第十八話 同級生トリオ ③
「昨日までとは何かが違うような……いや、ただの誤差とも言える気も……」
クソみたいなことをのたまいやがったナルシ―は顎に手を当てながら、難しい顔で頭を悩ませている。
あぁ、なんてムカつく光景だろう。
誰だってムカつくでしょ?
真剣な顔で、何故僕がブサイクなのかを考えているんだよ、こいつは!
万死に値する‼
「そのバカには彼女が出来たから、それが原因じゃないか?」
そんなナルシ―に仙人がよくわからない助け舟を出した。
それも理解が出来ない。
彼女が出来てブサイクになるってなんだよ!
むしろどちらかと言えば、かっこよくなるものでしょ!
「なるほどそれでありましたか!」
「なんでなのさ⁉」
「口角がいつもより上がってる。言うなれば、にやけているのであります!」
「嘘でしょ……
というか、夜空谷さんがいたとしてもにやけてるの?
それは流石にキモいだろう……気をつけよう。
僕と仙人の顔をひとしきり批評したナルシ―は今度は腕を組みながらムスッとした表情になる。
どうしたどうした。次はなんだ。
「それはそうとこういう仲を深めるイベントはしっかり呼んでくれなきゃ寂しいであります。じつはこの
そこは安心して欲しい。
仙人の放課後は修業がほとんどだ。そもそも誘ったところで遊びに来た試しがない。
たまに街に買い物には出てるみたいだけど、それも別につるんで行ったことは皆無と言っていい。
強いて言えば、仙人とは登校こそ一緒なことが多いけど、それは服やら髪が決まらないとか言ってナルシ―が超ギリギリの時間にならないと寮を出ないからだ。
ナルシーが普通に時間を早めてくれれば、仲良く三人で登校するのは難しい話じゃない。
「遊んでたんじゃない。拙僧の部屋に強盗が来て、それに応戦していただけだ」
「ご飯が欲しかった。後悔はしていない」
「学食に行けばよいのでありませぬか?」
「そんなお金がないから、仙人を強襲してたんだよ」
「そうではなくて、カラは食堂で料理をしていることがもうバレているでありましょう? 堂々と自分の分を作っても今更何も言われないと思うのですが?」
「それについては一応色々と訳があったんだけどさ……」
けど、こうなったら腹を括るしかないか。
仙人と無駄に一戦交えるよりもそっちのほうが確実だし、自分の好きなものも食べられるわけだし。
三人でバタバタしていたおかげで時間をそれなりに経ってる。
今から食堂に行けば、時間的に夜ご飯のピークを少し過ぎたあたりになるはずだ。
それなら好奇の目を向けるお嬢様の数も少しはましになっているかもしれない。
よし、そうと決まったら善は急げだ!
「けど、仕方ない。大人しく食堂に行ってくるよ。じゃあ、僕はこれで!」
「待て」
「なんだよ仙人! 僕は決して自分の非を認めないし、謝りもしないぞ!」
腹が減っているときに善悪の区別なんてつかないんだ!
情状酌量の余地があると僕は思う!
「クズ野郎め……。だが、そんなものは端から期待していない。拙僧が言いたいのは料理を作るなら拙僧の分も作って持って来いということだ」
「あれ? 冷蔵庫的に絶食なんだと思ってたけど違うの?」
「そのつもりだったが、どこぞのバカのせいで無駄にエネルギーを使ったからな。予定変更だ」
「お腹が空いたらやめる絶食ってそれもう修行でもなんでもなくて、やっぱりナルシ―と一緒でただ自分に酔ってるだけだよね!」
「やかましい! 諸悪の根源が口答えをするな!」
また取っ組み合いが始まりそうだったけど、ナルシ―が話に割り込んでくる。
「それなら古奈橋も所望いたします!」
「え? ナルシ―は自分の分あるんじゃないの?」
「たまには人の手料理が食べたいのであります! 肌が荒れるから普段は油っぽいものを食べたくないのでありますが、正直そこまで料理が得意でもない身の上のため……この学園に来てからはサラダしか食べていないのであります!」
要は料理が出来ないから、こういう時は便乗したいってことか。
何だかんだで好きに飲み食いが出来ている僕たちだけど、ナルシ―だけはどうやら当初の予定だった畑生活と同等の食生活を送っているらしい。
「こういうときこそチートデーを発動したいのであります!」
「僕がサラダ作ってきたらどうするつもりなのさ?」
「それはそれで食べるに決まっているでありましょう? チートデーではなくなるだけなのですから。カラが作ってくれたものを無下にするなど、この古奈橋がするわけもありませぬ! それにカラがつくるサラダと古奈橋が作るサラダが完全に同じとも限らないから十分に楽しみであります!」
クソっ、なんか対応がイケメンだ。
ここでごねたら僕は中身までブサイクになる気がしてくる。
……顔がブサイクだって認めたわけじゃないけどね!
というか、表向きの言動に目を奪われがちだけど、ナルシ―は本質を理解されればモテそうな気がするんだよなぁ。
僕たちとの付き合い方もそうだし、言ってることやってることも無茶苦茶だけど、相手を自分より下に見てはいても、決して見下すわけではない。
むしろそれがむかつきポイントではあるんだけど、そこんところを前向きにとらえる人が出てくれば、顔は間違いなく整っているのだから、好きになる人くらいいても不思議じゃないと思う。
それとも僕みたいにあわよくば付き合ってしまえって感じとか?
仙人は生活が特殊過ぎてモテないって判断されるのはまだわかるけど、ナルシ―ってなんで入れたんだろう。
ナルシストで自分以外興味がないって思われた可能性もあるけど、ナルシ―が興味なくてもお嬢様側が興味持ったらグレーだよね?
何か訳ありなのかな?
「どうかしたでありますか?」
少し固まってしまったボクの顔をナルシ―が覗き込んでくる。
「ううん、なんでもない。けど、わかったよ。今回は僕が三人分作ってあげよう!」
「上から目線が気に食わないが頼んだぞ」
「楽しみにしているであります、カラ!」
「任せてよ! とびきりのものを作ってきてあげるから楽しみにしてて!」
そんな感じに夜ご飯当番を引き受けた僕は二人を残して意気揚々と部屋を出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます