第24話 戻ってこい俺!
体育が終わって昼時間となった。
偽善田が着替えを終えて春川と共に教室に帰って来ると、机付近に弁当箱を持って全一が待っていた。今朝は善田の館にいたのでその弁当は善田の家のシェフが作ったもの、なので二人は同じ弁当箱だった。
「あ、善田ちゃん。一緒にご飯食べよ」
「うん、ちょっと待ってて」
(なんだその超爽やかな顔。シュート空振ってた癖に良くそんな顔出来るな)
クラスの者達は、全一はサポート役として立ち回り、あれも狙ってやっていたものだと思っている。じゃなきゃこんな清々しい顔を出来ないと思い。
だが偽善田は自分にはそんな高度なプレイ出来ないと分かっていたので、あれが100%偶然だという事も分かっていた。
クラスの者の視線は当然この二人に向けられるが、二人が同じ弁当箱を持っているという状況を見てクラスはまたしてもざわつく。
二人が教室を出ると、更にそのざわめきは激しくなった。
1階の階段裏にある薄暗い空間。そこで二人っきりで弁当を食べていた。
弁当箱は普段の冷凍食品を適当に突っ込んだ弁当とは違い、しっかり全て調理され、実に色鮮やかな料理であった。
「凄いね!昨日の晩御飯もそうだけど、善田ちゃん家のシェフの腕は3つ星レストランの料理並みだよ」
「3つ星レストランに行った事ないだろうが。てか今は春川もいなくて二人っきりなんだし、普通にしてろ。ちゃん付け呼びはやめてくれ」
「え?俺達付き合ってるんだし別におかしくなくは…あ、まだ付き合い始めたの昨日からだもんね、流石にまだ恥ずかしいか」
「おい正気に戻れ!あくまでそれは設定だろ!」
全一がヤバい状況であると悟り、偽善田は直ぐに弁当を置いて全一の肩を持って激しく揺らす。
「思い出せ俺達の約束を!
貞操帯装着放置プレイ、全身拘束プレイ、ポリネシアン○○X、性感帯開発。
俺がお前自身で趣向だとか全て分かるから、思いつく限りの全てのエロい事を俺とするって約束を!」
「せ、性感帯…開発…ハッ!俺は一体何を…」
今朝の約束の話を思い出し、全一の意識は元に戻った。
「それで正気取り戻すの自分ながら嫌なのだが…まあいい、取り敢えず今のうちに二人で話せる事話しておくぞ」
「お、おお…」
「今日は5時間授業だから、あと一時間で帰れるだろ?
取り敢えず今日から数週間は館に泊まるって連絡しておいてくれ。今日から家で善田家の土器について調べる」
「え、今日も泊るなんて俺はまだ言ってないだろ」
「良いだろどうせ暇なんだから。父ちゃん達が帰って来るのもたしか明日ぐらいだったし連絡しとけよ。
それに特別な効果がある土器についてはお前も知っておいた方が良いだろ。家に帰ってひたすらオンラインゲームに時間を使う生活よりも充実したものになると思うぞ」
取り敢えず学校が終わってからの動きを決めて、二人は空になった弁当箱を持って立ち去ろうとする。
だがここで、全一は
「なぁ…ちょっと今の素の状態の俺だと教室に戻れないかも」
「はぁ!?」
「実は玖説と目隠が俺と飯塚をおだててきて、調子に乗って色々言っちゃったのだが…それを思い出すと恥ずかしさのあまりあいつらに顔向け出来ない…」
自分達の事をハメようとしたクラスの者達を打倒し、全一は体育着から着替えながらでこんな発言をしていた。
「俺はそんな他人の足を引っ張るような奴らには負けないよ。それに善田ちゃんはひたむきに自分を高めようとする人が好きだからね、彼氏としてそれに答えたい」
サッカーの最中だとかは完全に頭の中で自分は善田の彼氏だと思い込んでいたが、彼の深層心理では「俺の事ハメようとした奴らざまあ!」と思っており、つい更衣室全体に響く声でそんな事を言ってしまったのだ。完全に無自覚だが深層心理が現れていた。
だが改めて考えるとそれはクラスに敵を作るだけの発言であり、それを思い出すと恥ずかしくなってくる。
「お前ガチで何言ったんだ。
てかどうすんだよ、残り1時間だけでもどうにかならんか?」
「無理、皆の視線を感じたくない」
「…どうすりゃあの変なスイッチ入るんだ?」
「また俺が善田優雅の彼氏だって設定に成りきる為に、なんか…その…彼女らしい事を耳元で言ってくれ」
(んだよコイツ)
変な要求をされるも、このままの状態ではマズいと思い、偽善田は仕方なくそれに従う事にする。
