第25話 体液と想いを込めて
偽善田と全一の二人は善田の部屋で並んで椅子に座り、春川が土器についての本を持ってくるのを待っている。
ここで全一はずっと聞きたがっていた事について尋ねる。
「そういえばさ、今朝とか昨晩に善田が持っているとされるエロ本探しってやったか?」
「昨日寝る前に少しはやったが…次の日の起きるのが早かったから数分しか出来なかった。この部屋色んな紙が散らばり過ぎて何処から手を付ければいいのか分からなくてさ、正直まだベッドの下とかタンスの後ろとかありがちな所しか探せてない」
「少なくともメジャーな隠し場所には無かったと……書物を隠すなら書物の中、もしかしてこの紙がばら撒かれた空間もそのフェイクの為に?
あ、てか電子書籍って可能性もあるな」
「いや、スマホを隅々まで調べてみたがそれらしきものは無かった。
てか今日俺とお前が付き合ってるって噂が流れたせいで、lineの通知が数時間で300件近く貯まっていったのだが、これどうすりゃいいと思う?」
「取り敢えずlineのプロフィールに〔男絡みいらん〕って書いておけば男はメッセージ送ってこないだろうし、半分ぐらいには減らせるんじゃないか?」
「多分お前のヘイトは倍増だけどな。
てかこの貯まりに貯まった膨大な量のメッセージにどう返せば良いんだよ。面倒だから無視…ってのは善田だったら有り得ないし出来ないからな…」
と、返信について嘆いていると春川が一冊の太い本を持って部屋に入ってきた。
その本のカバーはゴツゴツとした綺麗な金の装飾が施されており、『善田家最大の秘密、土器の全て』という名前が書かれていた。
横から見える本紙自体はとても古いものなので、カバーは最近付けたものだと一目で分かった。
「てっきりお嬢様が隣で説明するものかと思っていましたが、全一様の隣で一緒に学びたいと言うので私から説明しようと思います。と言っても私はお嬢様とは違って熟読していないので、かなり簡単な表現で説明します」
春川がそう言って序盤の方のページを開く。
「ここが土器の製法ですね。
善田家の者の特別な力というのは、土器の製法だけではなくその材料となる素地土の生成にも関わってきます。どちらかが疎かになっては失敗してしまうみたいです。
先ず素地土の生成ですが、粘土+適当な混和材+体液を混ぜ合わせる事で生成可能です」
「ちょっと待て、体液ってなんだ」
「善田家の者の血液、消化液、鼻水、涙、汗、精液などです。
…全一様、その様な顔はおやめください、お嬢様も何故そんな顔をなさっているのですか」
((気持ちわるぅ!))
と、二人共つい顔に出てしまった。
粘土にまさかの体液が含まれていると聞き二人は顔を顰めるも、春川からの説明は続く。
「ただ善田家の誰の体液でも良いというわけではなく、土器を成形する者の体液が適量必要です。まぁ、素地土の生成から成形までは全て同一人物が行わねばならないという事ですね。
そしてここからは基本的に普通の土器と同じ製法ですが、成形する際は土器に込めたい効果を念じ続ける必要があります。そして強い効果のものほど精神力の消耗が激しい上に大きな土器にしなければならないので、生成は困難となります」
「ちなみに今のところ一番効果が大きな土器って何?」
「善田家最大の守護神、頭パー土器ですね。効果範囲は地球を覆えるぐらいで、しかも効果も絶大なので間違いなく一番効果が大きいです。善田家の人間が命の心配なく外に出れるのも、国に匿ってもらえているのも全てこの土器の力です」
「その土器っていつ作られたんだ?昔からあるものなら劣化とかして壊れそうだけど」
「あの土器は初代善田家の者が作ったとされています。そして劣化の心配はございません。何故なら体液を毎日土器に適量与える事で、その土器の損傷は回復し、常に全盛期の力を発揮し続けられるからです。
善田家の男性方が毎日体液を垂らして維持をしているので、壊れる心配はありません」
「初代の力が一番強い展開キター」
そんな事を言う全一に若干春川は呆れるも、説明を続ける。
「お嬢様の様に、女性では善田家の血筋でも素地土が作れないみたいです。ですがもしもお嬢様との間に子供ができ、その子が男の子であった場合はその子供も土器の生成が可能です。
ただ土器の力に近くで触れて育たないとその遺伝は薄くなっていきます、2世代土器に触れなかったらその特別な力の遺伝子は消えると言われております」
「ん…それってさ、縄文時代から同じシステムなら相当な数の人が土器を作れる事にならないか?
