第8話 出航
日が暮れ始めた頃、俺とアリスとアニーの三人は、大きめの鞄をしょって、港までやってきた。
「なぁアリス。本当に鎧売ってよかったのか?」
「ああ、昨晩の襲撃で分かったんだが、鎧を着ていない方が身軽で戦いやすい。」
「けど、あの鎧相当珍しいものじゃないのか?」
「たしかあれは私が14歳の時に倒した魔鋼竜の鋼鉄の鱗を用いて作られたものだ。珍しいといえば珍しいかもしれないな。」
そんなものを100金貨でよかったのだろうか。俺の見立てじゃ軽く8000はくだらないと思うんだけど。
アリスは鎧を100金貨で売り、その代わりに俺と大差ないような普通の冒険者が来ているような服を買って、身に着けている。
「あれがご主人の船だ!」
アニーがそう言って指さした先には、大きな一隻の帆船が停泊していた。
そして俺たちはその船の目の前までやってきた。
「スッゲぇー…。あの人こんな立派な船の船長だったのか。」
「いや、そっちじゃなくてこっちだ!」
「え?」
俺は、アニーが指をさしている左に停泊している小さな船を見た。まぁ、普通にしっかりした船なんだが、隣のと比べるとがっかりしてしまうレベルの船だ。大砲もついてないし、あんまり迫力がない。
俺はあのおっさんが裏のドンだし、さらにあんな自慢話をするくらいだから、てっきりすごい船なのかと思っていたが。ちょっとがっかりしてしまった。
「おう、来たか。」
その船には、船乗りの姿のモーゼスとレベッカの姿もある。
どうやらこの船のようだ。
俺たち3人は船に乗り込んだ。
モーゼスの船の上には、モーゼスとレベッカのほかに、7人の船員の姿があった。
俺たち3人は、甲板の床にある扉を開け、その中に荷物を積み込んだ。俺たちの荷物以外には、何が入っているか分からないがたくさんの樽や木箱が積んであった。
辺りがちょうど暗くなった頃に、船員が最後の荷物を積み終え、モーゼスの船は出航した。
夜の海は不気味だ。港にはまだ多くの人がいて、たくさん灯りがあったが、ひとたび海に出ると船のランタンの火の光だけで、ほとんど真っ暗だ。月の光も空を覆う雲で通らない。
不気味だ。
アニーとアリスはもうすでに狭い船室に行ってハンモックの上でぐっすりだ。なんでぐっすりと眠れるのか。俺は二人がうらやましい。
俺は一人甲板に残り、真っ暗な海を眺めていた。そんな俺のところにモーゼスがやってきた。
「お前、海が怖いのか?」
「怖いっていうか…、苦手っていうか…。」
「お前、王女の従者のくせに臆病者だな。そんなんで王女殿下守れんのか?」
「別に俺はあいつの従者じゃないっすよ…。」
まぁ、もしかすると従者同然なのかもしれないが…。
「え?だってお前、王女の仲間なんだろ、従者じゃなかったらなんなんだよ?」
そういえば、アニーが俺を紹介するときにアリス王女とその仲間の史郎とか言ってたな。きっとそれで勘違いしたのだろう。
「まぁ、ただのトレジャーハンターですね。」
「トレジャーハンターだ?トレジャーハンターがなんで王女様と一緒に行動してんだ?」
「ちょっといろいろありまして…。」
ていうか、言われてみれば俺ってなんでアリス王女についてきてんだ?アリス王女に頼れなんて軽はずみな事言って、なし崩し的に遺物探しに同行してるけど…。
「ていうかお前ら、ガレリオ地方なんかに何しに行くつもりだ?観光ってわけじゃねぇだろ?」
「王女様の付き添いでちょっと探し物を探しに…。」
「ほう…、宝探しだな?」
「いや~、お宝っていうか…。」
「いいだろう、せっかくだからお前に俺の伝説的冒険のひとつを話してやろう。」
「はい…?」
「あれは俺がまだ23歳の時、まだユーロレンシアで皇帝から私掠許可を受ける前、本当にただのごろつき海賊だった時の話だ。」
おいおいまさか…。
「その当時、俺はオデッセオニウスの槍という伝説の秘宝を探し、世界各地を巡っていた。そして、俺はオデッセオニウスの槍があるとわれている、とある孤島を発見し、俺は仲間を連れてその孤島にあるジャングルへ入った。ジャングルには、シキバドゥトラヌという部族たちがいて、俺たちを襲ってきた。だが、俺はシキバドゥトラヌの族長との決闘に勝利する事で、彼らを服従させ、オデッセオニウスの槍が眠る、遺跡へと案内させたのだ。遺跡に近づくと、部族たちはオデッセオニウスの呪いを恐れ、突然逃げ出してしまった。俺は呪いに恐れる事なく、遺跡の中に進む。遺跡には、3000年前に滅亡したローリ帝国の亡霊が大量に住みついていて、奥に進もうとする俺たちを襲ってきた。亡霊たちの襲撃をなんとかかいくぐった。しかし亡霊の住処を抜けたと思えば、今度は巨大なデーモンスコーピオンが現れ、俺たちを鋭い毒針で攻撃してきた。俺と仲間たちは必死になって戦い、デーモンスコーピオンの鋭い毒針を斬り落とし、なんとかデーモンスコーピオンを退けた。