第18話 性欲以上の原動力は無い
数分前
偽善田は自分の教室に向かっていたが、階段を上がる前に春川に階段裏に連れられた。そこで春川からこんな話をされる。
「優雅、非行の事が本当に好きなんだね…少し離れ離れになるだけでそんなになっちゃうぐらい」
「…へ」
ここに他に誰もいないとはいえ、春川は外では徹底して友達同士としての関係で話す。
ただ、まさかそんな風に思われているとは思ってなかったので、春川のその見当違いな思い込みに偽善田は思わず困惑の声が漏れた。
「ごめんね分かってあげられなくて。非行と会えない時間が続くだけで体調が悪くなるぐらい好きなんだって気づいてあげられなかった。
…だからさ、もう非行を本格的に館に住まわせない?学校でも同じクラスだから、これでもうずっと非行と一緒にいられるし。非行も優雅が頼んだら受け入れてくれると思う、私はまだ非行の全てを認めたわけじゃないけど…」
(確かにあいつとは出来る限り一緒にいた方が安心出来るけど…ん、ずっと一緒…?ずっと…一緒…?
…っ!それだ!)
ある事を閃き偽善田の顔はパッと晴れた。
(そうだ、学校でもずっともう一人の俺の傍に居続ければ良いんだ!恋人みたいにイチャコラしてるふりをしよう!
そしたら俺に絡んでくる奴も少なくなるだろうし、善田の友達と無理に交流しなくて済むんじゃないか!?
春川ももう俺がもう一人の傍にいるのを止めたりしようとはしないみたいだから行けるかもしれない!)
「って訳で、これから学校の休み時間とか常に一緒にいるぞ」
離れの廊下で今、全一と偽善田は二人っきりで話していた。
偽善田が教室で全一の手を引いて教室を出て行くと、教室内はざわざわと騒がしくなっていた。あまり内容は聞こえなかったが何を言っているのかはほとんど予想は付く。
「誰だあの男」「なんであんな目立たない男と善田ちゃんが…」などと言われている事だろうと。
「イチャイチャね…で、具体的に何をするんだ?」
「俺なんだから分かるだろ?
イチャイチャと言えば、手を繋いでキャッキャと話し、ご飯をお互いアーンして食べさせたり、有線イヤホンを二人で着けて同じ音楽を聞いたり。思い出せよ、日々彼女が出来たらしてみたいと妄想してたモノを」
「ゲームの協力プレイとか、一緒に勉強したり、膝枕しながら頭ナデナデしてもらったり、バイブ挿入しながら授業受けてもらったり、誰もいない放課後の廊下で誰も来ないのを祈りながらエッチしたり…」
「後半の方、思考が性欲に乗っ取られてるぞ」
「悪い、ふざけただけだ」
「はぁ…取り敢えず頭ナデナデまでは良いとして、それ以上の事は学校では出来ないからな。それ以上やると問題になるし。
一先ず休み時間と昼食の最中は二人で行動して、他の奴らを寄せ付けない様にしよう」
「それは良いけども…そんな事やったら俺らが付き合ってるって噂が絶対に学校中に広まるだろ。俺らで勝手に善田の噂を作っちゃったら、元に戻った時に本当の善田に迷惑が…」
急に人の迷惑だとか人のを気を使った綺麗な事を言い出したが、偽善田はそれがただの建前である事を見抜いた、何故なら自分自身の思考だからだ。
「昨日、俺は家に帰る前にトイレで善田の色んな写真を撮っただろ。
そう、俺らは端から善田の気を使ったり、可哀想だから止めておこうなんて考えは持ってない、善田に迷惑かけない様にしようだなんて思ってないんだ。
今のお前は…ただ面倒な事になるのを避けたいだけだろ?」
「…確かにそうなのだが、こうして言葉にされると自分の酷さが分かって辛いな」
「まぁ、元はと言えば善田があそこでチリトリ踏んで滑ったのが悪いから、これぐらい許されるだろ」
全一は中身が自分とはいえ善田と恋人のフリをするというのにはワクワクがあり、それと同時に面倒臭さがあった。
善田という100点満点の完璧美少女という評価を受けている女の子を隣に侍らせて歩く廊下はさぞかし気持ち良いだろうとは思う。
だがそうなれば嫉妬、憎悪だとかが向けられるのは間違いなく、想像するとそれが非常に面倒に思えた。
(絶対に面倒な事になるよな…妄想の中で美少女の彼女を持ったのは優に千回を超えているし、多分プロのモテ男並みの能力はある。でも実際にやるとなると面倒…って思っちまうな)
全一が乗り気ではないのを善田は感じ取る。
善田はどう説得するものかと数秒黙り込んだ後、再び話し出す
「…女の子の身体に乗り移れたなら、男の身体じゃ出来ない事とかすれば良いのにって思っていた。妄想はいくらでも出来た。
でも俺は妄想してた事の1割もやってない。恥ずかしい写真を撮っただけだ。多分俺が今自分の命の問題に直面しているからだと思うが、やる気が起きないんだ。
そんな感じで今、学校で話題の人物になって学校生活が変わるのを面倒だって思ってるだろ?
「…良く分かってるな、流石俺」
「俺は一番のお前の理解者だ。欲望、願望、手に取る様に全て分かるぞ」
「あ、ああ…だろうな」
「だから…こんな俺とあんな事こんな事エロエロ出来たら最高だって思わないか?」
ゴクリと互いの喉が鳴った。
言う方も緊張しているが、特に言われた方である全一はその刹那にこれまでしてきた様々な妄想が頭を過り、期待に胸が膨らんだ。全一は偽善田と違って少し特殊な感情を抱いていたので尚更だ。
そして偽善田は一歩ずつゆっくりと全一に近づく。
「ほら、今何が思い浮かんだ?何をしたい?」
「コ、コスプレエッチ…」
「そういうメジャーなやつじゃなくても良いんだぞ。俺はお前だ、遠慮なく言え」
「て、貞操帯装着放置プレイをさせたい…」
「うん」
「…善田をガチガチに拘束してエッチしたい」
「うん」
「ポリネシアン○○X…」
「うん」
「善田の性感帯開発…」
「全部出来るな、俺…私となら全部出来るな」
全一は一個一個自分の欲望を口に出していき、その度に一歩ずつ偽善田が近づく。
気が付けば遂に全一の直ぐ目の前にまで着いた。
そして最後に偽善田は全一の耳元で囁く。
「だからお願い…私の彼氏を演じて…」
偽善田は自分が興奮する様な場面を再現し、最後に小声で囁いてトドメを指す。
美少女に小声で囁かれ、全一の心は完全に堕ちた。そしてそれと同時に変なスイッチも入ってしまった。
「…ああ、任せろ。俺は頭に浮かぶ妄想を全て叶えるその日まで、お前の彼氏として振る舞ってやる…演じてやるさ。善田優雅の彼氏をな」
その瞬間、昨日おふざけで目覚めた全一の演技の才能が再び出現した。
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