第21話 また襲撃

アニーの悲鳴を聞いて、俺たちは広間にやって来た。


「あわわわわわわ…。」


広間にはぷるぷる震えて尻もちをついているアニーと、そのアニーの前にローブを被った人物が6人いた。


その6人は以前俺たちを襲った連中とは違い、全員が同じ格好統一された装備をしていた。さらに、ド素人の俺が見ても分かる程、やつらは異様な殺気とオーラを放っていた。


「アニー!」


「おおおおお、みんなああああ!!」


俺がアニーを呼ぶと、俺たちに気がついたアニーがぴゅんと素早くこっちに走ってきて、俺の足にしがみついた。


「大丈夫かアニー?」


「ぬおおおおお、おトイレ探してたらあいつらがいきなりぃぃぃ…!!!」


アニーは泣きながら俺に言った。


「だ、誰だお前らは!!」


俺がフードの連中に向かって叫んだが、やつらは無言のままだ。


そして、連中はゆっくりと俺たちに近づいてくる。


「ジュリアス、私に剣を貸してくれ…。」


「あ、ああ…、僕のでよければ…。」


アリスがジュリアスに剣をよこすように言うと、ジュリアスは腰の剣を抜いてアリスに渡した。


アリスは剣を構える。


「お前たち下がっていろ…。」


アリスは俺たちに下がるよう言っているが、正直俺は今のアリスに任せるのは少々不安だった。


さっきから知らんけどずっと呆けてたんだ。あんなボケっとして戦闘なんかまともにできるのか…?


「おいアリス、大丈夫なのか?」


「…。」


俺はアリスに声をかけたが聞こえていないのか反応がない。


フードの連中はじりじりと距離を詰めてくる。


「とにかく、彼女の邪魔にならないよう僕たちは下がろう…。」


ジュリアスの提案で俺たちは王の墓の通路まで引こうとしたが、突然扉の前に別のフードの連中が2人現れた。


「おい、嘘だろ…。」


「ちょっとあれ…!」


リーシャがそう言って天上の方に向かって指をさす。


よく見ると天上近くの足場のところに、フードの連中が何人もいる。その数はざっと10人、いや20人、いやそれ以上か。少なくとも今の一瞬で数え切れる人数じゃない。


天上の足場にいた連中も次々と下に飛び降りてくる。


俺たちは瞬く間に四方を囲まれてしまった。


ど、どうすればいいんだこの状況…。


仕方ない、ここは奥の手を使うしかない…。


俺はポケットに手を突っ込み、平然を装って正面にいる4人の方向に向かって前進した。


「ちょっとどうすんのよこの状況…って、あんた何やってんのよ!」


リーシャの声が聞こえる。


「お、おい史郎、何を…!?」


俺はアリスの横を通り過ぎていき、正面にいる4人のところに向かう。


正面の4人は近寄ってくる俺に警戒してか、足を止めている。


そして、俺はやつらがその気になれば俺を瞬殺できるであろう距離まで近づき、立ち止まる。


「安心しろ、俺は丸腰だ。」


俺はやつらに言った。だがやつらはまったく警戒を緩めない。それどころか、むしろ態勢を整え、いつでも攻撃できるような姿勢になっている。


「少し話がしたい。お前たちの中で一番偉いやつがいたら出て来い。」


俺がそう言うと、正面にいた4人のうち一人が、隣にいるやつらに剣を降ろすように合図した。そして俺の方に向かって数歩だけ前に進み、「私が話を聞こう。」と言って出てきた。


「話の分かるやつがいてくれて助かるよ。」


「それで、何を話すつもりだ。」


「この際お前たちの正体はどうでもいい。ただ一つだけ聞かせて欲しい、お前らは俺たちをどうするつもりだ?」


「ふっ…、この状況で理解できないのか?我々はお前たちを殺すためにここへやって来たのだ。」


「まぁそんな事だろうとは思っていたさ。だが、この状況、全て俺の計算通りだ…。」


「なに…?」


「まだ分からないのか…?俺はお前たちがこの神殿にやって来ることを見越して、すでに神殿全体に特殊な結界を張っている。」


「ふっ…、そんな嘘で惑わそうとしても無駄だ。そんな結界がこの神殿に張られている気配はない。」


「本当にそう言い切れるのか?」


「…?」


「俺の特殊な結界はこの下界とは全く異なる世界の原理で生成されたものだ。だから俺のような高次元の存在には感知できても、お前たちのような通常の生物には到底感知する事はできない。」