そして、俺は仲間を失いながらも、遂に遺跡の奥にあるオデッセオニウス皇帝の陵墓にたどり着いた。陵墓の中央には伝説のオデッセオニウスの槍が。俺はオデッセオニウスの槍を手にしようとした…。だがその時!突然俺の後ろで銃声が鳴り響き、気がつけば俺の脇腹を銃弾が貫通していた!そう、俺は仲間に裏切られたのだ。仲間たちはオデッセオニウスの槍を陵墓から奪い取り、遺跡から逃げようとした。しかし、仲間たちは知らなかったのだ。陵墓から槍を持ち出すときには、必ず皇帝のコインに自らの血を垂らし、それを捧げなければいけないという事を。陵墓の入口は突如として締り、4体の巨大な石像が動き出す。仲間たちは慌てふためき、次々と巨大な石像になぎ倒され、全滅した。俺は地面を這いずりながら、自らの血をべったりとつけたコインを陵墓の中央にある穴に落とした。すると石像は4体とも元の位置に戻り始め、閉じていた入口も開き始めた。俺はオデッセオニウスの槍で身体を支えながらなんとかして自分の船に戻り、オデッセオニウスの槍を見事手に入れる事に成功したのだ。」
「…。」
「けど、結局その後オデッセオニウスの槍は、酒場に持って行ってみんなに自慢してたら、いつの間にかなくなってたんだけどな…。」
苦労して手に入れたのに失くしたんかい。
「ま、お前もトレジャーハンターなら分かるだろ。財宝や秘宝よりも、そこに辿り着くまでの過程にロマンがあるってな。」
ん、なんだ。なんかおっさんがかっこよく見えるぞ。夜の船の上だからか。
俺は目を擦る。
「はぁ…、私掠船の船長になって皇帝のために働くなんざやめときゃよかったぜ…。お宝探しに情熱を注いでた頃の方がよっぽど人生楽しかったのにな…。」
モーゼスはどこか寂し気な表情でそう言った。
「いつの間にか金とか名誉に溺れて…、金の為だけに通商破壊や沿岸攻撃なんてのの繰り返し。仲間に裏切られてカスティリアに流れ着いたと思えば、そこでも金を追い求めてばかり。そんな人生がくそつまんねぇ事に気がつかねぇでいつの間にか歳だけくっちまって…。って、俺はなんでガキにこんな話してんだ…。」
モーゼスは恥ずかしそうに頭をかきながら俺にそう言った。
「はぁ…、ったく…。羨ましいぜお前がよぉ…。」
「羨ましい…?」
「俺ももう少し若けりゃ…、こんなケチな商売やめてトレジャーハンターにでもなるんだがな…。」
「けど、あんな立派な屋敷に住めて、メイドまでいて…そっちの方がいいじゃないすか…。」
「お前はまだガキだから分からねぇんだよ。立派な豪邸に住んだり、貴族としての地位を与えられる事よりも大事なものってのがあんだよ…。それとな、レベッカは別に使用人じゃねぇからな?」
「え、でもご主人様って…。」
「あいつが勝手にやってるだけだよ…。」
勝手にやってるって…。ご主人様って勝手に呼ぶなんて意味不明すぎるんですが…。ていうかあんな美女にご主人様なんて呼ばれるなんて、ちょっと羨ましい。
「いいか、年長者としてこれだけはお前に言っておく…。いくら儲からなくて辛かったとしても、心の奥に少しでもやってて楽しいって気持ちがあんならトレジャーハンターやめんな。」
「え、でもまじで儲からないんですよ…。」
「それでいいんだよ。そもそもお前だって金のためにトレジャーハンター始めたわけじゃねぇだろ?」
「う~ん…。」
お金のためかと言われたら違うが、あれは単純に選べる冒険者としての職業がそれしかなかったからで…。
「なに考え込んでんだアホ。」
モーゼスはそう言って俺の頭をどついてきた。
「いてっ…。」
「こういう時は素直にうんうん頷いて聞いとけ。」
んなむちゃな…。
「とにかく、俺の言う事を心の片隅にでもおいといてくれや…。」
モーゼスはそう言い残し、今日は寝ると言って船室に降りて行ってしまった。なんだか最後の表情はどこか少し悲しげだった。
俺はモーゼスが降りて行った後も一人でずっと考えていた。
あんまり真剣に考えた事がなかったこの半年間。
異世界にやってきて、とりあえずなったに過ぎない職業だったし。ていうか、木こりして本読んで、わざわざ貯めた金を使ってダンジョンや遺跡に潜り込んだり、過酷な山で発掘したりして…。
今思えば、俺の18年間の人生で唯一と言っていいくらい必死になってやった事かもしれない…。
けど、金にならないって分かってても、なんで俺はトレジャーハンターなんか続けてたんだろう。
俺の家は貧乏だったから、両親は必死に働いて、お金を稼いでいた。兄貴も大学諦めて働いて…、それで…。
お金が大事だって考えは現世でも異世界に転生してからもそんなに変わってない。それなのに俺はなんでトレジャーハンターなんかやってんだろうなぁ~…。
俺はその日そんな事をずっと考えて考えて、結局甲板の上で寝てしまった。
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