第16話 オストニア
晩餐会を終えた次の日の朝、船はガレリオ地方、オストニアに向けて再び出航した。
オストニアまで2週間という長い航海だったが、途中でトラブルに見舞われる事もなく、無事オストニアに到着した。
あれからタイミングを見計らってアニーにモーゼスさんは裏のドンと説明した事について話を聞いたら、やっぱり街での噂をちょっと聞いて、勘違いしていただけのようだった。しかしモーゼスさんも大変だ。息子のケヴィンのやっている事が街ではモーゼスさんがやっていると勘違いされているんだから。
もし俺が人殺しでもやったら、俺の親父は俺を100回は殴るぞケヴィン。お前の寛大な親父に感謝しとけ、ケヴィン。
船がオストニアの港に到着し、船員たちが積み荷を降ろし始める。
オストニア。第一次殉教軍遠征で亜人種の土地を奪い取ってできた国。砂漠地帯のこの場所で生活する人々は、主にデザートキャットとストームオークという種族の人々。
デザートキャットはアニーのようなフォレストケットシーとは違い、褐色の肌にを持っている。
オストニアの街にはそんなデザートキャットやストームオークの人々と人間が生活しているようだ。だが、ここは他の国と違い、奴隷がまさに奴隷というイメージそのままの扱いを受けている。
ほとんどの亜人種が足に重りのついた鎖をつけられていて、皆重い荷物を運ばされたり、檻に入れられている。
モーゼスさんの話だと、この国のように亜人種の国と国境を隣にする国をファーストボーダーというらしく、そういったファーストボーダーの国ではどこでも亜人種の扱いはこんなものだという。
そもそもどうしてそんなところにモーゼスさんが船でやってきたのか聞いてみたら、ここオストニアではモーゼスさんの売るタバコや酒などの嗜好品の需要が高く、兵士たちがそれを高値で買い取ってくれるらしい。だから、年に2回はわざわざこんな遠くまで売りに訪れているとのことだ。
しかし、俺たちはその年2回のうち一回に偶然引っ掛かれたなんて、そうとうラッキーだ。
「さてと…。そんじゃ俺はここらで2週間は商品を販売してるからよ、それまでには戻ってこいよ。」
「え?帰りも乗せてくれるんすか?」
「なんだ?別にあてでもあるって…。」
「あ、ありがとうございます!」
「お、おう…。」
俺は大声でモーゼスさんに感謝した。
なんていい人だ。言ってもないのに帰りの事も考えてくれていたなんて。
「んじゃ、王女様の事ちゃんと見てやれよ。」
「うっす!それじゃあいってきます!」
「ああ、ちょっと待て。」
俺はアリスがいるところに走って行こうとしたらモーゼスさんに呼び止められた。
「あそこにいるアニーも連れてけ。」
「え、アニーですか?」
「ああ、あいつはああ見えて夜目が利くし追跡能力にも長けてる。それに加えてそこそこ戦える腕前もある。多分、お前の宝探しの役に立てるはずだ。だからアニーを連れてけ。」
「え、けどいいんですか?一応モーゼスさんの用心棒なわけですし…。」
「用心棒?誰がそんなこといった。あいつはただの日雇いメイドだよ。」
「…。」
「とにかく連れてけ。あいつの事だからどうせここにいても2週間ふらふらしてるだけだからよ。」
「分かりました。すいません何から何まで…。」
「気にすんなこれくらい…。だがまぁ、こんだけしてやった代わりにだ…。」
「代わりに…?」
「お前さんの土産話を戻ったら聞かせてくれや…。」
モーゼスさんが珍しく俺に微笑みかけた。
「は、はい!!」
「よし、じゃあ行ってこい!」
「行ってきます!」
俺はモーゼスさんから貰った寝袋や2週間分の食糧が詰まった鞄を背負い、アリスとアニーのところに走った。
その後、俺は二人と合流し、そしてアニーにある程度の事情を説明した。
「おっけー要するに一緒についてけばいいんでしょ!」
ほとんど理解はしてもらえなかった。
俺は3人で…、ではなくアリスと二人で相談し、リレー川沿いまで行く方法を探した。街の至る所で尋ねたが、皆口をそろえてやめておいた方がいいとしか言わない。
それも仕方がない。亜人種の国家に入るのだから、下手すれば捕まったり、最悪殺される事もあるかもしれない。さらに、リレー川に向かうには広大な砂漠地帯を越えなければならない。そこには当然モンスターもいる。そんな危険な場所に行く方法など、そうそう見つからない。
「はぁ…、だめだ…。馬車みたいなのがあればと思ったが、そんなのはこっから出てないみたいだな…。俺たちの手持ちじゃブルを1匹も買えないし、買ったところで道はわからんし…。」
「ある程度予想はしていたが、あてがゼロとは私も思わなかった…。」
俺たち3人は商店街の通りの隅っこで相談していた。だが、なにも進まない。誰も見つからない。
「とうっ…!砂漠トカゲGET~!!」
アニーは近くでトカゲを捕まえて喜んでいる。
俺はそんなアニーを見て溜息をついた。
こうなったら無理を承知で歩くぐらいしか方法がない。だが、その場合広大な砂漠を歩き回って、目的地にたどり着ける保証はない。
やはり、誰かしらガイドがいて、さらに乗り物がないとリレー川まで行くのは難しい。
どうすればいい。考えても考えてもなにも思い浮かばない。
「砂漠イモムシGET~!!」
モーゼスさんがアニーは役に立つと言っていたが、今のところこの先大丈夫かという不安しかない。
アニーが虫を捕まえるのに夢中になっていたとき、突然一人のボロボロのローブを被った人物が俺たちの前に現れた。
「もしかしてあなた達?」
ローブを被った人物は俺たちに向かって言った。俺たちは突然話しかけてきたそいつに驚いた。
「誰だ貴様は…?」
アリスが腰の剣に手を当てて聞く。
「ちょ、物騒なのはやめてよ。別に怪しい者じゃないってば。」
「では何者だお前は?」
アリスが正体を尋ねると、怪しげなそいつはローブを外す。
女だった。それも俺たちと同い年くらいの。よく見ると手には魔法使いが使うような杖を持っている。
「私はリーシャってけちな冒険者なんだけど。」
「冒険者が私たちに何の用だ?」
アリスはその女を警戒している。
「異国の男女二人と猫の亜人…。あなた達でしょ、この辺りでリレー川まで行く方法を尋ねて回ってるのって…。」
「それがどうした。」
「実は私、ついこの間リレー川の近くまで行ってたのよね~。」
「なんだと?」
アリスは腰の剣から手を離す。
「だからあなた達の話をバーのマスターから聞いて、もしかしたら私なら力になれるかな~って思って来たんだけど。」
「自分なら連れていけるとでも言いたいのか?」
「そうよ。」
リーシャという冒険者は腕を組んで自信ありげに言い切った。
「どう思う?」
アリスは俺の方を見て言う。
「どうって…、本当なら是非頼みたい話だけど…。」
「本当なら…って、私の事疑ってるわけ?」
俺の言葉に反応し、リーシャという冒険者が怒り口調でそう言った。
「いいわ、着いてきなさい。あなた達にいいものを見せてあげる。」
リーシャはそう言って歩き始めた。
「どうしたの、こっちよ。」
俺たちは、困惑しながらもリーシャについていく。
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