第4話 特殊な力
驚きの事実を、この世界に転生してから半年たってやっと知る事になった。
なんじゃこりゃ…。全部見た事もないような文字だ。それなのに俺は意味が分かる。不思議な感覚だ。
俺は本をペラペラとめくっていろいろ確認しまくった。
「うーむ…。今一度確かめたい…。史郎とやら、この本とこの本も先ほどと同じ要領で読み上げてくれぬか?」
エゼルレッド2世はベッドの横に積み上げられていた本を適当に2冊手に取り、それをアリスに渡し、先ほどと同じように俺に一ページ開いて見せて、読み上げさせた。どちらも読んだことのない本だ。
俺はその2冊とも先程と同じように普通に読み上げる事ができた。一ページの一か所しか読んでいないから内容こそ意味不明だが、それを見たエゼルレッド2世の反応からして、どうやらすごい事のようだ。
その2冊とも俺が意識するように文字を見るようになってから、どれも種類が違い、日本語ではないという事が分かった。
今思い返せば、俺は図書館のスタンプカードや、ギルドの登録証に自分の名前を書くとき、無意識のうちによくわからん文字を書いていた。いや、意味は分かるが、俺はなにも疑問を抱いていなかった。
つまりだ。俺はなんのスキルもなしに異世界に転生したくそ雑魚だと思っていたが、どうやらすべての文字、言語を理解する特殊な力があるようだ。
こんな特殊な力があるんだったら冒険者じゃなくても別の職業に…。と思ったが、何も思いつかない。それどころか、むしろトレジャーハンターがますます自分にとって適正職なんじゃないかとも思えてきた。だって普通読めないような古代文明の文字を読めちゃうわけだし、これはもう秘宝を探せって言われてるようなもんだ。
いやまて、翻訳家?とか通訳とかあるだろ。そういうのを仕事にすれば、まともにお給料がもらえて、もしかしたらマイホームとかも…。いや、マイホームなんかよりも俺のお宝コレクションをディスプレイするための倉庫をだなぁ…。って、結局それじゃあトレジャーハンターやるしか…。
「アリス。どうやらお前の見立ては正しいようだ…。」
エゼルレッド2世は腕を組んで頷く。
「よし、では決まりだ。アリス、この者を連れてすぐにでも出発せよ。」
「はい、父上!」
「わずかだが、これを使うといい。300金貨ある。」
エゼルレッド2世はそう言って金貨の入っている少し大きめの袋をアリス王女に渡した。
「アリス、くれぐれも用心するのだぞ。少なくとも国内にいるときは気を抜いてはならん。」
「承知しております。では、失礼します。」
アリス王女はそう言って金貨の入った袋を手に持ち、「行くぞ。」と俺に一言かけて部屋から出ていく。
「あ、ちょっと…。」
俺は出ていくアリス王女に慌ててついていき、王の寝室を後にした。
城を一度出て、一番内側の城壁の外に出た。
「あの、アリスさん?そろそろ何をするつもりなのか説明してもらってもいいすか?」
俺はアリス王女に尋ねた。
昨日から特にこれから何をするだとか、詳細を一切教えてもらえないままだったんだ。そろそろ説明が欲しい。
「ああ、もちろんだ。とりあえずここを出てから話そう。」
俺はアリス王女に連れられ、最初に通った門をくぐって再び街にでた。
アリス王女フードを再び深くかぶり、適当な酒場に入って、空いている席に座った。
「よし、では遅くなったがお前を私が王都まで連れて来た理由を話そう…。」
アリス王女は俺を連れてきた理由を話し始めた。
「お前も知っている通り、今この国は窮地に立たされている。いや正確には、父上と私がだ。先ほど父上は平気そうに私たちと話をしていたが、表に出さないだけで、本当は常に病に苦しんでおられる。こんな事は考えたくもないが、父上の命もそう長くはない。父上が生きているうちは、あの城を叔父上が攻撃してくるような事もないが、もし父が亡くなり、私が王になれば、間違いなく叔父上はあの城を攻めてくるう。不甲斐ない話だが、私は父と違って、軍略に乏しく、多分あの城を3日と守る事はできないだろう。そういった事態になる事を懸念なされた父上は、漆黒の涙を探すように命を下すかなり前から、隣国と手を結び、私が王になった際に助力を請える同盟勢力をつくろうと奔走されていたのだが。そんな時だ、たまたまこの紙切れを東のカスティリア王国で見つかったのは。」
