第12話 言質取らせていただきました

偽善田と全一は、車内で静かに二人でしか分からないアイコンタクトで会話していた。


(おい、もしかしてこの入れ替わりって特殊な効果がつく土器せいじゃないのか)


(そうとしか思えないな。さっき土器を投げられて呪いを掛けられた車、あの衝撃はドライバーが気が付かない訳がないのに一切気にしてない。効果は本物と見るべきだ)


(じゃあこの人達にこの魂が入れ替わった状況を言ったらどうにかなるんじゃないか?善田の魂が元に戻ってハッピーエンドって)


(その場合…お前の魂はどうなるんだろうな。消えるのか?)


偽善田はそう言われ、数秒間頭の中でそうなった時の事を考えてみる。

そして答えを出した。


(…よし、やっぱり魂の入れ替わりについて言うのはやめよう。怖い)


先程の全一に続き、偽善田も自分の保身の為にこの身体入れ替わりについて隠す決意をした。




車は山道に入ったかと思うと、途中で山道を外れて細い木々の中を突っ切っていく。

普通では見つからない様な細い道で、その先を抜けると館があった。


4メートルにもわたる塀に囲まれているその館は、ネズミーランドのホテル並みの大きさと豪華さのある巨大な洋館であった。

塀の上に数メートルおきに置かれている土器、庭の中央にある綺麗な噴水と大きな土器など、色んな所に土器がある。

さっきの話からすると何らかの効果があると思われるが、今はそんな事よりも館にしか目がいかなかった。


「へ…へぇ…凄いね、善田の館…」

「そ、そうでしょ…凄いでしょ、私の館」


「全一さん、あまり驚かないのですね…流石お嬢様が選んだ事がある方です。肝が太いのですね」


顔に出していないだけで二人共めちゃくちゃ驚いている。

(なんじゃこりゃ!こんなデカい館がこんな所にあったのかよ!何度も通った事あるけど、こんなの知らないぞ!)

(こんな館に住んでいるお嬢様に化けないといけないのかよ俺…やばい、胃が痛くなってきた…)


「ささ、お嬢様と全一様。お荷物は他の者に運ばせますのでどうぞ直ぐに館へ」


半蔵にそう言われ、二人は車から降りて半蔵の後を歩く。偽善田は緊張で胃が痛くなりながら、全一はこの状況にワクワクしながら。

そして半蔵は館の扉を開ける。


「「おかえりなさいませお嬢様!」」


するとメイド服を着た女性、スーツを着用している男性、総勢15人近い使用人が二人を出迎えた。そこは大きな広間であり、天井にはシャンデリアと土器が吊るされており、壁には彫刻や絵画や土器置かれている。


そしてレッドカーペットの先には使用人のリーダーと思われるメイドが立っていた。使用人一同頭を下げているので顔は見えない。

その生涯絶対に見れない様な光景を目の当たりにし、二人はギョッと目を見開いて驚く。


そしてメイド長と思われる者が顔を上げ、そこで更に驚く。

そのメイド長の正体は二人のクラスメイトであり、善田といつも一緒にいる『春川 あかね』だった。


「「春川っ!?」」


二人して声を揃えて驚く。

すると春川は、何故お嬢様まで驚くのかと首を傾げる。


「お、お嬢様?なにか私に不手際でも…

ハッ!もしや全一様への歓迎のご挨拶をしていなかった事ですか!?

