第17話 惚れている者の反応
外では善田と春川は、お嬢様と使用人という関係ではなく友人同士である。
「だからさー、今度一緒にそのパフェ屋さんでも行こうよ!優雅も絶対に気に入るだろうからさ!」
「う、うん」
さっきまでお嬢様呼びされていたのに突然ここまで対応が変わると、偽善田もどううれば良いのか分からなくなり会話は弾んでいなかった。というか会話について行く事が難しかった。
普段よりも会話が弾まない事には当然春川も気が付いており、その心当たりが一つあった。
(お嬢様、非行と分かれるのがそんなに嫌だったんですね…今朝あの男に抱き着いて「今日も泊って」と言っていたから何となく分かっていましたが、やはりお嬢様はあの男の事が好きなのですね。10年来の恋を忘れる程…)
一方、偽善田も全一の事は考えてはいたが、春川が思っている様なものではなかった。
(どうしよ…どうしよ…何も話せん、何も分からん、どうすりゃいい。
学校に着いてからどう動くかイメージトレーニングをしてみたが、どうしようもないだろこれ。春川にはもう本当の事を教えちゃうか?
いやでも…中身が俺だと知ったら俺の魂を消してでも善田の魂を復活される様な方法とか取るかもしれない、もう少し土器の力とやらについて知ってからじゃないと判断付かんな…
そしてもう一人の俺はガチで頼りにならん。昨日のゲームでは頼りになったが、こういう時は本当に使えん。今朝だって俺を見捨てようとしたクズだし…あ、やめよ、あいつへの悪口全部俺に返って来るし)
偽善田は不安で顔を青くしながらも学校へと向かって行った。
なんとか学校に辿り着くも、既にさっきより偽善田の顔色は悪くなっていた。
悪化の原因は…
「善田さん、おはようございます」
「優雅ちゃんおはよー」
「おはようございます!」
「今日も優雅ちゃんは可愛いな~」
「や、やっぱ今日俺善田さんに告ってくるわ!」
「あ~癒される~」
見知らぬ者から絶えずされる挨拶、こそっと聞こえる男達の声、それらが耳に入り偽遠田は気分が悪くなっていた。
非行全一は人に囲まれて過ごす学校生活とは無縁だったので「おはようと」返す事だけでもかなり気力を使う。
そして善田の交流の広さを知って絶望していた。
(おいおいおい…こんなに知り合いがいるのかよ…考えが甘かった。先生、上級生達にもめちゃくちゃ挨拶されるし、クラスの奴とどう関われば良いかって話の次元じゃなかった。
ああ…アカン、絶対に春川にバレる、ボロ出さないなんて無理だ…もうバレるのは確定だし、春川に命乞いした方がいいかな…)
自分の中で考えが膨らみ、もはや偽善田の中では『正体がバレる事=死』となっていた。顔色も悪く、足並みもおぼつかない。春川に「家に帰る?」だとか言われるも、一人で家にいるのもかなりキツいし、いずれ絶対に学校に行く事にはなるのでどうにか耐える事にした。
そしてなんとか昇降口にたどり着き、偽善田はつい癖で善田ではなく自分の番号の靴棚に靴を入れようと扉を開けてしまう。
(あっ、そうだ。今の俺は善田だった…てかもう靴あるしもう一人の俺は学校に来てるのな。いつもならもっとギリギリな時間だが、今日は車で一緒に向かったから早いんだ。
…やっぱ俺に頼るしかないよな。同じく俺だが、違う視点からなら別の案も思いつくかもしれないし)
協力者である自分の事を思うと少しは気分も晴れたので、偽善田は教室に着いたら真っ先に自分の元へ向かう事にした。
さきほどから善田の体調が悪い事に春川は気が付いており「大丈夫?着いたら保健室行って休もう」「今日はもう学校欠席して車で帰ろ?」などと気を掛けていた。だが善田はただ周囲の者達の挨拶に無気力に返すだけで「大丈夫、頑張るから」としか返答してこない。
普通じゃないその様子を見、もう無理にでも休ませるべきだと判断した春川は昇降口に着いた所で屋敷に連絡をして帰りの車を送ってもらおうとスマホに手を伸ばす。
だがそこで、善田が全一の靴箱を開けて中に靴があるのを確認した。するとさっきまでと比べて遥かに善田の顔色が良くなっていた。
これを見て春川は確信する
(…やっぱりあの男に心底惚れているのですね。
非行全一、あの男の靴を見て既に学校に着いている事を確認し、ここまで体調がよくなるとなると…もう疑い様がない。あの男は脅しも何もお嬢様にやっていない、
