二章 外堀の埋め方
第二十三話 怨恨がこんにちは ①
人生には三回モテ期というのがあるらしい。
誰でも最低限チャンスくらいはくれてやろうという神様の粋な計らいってやつなんだと思う。
つまり、どんなブサイクだろうとその三回さえものに出来れば、理論上は彼女が出来る!
まぁ、もちろん極論だけどね。
けど、僕の場合で言えば、
好かれてもいない。
特にきっかけがあるわけでもない。
容姿がタイプとかでも多分ない。
ただ偶然、僕は夜空谷さんに選ばれて、そして彼女が出来た。
これがモテ期でないなら、今までろくにモテ期なんて経験した覚えのない僕には後三回もモテ期があることになる。
さすがにそれはないだろう。
なんなら後の二回すらなくて、三回分が一回に凝縮して訪れていると言われても驚かないくらいだ。
そこで一つ考えてみよう。
モテ期というくらいだ。
その期間に彼女が出来るって意味じゃなくて、その期間は異性からモテモテになるって考えるほうが自然だろう。
なんせ好意すらない状態で彼女が出来ているくらいだ。これから好意を持つ女の子が現れるのはむしろ当たり前とすら言える。
つまり、夜空谷さんはあくまでその一人。
僕との恋愛関係を目的にする女の子は他にもいて然るべきというわけだ。
とまぁ、そんなわけで……。
何でそんな話を今更気にし始めたかと言えば……。
下駄箱に入っている手紙を見ながら、僕は戦慄する。
登校早々に下駄箱でとんでもないものを見つけてしまった……。
まずいぞ。
きっとこれはラブレターだ。
僕にメロメロの女子が早速現れた爪痕だ。
くそぅ! どうして僕は自分がモテ期だって可能性にもっと早く気付かなかったんだ……!
気付けていたら、モテ期なんだから、ラブレターを貰うことなんて想定できたはずなのに!
勘違いしないで欲しいけど、嬉しくないわけじゃない。
今時お手紙をわざわざ書いてくれるなんて、その労力を僕のために割いてくれたと考えるだけで普通にドキドキするし、舞い上がってもしまう。
けど、今の僕は夜空谷さんの彼氏。
この手紙の想いに応えることは出来ない。
……というか、こんなものをもらったとバレたら、夜空谷さんにまた浮気判定を喰らってしまう。
思い込みの激しいマイハニーのことだ。お断りのために出向いたとしても、手紙をもらって、その場所に行ったという事実だけで浮気と決めつけられるのは必至。
しかもその場合、相手はそれを誤解だと否定しないで、むしろ好都合だと思ってくる可能性すらある。
そうなったら、夜空谷さんの勘違いを正す難易度は爆上がりするだろう。
本気のお別れ宣言を受けてしまうかもしれない。
本来なら嬉しいはずのラブレターだけど、今の僕には爆弾でしかないってことだ。
「けど、ラブレターお断りとか下駄箱に張るのも嫌だよね……どんなアイドル気取りだってなるし……」
モテて調子に乗っている馬鹿ってレッテルも張られたくない。
つまるところ、僕はモテ期が終わるまではこういう対処もしていかなきゃいけないわけだ。
今回で言えば、夜空谷さんにバレる前に貰ってしまったこのラブレターの相手と話をして、お断りをしなきゃいけない。
まさか、こんな贅沢な悩みを抱える日が来るとは……。
さて、何はともあれ、そのためにはまず中身を見ないと。
白い封筒に入れられた手紙を取り出して、折り畳まれた紙を開く。
ラブレターどころか手紙なんてほとんどもらったことがないから、こういう時のテンプレ文とかも良くわかっていない。
『突然のお手紙を差し上げてすみません』みたいな書き始めで、気になり出したきっかけとかを書いてくれてるのかな?
そもそもラブレターにも色々なパターンがあるよね!
手紙の中で告白が完了するパターンとか。
あくまで手紙は呼び出す目的で、告白場所を指定してきているパターンとか。
……けど、そういうバリエーションはあれど、読めば目的はすぐに察せてしまうもの。
それがラブレターのはずだ。
手紙の書き方なんて知らなくても、どんな言葉であったとしてもその人の想いはちゃんと伝わってくるはず。
それを読んだ上で断るのは……なかなかに精神的負担が大きそうだ。
「おん?」
そして予想通り、手紙に目を通せばすぐに目的は察せられた。
というか、その手紙は長々と文を書いているんじゃなくて、すごく簡潔に筆でこう綴られていた。
『夜空谷詩織と別れろ。さもなくば、命の保証はしない』
「そっちのほうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
どうやら、一割の過激派が行動を開始したようです。
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