第4話 焼肉で打ち上げ!

「「失礼しましたー!」」

保健室を出てB組の溜まり場へ。

クラスメイトから、花蓮への心配と労いの言葉をかけられ、適当に愛想笑いを浮かべてやり過ごす。


「琴音!おかえり!!ねぇ琴音の走りめっちゃ凄かった!カッコよかったよ!」


「あ、穂花。ありがとう」


「いや〜正直成瀬さん転んじゃった時はもうダメかと思ったけど琴音と橘くんがめっちゃ追い上げたね!そのおかげで成瀬さん転ばせたE組を抜かせたし、格の違いを見せつけたよね!」


「うん...でもぶつかっちゃったのは故意じゃないと思うよ...それにその子、終わったあとちゃんと花蓮ちゃんに謝ってたし...」


「そうなんだ...転んでなかったら絶対1位だったのにな〜」


穂花はあんまり納得いってない様子だったが、E組の彼の名誉のために念のため事実を伝えておいた。ここからじゃ謝ってる現場はよく見えなかったのだろうか...

こういう小さな誤解から軽蔑されてイジメに発展していくんだろうなぁ...


体育祭はA組の優勝で終わった。私たちB組は総合3位でちょうど真ん中、可も不可もなくって感じ。

教室に帰ってHRを終えたら、体育祭の打ち上げということで事前に予約していた焼肉食べ放題に行った!


クラスの40人中30人が参加するこの打ち上げという名の親睦会。もともと参加するつもりは全くなかったのだが、穂花にしつこく誘われて渋々OKしてしまった。

席は6人席と4人席が3つずつあり、事前にスマホアプリのくじ引きで席順を決めていた。

もうすでにクラスでは何個かグループができており、そこだけじゃなくていろんな人と交わろう、友達になろうという陽キャの提案でこうなってしまった。私にとってはいい迷惑だ。

私は6人席になり、穂花とは離れてしまった...

ていうか先に座ってた4人とは全然話したことないしかろうじて名前がわかるぐらいだし穂花なしじゃ私全然話せないんだけどどうしよう、帰りたくなってきた。


「おっ、望月さんお疲れ!」


「あっ、安藤くん!お疲れさま〜」


最後の1人は安藤くんだった。一応リレーで少し喋ったし、一緒に走った5人にはなんとなく絆が生まれてる気がして少し安心した。


「そっか、2人ともリレー選手か!ウチの卓は他より優秀だな」


「やっべ〜めっちゃ腹減ってきた。安藤、もちろんフードファイトするよな?」


「おしやるかっ!おまえら俺の胃袋なめんなよ、小出こいでも強制参加な」


「うわ〜コイツらマジでやる気かよ、、萩原さんたちごめんね。たぶんいっぱい頼んじゃうわ」


小出くんが手を前で合わせて、ごめんのポーズをとる。


「はぁ、なんで男子ってすぐ競争したがるんだろうね〜」


「あはは...」


うわ〜女子2人とも若干引いてるよ...

なんかこの卓気まずくなりそう...


そんなこんなでまずはドリンクを頼み終えた。

クラス委員の日野ひのくんが通路の真ん中に立って乾杯の音頭をとる。


「ちゅうもーく!それじゃあみんな!体育祭お疲れ様でした〜!いっぱい食べて話して仲良くなりましょ〜!かんぱぁ〜い!!」




一同「かんぱーーーい!」




「よっしゃめっちゃ食べるぞ〜!」

「とりあえずタンとハラミとカルビ10人前頼もうぜ!」

「そんな頼めねぇよ!あとライス大3つな!女子はどうする?」


「ウチはライス小にする」

「わたしも〜」

「私、大にしようかな...」


なんか今日色々あってお腹空いてたし、大くらいがちょうどいいよね。


「おっいいね〜望月さん!結構食べるほう?」


「いや、リレーのせいかな...なんかお腹空いちゃって」


「あ〜望月さん凄かったもんねーめっちゃ全力で走ってて」


「わかる!なんか別人って感じだった。望月さんにそんなチカラが秘められてたなんて...」


女子の萩原はぎわらさんと滝川たきがわさんが話にのってくる。


「いやいやそんな、なんか無我夢中で...」


「あとさ、最後のバトンパス!俺間近で見てたけどさ、なんか望月さんと橘息ピッタリだったよな!もしかして付き合ってるべ?」


「うぇぇぇ!?付き合ってなんかないって。中学が一緒なだけ...ぐ、偶然だよ...」


安藤くんの唐突な論理の飛躍に驚く。


「へー...それで実際どうなの?望月さんは橘くんのこと好きなの?」


すかさず萩原さんが聞いてくる。女子はほんと恋バナ好きというか...

