第2話 運動会② クラス対抗リレー 1年生の部
クラス対抗リレー1年生の部がスタートした!
速水くんはスタート少し出遅れて最初のコーナーを曲がる。曲がり切って現在4位。ちなみに5位は第一走者唯一の女の子だ。ちょっと可哀想...
直線で徐々に加速していく。あっ1人抜いた...!そのままラストコーナーを曲がって3位で花蓮ちゃんにバトンが渡る。
花蓮ちゃんは小柄な身体を活かして勢いよく最初のコーナーを曲がっていく。
直線に入った途端、B組のみんなから歓声が湧き上がる。カワイイ容姿でカッコよく駆け抜ける様にみんな釘付けになってる。2位は目前、1位との差は5、6mほど。でも1位のA組は男男の順番で来てて次は女子だから安藤くんで全然抜けそう!
花蓮ちゃんが最終コーナーに差し掛かる。現在B組は3位、2位のC組の女子もスパートをかけて最短で曲がってる。花蓮ちゃんはここで抜かしにかかる。抜けると思ったけどカーブだとどうしても外回りになるから抜きづらい.....
「あれ....?」
後ろから4位だったE組男子が迫ってきた!ウチはバトンの受け渡しがスムーズにいってコーナーもうまく曲がってたから、きっと直線で加速してきたんだ...!
第1レーンを走ってた彼は、花蓮ちゃんを抜かそうと真ん中の第3レーンに軌道修正しようとしたその時、、、!
花蓮ちゃんの右肩とE組男子の左肩が衝突した———
不意の後ろからの衝突で、花蓮ちゃんは横転。思いっきり左腕と膝を擦りむいたように見えた...
すぐさま起き上がり走り出す。怪我したせいでさっきの半分ぐらいの速度でふらふらした走りだったが、バトンはしっかりと第3走者、安藤くんへと渡った。
走り終えた花蓮ちゃんは私たちのところまで来て体育座りになった。両膝と左腕から血が出てる...
「花蓮ちゃん、大丈夫!?すぐ手当しないと」
「私は大丈夫だから琴音ちゃんは早く準備してて!次でしょ!」
「う、うん。じゃあまたあとでね!」
花蓮ちゃん、痛いだろうに気丈に振る舞ってるように見えた。あんなに楽しみにしてたのに気の毒だな。でも大丈夫、私たちを責める人はいない。責められるべきはE組のあの男子だ。大体目の前に女子がいるのにあんなに勢いよく走ってたら———
「琴音!俺たちで精一杯やろう。大丈夫、なんとかなるって」
「湊、、そうだね...私走ってくる!」
湊に言われてハッとする。そうだ、こんなこと考えてたって仕方ない。今はただ自分のベストを尽くすだけ。一度目を閉じて深呼吸、気持ちを切り替える。
今安藤くんはラストコーナーを曲がり切った。B組は現在4位。
5位のD組と3m差、3位のC組と10m差ぐらいの位置でバトンを受け取っていたが、C組と差を縮めて3位まで4mほどの距離になった!
「望月さん、ヨロシク!」
「うん!」
安藤くんからバトンを受け取る。
うん、受け渡しはスムーズ!
すぐさま左手にバトンを持ち替えて最初のコーナーを走る。
全長約200mのトラック、人前に出るのは30秒程度なのに、どうして走る何時間も前からあんなに緊張するんだろう。
走ってる間は緊張してる暇なんてないのに。
ファーストコーナーを曲がり終えて直線に入る。
...やっぱり、花蓮ちゃんの時より応援の声聞こえないな、みんなもう諦めてるんだろうな。私がどんな走りしようと、あのアクシデントがあったおかげでみんな慰めてくれるだろう......
『でもこういうのは楽しんだもん勝ちだと思うからさ、緊張を楽しんで走れればそれでいいと思うんだ!』
花蓮ちゃんが、そんな事言ってたっけ。楽しんだもん勝ち...か。
たぶん頑張ってももうクラス1位は取れないだろうし、このまま無難に走って4位でバトンを湊に渡すか、、、
いや、私が今1番楽しめることは...
