ベストを尽くせば
清水 雅
第1話 運動会① リレー選手を決めよう
「それじゃ、男子のリレーは安藤君、橘君、速水君で決まりね。女子のリレーは、、やりたい人...?」
………
「50m走の速い順でいいんじゃね?」
「じゃあ、うちのクラスだと成瀬さんと望月さん?2人ともそれで大丈夫?」
「アタシは大丈夫でーす!望月さんは?」
「えっ...!えーっと...はい、大丈夫です...」
なんだか断りきれずに受けちゃったなぁ。でも男子のリレー選手はトントン拍子で決まってて断れる空気じゃなかったし。
今現在帰宅部で華のない高校生活を送っている私、
私とはあんまり関わらないタイプかな...陽のオーラが近寄りがたい。
中学まではスポーツ少女だったし、小学校の頃からの友達もいたりして、それなりな学校生活を送ってきた。だが高校生になった私はまるで魂が抜けたかのように呆けてしまい、なにか部活に入る気力もなくただ家と高校を往復する毎日、気づけば5月時点で友達は同性1人のみ。ほぼほぼボッチと言っても差し支えないのではないだろうか....?
まぁもともと人見知りではあったし、夢の青春ハイスクールライフなんてのは、席に座って待ってるだけじゃ訪れないんだなってつくづく思う。
「琴音!リレー出るんだろ?一緒にがんばろうな!」
「あ、湊。そうだね」
コイツは
....正直走りたくないな、湊が私の分も走ってくれないかな。
「ちょっ、琴音。声に出てるって」
「あっ、ごめんつい」
「はぁ、琴音ちょっと変わったよな。なんつーか、、、つまんなそう?」
「別にいいでしょ。湊には関係ないしほっといてよ」
「はいはいそうかい、まぁなんかあったら相談にはのるからさ」
「ん、別になんもないよ。ありがと」
短い会話を終えると湊は男子どうしの輪へ引き返していった...
全く、おせっかいな幼馴染だ。まぁこんな会話でも少しは気が紛れたかな。
「もう琴音ったら、ほんとに橘君と幼馴染なのかってくらい塩対応よね」
「別に普通でしょ」
「どこがフツーなの!?顔ヨシ性格ヨシでおまけに運動神経バツグンの橘君が幼馴染なんだよ!?私が琴音だったら毎日手作り弁当持ってきて中庭のベンチで一緒にラブラブランチタイムよ!」
「...穂花、少女マンガの読みすぎ。そんな幼馴染はこの世にいません」
「はぁもーほんとありえないっ!あんた今全国のおなごが一度は夢見るシチュエーションにいるのに」
「現実は妄想のようにそううまくはできてないってコトよ、そんなことよりあー、憂鬱だなぁ、運動会...目立ちたくないのに」
「どうせあんたの事なんて誰も見てないでしょ、みんな橘くんしか眼中にないんだから。自意識過剰よ」
「そうかもだけどさ...」
穂花が言っていることはあながち間違ってないのだろう。割り切って考えられる穂花の性格が羨ましい。
「でも体力測定はびっくりしちゃったなぁ。琴音、明らかに文化部顔なのに走り出したら急にばびゅーん!って飛んでくんだもん。クラスで50m7秒前半の女子、成瀬さんと琴音だけだもんね」
「文化部顔って...まぁ中学はサッカー部で走り慣れてたし...」
「中学はイケイケスポーツ女子で、今は帰宅部?フツー順序逆じゃない?どうしてこうなった...」
そう言い穂花は両手で顔面を覆い隠す。黒髪ロングが色白な肌をより一層際立たせる。
「もう、私のママじゃないんだから」
そう言って穂花を前に向かせて会話を終わらせる。
あー、なんか...何をするのもイヤだし何もないのもつまんないなぁ。
外の天気は...どんよりとした曇り空。午後には雨が降りそうだな・・・
そんなことを考えつつ、徐々に近付く梅雨の気配にそっとため息をついた。
6/13(金)、快晴。今日は絶好の運動会日和。
6月に運動会があるのは、6月は祝日がないから、運動会という行事を平日に組み込むことで、擬似的に祝日気分を体験できる、という理由らしい。なんだそれ。
種目は順調に進んでいった。ちなみに私は午前中は綱引きに参加した。2回戦で負けたが。
そして気づけばラスト、学年別クラス対抗リレー。ウチの高校はクラスごとにチームになっていて、例えば1-Aと同チームは2-A、3-Aみたいな感じ。それでEクラスまであるからレーンには5人並ぶ。
まず2年生の部からリレーがスタートし、終わったら1年生、最後に3年生が走るというのがお決まりらしい。
私たちのクラスは1-B、オーダーは第1走者、
「次はー、クラス対抗リレー1年生の部です。出場するメンバーはー、校庭中央までー、お集まりください」
放送委員のアナウンスが入る。
あぁ、いよいよだ。あんまり注目集めたくないなぁ、私の次湊だしアンカーだし私責任重大じゃん。あーーお腹痛くなってきた。
「望月さんがんばって!」「がんばれー!」
「琴音!ファイトだよ!」
あ〜もう、そんなに期待した目で見つめないで。こっちの気も知らないで...みんな無責任よ。穂花リレー変わってくれないかな。あぁでも流石に50m10秒台の穂花が走るより私が走った方がマシか...