ただお嬢様が奴に惚れているだけ。それが良く分かりました。
思えばお嬢様があまり喋らなくなったのは、非行が帰ると言い出してからだ。あの男と離れる事になってからこの調子に……ならば私がお嬢様にすべき事は…)
1年2組教室の端に、4人の男グループが固まっていた。
『
クラスではあまりパッとしない者という立ち位置におり、外見もこれと言って特に特徴が無い者。
『
クラスではあまりパッとしない者という立ち位置におり、小デブというほんのりとした外見的特徴がある者。
『
クラスではあまりパッとしない者という立ち位置におり、メガネを掛けているというほんのりとした外見的特徴がある者。
『
クラスではあまりパッとしない者という立ち位置におり、前髪が長く目が隠れているというというほんのりとした外見的特徴がある者。
つまり似た者同士の集いという事だ。
クラスの女子は誰も見向きもしない様なその集い、そこではこの様な会話が行われていた。
「昨日異性と身体が入れ替わる系のドラマがやってたけど見た?」
「う~ん、シチュエーションは好きだけどもっとエロ展開が欲しいよな。主人公が誠実すぎてつまらん」
「女湯に入って色んな人の肌か見るの興奮しそー!」
「だな」
最後に「だな」と同意していたのが全一だった。だがこの男の本音はその同意とはほど遠かった。
(その程度の妄想しか出来ないとは…やっぱりこいつら甘いな
せっかく女の子の身体になったのなら、もっと男の身体じゃ出来ない事とかすれば良いのにって思うのは俺だけか?
自分の性癖に刺さる服を着て写真や動画を撮って自分の息子へのお土産にしたり、レズエッチしたり、いたずらで男誘惑して遊んでみたり…もっと色々あるだろ。
一番やってみたいのは、身体の性感帯を開発しておいてお互いの身体が戻った時に相手がそれに困惑しながらもその身体の快楽に呑まれ、いずれ女の子がそれをやった男に「責任取って…」とか言ってえっちな事を頼んでホテルへ…ってやつだな。
いやぁ~俺だったら美少女と身体が入れ替わったらウハウハよ。今ここで言ったら引かれるぐらい色んな妄想が頭を過るぜ。
こんな俺だしきっと昨晩、もう一人の俺は夜中に色々やったんだろうな。後でエロエロ…じゃなくて色々聞いてみよ)
全一はこの3人に会わせ、この場で自分のその妄想の暴露などはしない。
3人とはアニメの話で仲良くなってつるむ様になった。共通のゲームをやってたりはしないが、学校で話す分にはアニメの話だけだとかで充分だったので、それで良かった。
お互い幅広い性癖を暴露したり、小ズルい考えや捻くれた思考を曝け出せる関係になれなくてもよかった。だが…本心を出せず虚しいと思う気持ちは僅かにある。
全一がそんな事を考えていると、教室のドアが開く。
そして入って来た者の姿を視認すると、皆がそっちに向かい手を振ったり「おはよう」と挨拶をする。
それもそのはず、今教室に入ってきたのが学校位置の人気者である善田だったからだ。
この学校に入って1か月。もう見慣れた光景だが、中身が自分だと思うと不思議な感覚になる。
(あんなに人気者の立場に突然なれたと思うとうらやま…しくないな、考えると胃が痛くなってくる。
だが学校で俺にしてやれる事は無いんだよな…学校では一人で頑張ってくれ、俺)
取り敢えず学校では普段通りの二人の関係で、あまり関わらない様にしようと全一は考えていた。
だが偽善田は全一のその考えとは裏腹に、こっちを見るとゆっくりとこっちに歩み寄ってくる。
「え、こっちに来てる?」
「いや、流石にそんなわけ…いや、こっち見てるな」
「なぬ!?我らの影のテリトリーに善田さんが近づいてきているだと!?」
全一の友達3人はこちらにやってくる善田に対し、一体何の用なのかと胸のドキドキを抑えられずにいた。
一方、全一は間違いなくこっち側に、自分の方に来ているのを察した。
(な、なんだ?俺に何の様だ?
学校じゃ俺がしてやれること何て無いぞ?)
偽善田は4人の元にやってくると、全一に目を合わせる。そしてスマホを触っている全一の手の上に、そっと手を置く。
「ねぇ…ちょっと向こうで話さない?二人きりで…」
「「「え…」」」
善田のその言葉に、周囲の3人、そしてクラスにた全員が声を合わせて困惑の声を出した
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