アリス王女は、そう言って一枚の紙きれを取り出し、俺に見せてきた。
紙切れを開くと、そこには黒いインクで書かれた一本の剣が描かれていて、その下に小さく”聖王剣オベイロン”書かれていた。
俺はこいつを見たことがあった。
「これは…。」
「聖王剣オベイロン。エリア教5大遺物の1つだ。」
聖王剣オベイロンは、エリア教の神エリアの遺物の一つであり、今から1000年前に起きた宗教戦争で、伝説の騎士オベイロンが異端を倒すために使った剣でもある。
この聖王剣オベイロンを知る上で、欠かせない知識がある。それがエリア教と、5大遺物だ。
まず、エリア教とは、神エリアを信仰する1500年以上の歴史がある宗教だ。この辺りの大陸全部の国がエリア教の国であり、その信者の数はこの世界の人間の9割強にのぼる。
そして、5大遺物とは、神エリアが人間界に落としたと言われている、剣、盾、鎧、翼の4つと、神エリアの遺体を指す。聖王剣オベイロンはそのうちの一つで、もともとは単に剣だったが、エリア教、殉教軍の騎士オベイロンが使った事で、聖王剣オベイロンと言われるようになったのだ。
そして、エリア教では、エリアの遺体と、4つの遺物がとんでもなく価値があるものとして考えられている。
エリアの遺体と4つの遺物を所有する個人を守護者、そして守護者が王だった場合にその王が統治する国家は守護国と呼ばれる。
エリア教では守護者・守護国になる事はとても名誉な事とされていて、大勢から尊敬されると同時にエリア教全体に対してとんでもない影響力を持つ事になる。
エリア教において、もっとも権力を持っているのは大教皇だ。大教皇の権限は全エリア教国家に及び、誰も逆らう事はできない。そんな絶対的な権力を持つ大教皇の次に力を持つのが守護者・守護国である。
守護者・守護国になると、戦争行為や私闘の一切が禁止される代わりに、大教皇から絶対的な保護を受ける事ができる。この絶対的な保護というのは、その言葉通りだ。実際にどうなるかはご想像にお任せする。
「私はこの剣を手に入れて、叔父上を抑え込むつもりだ。もし私が保護国の王という事になれば、叔父上もそれに付き従う貴族たちも私には逆らえなくなる。そうすれば、叔父上の望む戦争も食い止める事ができる。」
どうやらアリスは、この剣を手に入れて叔父のエゼキエルと貴族たちを抑え込むつもりのようだ。確かにこの剣なら、それもできるかもしれない。だが問題は…。
「だから史郎、私に力を貸してくれ。」
アリスは真剣な眼差しで俺を見ている。
俺も頼れとか力になるとか言った手前、断りずらい。それに、聖王剣オベイロン…。1000年前の神の遺物。興味がないと言えばうそになる。この目で見てみたい気もする。
「任せとけ。俺でよければ協力するよ。」
「本当に感謝する。」
「…。」
俺はアリスから感謝された。一瞬それだけ?報酬は?と思ってしまったが、まぁいいや。
「で、この剣の場所にあてでもあるのか?」
「いや、まったくない。その紙切れも、父の命を受けて派遣された外交使節団の一人がたまたま拾ったものにすぎない。」
「まじか~…。」
1000年も前に消えた聖王剣オベイロンをどうやって見つけるのか。
俺は紙切れをくまなく見てみるが、特にこれといって手がかりになりそうな情報もない。紙切れは二つの角が綺麗なのに対し、その反対には角がなく、破れたような跡がある。おそらくこの紙は本か手帳かの一ページなのだろう。
だがなんだろう。この紙の匂い、ほのかにリンゴの匂いがするようなしないような。それになんか酒くさくないか?