「が、がんばってくるね」
そう返事をした私は立ち上がって校庭の中央へ小走りする。みんなの期待がプレッシャーになって降り注ぐ。足取りがどんどん重く、気分もどんどん悪くなっていく。
「花蓮、期待してるよ!」「絶対勝ってね!」「成瀬さん、可憐な走りを見せてくれ!」「おまっ、さっむ!」「うわー恥ずかし!」
「あはは、みんなありがとー!そんじゃちょっくら可憐に走ってきますわ!」
そう言った成瀬さんは、ふにゃふにゃスキップしながら手をゆらゆらさせてこちらに向かってくる。
彼女なりに可憐な仕草をしているらしい。
「アハハ花蓮ノらなくていいって!」「頼んだぞー!」
成瀬さん、余裕そうだな、冗談言う暇あって。さすがはクラスのムードメーカー。あれくらい自分に自信があれば私も———
「琴音ちゃん、がんばろうね!」
「あ、成瀬さん。うん、がんばるけどちょっと緊張しちゃって足ガクガクだよ私」
「あはは、私も〜!でもこういうのは楽しんだもん勝ちだと思うからさ、緊張を楽しんで走れればそれでいいと思うんだ!」
「確かに、そうだね...成瀬さんってポジティブだよね、ありがとうちょっと気持ちラクになった」
「ほんと〜!よかった〜、人生楽しまなきゃ損ですから!あと、成瀬さんって呼ばれるより、カレンって呼んでくれた方が嬉しいな、私たちもう友達でしょ?」
「う、うん。じゃあ、カレンちゃん。えと、よろしくね?」
「うん!よろしく琴音ちゃん」
そんな感じで2人で集合場所に行き、1-Bの男子3人組と合流した。
「おっ、花蓮ちゃんと望月さん来たな」
「やばいアタシめっちゃ楽しみなんだけど!」
「成瀬さんテンションたかっ、俺トップバッター...責任重大...あああぁぁ」
速水君、だいぶ緊張してるみたい。ていうか私より顔色悪そう...
なんだか不思議なもので、自分より緊張してる人を見たらだんだん冷静になってきた。
「おい速水、ビリで成瀬さんにバトン渡すなよ〜」
「安藤、あんまりプレッシャーかけんなって。速水、最下位で成瀬さんにバトン渡したら明日からお前のあだ名『
「橘もプレッシャーかけてんじゃねえか!あぁもうおまえら余裕そうだなぁ、緊張とかしないの?」
「オレは自分を信じてる!キリッ」
「俺は......あんまりしないかも」
「橘は想像つくわ...おまえ女たらしだもんなぁ」
「どこがだよ、ってかそれ今カンケーねえだろ」
安藤くんと湊は楽しそうに話してて、速水くんは蹲ってて、成瀬さ...花蓮ちゃんは心配そうに速水くんの背中をさすってる。
少しの間ぼっちになった私に気づいたのか湊が、
「琴音、大丈夫か?」
「うん、緊張してたけど速水くん見てたらなんかラクになった」
「そっか、よかった。全力で走ってこいよ」
「わかってる、期待してるよ湊」
そう言って、湊の背中を叩く。...久しぶりに背中触った気がする。少し固かったな、筋肉だろうか...ってか、私もクラスのみんなと同じで湊に期待してんじゃん。プレッシャーかけてないといいけど...ってアイツには関係ないか。
「ねぇ、5人で円陣しない?気合い入れようよ!」
「おっ!花蓮ちゃんいいね!やろうやろう」
「オッケー、琴音もほら」
そう言って私、花蓮ちゃん、湊、安藤くん、速水くんは円陣を組んだ。
「誰が掛け声やる?」
「アンカーの橘くんでしょ!」
「いや、俺じゃなくて速水がいいな」
「うぇぇ!?オ、オレ!?」
「だってさ!速水くんヨロシク!」
「ほら、時間ないから短めに」
「あぁもうしょうがねぇなわかったよ...!」
スゥ........
「オレの代わりにおまえら4にんともがんばれ!!!Bぐみぃぃぃぃぃ!ファイッ!」
「「「「「オーーーーー!」」」」」
「なにそれー!」
「最初の一言いらねぇだろ」
「くっくっく」
「あはは、ちょっと情けなさすぎかも...」
「橘がオレに任せるからだろー!?」
なんかイイな、こういうの。『青春』って感じがして。自分には無縁だと思ってたけど今この瞬間、5人の気持ちが1つになった気がしてなんだかすごく楽しい!
ピーーーーッ!
笛が鳴り、レーンに5人が整列する。速水くんは...3番目、真ん中のレーンからスタートだ。両側から押しつぶされそう。外れくじを引いちゃったみたい。
第1走者5人、全員スタートの姿勢になる。スターターの先生の声を聴くために、校庭全体が一瞬静寂に包まれる。
「位置について」
「よーい、、、」
「ドン!」
天に放たれた銃声と共に、私たちのクラス対抗リレーが始まった!
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