第11話 絶対やばい家じゃん

半蔵が館の者に連絡をしてから10分程で家の前に車が付いた。その車の車名は分からないが、4人は確実に乗れるであろう車で綺麗なフォルムをしているので高級車だろうと二人は思う。執事と思わしきおじさんは車の扉の前で待機している。

そんな所を2階の部屋で全一と偽善田は見ていた。


「あれなんて車だ?」


「お前が知らない事を俺が知ってる訳ないだろ。でも高級車だって事は分かるぞ。なんかすげぇな」


「てかさ、善田ってこんな金持ちなのにどうして学校でそれがそんなに噂になってないんだろう。普通これだけ規格外な金持ちだったら話題になるよな」


「ま、善田は金持ち自慢とかしない子って事なんだろう。

んで、これ以降二人っきりで話す事は出来ないかもしれないけど今のうちに話し合っておくべき事とかあるか?」


全一はそう言われると、少し考えてみるが


「さっきなんとなくアイコンタクトで意思疎通出来たし大丈夫じゃね?」


「それもそうだな」


全一は持っていく荷物を詰める為に窓を離れるが、偽善田はまだ窓から車を見下ろしていた。その横顔を見て、全一は何とも言い表せない複雑な気持ちになる。


(こうして話してると俺と話してるって気分になるから何とも思わないが…無言で横顔を見てると本当の善田と一緒にいる様な気分に…)


「兄貴、ちょっと来い」


そんな複雑な思いに心を巡らせていると、弟の全二が自分の事を呼んだので、全一は荷物を詰める手を止めて弟の部屋へと入る。


「どうした?」


「どうしたって…いきなり話が進み過ぎて俺の理解が追いつかn…って、ど、どうして善田さんまで…」


全二が顔を赤らめたと思ったら、全一の後を偽善田が付いて来ていたのだ。

偽善田は、「兄貴来い」と言われていつも通りの感覚で何も考えずにうっかり来てしまっていた。それに気が付いた偽善田はハッとし、そそくさと全一の部屋へと戻っていく。


「あの小走り可愛いなぁ…兄貴も似たような動きよくやるけど、やる人が違うだけでこんなにも印象は違うものなのか」


「んな事いいから、何の用だ?」


「いや、マジで説明を頼む。突然兄貴があんな女性と交流を持ったことを知っただけで驚きだったのに、なんか色々と凄いことが耳に入って…」



「全一様、もう準備は整いましたか!?

そろそろ出ねばお嬢様が毎週楽しみにしている『プリンセスヒーロースターライト』に間に合わないので、お急ぎ下さい」


二人が話していると、玄関先から半蔵の声がする。

そろそろ出ねばならないみたいなので、偽善田は軽く声をかける。


「じ、時間が無いからそろそろ出ない?」

(弟の説明とか今どうでもいいから、取り敢えず半蔵に従おうぜ)


「ああ、ごめん。今行く」

(だなコイツは一先ずどうでもいい)


二人は心の中でテレパシーの様にそう意見を合致させると、もう家を出る事にした。


「って事で全二、留守番任せた」


「ちょ、待てって!」


全二は立ち去ろうとする全一の肩を掴む。納得のいく説明がほしいみたいだが、今は時間が無い。

なのでここは偽善田が動く事にした。


「ごめんね全二君!早く帰らないと『プリンセスヒーロースターライト』が見れなくなっちゃうの!だから今日はもう帰るね、バイバイ!」


「ぁ…はい!また今度会いましょう!」


偽善田は手を前に合わせて首を傾けて全二にそう謝る。


(お前、善田のフリやれば出来んじゃん)


(なんか全二を弄る時は完璧に出来るんだよな~)


(悪知恵だけは良く回るってな感じで、こういう時だけ能力発揮するのな)