だって善田も6人兄弟なんだし、全員が結婚して二人ずつ男の子を産んだら12人も土器を作れる奴が増えるって事になる。そんでそれが重なるとヤバイ事にならないか?」
偽善田からは質問出来ないが、丁度聞きたかった事を全一が聞いてくれたので偽善田は密かに心の中で「ナイス」と全一を褒める。
だが春川はその質問をされるや否や顔から感情が消滅し、真顔になった。
「…4歳の段階で能力が高い子供のみを残し、残りの者は頭がパーになる土器に体液を注ぎ続ける為の家畜となります。常に口からよだれが垂れる様に特別な薬を打ち、排泄物含め全ての体液が土器に掛かる様に身体を固定され生かされ続けます」
二人の身体中には一瞬にして鳥肌が立ち、背筋が凍った。春川の言葉が嘘だと思えなかったのだ。
さっき土器の効果は聞いたが、それほどの効果を持つ強力な土器を劣化せずに使い続けるのにかかる犠牲と考えると、納得が出来てしまったのだ。
(も、もしかしてこの館って超絶深い闇があるってタイプか!?)
(俺なんちゅー一家の娘になっちまったんだ!こんなホラー映画でありそうなヤバイ家の娘になるなんて…運が悪すぎるだろ!)
と、二人がお互い見つめ合ったり春川を見たり目を交互に動かして本気でビビっていると
「…ふひ、ひひひひ…うふふふふふふ」
「「!?」」
春川は表情が戻り、笑い始めた。
「すみません、少し驚かし過ぎました…ちょっとさっきの写真の事でお二人の秘密事を知りむしゃくしゃしてましてね、全一様を驚かそうと思いまして嘘を付きました。
まさか演技にお嬢様も乗ってくれるとは思いませんでしたが、お陰でとてもリアリティが出ましたよ」
「お、おい…マジかと思ったじゃねえかこの性悪女め」
「流石に寛容な私も性悪だとか言われたら、お前に丁寧な言葉使いを使うのは辞めたくなるな」
「お前が寛容なわけ無いだろうが、昨日今日でお前の性格の悪さを身に染みて学んだぞ」
「それ以上言うな。既にあの写真の一件で今日上昇したお前の評価がほとんど打ち消されているのだから、これ以上言えば今朝と同じような態度を取るぞ。
…お嬢様、写真の一件ばかりは貴方も無関係では済まされませんからね」
自分に被弾してくるとは思わずお茶を飲んでいた偽善田だったが、突然巻き込まれ少し
言う通り春川は再び説明を始める。
「土器生成の力は生まれついてあるものですが、体液の力の濃さは100%生まれ持った才能で決まります。一滴で花瓶サイズを生成可能の者もいれば、1リットルでようやく花瓶サイズの土器を作れる者もいる。
それを生まれた直後に計り、体液の力の濃さがある一定のラインを越えれば館で育てられ、無ければ普通の人の暮らしをする事になります。善田家の特別な力を知らされないまま。
なので善田様が6人兄弟とは言っても、実は親は全員と異なります。今の当主様の息子が三人、当主様の兄様の息子が一人、当主様の腹違いの兄弟の息子が一人。
そして優雅様の御父上は旦那様の弟であります」
「家計が複雑なのは分かったが…じゃあなんで女性で力が無い善田はここにいるの?ひょっとして女性で唯一力を持っている特別な存在だとか?」
「いえ、3歳まではお嬢様も普通の暮らしをしていたのですが、旦那様は年賀状でお嬢様の事を知り、その当時から見て分かるオーラに惹かれて特別に住まわせる事になりました」
「この館の当主とやらは結構な自由人なのな…」
「ええ…前当主様が厳格な方で厳しかったらしく、その反動でとんでもない自由人が出来上がりました」
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