ったぁぁぁ⁉
助けてくれる気なんて全然なかった!
ただのドジっ子だった!
そりゃそうだ。
男女で競技が分かれていないのだから、僕がどの競技に出るかなんて予想のつけようがないもんね!?
僕をボロボロに出来そうな競技の練習をしたところで、僕がその競技にいなかったら意味ないもんね!!
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