後がめんどくさそうだし、湊と幼馴染であることは穂花ぐらいにしか教えてない。

湊が私のことどう言ってるか分からないけど。

湊をめぐった女子どうしの水面下での争いに巻き込まれるのはもう中学でコリゴリだ...

結局湊は誰にも靡かなかったみたいだけど...


ていうかなにこれ....!?なんでこんな私だけ質問攻めに遭ってるの?静かにバクバク焼肉を食べていたい...


「まぁ...かっこいいとは思うけど私には高嶺の花すぎて無理かなぁ」


「そうよね〜わかる、見てるだけで満足よねぇ」


嘘だ、萩原さんは湊に積極的に絡みに行ってたはず。私への質問は牽制といったところだろうか...

萩原さんは用済みだと言わんばかりにりんごジュースを飲んで小出くんたちに話をふる。無難に無害アピールしといてよかった...私も今のやりとりで喉が渇いたからウーロン茶を飲んだ。


「橘と釣り合う人間なんて中々いねえよな〜」

「でもあいつ付き合ったことないって聞いたぜ」

「マジ?周りにあんなに女子いるのにめっちゃ理想高かったりするのか?」

「モテる奴は贅沢だよなぁ」


「男は顔だけじゃないでしょ。女子は結構清潔感とか気にするよ?」


「清潔感?」


「ほら、髭が生えてたり唇カサカサだったらイヤじゃない?」


「あー、確かに!あと私は手の甲と指毛もちゃんと処理してて欲しいかも!」


「わかる〜!顔もそうだけど意外と手フェチな子多いしね〜」


「へー、女子って意外とそういう細かいところ見てたりするんだな...」


「そうよ、だから元の素材の良し悪しを嘆いてないでスキンケアとか努力した方がいいよ」


「うぐっ...!」


萩原さんはにっこり微笑みながら喋る。

やっぱりこの人、物事をズバズバ言うタイプだ...敵に回したくないなぁ。


——食べ放題もラストオーダーの時間になった。男たちは最初こそ息巻いていたが、序盤にペースを上げ過ぎたのか3人とも辛そうに下を向いている。


「こうなるなら最初からやらなきゃいいのにね」


「無理して食べるものじゃないのに〜」


「2人とも分かってないな。たとえこうなるって分かっていようが、その瞬間やりたいと思ったからやるんだよ...!うぷっ...」


「うん、全然わからんわ」


萩原さんが呆れた様子で頬杖をつく。焼肉の熱でベタついて茶髪の前髪が張り付いているから何度も前髪を掻き分けたり伸ばしたりしている...


私は自分の分のお肉とLサイズのライスを食べ終えて満腹になったので、結局ラストオーダーはアイスだけ頼んだ。




「ねーねー望月さんってさ、宮本さんと仲良いよね?」


精算が終わり店を出ると、さっきまで隣に座っていた滝川さんから話しかけられた...


「穂花のこと?...そうだね、席が前後だったからそれで仲良くなったよ」


「私宮本さんと同じ料理部でさ、望月さんさえよかったら今度私たちの作った料理を食べ比べしてくれないかなって話になってね...」


「え、ほんと?嬉しい...!」


「でね?来週の土曜日とかどう?テストも近いしお勉強会も兼ねてさ」


「えーめっちゃいいっ!来週の土曜ね、楽しみ〜!」


滝川さん、料理部だったんだ。休日をあまりにもムダなく過ごせる魅力的な提案に私はニつ返事で快諾した。


「それじゃあ私、自転車だから」


「え!?望月さんチャリ通なの?」


「うん、片道5kmぐらいだし」


「え〜結構遠くない?でもそっか、それで強靭な足腰が鍛わってるんだね!」


「あはは、そうかも。それじゃあまたね!」


「うん、バイバイ!」


そう言って滝川さんと別れて自転車置き場に向かう。焼肉屋はちょうど学校からの帰り道の反対にあった。家まで遠いけどまあ食後の運動にはちょうどいいか。


公共の自転車置き場に着くと私の幼馴染、橘湊が柱に寄りかかっていた。

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