第13話 コンディショナーとは

春川と全一が同じ部屋で揉めているのと同時刻。

偽善田は今、大浴槽に足を踏み入れていた。

館の風呂は銭湯並みの広さがある。今は偽善田一人だけだが、どうやらこの浴槽はメイド達も使うらしく、シャワーヘッドは10個ほどあった。


髪を洗ってから浴槽に浸かるつもりだが、鏡に映る善田の身体に夢中で、シャワーの前にある鏡の前でポーズを取っていた。


(こう…それにこう…いいな、この前屈みのポーズ凄く良い。カメラのアングルを上に目にすると、少し上目遣いになって良い感じになりそうだ。もしも股間の息子がいたら10点満点をくれただろう。

さっき削除しろと言われたエロエロな写真はPCのクラウドに保存しておいたが、あれじゃ足りん。もっとたくさんのポーズと服で写真を撮って俺の息子のお土産にしないと)


と、偽善田がシャワーを浴びずにずっとポーズを取っていると、女性メイドの一人が扉を開けて恐る恐る浴槽に入ってきた。


「あ、あの…お嬢様、炭酸飲料を浴びたと聞いたので…直ぐにそれを水で洗い流すべきかと…」


メイドはまるでさっきまでポーズを決めていたのを見ていたかの様な反応で、善田の謎の行動に動揺している様だった。


「え…ええそうね。ち、ちなみに今の…何処から見てたの…?」


「お嬢様が万が一浴槽で溺れたりした際に駆けつけられる様に監視カメラが作動していますから、向こうの部屋で見ておりました…

お嬢様が風呂には一人で入りたいと申したので直接監視ではなくカメラでの監視にかなり前からしているのですが…もしかして体調が悪かったりなどしますか?」


「だ、大丈夫よ。ちょっと今日色々あって疲れてるだけ…」


まさかポーズを取っている見られているなど思わず、偽善田は恥ずかしさのあまり顔を赤くなり手で顔をメイドから背ける。



ポーズの考案を練るのは一旦止め、とりあえずシャワーを浴びてから浴槽に浸かる。

使用人達も入るのでシャワーは沢山あるが、善田専用のシャワーがあるらしく、そこには色々な種類のシャンプーやコンディショナーがあった。なので適当なシャンプーを使って髪を洗う。

腰にまで掛かる長い髪を洗うのは初めてで違和感もあり、どう洗うのが正解なのか分からないまま適当に洗う。

全一はコンディショナーが何なのかよく分かっておらず、シャンプーの偽物という認識でしかないのでとりあえずコンディショナーとやらは無視した。


そして浴槽へとダイブする。

するとまたしても扉が開いてメイドが声をかけてくる。


「お、お嬢様!浴槽へのダイブは大変危険です!万が一の事があったら大変ですのでお控えください!」


「え、あっ、すみません」


「な、何故お嬢様が敬語なのでしょうか…」


監視カメラで見られているというのを忘れ、誰もいないから普段出来ない事をやった偽善田は、つい敬語で返してしまった。




そんなこんなで偽善田は大浴槽を満喫して風呂場から出てくると、さっきのメイドの者が服を持ってきた。

だが、その服は映画やアニメなどで見るお姫様が来ている様な豪華なドレスだった。


(これは…この服はッ!)


見覚えのあるドレスだ。それは『プリンセスヒーロー☆』というキャラクターの戦闘着であり、なんとご丁寧にティアラと変身アイテムのステッキまでも用意されていた。


「ちょ…これは…」


「お嬢様が本日連れて来た全一様は、お姫様になりきるというお嬢様の趣味を知っていると聞きました。

なので久しぶりにこのお召し物をご用意したのですが…お止めになりますか?」


「…うん、普通の服でお願い」





一方その頃、全一と春川は揉めていたが、他の使用人が食事を運びに部屋にやってくると直ぐに態度を変え、何事も無かった様に振る舞う。

ただ、二人の仲は悪くなっていた。


(このクソ男から絶対にお嬢様を守ってやる。どんな手を使ってでも!)


