第三十六話 嫌われる理由 ①
体育祭も近づいてきたある日の夜。
どういうわけか僕は再び誰もいない深夜の校舎屋上へと呼び出された。
今朝下駄箱に入っていた差出人不明の手紙には簡潔な文章で、
『今夜、屋上へ』
とだけ記されている。
なんだろう。
また
体育祭なんてわかりやすいイベントを前に夜空谷さんがただ座して待っているとも考えにくい。
そういえば二人三脚とかあったっけ?
その練習を密かにして、本番では完璧な息の合った走りを見せましょうとか?
全然あり得る。マイハニーはそういうことを普通に考えるし、人目に触れないためなら夜中に呼び出すくらい普通にしてくる。
次いでの可能性としては
下駄箱にお手紙って手段はすでに一回経験してるし。
あの時は果たし状だったけど、今回は元アンチ筆頭として、来たるべき体育祭に向けて注意をしてくれようとしてるとか。
……もし、本当にそうだったら、年長者としてこんな夜中に寮を抜け出すのはいけないってお説教をしなきゃいけなくなるわけだけど。
そんな不安半分、興味半分で屋上に来た。
この時点で僕は勝手に手紙の差出人は夜空谷さんだと決めつけていた。
呼び出しの場所が夜の校舎。
そこは僕たちのスタート地点だ。
そこをわざわざ指名してくるなんて、夜空谷さんくらいしか考えられない。
そんな先入観があったんだと思う。
だから、あの時とは違って、変な緊張もしないまま、僕は屋上の扉を開けた。
「お待ちしておりましたわ」
バタン。
とりあえず扉を閉める。
あれ? 時間を間違えたかな?
見たことのない人がいたような?
いやいや、そんなことあるわけない。
こんな夜中に屋上に忍び込む人が複数いるわけないじゃないか!
そんなわけで、もう一回扉を少し開けて様子を確認。
「何故隠れるんですの⁉」
ウェーブのかかった腰まで届く金髪。
宝石みたいな青い瞳。
それでいて顔つきは生粋の外国人というよりハーフくらいかな? というレベルで日本人、というかアジア寄りだ。
それにも関わらず金髪碧眼にコスプレ感を感じないのは整った顔もさることながら、随所に散りばめられた海外の血が影響しているのかもしれない。
飛び抜けた美人でも
似合うというより馴染むという部分ではやっぱり血って大きいのかな?
さて、そこまで観察してみてだ。
着ている服が制服じゃないから、彼女の学年まではわからないけど、そこを踏まえてもだ。
「返事をなさい!」
うん、やっぱり見たことのない人がいる。
しかも、ものすごくわかりやすいお嬢様口調の知らない人が。
もしかして、夜空谷さんじゃなくて、あの人が僕に手紙をくれたのかな?
いや、でもわざわざ夜中に屋上に呼び出すような非常識な人がそんなたくさんいるとも思えないし……。
……あ、そっか!
もしかしたら僕だけじゃなくて、夜空谷さんが複数人を呼び出している可能性だってある!
あの人も呼び出された一人。
そう考えれば納得も行くんじゃないかな!
「
どうやら僕の予想は違ったらしい。
思いっきり差出人はあの人だ。
え? どういうこと?
深夜の屋上って全寮制の学園にとってそんな呼び出しの場所としてポピュラーなものなの?
「隠れていないで出てきなさい! あなたに話があります」
一向に扉を開け放たない僕にしびれを切らしたのか、知らないお嬢様の声に苛立ちが混じる。
そりゃ呼び出されたのだから話があるのはわかるけど、あいにく僕には君としなきゃいけない話に心当たりがない。
こんな人気のない場所じゃなきゃ出来ない話なんてそれこそ告白くらいしか……。
そこまで考えて、僕の体に電撃が走った。
そうだよ、どうして僕はこんな簡単なことに気が付かなかったんだ。
人気のない深夜の屋上。
夜空谷さんがここで僕に告白をしてくれたように、あの子だって僕に告白をするつもりなんじゃなかろうか!
前にも話したけど、僕は今モテ期!
今度こそあの手紙はラブレターで、あの子は勇気を出して僕を呼び出したに違いない!
なら、隠れている場合じゃない!
男らしく、告白に向き合わなければ……!
「やっと出て来ましたわね」
「ごめん」
「すぐに謝るその態度は良し。ようやく話が出来ますわ」
「君の気持ちには答えられない!」
「…………は?」
扉を開け放ち、僕ははっきりとその言葉を宣言する。
自分で言うのもあれだけど、僕はほだされやすい。
もしも実際に告白なんてものを聞いてしまったら、断るの悪いかな~なんて気持ちが芽生えかねない。
だから、まずはきっぱりと拒否だ!
話を聞くより先に僕の答えを明示しておけば、もしかしたら告白すらされずに終わるかもしれないし。
いや、それが相手のことを考えてないとか言われたらその通りだけど、僕は夜空谷さんの彼氏なのだからこんなところで不義を働くわけにはいかないのだ!
「なるほど。たしかに常人とは違う思考回路をしているようですわね」
気になる点があるとするなら、僕のお断りを聞いたお嬢様の反応がなんていうか、恋が実らなかったというより、珍獣を前に興味を持ったって感じに見えることだけど……。
「……変に誤解して話が噛み合わないのも嫌ですから、スタート地点を合わせますわよ。空森優成、あなたは私の呼び出しをどう捉えたんですの?」
「愛の告白かなと」
「……ふむ。では、今あなたの中で私は惨めにも恋破れた乙女だと」
「別にそこまで卑下して欲しいわけじゃないけど……」
「いいえ。その傲慢さは嫌いではありませんわ。あの
意外な反応だ。
さっきまでの感じだと「そんなわけありませんわ!」みたいな怒られ方をされると思っていたのに心にゆとりがある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます