第二十話 唐突な訪問者 ①
「本当にサラダで来やがった……」
「怒ってはいけないでありますよ、仙人。そもそも
「拙僧は許容していないんだがな」
あれからだいたい一時間後。仙人とナルシ―は僕の部屋に集まっていた。
どうやら僕がしれっと一人で部屋に戻って、食事をするのではないかと疑っていたらしい。
どんだけ信頼がないんだ!
まぁ確かに、残り物だから持って行けとか言われてステーキ肉一枚とか渡されてたら間違いなくそうしただろうけど。
けど、残念ながら僕らの夜ご飯はそんな豪華なものじゃない。
意気揚々と戻ってきた僕が自信満々にサラダを出したので、二人はこの反応だ。
うんうん。ここまでは予定通り。
「というか、この程度のサラダを作るのになぜ一時間もかかったんだ?」
「食堂に清掃が入っててさ。キッチンが使えなかったんだよ」
「ん? キッチンが使えなかったなら、これはどうやって作ってきたんだ?」
「
「なんと……! ずいぶんと苦労をさせたサラダということなれば、これ以上苦言を言うのは野暮というものですな!」
「なるほど、事情はわかった。そもそも拙僧は絶食の予定を変更している身。これくらいがちょうどいいというものか」
そう言いながら、仙人は大皿に盛られたサラダを取り分けようとする。
よし、今だ! サプライズ行くぞぉ!
「ふっふっふっ……いつ僕がサラダだけだと言ったかな?」
「なんだと?」
「まだ何かあるのでありますか?」
「サラダって名称は変わらない。けど、このサラダと一緒に食べるために僕はうどんを作ってきたんだ!」
「うどん? まさか打ったのか?」
「イエス!」
「なるほど。時間がかかった真の理由はそこにあったと!」
「イィエェェス!」
いいぞいいぞ!
二人共良い感じに驚いてくれてる。
サプライズ大成功ってやつだ!
「ということは、この下にうどんが埋もれているということか」
あ、うん……。
じゃあ、サプライズは終えて現実を見る時間を始めようか。
「あぁ~……いや、うどんは別にあるよ?」
「なら早く出せ。見た目も食事の醍醐味だ。麺の上に野菜のほうが見た目が良いだろ」
僕も同感だ。
けど、それはちょっと応えられない要望になる。
さて、嘘は言ってないんだ。
勿体ぶらずにさっさと出してしまおう。
そんなわけで一度廊下に出る。
部屋の前に放置していたうどんを回収し、僕は一度深呼吸をしてから部屋の中に勢いよく戻った。
「さぁ、刮目して見るがいい! これが僕の手作りうどんだぁ!」
「「………………」」
僕を見る二人の目がバカを見るものに変わる。
うん。まぁ、そうなるよね。
「お前という奴はさ……」
「カラ、知っているものと思っておりましたが、寮にコンロはないのでありますよ……」
僕が取り出したのは粉をうっすらと纏ったまま袋に入れられた生麺。
市販で売られているような袋詰めの感じじゃないよ? 小麦粉から捏ねて作って、一度もお湯と出会っていない正真正銘の生麺だ。
ようは今のこれは麺の形はしているけど、生の小麦粉の塊。茹でずにこのまま食べたら腹痛は避けられない代物である。
そんなものを自信満々に持ってきたのだから、二人が呆れ果てるのも仕方ないと僕だって思う。
けど、言い分はある!
「だってキッチンが使えなかったんだもの‼」
「あぁ、そうだな。そう言ってたな。確かにそれでうどんを茹でてあると判断した拙僧たちも早計ではあった。だが、それならそれで何故お前はハードルを自分で上げたんだ?」
「同感ですな。この状態なら、うどんがあると知らないほうが幸せであったであります。あるものと思っていたものがなくなったこの喪失感は……」
「小麦粉から捏ねて、必死に踏んでまとめて、包丁もないから食糧庫にあったチャーシューとか縛るために使ってそうなひもで必死に切って麺の形にして、後は茹でるだけってところでその事実に気付いた僕の気持ちも察してよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
初めてなのに上手に出来たぞ!
……なんてちょっとほくほくしてたのに、湯が沸かせないじゃんって気付いた時の僕の気持ちがわかるか‼
ほぅ、意外と上手く出来てるな。
美味です! ありがとうございます、カラ!
なんて言ってもらえちゃうかな~とか期待した僕の落胆がどれだけ大きかったかわかるか!
それならせめて、そこまでの疑似的な優越感くらい浸りたくて、当初の予定通りに料理を持ってきたっていいじゃない‼
幸せな夢くらい見たっていいじゃない⁉
「まぁ、今回はわざとではないのはわかる。仮にお前がわざとそういうことをするなら、何も言わずに生麺を仕込んで拙僧と古奈橋を地へ沈めているだろうしな」
「しかし、それだからこそむず痒いのも事実であります……カラのうどんに古奈橋は興味津々でした故」
「それはそうなんだよね……。僕もどんなか興味あるし。何か方法はないかな……?」
頭を悩ませる僕たちの耳にコンコンッとドアをノックする音が聞こえたのはそのときだった。
僕たち三人は顔を見合わせる。
高等科一年生男子はここにいる三人で全員だ。
わざわざ僕の部屋を訪れそうな人物にこの二人以外で心当たりがない。
つまり……。
「先生かな?」
「今日は捕まって連行されただろう? わざわざ部屋にまで来るか?」
「それは朝の件に関してでしょう? 古奈橋たちの知らぬところで新たな問題をカラが起こしていても何ら不思議はないのであります」
「それもそうか」
「その反応はすごく不満だけど、とりあえず今は見逃すよ」
サラダを取り分け始めた二人を残して、僕はドアへと向かう。
「はいは~い、どちら様で……」
「こんばんは!
ドアを開けた瞬間、可愛らしい笑顔が僕を出迎えた。
あまりにも唐突な展開に僕の頭が完全にフリーズする。
「夜分にすみません……あの入ってもいいですか?」
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