第十四話 デート? ②
「ねぇ、
「はい?」
「実はエッチだったりする?」
「なっ⁉ い、いきなりそれはどういう質問ですか⁉」
顔がカァ……と赤くなり、夜空谷さんは少しどもりながら怒った様な顔になる。
うん。この反応はやっぱり図星なんじゃなかろうか。
狼狽える夜空谷さんに僕は根拠を言った。
「露出が好きなのかなって」
「……さっきの会話のどこに
呆れるというか、なんかちょっと不安そうな顔で夜空谷さんが僕を見つめ返してくる。
あれ?
僕が可哀想な奴みたいになってるぞ?
そんなにズレたこと言ったかな?
「いや、エッチな服装って思いながらも着てたんだなぁって思って。嫌いならそもそも着ないじゃん?」
「だから、それは空森君の好みがわからなかったからです!」
「というか、なんで僕の好みに合わせようとしてくれてるの?」
これは僕の失言だろう。
服を見に来て、僕の好みに合わせようとしてくれているのはどう考えたって彼女として彼氏に可愛く見られたい的な欲求からのはずだ。
少し考えればわかることなのに、いかんせん経験値が少ない僕はいつもの調子でポンポンと言葉を返してしまう。
これは気をつけなければいけない僕の悪癖なのだろう。
怒って帰られても文句は言えない失言だったけど、夜空谷さんは気にした様子もなく僕の言葉に返答して来てくれた。
「私なりの歩み寄りです! 現状でも空森君のことは嫌いです。ですが、彼氏という部分は変わりません。それに加えて私は気付いてしまったんです」
「なにに?」
「空森君はわたしのことが好きですか?」
あまりにもまっすぐ聞かれたせいで僕はポカンと呆けてしまった。
好き……好き、なのかな?
確かに改めて聞かれると返答に困る気がする。
振り返ってみれば、かわいい子と付き合えるぜ、ひゃっは~! って思いはしたけど、それってつまり夜空谷さんじゃなくても、かわいい子なら誰でもよかったってことになるよね?
そんなきっかけだから別れたくはなかったし、恋人なんだから関係を進めたいって思いはしたけど、そこに夜空谷さんへの好意ってどれだけ含まれてるんだろう。
そもそもだ。夜空谷さんが何を目的にして僕と付き合っているかは知ってる。
それを知りながら、関係を進めようとしていること自体、夜空谷さんにとって迷惑なんじゃないか?
偽装結婚ならぬ偽装カップルくらいが夜空谷さんにとっては望む関係のはずだ。表向きはイチャイチャしながら、実はそれが全て演技! そのほうが彼女も楽だろう。
いや待て。そもそも自己犠牲で付き合うこと自体ダメだろ。
告白をされた時ならいざ知らず、真相を知った今でもだらだら関係を続けるなんて、僕は今状況に流されて人としてすごく不誠実なことをしているんじゃないか。
もしも僕が本当に夜空谷さんを好きだと言えるならば、僕が取るべき行動は彼女との仲を進展させることじゃない。
彼女のことを一番に想えるなら、僕が取るべき行動は一つしかないじゃないか!
夜空谷さんが無理をしなくても、男が無害であることは僕たちが証明していけばいい。
そのために僕たちはこの学園に入れられたようなものなんだから、彼女が貧乏くじを引くのはおかしいんだ!
「あの……空森君? すっごく真剣な顔で黙ってしまいましたけど、そんなに難しい質問でしたか? 嫌いなら嫌いだっていつもみたいにはっきり言ってもらえたら、私も言い返したりするんですけど……?」
「夜空谷さん!」
「は、はい!」
「別れよう!」
「なんでですか⁉」
夜空谷さんが見たことないくらい驚愕顔になる。
「好きかどうかを聞いたのに、どうしたらその返答が出てくるんですか! 意味がわかりません!!」
「間違っていたんだ。僕たちの在り方は正しくない! 胸を張って好きと言えない彼氏に嫌いだと宣言し続ける彼女。そんなのはもう恋人じゃないんだ‼」
「たしかにその言われ方をすると否定できませんけど! それなら昨日の内に断って欲しかったです! 彼女になったんだと一晩噛み締めた後の私はその申し出を素直に受け止めることは出来ません‼」
「それは彼女になっちゃったんだって涙ながらに苦しみを受け入れたってことでしょ! はい、いきなりですが解放の瞬間です。今こそ君は自由になるとき‼」
「気持ちの整理がついた今となってはその自由は苦しいです!」
どうしてか、夜空谷さんは僕とのお別れを拒絶する。
おかしいな、嬉々として別れるものと思っていたのに。もしかしてあれかな、付き合って一日で別れたって周りから見られるのが嫌なのかな。
けど、大丈夫だよ! そんな好奇と軽蔑の目はどうせ僕のほうに集中するんだから!
怖がらなくていいんだ!
君はもう籠の中の鳥じゃない。自由におなりなさい!
「見てください!」
僕の想いが通じたのかわからないけど、夜空谷さんはばっと両手を広げた。
まだ着たままだった試着中の私服姿がしっかりと目に入る。
普段の真面目な夜空谷さんのイメージとはちょっと離れた、フリル調の甘めなワンピース。
とても似合っていると思うけど、どうしたんだろう?
改めて感想を言えばいいのかな?
けれど、さっき散々不評だった褒め言葉を言うわけにもいかず、僕は夜空谷さんをじっと見つめたまま固まってしまう。
見方によってはガン見しているようにしか見えない僕の視線を受けながら、夜空谷さんはさらに真剣な顔で僕を見つめ返して来た。
「私、誰かのために服を選んだことなんて今までほとんどありませんでした。それこそ家族くらいです。こうやって制服ではない姿を見せることも正直恥ずかしいくらいです。でも、私は彼女として、空森君に服を選んで欲しいと思ったんです! 空森君が私を好きかわからないから、それなら少しでも好きになってもらおうと思ったんです!」
「夜空谷さん……」
「あべこべなのは百も承知です……。それこそ私は昨日フラれるものと思っていたくらいですから、恋人になれたことはすごく嬉しかったんです。私のわがままに付き合ってくれるんだってすごくすごく嬉しかったんです! もっと緊張したり、何を話していいのかわからなくなると思っていたのに、空森君はそんな緊張なんてしている暇がないくらい騒がしくて、たくさん問題行動ばかりして、会ったら自然とお話しできてしまいました。それが良いことじゃないとわかってはいても……そんな空森君とのやり取りを私は楽しいとすら思えていたんです! 空森君が私を嫌いだと言ってフラれるならまだ受け入れることも出来ます。けど、勝手に私が苦しいと決めつけて、解放だとか、自由になるとか、そんなこと言わないでください‼」
悲痛な叫びに僕の心がずきりと痛む。
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