膝を付き座っている全一と頭の高さを合わせ、身体を前に出して全一の耳元に顔を近づける。
「全一君、今日家に帰ったら色々イイ事しよ…二人っきりで…」
「ああ、そうしよう。さ、善田ちゃん早く教室に戻ろう」
全一の急激な変化がおっかなくて少し怖いと思った。
そして何よりこんな心配が頭に浮かぶ。
(こいつのこの変なスイッチ、もしかして俺にもあったりする?俺こんな多重人格者みたいになりたくないぞ)
変なスイッチを起動出来たお陰で二人は無事に授業を終える事が出来た。
そして春川から館に連絡してもらい、今朝全一を下した所から乗車して現在は車内でくつろいでいる。
もう外ではないので春川も館での口調へと戻っている。全一も偽善田が車に乗る前に例の色々な単語をこっそり口にしたのでなんとか元の状態に戻れた
「非行、お前の事を少し誤解していた様だ。」
「ん?」
「正直昨日までのお前はゴミ男にしか見えなかったが、今日は何というか…自信に溢れていて物怖じせず、少しだけお嬢様の恋人に見合う男に見えた」
「そ、そうか?そう言われたら素直に嬉しいとは思うけど…照れるな、そんな事言われたの初めてだから」
「…悪い、今のやっぱ無し。学校だともっと自信に溢れ堂々とした態度を取っていたが、今の鼻の下を伸ばしているお前からはまるであの時の気力が感じられん。
でもお嬢様がお認めになった男だ、私もお前の事は認め、これから館ではお客様への対応の時の様に丁寧な言葉遣いをしよう、非行様とも呼ぶし」
「お、おお…そうか」
春川に丁寧な言葉遣いで話されるとかえって違和感があって全一はぱっとしない返事をする。
話も一区切り付いたので、善田は次の話へと移す。
「そうだ春川、全一君に善田家の土器について教えたいのだけれど、何か書物とかってあったかしら。出来ればかなり詳細に載っているものがあったら良いのだけれど」
「あ~確か旦那様が玄関前の棚に置いていた気がします」
まさかの置き場所に思わず偽善田はツッコミたかったが何とか堪え、代わりに全一がツッコむ。
「じゅ、重要な文献なんだよな?それは大丈夫なのか?」
「超重要資料を悪用しようと思う者などは全員頭がパーになるので問題ありません。来客の方々の目が届く場所に超重要文献を置いているのも、その人の心を試す為…だと思います。
決してズボラな性格だからだとか、そんな事は一切ございません」
「そうか、善田のお父さんなりに考えての事か…」
館につくと半蔵が本日のスケジュールを発表しようとしてきたが、今日は土器について調べねばならないので全て変えてもらった。元々このスケジュール立ては善田が王族ごっこをしたいと言ったからであり、善田の口からなら簡単に止める事は出来た。
だがずっと続けてきた生活を簡単に変えてしまったら怪しまれるので、一先ずこの一週間は止めるという話にしておいた。
これから土器についての本を読もうと二人が思っていると、ここで一人のメイドが玄関ホールの扉を開ける。なにやら焦っている様子だ。
メイド長を務める春川は一体何事かと真っ先にその者に問う
「なんだ、土器でも割ってしまったか?」
「い、いえ…その…解析していた全一様のPCとスマホのデータからとある写真が…」
「ん?」
「頭がパーになっていないという事は悪意や害意などは無いのでしょうが…ちょっと流石に報告せねばならない写真が見つかりまして…」
メイドが全一と偽善田の方をチラチラと見ながらそう小声で言う。
小声だったのでメイドが何を報告しているのか二人は分からなかったが、良い事でないのは反応から直ぐに分かった。
バレたのは昨日偽善田が撮ってパソコンに送ったエッチな自撮り写真だった。
それが春川にバレると偽善田は「全一君の為に撮ったもので…」と言い、春川のヘイトは全一に向けられた。
「お嬢様との関係をとやかく言うつもりはございません…が…これは流石に過激すぎですって!撮るならせめて安全が確保されている館のトイレでしてください!」
((え、館のトイレでなら良いんだ))
取り敢えず春川はお嬢様の為と言いながらそれらの写真を削除し、この写真の事も目撃したメイド達以外に広まらない様にそのメイドに口を封じておくように頼んでくれた。
ただ、全一に対する春川の好感度は下がった様な気がする
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