「愚か者が、そんな嘘が我らに通じると思ったか…!?」


「まだ気がつかないのか…、足下を見てみろ。」


「…!?」


そいつは俺の言葉を聞いて足下を一瞬見た。


「ふっ…、別になにもな…。」


俺はそいつが足下を見た一瞬の隙にダッシュで接近し、そいつが顔をあげる直前に顎にアッパーを食らわせた。


「ぐはぁっ…。」


俺の右こぶしは見事そいつの顎に命中して、そいつは前歯を飛び散らせながら後ろに倒れる。


それを見た後ろにいた他のローブを被ったやつらが、俺に向かって斬りかかろうとしてきたので、俺は言った。


「全員動くなぁっ…!!」


俺の言葉でそいつらが立ち止まる。


どうやらリーダー的な男がパンチ一撃で倒されたのを見て、俺を警戒しているみたいだ。


「お前たちの足下に既に特殊な魔法を仕掛けた。一歩でも動けばどうなるか…賢いお前らなら分かるよな?」


「…!?」


ローブの連中は剣を構えて入るが一歩も動かない。


「悪いがここを通してもらおう…。」


俺はそう言って前にいる3人のローブの連中の方に向かって歩いて進もうとした時だった。


「うぅ…あ…。」


俺の後ろの方で声がした。


俺が振り返ると、さっきアッパーカットを食らわせたやつが起き上がっていた。


「そいつをさっさと殺せ!足下の魔法も特殊な結界もはったりだっ…!!」


バレた。


一気にローブのやつらが斬りかかってくる。


終わった。


「ぐわぁぁぁぁぁぁっつ!!」


そう思った時に、突然後ろから爆音とうめき声が聞こえた。


なんだ!?


俺が振り向こうとした瞬間、俺の横をアリスが物凄いスピードで横切り、俺に斬りかかって来ていたローブの連中3人を瞬く間に斬りすてた。


俺は一瞬の出来事過ぎて何が起きているのか分からなかった。


「リーシャ、後ろは任せたぞ!」


「任せて!」


俺が後ろを見ると、リーシャが武器もなにも持たずにローブの連中と戦っていた。


よく見るとローブの連中の攻撃がリーシャに当たる前に何かにはじかれている。


魔法のバリアかなんかか?


あいつグランドマスターの冒険者は嘘だったはず。


だが確かに攻撃を防いでいる。


リーシャはローブの連中の攻撃を防ぎながら、さらに手を連中の方にかざした。すると連中の足下に魔法陣が現れ、地面から炎の渦が飛び出して連中を包み込み、炎の渦が消えると連中は黒焦げになって倒れていた。


「アニー、その剣を使って!」


「オッケー任せろー!」


リーシャが叫ぶと、アニーが黒焦げになった男の剣を取って他のローブの連中に突っこみ、斬っていった。


「僕も行くよ…!砂の化身よ、僕に力を貸してくれ!」


リーシャとアニーの近くにいたジュリアスが叫ぶと、いきなり地面から砂でできた剣士が2体現れ、ローブの連中に攻撃を開始した。


もうすでにアリスたちとローブの連中との間で混戦となり、爆音と剣の金属音だけが神殿の中に鳴り響いていた。



「はぁぁっ…!!」


俺の目の前にいたアリスは掛け声と同時にローブの連中2人を、目にもとまらぬ速さの剣戟で一瞬で倒す。


「くっ…、あの女だ、あの金髪の女から狙え!」


その様子を見た俺がさっき殴ったやつは、他のローブのやつらにむかって叫ぶ。


すると、近くにいた6がアリスに向かって一気に飛びかかる。


アリスは一人ずつ倒していくが、どうやら相手もこの間の連中とは違い、そこそこの手練れのようで、アリスが苦戦を強いられている。



俺がそんな様子を後ろで見ていたら、俺がさっき殴ったやつが俺の方に歩いてきた。


「さっきはよくもやってくれたな…。」


「お前が騙されただけだろバーカ。」


「神を冒涜する盗人めっ…、ここで殺してやるっ!!」


そいつは剣を構えて一気に俺に向かって突進してきた。


「おい、…後ろだ、気をつけろ!!」


俺はそいつに叫んだ。


「はっ…、二度も同じ嘘に引っ掛かるか馬鹿め!!」


「とりゃあっー!!」


「ぐはっ…!!」


そいつは後ろから来たアニーに刺されて倒れた。


「馬鹿、本当だよ。」


俺は地面に倒れたそいつに向かって言ってやった。



ローブの連中は次々と倒されて行き、後5,6人になったところで不利だと感じたのか、何も言わず逃げて行った。


そこら中にローブの連中の死体が転がる中、俺たちは何とか危機を脱した。


「何とか退けられたようだ…。」


アリスは息を切らしながら言った。


「しかし彼らはどうして僕たちの命を…。」


「いや、多分お前は関係ない。狙われてるのは俺とアリスの二人だ。」


俺はジュリアスに言った。


「史郎、これを見ろ…。」


「どうした?」


俺は死体の近くでしゃがんでいるアリスのところに行った。


アリスが見ていたのはローブの連中の一人の死体。アリスはその男の首にぶら下げているネックレスを俺に渡した。


ネックレスは金の十字架、そしてそこには見覚えのある文字が刻まれていた。


「これはモーゼスから受け取った聖金貨に似ていないか?」


「似ている、というか特徴が全て一致している…。」


砂漠でデザートホエールに襲われたときに聖金貨も荷物と一緒に失ってしまったので見比べる事は出来ないが、十字架と”神は不可侵”という刻印からして、これは聖金貨と特徴が同じだった。



「おいおい、まさか…。」


俺はついぼそっと心の声を漏らしてしまった。


こいつらがここにいるせいで、ある事に気がついてしまったからだ。

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