第22話 遺物はどこへ
少し晩餐会の翌日の船でのことを振り返る。
スローンから聞いた、守りし者は遺物を探そうとする人を手にかける事もあり得るという話。俺とアリスはその話を聞いて、守りし者が自分たちの命を狙うのはそれが理由だと予想していた。
そして、俺とアリスは船で話し合った。一体どこで彼らは俺たちが遺物を探しているという事を知ったのかを。
アリスの話だと、俺たちが遺物を探していると知っているのは、父のエゼルレッドと自分らの3人だけだという。
つまり遺物を探している事をそもそも知る余地はないはずだった。にもかかわらずカスティリアでいきなり襲われた。
いくつかの可能性はあって、その一つが、カスティリアの大聖堂でバレたというケースだった。
司祭から依頼を受けたと言っていたモーゼスさんの話からして、俺は大聖堂で知られたという可能性を考えた。だが、俺たちが大聖堂に行ったのはたったの一日。そんなたったの一日でやつらが俺たちを狙うのはおかしかった。
なにしろ、俺たちのように大聖堂を訪れ、書庫で文献を調べる人というのは俺たち以外にもたくさんいるのだ。あの日だって、書庫には何人も一般の人たちがいたし、遺物関連の本で本棚から抜けているものもあった。
だから、あの一日で大聖堂にいた守りし者の誰かが、俺たちが遺物を探していると断定したという可能性は低かったのだ。だが、あの日唯一俺の取った行動で、遺物を探していると分かる行動があった。
それは、俺が祭壇の下にあるオベイロンの手帳を取った事だ。
やつらがもし、祭壇の下にあるオベイロンの手帳が、遺物の在り処を示すものだという事を知っていれば、俺のその行動だけで遺物を探していると分かるはずだ。
だが一つの手がかりだけで俺たちを始末しようとするはずがない。
そうなるとやはり遺物の手がかりだけでなく、遺物の場所も知っていたと考えざるを得なかった。遺物の場所を知っていたからこそ、俺たちが手帳を回収した行為を危険だと認識し、俺たちを始末する必要があった。
とにかく、連中は遺物の手がかりと場所を既に掴んでいた。だからこそ、俺たちの目的を知る事ができた。
ここまでが晩餐会の翌日の時点で俺とアリスが考えていた事だ。
それで、本題はここからだ。
俺は遺物を持ち出したのがやつらだと思っている。理由は、こいつらがここで待ち伏せしていたからだ。
そもそも俺たちの襲撃が失敗した後、散々俺たちを襲う機会はあったはずだ。それなのにクルメ二クスやオストニアでは俺たちを襲わなかった。というより、襲えなかったのではないだろうか。
そもそもカスティリアで俺たちを襲ったのはどうしてここにいる手練れの結社メンバーたちではなかったのか。
確かに、あの連中も十分手強いし脅威だった。だが、ここにいる連中とは比べ物にならない。確実に殺そうと思っていたのなら手練れを使ったはずなのに、それをしなかった。
そうしなかったという事はこいつらにはカスティリアや他の地域で俺たちを襲撃できる程に、結社のメンバーを集める事が出来ないという事。つまり、そこまで各地に大量の人員を置けるほど余裕がある巨大な結社ではないと考えられるわけだ。
人員が少ないのなら、人員配置は考えてやってるはずだ。そして連中にとって一番重要であること。結社の存在意義ともいえる遺物を人間の手に渡らせない事。これを最も重視しているのなら、数少ない人員を多く配置するとすれば遺物のある場所だ。
ここにいたのは死体の数と、逃げたやつらの数からして、大体30人弱くらいだろう。それだけの人数をかけていたという事はそれだけ重要な場所だったという事だ。加えて遺物が確かにここにあった痕跡まであるんだ、間違いなくここが遺物のあった場所だと言える。
ならなぜ遺物がないのか。簡単だ、こいつらが遺物を運び出したからだ。
考えてみて欲しい。俺たちが遺物を探していると感知された日、つまり襲撃された日。