俺はアルコールが嫌いだからよくわかる、本当にかすかにだが、リンゴのリキュール臭がする。
「手がかりと呼べるか分からないが、、その紙が発見された場所はカスティリア王国の王都キャスティの街の中だそうだ。」
街の中か。カスティリア王国は2回行った事あるけど王都のキャスティは行った事がないな…。
「なぁ、アリスって酒とか飲む?」
「私は酒は飲まない、いや、エリア教の教えで20歳以下は飲酒が禁じられているから飲めないというのが正確か。」
「そうか…って、アリスっていくつ?」
「私か?私は17だが。」
俺の一個下だったのか…。
俺が紙を調べているとアリスがじっと俺を見ているのに気づく。
「ん?どうかした?」
「一つ聞きたいんだが…。」
「なんだ?」
「その…、最初に出会ったときからそうだが、お前はどうして私に対してため口なんだ?」
アリスは純粋な疑問をぶつける小学生のような顔で、いきなり俺にそう尋ねてきた。
そういえば一応こいつ王女様だったんだ。よくよく考えると失礼な言葉遣いとか態度してたよな俺って…。
だけど今更アリス王女殿下とかいうのもなんか気持ち悪いし…。
「あのなぁ、アリス。人間ってのはだれだって平等なんだ。王様とか貴族とかって理由だけで平民が敬語ってのもおかしいだろ。なんつーか、対等じゃないっていうかさ…。」
「なるほど…。確かにその通りかもしれない。」
アリスは腕を組んでうんうんと頷いている。どうやら俺の単なる詭弁のつもりで口にした言葉がアリスの心に刺さったようだ。いや、ただピュアすぎるだけか…。
「いいか、俺たちは遺物を探す仲間、チームメイトだ。だからお互い変な気遣いとかない方がいいと思うんだよ。だからため口がどうとかってのはなしにしようぜ。」
うむ。俺にしては上出来なため口の言い訳を思いついてしまった。我ながら素晴らしい言い訳だと自分を褒めたい。
「仲間…。そうか仲間か!私たちは仲間だな!」
アリスが突然立ち上がって言い出した。
「お、おい急にどうした…?」
「あははっ、史郎と私は仲間になったんだ!」
「ちょ、目立つのよくないんじゃなかったか?」
俺がそう言うと、アリスははっとして椅子に座りなおす。
「す、すまん。つい興奮してしまった。」
なんなんだこいつは一体…。本当に喜怒哀楽の感情がてんこ盛りな上に表に出すぎじゃないか…。
俺はさっきからこの紙をいろいろ調べてみたものの、分かったのはリンゴ酒の匂いが少しするという事くらい。それ以外は特になにも分からない。
アリスが酒を飲まないのなら、リンゴ酒の匂いが紙に付着するのはおかしいから、なにかヒントになると思ったが、外交使節のこの紙を持って帰ってきたやつが酒を飲んで紙を汚したりしただけという事もあり得る。
それに、拾った場所とかが道端とかだったら、リンゴ酒を不特定の誰かがこぼした可能性もあるし。それに仮に紙があった場所がリンゴ酒のあるような場所だったとして、そんな場所どうやって探せばいいんだか。
俺は匂いを嗅ぎながらいろいろ考えるが、何も思いつかない。俺は深いため息をついた。
「さっきから匂いを嗅いでいるようだが、その紙から何か匂うのか?」
「まぁな…。リンゴ酒の匂いがすんだけど、別に関係なさそうだわ…。」
「ふむ、リンゴ酒の匂いか。リンゴ酒の材料となるリンゴと言えば、この国では希少な品だ。なにせ、一個も取れないからな…。」
「え?そうなの?」
「ああ、リンゴが取れるのは海の向こうのユーロレンシア帝国だけ。さらに、ユーロレンシアでも希少な品で、海を渡ってくる事はほぼない。」
ユーロレンシア帝国とは、海を越えた先にある巨大な国だ。ちなみに、エリア教国家である。
「ほぼないって事は0じゃないんだろ?」
「ああ、リンゴ酒は教会を清めるために用いられるからな。教義では3種類の酒を一年に一回は祭壇に用意しなければならないと定められている。」
「なるほど…。なら、行くとしたらカスティリアの王都にある教会になりそうだな。」
「分かった。」
「よっしゃ、じゃあ行くか…。」
俺はそう言って席を立ちあがる。すると俺の腹が鳴った。
「悪ぃ、そういえば俺昨日からぶどうしか食べてない…。」
「なんだ、お腹がすいているのか?じゃあどこかで腹ごしらえをしよう。」
「え、でも俺今財布の中が…。」
「何を言ってる、そんなもの私が払うにきまってるじゃないか。」
「え?まじ?」
俺はアリスに連れられ、近くのレストランで食事をした。
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