申し訳ございません、直ぐにやり直します!」


「い、いや…別になんでも…」


「「いらっしゃいませ全一様!」」


偽善田が言葉を発する前に使用人一同声を合わせて全一の出迎えの言葉を述べた。





それから全一は、善田はシャワーを浴びねばならないという事で分かれ、客間にて待たされていた。

そして全一の隣には春川が立っている。


「は、春川さんってここで働いていたんだね」


「はい」


全一の言葉に一言しか返してこず、会話はここで終わる。

ただ今は二人っきりの状況なの、スマホを弄るのも気まずく、この沈黙を打破する為に全一は無理に話そうとする。


「い、いつから働いてるの?半蔵って人みたいに善田が小さい頃から?」


「はい、私は物心がついた頃からこの屋敷で働かせてもらっています」


「敬語じゃなくていいよ。なんかクラスメイトにそんな感じで話されると違和感が凄いし…」


「いえ、全一様はクラスメイトである前にお嬢様に招待されたお客様です。メイド長である私が貴方に対してため口で話していては示しがつきません」


「じゃ、じゃあこういう二人っきりの時なら良いんじゃない?」


「ですが…」


「いいからいいから。今日階段で合った時みたいに普段通りの春川でいいよ」


「よし、言質取ったからな」


春川はそう言った直後、椅子に座る全一の肩を強く掴んで顔を近づける。


「貴様、お嬢様に何をした?お前の様な奴をお嬢様が招待するなんて明らかにおかしい!」


「イデデデデデっ掴む力強いって!

おい、俺はお客様だぞ!メイド長がそんな態度で良いのかよ!」


「さっきと言ってる事が違う…が、まあいい、言質は取ったからな」


すると春川はポケットからスマホを取り出し、画面をタップしてピコンと録音を終了させた。春川はこれを狙ってあらかじめ録音しておいたのだ。


「あ、汚ねえ!お前俺がそれを言うのを待ってただろ!」


「ハハハハ!録音してお前の言質は取ったから、もう私は二人っきりのお前をど突いても別に解雇させられない!」


「いやいや、手を出して良いとは言ってないからな」


「普段通りの春川でいいって言ったろ?普段の私は男女問わずお嬢様に害を及ぼしかねない奴はド突く。だから問題無い。

さぁ吐け、貴様がお嬢様にした事を」


(この野郎クッソ性格悪ぃ!やっぱりコイツ嫌いだわ!)


内心そう思いながらも、ここは出来るだけ穏便に済ませたいのでどうにか説得をする。


「どうせ俺が何言っても信じないだろ?どうしたら信じてくれるんだ?」


「ふむ…そう言われるとパッとは出ないが…そうだな、先ずはスマホと貴様が持ってきたPCの中の写真フォルダを確認させてもらおう。善田家の者を守る土器の力があるから考えられないが、もしかすると何かお嬢様の映像を撮って、それを脅しに使っているのかもしれないからな」


「ああ、分かっ…」


土器がどうたらという話は分からなかったがここは従っておいた方が良いと思い全一はスマホを出そうとするも、ここで全一はピタッと言葉を止める。


(俺のスマホにはさっきまで善田のエロエロな写真が入っていた。偽善田はもう消したと言っていたが…ちょっと待て、相手は俺。もしも俺ならそんな写真大人しく消さずにPCのクラウドに送るはずだ。

…不確かだが、このままコイツにPCとスマホを見せるのは不味い。あれがバレたら多分俺にもあの変な土器をぶん投げられて洗脳されるかもしれん…)


急に黙り込んだ全一に、春川はさっき以上に疑いの目を向ける。


「おいどうした。何か不都合でも?」


「いや…その考えが浮かぶという事は、撮られたらマズイ様な事をお嬢様が外でしていたと思っているんだな…と、お前が善田を信頼していない事が分かって驚いていただけだ。

なるほどなるほど、善田が学校でのオ〇二ー動画が撮られて脅されてるとか有り得るもんな」


「あっ、ちょ!今のナシ!お嬢様は決して外でそんないかがわしい事などしていない!」


「ざんねーーーん!言質取らせていただきました!」


全一は今の言葉を録音している自分のスマホを相手にチラつかせる。

春川はしてやられたと歯ぎしりをし、頭に血筋を浮かべる。


「チッ…やりやがったな。それに何だかさっきよりもハキハキ喋る様になったのも気に食わん、学校じゃ寡黙の雰囲気だったくせに」


「今日改めて思ったよ…やっぱ人が嫌がる事をしてる時が一番楽しいってな!」


「性根まで腐ったこの腐れ外道め」

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