襲撃が失敗した時点で、手帳の手がかりから俺たちがリレー川まで行くことは確定している。それどころか、リレー川の戦いと言ったらリレー川中流、中流にある街はファルーだけ、とそこまで絞り込まれていたら、もはやファルーまで俺たちが来てもおかしくない。
そうだと分かっている以上、遺物の手がかりを手に入れた連中を始末し損ねたと、カスティリアからファルーにいる連中に知らせにいくはずだ。
だがここにいるやつらに知らせようと思ったら、どうやっても船で3週間と、オストニアからリレー川まで約4、5日前後、計4週間近くかかる。
それで、俺たちが出発したのが感知された日の翌日の夜。そしてクルメ二クスで2日、船で3週間、そしてラクダで4日、計4週間かけて到着しているのだから、ここに到着する時間差は僅か1日~2日前後。
そんな状況で、この場所をどうにかして守ろうにも、1日や2日でこの場所に人を集めるのは不可能だし、俺たちを確実に討ちとれるという保証もない。となれば遺物をどこか別の安全な場所に移すしかない。
この時間差の話からして、遺物が運び出されたのは昨日か一昨日、極端な話今日とかついさっきって事もあり得る。とにかく最近の事に違いない。
そして今頃遺物はどこか別の場所、例えば結社の本拠地のような場所か、あるいはこの神殿のように、人間が立ち入る事が厳しい亜人の国のどこかだろう。
俺は自分の考えをアリスに全て説明した。
「うむ、史郎の話はよく分かった…。だが変じゃないか?遺物の場所と手がかりの存在を知っていたのなら、オベイロンの手帳を燃やすなりして処分していてもおかしくないはずだが…。」
「スローンの話じゃこいつらはエリア教と基本的には同じで、ただ遺物に対する考えだけが違うだけなんだ。つまり、思想は多少違えどこいつらもエリア教徒である事に変わりはない。だから神のために戦った英雄の手帳やそれに近い手がかりを処分するような真似はしないだろう。それに、処分こそしていないが、一応手帳だって祭壇の下っていうとんでもないところに隠してあったんだ。俺は直接祭壇を見たから分かるが、あんなの普通にしてたら見つけられるわけないからな。」
「なるほど…。では、もう一つ別の疑問だ。遺物をこの場所に置いておいた理由はなんだ?私たちが探している事を感知する以前にここ以外に持ち出していてもおかしくなさそうだが…。」
「いや、やつらからしたらここは人間から遺物を遠ざけるには絶好の場所だ。なにしろ亜人の国、その中でも厳重な王の墓だ。そんなところに遺物があるのなら、他所に持ち出すよりおいておいた方が安全だ。」
「確かに…、亜人の国に入れる人間が限られている以上、ここから持ち去るよりもここに留めておいた方が安全だな。」
俺とアリスはある程度意見を交わした後、結社のメンバーの死体から十字架のネックレスを取った。
「問題は連中がどこへ運んだかを知らないといけないって事だ…。おそらく結社の本拠地か、この神殿みたいな、亜人の国のどこかだ。」
「しかし、遺物を持ち出して亜人の国に運び込むというのは無理だろう。今回神殿に遺物を置いていたのは元からここにあったからであって、やつらが意図的にここに運び入れた訳ではないからな。」
「となると亜人の国じゃないのか…。」
「どちらにしろ、やつらがどこへ運んだのかを知るのは大変そうだ…。ここにいる連中に吐かせようにも、もう誰も…。」
「ん?どうしたアリス?」
「いま、そこのやつが動いたぞ。」
アリスはそう言って、剣が背中から刺さって倒れている一人の結社のメンバーを指さした。
そいつはアニーに後ろから刺されたやつだった。
「うぅっ…。」
そいつは確かに声を出して、動いた。よく見ると背中ではなくて尻に剣が刺さっている。おそらくそのおかげで致命傷を免れたみたいだ。
俺とアリスは這いつくばっているそいつを捕まえて尋問することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます