第二十九話 覚悟の準備 ②
「おえええええええええええええええええ‼」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ⁉」
嘔吐しかけた僕を見て、
ひどいよ先生、そこは生徒を心配して欲しかったよ……。
でも、そんな傷に構っている場合じゃない。
「……まさか、僕は隠れロリコンだったのか……⁉」
いや、そんなはずは……!
でも、仙人の妄想で楽しい気持ちにならなかったのは事実……!
雨瑠ちゃんをくすぐっていた時は嗜虐心が満たされて、仙人での妄想だと嘔吐感しかなかったということは僕は
けど、それなら
そもそも付き合わないはずじゃないか!
……そうだ、そうだよ!
だいたい僕はなんで仙人で妄想したんだ⁉ 夜空谷さんでいいじゃん!
彼女をくすぐり責めにする妄想で良かったじゃん⁉
そんなわけで早速妄想をやり直してみる。
何の警戒心もなく僕の部屋に来て、両手を抑えられ、くすぐられる夜空谷さん!
こんなことするなんて嫌いですって抵抗するけど、やがてくすぐりに耐えられなくなって、涙と汗を飛び散らしながら、ごめんなさいと連呼する夜空谷さん……‼
「ぐふ……ぐふふ……笑う姿も可愛いね夜空谷さん……!」
「自問自答で答えが出たようですね。そして、今の空森さんを見て、私の疑心も杞憂だったと確信を持てました。そして、別の危険性を感じました。……まぁ、そこは恋人同士。二人で乗り切ってもらいましょう。
「でゅほほほほほ……」
「帰って来ませんね。仕方ありません……ふんっ!」
「あぎゃあああああああああああああああ⁉」
唐突に体を走り抜けた激痛が僕の妄想を吹き飛ばす。
なになになに⁉ 焼けるような痛みが足から突き抜けていったんだけど⁉
ちらっと自分の足を見る。
鶴屋先生のかかとが思い切り僕の足の甲へ突き刺さっていた。
「体罰だぁ⁉」
「今更です」
「その反応は指導者としてどうなんでしょうか⁉ 今の時代、こういった暴力行為は物凄く慎重にならなくてはいけないと僕は思っております!」
「初等科二年生の女子が高等科一年の男子に抑えつけられ、体をまさぐられたようだと警察に突き出すほうがお好みだと?」
「もっとぉ……もっと僕を殴ってください! 気の済むまで
僕は卑しい豚です。
「納得していただけたようでなによりです」
「……ところでさっきの疑心は本当に解けたんでしょうか?」
「えぇ、私の疑心は空森さんがロリコンなのかどうかという部分の一歩先にありましたから。ロリコン疑惑がひとまず杞憂だったとわかった時点で同時に解消されています」
どういうことだろう?
僕がロリコンだった前提の疑心だったってこと?
「てっきり本命は
「先生の中での僕はそこそこのクズ野郎ですね⁉」
「ですが、それは杞憂でした。私の中の空森さんに対する最低ラインが下がることはなかったので安心してください」
ここまで色々やらかしているのに僕の評価はまだ下があるのか。
先生の懐の深さに脱帽してしまう。
これで疑いも晴れたし、解放されるのかと思っていたら、先生は机の引き出しから何やら書類を取り出した。
「それは?」
「ここからが本題です。夜空谷雨瑠さんは言ってしまえば
「タガが外れた? まさか雨瑠ちゃんに矛先が向いたとか⁉」
それはまずい。
僕のせい……って言い方も何か違う気はするけど、指導者が方針を変えた場合、指導者を目の敵にする仲間なんてのはよく聞く話だ。
あんな小さな女の子に敵意を向けるなんて……!
「空森優成、許すまじ……と」
「どういう理屈で⁉」
いや、理屈はあるのか。
僕が雨瑠ちゃんに良くないいたずらをした疑惑があって、更にそれから雨瑠ちゃんの考えが変わったとあっては僕を目の敵にするのはむしろ自然な流れだ。
「今まで直接的な手段に出ていなかったのは雨瑠さんの存在が大きいです。空森さんを排除しようとしている勢力は元より過激派ばかりですから」
「お嬢様学園怖い……」
「他の学校よりも閉鎖的であるが故に、彼女たちは大きな変化を受け入れるよりも淘汰する傾向にあります。たとえ話をすれば、我々教師から見てではありますが、この学園では大きないじめが起きたことがありません。理由がわかりますか?」
「教養があるから?」
「それもあるでしょう。けど、何よりも変化を恐れたからです」
どういう意味なんだろう。
いじめが変化?
「簡単に言えば、特定の誰かをイジメれば和を乱しますよね? そういった行為を許容すれば、自分たちが今まで過ごしていた生活空間が今までと変わってしまう。彼女たちはその変化を拒みます。それは当然です。期間にして二十年弱を過ごす学園。目障りなものなんて無いに越したことはありません。だから、今に満足しているならその今を変えないようにする」
「閉鎖的ならむしろいじめ問題って悪質かつ蔓延っていそうだけど、ここはそれから目を背けにくい環境だから、見て見ぬフリじゃなくて、いじめ側を排除しようとすると……?」
「力関係が比較的拮抗しているというのもあるとは思います。お嬢様学園ですから、貧富の差はもちろん、わかりやすい優劣というのは少ないですから」
「……つまり恋人関係となった僕たち、というかこの場合は元からいた夜空谷さんを変えてしまった僕が変化の元として疎まれていると?」
「そういうことです。事実、あなたのアンチは主に同学年がほとんどですから」
「知りたくなかった新事実⁉」
同級生が僕のアンチ集団なの⁉
ニコニコの笑顔の裏にとんでもないもん隠してやがるじゃないか⁉
いやでも……理解できる。
理解できるぞ!
なんせ僕のクラスだけに絞っても、僕が脱走する度に何も言わずに自習が始まるようになってるんだもん!
この学園がどうとかじゃなくて世間一般で見ても嫌な変化だよ⁉
そして、周りのクラスからしたら授業中にいきなり奇声あげながら廊下を爆走して、ガラスをぶち破る奴が同級生なんだもん!
そりゃ怒り狂ってアンチになるのも無理はない‼
「そこまでを理解した上で、この書類を見てください」
そう言って、鶴屋先生は持っていた書類を僕に渡して来た。
なになに……
なんだこれ? ただの学園行事の告知書類にしか見えないけど。
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