第19話 俺はお前らとは違う
全一と善田が教師を出て行ってから数分経過したが、一年二組の教室の騒ぎは収まっていなかった。
「善田さんとあの…名前分からん男って何か同じ委員会だっけ?」
「少なくとも善田さんは何処にも所属して無いぞ。善田ちゃんは前期は忙しいから後期以降生徒会に入る予定らしいけど…あの男は知らん、委員会決めであいつが挙手してる所なんて見て無いし、多分入ってないだろ」
「おいあの男誰だよ!まさか善田さんの彼氏じゃ。」
「
情報が無さ過ぎてあの男が彼女の彼氏である確率を求められない…データだ、データを集めねば…」
「あの冴えない面の男が善田ちゃんの彼氏なわけないでしょ?」
「じゃあなんで善田ちゃんはあんな男なんかと…」
一同の動揺を加速させるものがあった。
それは普段ずっと善田の傍にいる春川が、今は教室に残っている事だ。
普通善田が男と二人っきりになろうとしたらそれについて行くか止めるかするはずなのは、もうここ1か月の間で皆分かっていた。だが今回はその春川が教室に残っている。
なので春川は多数のクラスメイトからあの二人の関係を詳しく聞かれる。だが春川は何も答えない。
周囲のクラスメイト達の会話の耳に入れながら、全一のイツメン3人のデブ、メガネ、目隠れ男達も全一と善田の関係について話し合っていた。
「どういう事だ?全一に善田との関りがあるだなんて話聞いた事ないが」
「全一って委員会も部活も入ってないし接点が思い浮かばないね」
「ま、皆が予想してる様な関係じゃなかろう。あの二人が付き合ってるなんてあり得ぬ」
「だよな!」
「だよね!」
3人は話し合ってそう結論付けた。
3人はこれまで一月ほど非行と共に過ごしたので他のクラスメイトよりも彼の事を知っており、彼が学校のトップスターである善田と付き合える要素が見当たらないからそう早急にそう結論付けられた。
そして何より、3人には善田に彼氏が出来ると問題があった。それは…3人も善田の事を狙っているからだ。
先ず『
この男は丸メガネを掛けている+高身長という特徴以外無い。だがその特徴は彼が狙って作ったものだった。
(俺はもう暫くはこの姿で過ごす。だがそれも…プールの授業が始まるまでだ)
玖説という男、メガネが無いと別人の様にカッコ良くなるのだ。中学までは付けていなかったのでモテまくっていた程に。
高校に入ってメガネを付けてきたのは、始めはただ自己紹介の時に皆の前で外してみせて驚かせたかっただけだった。だがそれも、同じクラスに善田がいるのが分かる前までの話である。
善田に一目惚れした彼は、他の皆のありふれたアプローチとは違う攻め方をすることにした。それがこれだ。
(クラスで全く目立っていなかった男が、プールの時にメガネを外したら実はイケメンだった。しかも元水泳部で引き締まった身体をしており、そのギャップに善田さんは魅了される…これが俺の作戦だ。
その為にこうして一番影が薄そうなグループに入っている訳だが…グループで一番個性が無い全一がまさか何かしでかしていたとはな。
ま、どうせ大した用でもないだろう。皆焦りすぎだ)
次に『
低身長+前髪で常に目元が隠れているという特徴以外無い男。だが彼も玖説と同じくある計画を練っていた。
(僕はもう暫くはこの姿で過ごす。だけどそれも…プールの授業が始まるまでだ)
目隠れの顔はかわいい童顔タイプの顔であり、低身長も相まって中学の頃から人気者だった。男はまるで甘えん坊な小さな弟がいるかの様な感覚に、女は母性本能をくすぐられる様な感覚が芽生えるのだ。
始めは玖説と同じように自己紹介の時に前髪を上げて皆を驚かせたかったのだが、彼もまた善田に一目惚れし、ギャップ受けを狙って今潜んでいた。
(今まで見向きもしていなかった男が、実は可愛くつい守って上げたくなる様な子だとは善田さんも思ってないはず。きっと普通にアプローチして砕けてる他の男達とは別の結果になるはずだ。
取り敢えず今はひたすら影の者になる為にこうして一番影が薄そうなグループに入っている訳だけど…グループで一番個性が無い全一がまさか何かしでかしていたとはね。ま、どうせ大した用でもないだろう。皆焦りすぎだって)
最後に『飯塚 勝』
大柄のデブで特徴的な喋り方をしている男だ。彼にもまた二人と同じ様な作戦があった。
(俺は前期は陰キャグループにいるただのデブという印象を皆に植え付ける。だがそれも全て夏休み後に皆を驚かせる為のものだ。
俺は痩せたらカッコイイ。だから夏休み期間で急激に痩せ、夏休み明けの最初の登校日に皆を驚かせる。
そしてギャップで善田さんを惚れさせてみせる!)
彼は実はやせたらイケメン
などという確証はなかった。別に両親の顔が整っていたり、顔のパーツが良いものでもない。
ただ痩せたら自分はイケメンであると思い込んでいる異常者だ。
そんな3人は「自分はただ普通にアプローチをかける皆とは違う」と思い、陰キャグループに所属しようとした結果、全一の元に3人が集まったのだ。
そして朝のHRが始まる数分前になり、廊下がなにやら騒がしくなった。何事かと何人かが教室のドアから顔を出して周囲を確認してあるものを見ると、口を開けたまま固まった。
その反応を見て一体何を見たのかと3人も気になっていると、その正体が教室の後ろのドアから入ってきた。
全一は善田と共に教室に入ってきた。善田が全一の腕に抱き着きながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます