第十三話 デート? ①
シャッとカーテンが閉じられ、
これでもう何回目だろう。
女の子の買い物が長いのは何となく知ってたけど、まさかこんなにも時間がかかるものだとは思わなかった。
あってないような自己紹介を終えた僕たちは学園内にあるショッピングセンターに来ていた。
僕にしてみれば、学食然りで油断すればとんでもない金額が掛かるトラップゾーンだらけの場所だ。
そもそも値段が書いてないとか当たり前で、店側も値段で文句を言われることがないとわかっているせいで質を重視した高額商品ばかりを並べている。
下手に何かを買おうとすれば、会計途中で逃げ出さなきゃいけなくなる場合があったりする。
というか僕は何度かやってる。
だって、たかだかシャーペンを買おうとしただけなのに平気で五千円とかするんだ。
買えるかバカ野郎!
だから、値段がはっきりしていて時間も十分潰せるし、学生デートなら定番とも言えるゲーセンにでも行こうと最初は思っていた。
けど、夜空谷さんがゲームセンターは不良の行くところだと難色を示した。
ゲームセンターが不良のたまり場ってイメージあるのは学校さぼった奴らが集まってるからであって、学園内にあるゲーセンが不良の行くところのはずはないんだけど……。
それでも嫌がる夜空谷さんをわざわざ連れていくのもどうかと思ったので、プランを変更しようとした。
でも、放課後デートがゲーセンくらいしか思いつかなかった僕は途方に暮れることになってしまって、結局服が欲しいという夜空谷さんに連れられて見たことのないブランドのアパレルショップに入ったのがもう一時間ほど前。
告白の時ですら制服姿だった夜空谷さんの私服姿はとても新鮮で、色々な服をとっかえひっかえに試着して僕に見せてくれる彼女は控えめに言ってすごく可愛かった。
けど……贅沢なことだってわかってるんだけど、目の保養も一時間も経過すれば慣れてきてしまう。
褒め言葉のバリエーションも早々に尽きてしまい、とても失礼なことに僕は夜空谷さんのファッションショーに生返事を返す人形と化している現在だ。
「
「良いと思う」
「ありがとうございます! では、また少し待っていてください!」
「はい」
「………………。空森君! これはどうでしょうか!」
「良いと思う」
「ありがとうございます! では、また少し待っていてください!」
「はい」
「……………………。空森君! これはどうでしょうか!」
「良いと思う」
「ありがとうございます! では、また少し待っていてください!」
「はい」
「あ、持ってきたのは今のが最後でした。空森君、次の服を探しに行きましょう!」
「ごめん、ちょっと待って欲しい……」
「なんですか?」
途切れたここがチャンスだ。
ここでそろそろ服を決めて欲しいことを伝えて、買い物を終わらせよう。
いくら女子の買い物が長いとはいえ、一時間試着して一着も買いたいものが決まらないならきっとここの品ぞろえは夜空谷さんの感性に合わなかったに違いない。
というか、僕が現界だ。
学園内に出店していて、しかもお金を持ってるお嬢様だってこともわかっているのだから、店員の人はひたすら試着だけする僕たちを咎めも嫌な顔もしてこない。
それでも庶民の感覚が抜けきっていない僕からすれば、冷やかしに来ただけの学生カップルにしか見えないだろうこの振る舞いを続けるのはいかんせん居心地が悪い。
買わないなら帰れよ。
そんな幻聴すら聞こえてきそうだ。
そろそろこの空間にいること自体がキツくなってきてる。
だから、お願いだ。
どうか一着ぐらいは好みの服が合ったと言ってくれぇ……!
それを買って早々にこの場を去らせてくれぇ……!!
「えっと、気分を悪くしないで聞いて欲しいんだけど……」
「その歯切れの悪い感じはなんですか……? 実はどれも似合っていなかった、身の程をわきまえろよ、ブス。とか言われるんでしょうか……?」
「いや、そんなひどいことは言わないけど⁉ そうじゃなくて……そろそろしんどいです」
「ブスを見るのがですか?」
あれ? なんか反応がおかしくないか?
元気がないというか、不安そうというか。
僕の知る夜空谷さんなら「まさかブスとか言うつもりですか⁉ 最低です!」みたいな反応な気がするんだけど。
「……なんで変に卑屈になってるの?」
「だって……何を着ても空森君は同じ感想しか言ってくれないので、私に興味がないんだと思ってしまって……」
やべっ、普通に気付かれてた!
さすがにゲームのキャラじゃないんだから、あれだけ同じ会話を続けるのは無理があったか。
でも少し待って欲しい。
興味がないと思われてることにしょげてくれるってことは少し僕に興味を持ち始めているんじゃなかろうか?
私が何を着ても興味を示さないなんて……ふんっ! みたいに拗ねてるってことだよね?
まさかの関係前進だったりするのかな⁉
「より嫌いになりました」
「そうですよね。本当にすみませんでした」
まぁ、そんなはずはなかった。
自分に興味がない奴なんて好きになれるはずがなかろう。
塩対応でキャーキャー言われるのはクール系イケメンくらいなんだ。
僕がやってもただの態度が悪い奴にしかならないのである。
「しんどいのはひとまずわかりました。それで空森君の好みの服はありましたか?」
「え? 僕の?」
けれど、夜空谷さんから少し予想外の質問が来る。
「そうです! 何のために服を見てもらったと思ってるんですか?」
「客観的意見が欲しいのかなって」
「それがわかっているなら、なおさら生返事はやめて欲しかったです!」
「最初は頑張ってた! 少ないボキャブラリーで必死に褒めてたよ!」
「私のことは必死にならなきゃ褒められないって言うんですか‼」
日本語って難しい‼
ただ僕は必死になってたって言いたかっただけで……。
あれ? これでも伝わらない気がする。
少ない褒め言葉から必死に言葉を選んで……いや、これだと褒めるところが少ないって言ってるような……。
だめだ……日本語って難しい‼
「それに褒めてた内容もちょっと嫌でした!」
「どうしてさ! 僕なりに精一杯やったのに⁉」
「じゃあ、もう一回やってみてください」
「うひょ~! お姉さん、キマッてるねぇ! 今日は勝負の日かい!」
「下品です!」
「ブヒ~‼ ブヒブヒブヒブヒ~‼」
「人に戻ってください!」
「へぇ、なかなかに……エッチじゃん」
「あの服は私もそう思ったので許容します」
良かった。
最後の感想言ったときの服はもはや水着っていうか肌着っていうか……あまりにも夜空谷さんっぽくない露出度だったから、あれが好みとか言われたら正直困るところだった。
……ん? いや待てよ。
エッチだったに同意してもらっただけで好みかどうかはまだわからないのか?
昨日制服だったのも、実は私服がどれも過激なのしかなくて、シチュエーションにそぐわなかったから着てこなかったとか?
雰囲気のためなら、夜中に校舎の屋上に上がる夜空谷さんだ。
告白の場面で好みの服を我慢してでも制服を選ぶくらいは普通にしてくる可能性のほうがはるかに高い。
つまり……。
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