第13話 盗聴パート1.5
モーゼスさんが部屋に入ってきて、一体何を口にするのか。俺とアリスは一言一句、それらしき言動を逃さないため、集中した。
もし、大した事ない話であればそれでいい。他愛のない話で、この場所からモーゼスさんが立ち去ってくれたらそれで終わりだ。
頼むから俺たちの名前が出たり、結社に関連する言葉が出てこないでくれ。ただ俺はそれだけを願った。
「レベッカ、ちょっと頼みがあるんだが。」
モーゼスさんはどこか気まずそうだった。
「はい、なんでしょうか?」
「あの史郎ってガキとカンブリアの王女様なんだが…。」
俺とアリスの名前が出た。一気に緊張感が高まり、額からは冷や汗が出て、心臓がバクバクと音を立て始めた。とにかく、違ってくれ。ただそれだけを祈っていた。
だが、俺の祈りは全く意味がなかった。
「実は、今日会った昔のダチがな、ここら一帯を治めてる伯爵と知り合いらしくてな。明日、その伯爵の主催する晩餐会に参加するらしいんだが…、ダチの家族が参加できなくなっちまったらしくて、招待状が5枚余っちまったらしい。これじゃあ示しがつかないってんで、誰か呼んで欲しいって頼まれてな。お前ら二人と俺はいいとして、後二人、あのガキと王女様を連れて行こうと思ってな…。」
「それはよいお考えだと思います。」
「ま、まぁなんだ…、ケヴィンのやらかした事とはいえ、あいつらには迷惑掛けちまったしな…。船のタダ乗りくらいじゃ、あいつらにも申し訳ねぇ…。まぁ、ただ…、俺が誘うってのも気味が悪ぃから、お前が代わりにあの二人を誘ってくれねぇかって話だ。」
「承知しましたご主人様。」
「ま、それだけだ…。じゃ、今日の夜にでもあいつら二人に言っといてくれ…。くれぐれも俺が誘ったとは言うなよ。お前が選んだって言っとけよ。」
「かしこまりました。」
「それじゃ、頼んだぞ…。」
モーゼスさんはそう言って、部屋を出た。
「わーい!明日はパーティーだぁー!!」
アニーが嬉しそうにベッドの上で飛び跳ねる。
「アニー、今は喜んでいる場合ではありません!王女殿下のパン…、お召し物が破れてしまったのですよ!」
「もう破れたものは仕方ないよ~。アリスちゃんは優しいからそれくらいで怒ったりしないって~。」
「しかし、これでは王女殿下が困ってしまいます。」
「う~ん…あ、そうだ!じゃあレベッカさんのおパンツを貸してあげたら?」
アニーのおかしな提案に、レベッカさんは少し考えこむ。
「仕方ありませんね…。私の下着を王女殿下に差し上げましょう…。その上で王女殿下にはしっかりとお詫びしましょう。」
「それがいいと思うよ!」
「いいと思うよじゃありません!アニーも謝るんです!」
「えー、ミーは被ってただけじゃん。レベッカさんが無理やり奪い取ろうとしたから破れたんだよ。」
「駄目です。」
「いだだだだっ…。」
レベッカさんは聞き分けのないアニーのほっぺたを両手で引っ張った。
「それにしても、王女殿下はなかなかお戻りになりませんねぇ…。」
「史郎は戻ってないのかな?」
「おそらく二人とも一緒に行動されているとでしょうから、殿下がお戻りにならないという事は、史郎様も…。」
「やっぱりなんだか心配だから二人を探しに行こう。」
「そうですね。では、念のためご主人様にその旨を伝えてから二人を探しに行きましょう。」
「おっけーい。」
レベッカさんとアニーは、俺たち二人を探すために、部屋を出て行った。
二人が部屋を出てから少し待ち、そして俺は一気に脱力し、クローゼットから飛び出した。
「はぁ…よかったぁ~…。」
俺は安心して、一人つぶやいた。
「安心するのはまだ早い。」
そんな俺を見て、冷静にそう告げるアリス。
「どうしてだよ…、モーゼスさんは白確定だろ。」
「史郎、本当にそう思っているのか?」
はっきり言って、この時のアリスの言葉に、その通りだと言い切る自信というものはなかった。無理やり自分の中で白であってほしいという気持ちが優先しているに過ぎないというのは、自分が一番よくわかっていた。
モーゼスさんの発言で気になる節は二つあった。一つ目は、モーゼスさんが昔のダチと呼ぶ人物の事。
昔のダチというのが海賊仲間、という事であれば問題はない。だが、もし昔のダチというのが、結社の人間を指しているのだとしたら事だ。可能性は半々といったところか。正直どちらとも考えられる。
二つ目、ケヴィンという人物についてだ。
モーゼスさんは、”ケヴィンのやらかした事とはいえ、あいつらには迷惑を掛けた”と言った。あいつらとは俺とアリスの事であるから、ケヴィンという人物が俺たちに何かをしたという事を示唆している。
これに関してはなんとも言えない。ケヴィンという人物が何者かも分からない以上、そこから答えを導き出すのは難しい。ただ、モーゼスさんの言葉のニュアンス的に、モーゼスさん自身が俺たち二人の襲撃を指示したわけではなく、ケヴィンという人物が単独で襲撃を実行した事だと言っているようにも受け取れる。
正直これも俺の都合のいい解釈なのかもしれないが、その可能性が0ではない事も確かだ。
「おそらく、今夜中にレベッカとアニーは私たちに晩餐会の話をするはずだ。もしこれがモーゼスの罠だとすれば、晩餐会に行くのは非常に危険だろう。だが、行かなければ真相は見つからず、結果的に疑念を抱き続けたまま船に乗り続ける事になる。他の船をここで探して彼らと別れるという選択肢もあるが、手持ちの金銭的にそれは厳しい。行は何とかなっても、帰りの船を調達するのは無理だろう。そうなると、やはり晩餐会に参加して旧友とやらが何者か探り、疑念をはらう事が先決だと思う…。」
「俺はもう疑う意味もないし、晩餐会に参加して楽しくご飯食べたいけどな。」
「私も疑いたくはない。だが、万が一という事がある。私たちの目的は聖王剣オベイロンを見つける事。遺物を手に入れる前に命を奪われてしまうというような事にはなりたくない。」
「それはごもっともなんだけど…。」
アリスって本当に気持ちの切り替えが早い。真っすぐだから、真剣な時はとことん真剣になれるし、洞察力も優れている。さっきまでの浜辺で話していたアリスとはまるで別人みたいだ。
「それに、実は一つ気になるところがあってな。どうしてモーゼスは、私たちに直接晩餐会に誘わないんだ?私はどうもそれが不可解だ…。」
アリス、それは彼なりの男の流儀というか、大人のプライドというか。
やっぱりアリスはアリスだった…。
モーゼスさんがこれを俺たちが見ていたとしったらどんな顔をするのだろうか、少し気になるところではあるが、とにかくいいものが見れたとだけ言っておこう。
「ていうか、アニーとレベッカさん、俺たちを探しに行っちゃったみたいだけどどうするよ…。」
「部屋で待って、入れ違いだったと説明しよう。今から追いかけて私たちが逆に探しにいくのも不自然だからな。」
「そうだな。」
俺は、アリスにまた明日と言い残して、部屋を出た。
俺は廊下を歩きながら、ふとアリスの下着の事を思い出す。
アリスは、クローゼットを出てから下着の事について全く触れていなかったが、多分忘れていたんだろう。
俺が部屋を出た後、アリスがあの破れた下着を手にして、どういう反応をするのか。
そいつを見てから部屋を出ればよかったと俺は後悔した。
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