(性悪女め…俺がこの屋敷にいる間は俺と偽善田を二人っきりにさせないつもりだし、多分館にいる間は俺の事を探ってくるな。

だが残念、偽善田は俺自身で、俺の味方だ。例え何か発覚しても俺が家に無理やり帰される事は無い。

とりあえず俺は当初の目的通り偽善田のサポートをしよう。風呂に入るだけなら男と女もそう変わらんと思うからまだ大丈夫だろうが、いつボロを出したりするか分からないからな)


と全一が考えていると、偽善田が使用人と共に部屋に入ってきた。

服は高価そうなシルクのパジャマで、中身が自分とは分かっているが全一の胸はときめく。


(あ…なにこれ、クッソ可愛い)


内心そう思い顔が少しにやける。春川はその全一をみて小さく舌打ちをする。

そして偽善田は全一の対面側の席へとついた。


「ぜ、全一君。待たせちゃってごめんね…」


「あ、うん。全然大丈夫。春川さんと楽しく話して待ってたよ。ね、春川さん」


「…ええ」


春川は不服そうにそう答えながら料理を机に並べる。

今日の晩飯のメインはステーキで、高価そうな食器の上にサラダやスープなど一人では食べきれないぐらいの量の食事が置かれる。


「俺こんなに喰いきれない…多分残しちゃうんだけど…」


「全一様の好物が分からなかった為、様々な料理を用意させてもらいました。お残ししてもらっても使用人らの晩飯になるので構いません。

ちなみにアレルギーなどは御座いますか?」


春川は食事を並べながら全一にそう尋ねる。

既に春川に対して敵対意識を持っている全一は、迂闊にそれに答えたりなどしない。


「いや、特にアレルギーはありませんよ」

(エビアレルギーなのは隠しておこう、コイツが俺を追いだす為にエビを飯に盛ってくるかもしれないからな)


「そうですか…っチ」


春川は全一にのみ聞こえる程の小さな舌打ちをする。やはり春川は敵だと全一は改めて思った。

一方偽善田は春川に対して全く違う印象を抱いていた。


(嫌いな奴だったけど…この状況ちょっといいな。高身長で気が強い女が召使いとして俺の食器を出したり働いてるのを見ると…なんか征服感があって満たされる)


性癖がS気味なので今の使用人の春川にそんな欲情を抱いた。



食事をするとき、出来る限りフォークとナイフの使い方に気を使ったが、全一は正しいマナーなど知らない。なので二人とも傍から見ればめちゃくちゃな食べ方になっていた。

全一はまだそこらの教養が無い者だと思われるだけなのでまだ良い。だが善田に関してはそれでは済まなかった。


「お、お嬢様…今日はどうなされたのですか?

ナイフの使い方が普段より…」


「全一君に合わせて食べた方が良い気がしてこうしているだけよ。ほら、片方が先行し過ぎて差が出来過ぎると良くないもの」


「な、なるほど。思慮を読み取れず申し訳ございません」


なんとか言い訳をして使用人を納得させる。

だがこの言い訳は全一が居ない時には使えないもので、もしも一人で食事をすることになったら他の言い訳が必要になるものだった。

その様子を見て、全一は偽善田のフォローを考える。


(精一杯上品な感じで食べてるみたいだが…流石に限度があるな。しゃあない、ここは俺がフォローを出そう)

「すみません、もし良かったら正しいテーブルマナーについて教えてもらえないでしょうか。こういう機会なんて中々ありませんし」


「っ!そうね!春川、全一君にテーブルマナーや正しいナイフの使い方を教えてさしあげなさい。分かり易く丁寧にね」

(俺超ナイス!ここまで気を使えるとは思わなかったぞ!)


「かしこまりました」


全一のフォローの甲斐あり、春川が全一にマナーを教えるという定で偽善田もマナーについて軽く知る事が出来た。





食事が終わり、半蔵が偽善田の隣にやってくる。


「お嬢様、本日は全一様がいるので翌朝までのスケジュールを立て直しました。こちらでどうでしょうか」


半蔵がスケジュールが書いてある紙を渡してきたのでそれを偽善田は確認する。


_____________________

20:30全一と共に夜風に当たる時間

21:00自由時間

22:00就寝


4:30起床

4:50ランニング(5㎞コース)

5:30朝食

6:00勉強

7:30登校

_____________________

(なんだこれ…キッツ。1時就寝で8時起床が当たり前の俺には辛すぎる。

22時に寝るとか俺の生活リズムじゃありえんし、朝から運動や勉強したりした事なんて無いぞ。

それにせっかくPC持ってきたのに『リアルファンタジー』をやる時間が無いじゃないか)


「本日は帰宅が遅れ、全一様がいるので自由時間は3時間から1時間に削らせていただきました。夜風に当たる時間ではお二人でどうぞ館と庭の中を自由に散策してお寛ぎ下さい。使用人は付けますがデートの邪魔はさせません。

睡眠時間も今日はお疲れの事でしょうし30分ほど増やしました。

全一様は、休まれるお部屋に持ち込まれたPCを設置してあるので、21:00時にお嬢様と分かれて以降はご自由にそちらでお過ごしください」


作り直せ…とは簡単には言えない。下手に反対すればボロが出るだろうし、これが普段の善田の生活なのに、これをいきなり変えてしまったら怪しまれる。

だからスケジュールは少しだけ作りなおしてもらう事にした。

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