この絶望的な状況で、誰にも負けないくらい全力で駆け抜けること!
直線で加速する。まだ、まだ、もっといける!
風を切って進む感覚、懐かしい。もっと、もっと走りたい!
鼓動が高鳴る。全身に酸素が駆け巡り、力となって足に伝わる。
ラストカーブに差し掛かる前に3位のC組男子の後ろにぴったりつけた。カーブじゃ抜かせないから後ろにつけて風を避ける。勝負はラストの直線!
距離は短いけど、バトンパスの範囲ギリギリまで行けばC組を抜ける...!
カーブを抜けて最終直線...!2位までのバトンパスが終わり第2レーンで待ち構えてるB組アンカー、幼馴染の橘湊の顔を見る。アイコンタクト。感じて!信じて!見てたでしょ、私の走り!助走は範囲ギリギリまで、絶対抜けるから!
湊がC組アンカーより早めに走り出す。助走は徐々に加速していき、私はスピードを落とさずむしろ加速していく!テイクオーバーゾーンでC組を抜いていく。
やっぱり湊、私のコト分かってんじゃん。
全力で走りながら左腕を目一杯伸ばしてバトンを託す。湊の右腕に渡る。パシッ!と気持ちのいい音がした。私と湊にしか聴こえてない2人だけの音。
「湊!勝って...!」
「おうっ!」
走り終えた私は安藤くんたち3人の元へ駆け寄る。疲れがドッと押し寄せ、穴が空いてしぼんでいく気球のように、ヘナヘナと座り込んだ。
湊の行方を見る。直線に入り、女子から特段の黄色い歓声が上がる。湊の人気はB組だけにとどまらず他クラスの女子からもお墨付きのようだ...
幼馴染というフィルターを通してみても、普段はともかく、運動してる時の湊はカッコいいと思う・・・まぁ、ちょっとだけだけど。
湊は1年生とは思えないスピードでトラックを駆け抜ける。バトンを渡した時は2位のE組と5〜6mぐらいあった差を一気に縮めて、、、今逆転した!
すごい、ラストカーブもほとんど勢い落とさず曲がりきって、1位とは5m差、ゴールまで残りわずか20mほど。もしかしたら1位まであるかもしれない!
「湊〜!がんばれえええええ!」
「湊くんがんばってえええええええ!」
「橘行けーーー!」
「たちばなあああああああ!」
気づけば私は大声を出して湊を応援していた。
一緒にいる3人も全力で湊を応援している。B組の勝利を、湊が1位でフィニッシュするのを願ってる。
さぁラストコーナーを抜けて湊が迫る。A組アンカーが一瞬顔を後ろに向けてすぐ戻す。すかさず目を見開いて顔は上を向いて必死な表情でラストスパートをかける!
その後ろから全力で湊が追いかける!第2レーンに移り追い抜こうとしたその時、、、!
先にゴールテープを切ったのは、『A組』だった。
あと1歩分ぐらいの差に見えた。それほど惜しかった。湊は全力を出し切ったのか、レーンから少し離れたところで大の字になって寝転がっていた。みんなで湊を迎えにいく。ハプニングもあったけど、私たちB組は堂々の2位という結果で終わり、健闘を讃えあった。
「そこの5人組、ちょっといい?」
「えーと...あっ、キミ!」
スラっとした長身の女性が急に私のことを指差す。ショートカットで自信に満ち溢れた佇まいは、1年生ではなさそうに思えた。
「よかったら、陸上部入らない?」
手を差し出されて、さながら攫われたお姫様を助けにきた王子様のような構図になっていたが、訳のわからない状況に私は首を傾げることしかできなかった。
しかしこの出会いをきっかけに、モノクロだった望月琴音の高校生活が120°ぐらい変わるなんて、この時の私は知る由もなかった——
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