第十九話 同級生トリオ    ④


「そんな殺生なぁ‼」

「しがみつくんじゃないよ、バカたれ!」

「だって何で今日に限ってキッチンの使用が禁止なんですかぁ!」

「清掃が入るって言ってるだろ! そもそもそれは事前に散々告知してあったんだから、それを知らなかったのはお前さんの落ち度だろうがね!」


 正規の利用者じゃないからそんな告知は見ていません!

 実際、食堂に行く僕のことを仙人もナルシ―も止めなかったわけだし、あの二人も気付いていなかったんじゃないかな!


 いつもなら九時まで営業の食堂が八時で閉まっているなんて……。

 そんなのあんまりだよぉ‼


「じゃあ僕はどうしたらいいんです⁉ 仲間にうまい飯を作ると啖呵切ってきたのに手ぶらでなんて帰れないですよぉ!」

「知らんわ!」

「あのときみたいに救いの手を! 哀れな子羊に救済をぉぉぉ‼」


 縋りつく僕を鬱陶しそうに見下ろすうしお婆さんだったけど、何かを思いついたのか、食堂の横にある細道を指差した。


「あぁ~、ならあれだね。裏の食料保管庫から適当に持っていきな」

「おぉ! 本当に救済が来た!」


 流石は汐婆さん!

 調理器具はまともにないからあれだけど、食材さえあれば何かしらは作れるぞ!



「そのまま食べれるのは野菜くらいだけど、一晩ならそれで我慢出来るだろう」

「サラダになっちゃうじゃないかぁぁぁ‼」

「贅沢言うんじゃないよ!」



 違うんです!

 今日だけはサラダは避けなきゃいけないんですぅ!


 サラダを作ったら「こいつ本当にサラダ持ってきやがった……」みたいな扱いになっちゃうんですよぉ!


「冷蔵品は基本的に食堂内の冷蔵庫だからね。ないもんはないんだよ!」

「じゃあせめて小麦粉とかありませんか!」


 流石に普通のサラダだけ持っていくわけにもいかない。

 ベースがサラダは崩せそうにないから、それならせめてアレンジするしかない!


「それならあるけど、どうする気だい?」

「麺作ります!」

「そういう応用力はあるんだねぇ……」


 小麦粉と塩と水さえあればうどんくらい作れるはず。

 サラダうどんなら……文句は言われるかもしれないけど納得はしてくれるだろう。

 まぁ、うどんなんて作ったことないからどうなるかわからないけど……。


 というか寝かせたりする必要があるんだっけ?

 持って行けるのは何時になるのかな……。


「うどんって一晩寝かせたほうがいいんですか?」

「そんだけ寝かせるのは素材選びから分量までこだわって研究し切った職人が辿り着く域だよ。素人がろくに知識もないのにこだわったってただの自己満足にしかならないからやめときな」

「そうじゃなくて、最低限の工程としてって意味で」

「あん? 最低限でいいなら、踏んでから三十分も寝かせれば十分さね」


 それなら今から作業に取り掛かっても一時間くらいで何とかなるかな?

 相手は仙人とナルシ―だし。


 ナルシ―はともかく、仙人は下ごしらえなしの料理がどれくらい時間がかかるかはわかってるはずだから、一時間なら許容範囲だろう。


「小麦粉と塩なら同じ場所に保管してあるから、勝手に持っていきな。そのかわり開けた分は戻すんじゃなくて、アタシに持って来るんだよ」

「なんでです? 婆さんの手を煩わせないでも普通に僕が元の場所に戻しときますよ?」

「衛生的な問題さね。アタシの管理下から少しでも外れたもんを生徒に食わせるわけにはいかないから、それはあんたたち用ってことで別個管理するんだよ」


 おかしいな。僕たちも生徒のはずだからその理屈だと矛盾するんだけど。

 僕たちなら腹を壊してもいいって言われてるような……。


 いや、そのあたりの文句を言うのはお門違いか。

 だいたいこの学園に来るまでなんて、手作りはもちろん、完全に綺麗かどうか自信を持って言えるコンディションじゃない手でお菓子とか食べてきたしな。

 

 僕たちとお嬢様じゃそもそも持ってる耐性が違うような気もする。


「あれ? でも街には外部企業が入ってますよね? カフェとか使ってるし、さほど僕たちと食べてるもので違いってないんじゃ?」

「食品を扱っている場所には必ず学園の監視が入ってるよ。定期的な衛生検査じゃなくて、それこそ見張りみたいにね」

「うへぇ……息が詰まりそう」


「それでも企業的にはメリットのほうがあるんだろう。材料も学園用で用意させているし、外とは比べ物にならない基準で検査や品質チェックもされる。けど、客が来なかろうと月毎で売り上げとは別に出店報酬を払っているからね」

「テナント料とか出店料って、普通店側が出すもんじゃないんですか?」


「資金面は生徒の親からで十二分に潤ってる。場所を貸して商売をさせているんじゃなくて、言ってしまえば出張販売をしてもらっているって形にしてるのさ。客がゼロでも金の支払いがあるから手は抜けない。しかもその金額が都会の一等地で商売をしている売り上げよりも場合によっては高いと来れば、どんなに厳しい検査や基準があろうと文句は出ないし、配置されるスタッフも学生バイトではなくかなり教育された上の人間が置かれる。あんたたちがこの学園に来るまでに食べていたものと同じ味、同じ見た目でも、中身は数段グレードが上がってるってわけさね」


 へぇ~、だからあんなに高いのか。

 テーマパークとかみたいに立地的な理由でぼったく──ごほん、値段が変わってるのかと思ってたけど、そういうことなら値段が違うのは納得だ。


「わかったら、食料を混ぜるんじゃないよ?」

「イエッサー、ボス!」


 敬礼して、僕は食堂横の通路へと駆ける。

 とにかくこれで夜ご飯はどうにかできるはずだ。


 待ってろよ、二人共!

 サラダかよって、ツッコミをさせてからの実はうどんでしたって二段落ちで度肝を抜いてやるからな!

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