偽善田と全一は荷物を持って共に階段を降りてくる。その二人の足音を聞いて、半蔵はスマホをいじるのをやめて顔を上げる。


「それではまいりましょう、今晩の食事の準備も手配し…って、ちょっと待って下さい!なんですかその大きな鞄!」


偽善田と全一は二人で大きな鞄を抱えた階段を降りて来ていた。

山に行く時とかにしか使わない様な大きな鞄で、二人で抱えてようやく階段を降りれる程度の重さがある。


「パソコンですよ。出先でもしたいゲームがあるので」


「ノートパソコン感覚でディスクトップパソコンを持っていこうとしないで下さい!お嬢様も流石にこれは…」


「私が許可しました。これは絶対に必要な荷物ですもの」


二人ともこんな異常事態であるというのに、昨日発売したオンラインゲーム『リアルファンタジー』はやりたいので二人はパソコンを館に持っていこうとしていた。

なので鞄の中には本体やコードやら色々入っており、本体が壊れない様にクッションも詰まっている。


偽善田がこれを許可したと聞き、半蔵は「お、お嬢様がそう仰るなら…」と渋々それを認め、その鞄の運搬を偽善田の代わりに行い車へと乗り込んだ。



初めて乗る高級車、車内は家の車とは違い広々としておりオシャレで、座席のクッションも心地が良い。

後部座席の目の前には小さなモニターがあり各々好きなものを見れ、今は『プリンセスヒーロー☆』がつけられている。

後部座席の間には冷蔵庫があるので冷たい飲み物を車内で飲める。

そんな心地よい車内なので二人はくつろぎたいのは山々だったが、今休んでいる暇は無い。館に着くまでにも色々と情報を集めねばならない。

なので偽善田は助手席に座る半蔵に命じる。


「彼にはまだ私の趣味の事しかお話していません。なので私の家についてなど出来るだけ詳細にお教えなさい」


「私の口からでよろしいのですか…?

か、かしこまりました。でしたら簡単に善田家について説明しようと思います。


善田家は由諸ある家で、縄文時代から先祖代々特殊な技術を継承し続け、今も土器を作っております。善田家の土器には、幸運が上がったり、病が回復するなど、所持しているだけで特殊な効果がもたらされるので、今もなお富豪の方々の為に土器を制作しています。

今善田家の家を支えている当主様は偉大な方であり、当主様が5年かけて制作した美しい土器には100億円以上もの値が付きました」


「へ、へえ…って事はもしかして善田も土器を作れるの?」


「いえ。善田家で土器を作るのは男性の方のみで、女性はただ何にも縛られず普通の生活を送れます。なのでお嬢様は一度も土器を作った事がございません」


((セ、セーフ…))


偽善田と全一はそれを聞いてホッとする。もしも善田も善田家の跡次として土器を作らねばならないなら、全く土器の作り方を知らない偽善田がそこで詰むからだ。


「館にはお嬢様のご兄弟がおり、お嬢様以外全員が男性なので皆土器作りの技術を磨いております。

残念ながらお嬢様とご兄弟全員と仲が良いという事ではないですが、館で顔を合わせる機会が少ないので大きなトラブルにはなりません」


「顔を合わせる事が少ないって…館ってそんなに広いのか。

でもここら辺にそんな広い館があるなんて知らないのだが…」


「ええ、森の中の隠された場所にある館ですからね。普通の人では絶対に辿り付けない場所にあり、航空写真でも見つからない館です」


「一体なんでそんな場所に館を…」


そう全一が言おうとしている所で、突如車が急ブレーキをかけた。

赤信号の方から信号無視して一台の車が割り込んできたのだ。


流石の高級車というだけあってブレーキの性能が良く掠る事なく止まれたが、冷蔵庫から出した冷えたコーラを飲んでいた偽善田はそれによって顔にコーラをぶちまけてしまっていた。


「うぐぅ…炭酸が鼻に入った…」


「お、お嬢様!直ぐにこのタオルでお体をっ!館に付いたら浴槽へ入れる様に手配しておきます。

芹沢、あの車に乗っている者の処分は任せます」


半蔵は芹沢せりざわという運転者の70歳ぐらいのおじさんにそう言うと、車を再び発進させてさっきの信号無視の車を追い駆ける。


そしてその車の真後ろへと張り付くと、芹沢という男は運転席についている一つのスイッチを押す。

すると運転席の座席下から機械音がし、あるものが出てきた。

それは歴史の教科書で見た事がある様な小さな土器であった。


そして芹沢は車の窓を開け、手の平サイズの小さな土器を前の車に向けて投げつけた。

その土器は車のボンネットに当たるとボンッと車体のボディが凹む音が鳴り、向こうの歩道に転がる。


割り込みされたからと言ってそんな事をしてしまっては大問題だと偽善田と全一は焦るも、前の車の者は停車すると特に凹んだボンネットには気も止めず、歩道に転がった土器を回収していた。

傷ついた自分の車よりも投げられた土器の方を先に回収するなんて異様だ。


「え、今投げた土器は一体…」


「あれは、善田家の作る土器を生涯買い続け大切にしなければならないという意識を植え付ける効果がある土器です。善田家に絶対的忠誠を誓う様になるものなのでトラブルにはなりません」


「あの…もしかしてさっき言っていた幸運が上がったり、病が回復する効果があるって奴さ、御守りみたいな感じじゃなくてガチであるの?」


「そうですよ。この特殊な効果を付与する技術こそ、善田家の土器がここまで買われ続ける理由です」


全一と偽善田は、まるで自分の知らない世界に来てしまったかのようにビックリ仰天。

ただ、身体の入れ替わりという現実離れした事態になっているからそれを受け入れるのは困難ではなかった。

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