第10話 善田ってかなり変わってる?

「お…お嬢様…?一体今何と…」


半蔵は今、全一の部屋にいる善田を見つめ硬直している。

男の性欲を誘う様な発言を本当に善田がしたのか信じられなかったのだ。


「ほ、ほら。昨日〔そろそろ私も大人にならないとね〕って送ったでしょ?

だから彼と一緒に大人の階段を…」


「待って下さいお嬢様!あれはただ寿司を嗜む時にワサビを付けれる様になると良いですねって話で、そういう大人の階段じゃありません!

それに貴方にはが…」


色々と情報が入ってきたが、各々耳に入る情報は違かった。

偽善田は(大人ってそっちの方の大人かー!)と自分の失敗を察し、全二は善田の口からでたイチャイチャという内容に気を取られ、全一は『昔からの想い人』という単語に少しムカムカしていた。


だが取り敢えず今はこの状況を抑えるのが最優先なので、全一は半蔵の前に出る。


「ほ、ほら。別に誘拐なんかじゃないですよ。ただイチャイチャしていただけです」

「そうそう。だから安心して」


「お、お嬢様正気ですか!?思い出してください貴方の想い人の事を!

あれは当時5歳にして、オーダーメイドで作ってもらった大好きだった童話のプリンセスのドレスを着て、はしゃいで草原を走っていた頃の事。

その時出会った彼の姿に一目惚れし、貴方は彼に求婚を申し込んだ。

そこで彼に「やれやれ…お前が俺の理想の相手にでもなったらその申し出を受け入れてやるよ」と言われ、ここまで貴方は努力してきたんじゃないですか!

それなのにそんな余り物みたいな男で貞操を捨てようなどと……一体どうしたのですか!?」


「なんだよそのラブコメみたいなストーリー!」っと二人は心の中でハモったが、口には出さない。

偽善田は半蔵に目線を向けられ、何も返せず目を逸らす。

すると半蔵はハッとした。


「…まさかこの男に脅されているのですか!?

ならばここは強行手段でこの男を…」


「そんなんじゃない!」


半蔵は素早い動きで全一をまた投げ飛ばそうと接近するので、偽善田は咄嗟にそう声を荒げて半蔵を止める。

すると半蔵は、善田が普段しない様な喋り方をしたので驚いた顔で善田を見つめていた。


「お…お嬢様…い、今の喋り方は…?」


「え、あっ、ちょっと咄嗟に出てた言葉ですわ…あまり気になさらないで…オホホホ…」


偽善田は喋り方で怪しまれたので、咄嗟に喋り方を変える。ただ、その変更した喋り方は現実では聞いた事が無い様なお姫様口調であった


(…お、おい。なんでそんなアニメとかで見るようなお姫様の口調なんだよ。普通敬語とかだろ)

(だってお嬢様って言うから咄嗟に出た喋り方がこれだったんだ、仕方ないだろ!)


二人はこれで更に怪しまれるだろうと肝を冷やす。ただ半蔵の反応は…


「な、なんと…何故その男の前でその口調をなさるのですか!

あっ、まさか…館でこっそりお姫様ごっこをしている事をこの者に打ち明けていたのですか!?

恥ずかしくて言えないものだとこれまで一部の使用人以外には隠し続けていたのに、それをその男に打ち明けたのですか!?」


((えっ、善田ってそんな趣味あったの?))


奇跡的に噛み合って半蔵がぽろぽろと情報を漏らしたので、取り敢えず偽善田はそれに乗る。


「そうですわ。私のこの趣味を理解してくれそうな彼に打ち明けたら、彼はそれを認めてくれましたの。そして…彼に心惹かれたのです」


「…そ、そうとは知らず失礼しましたお嬢様、そして全一様」


良く分からないが上手い事話が進み、半蔵は片膝を立てて二人の前で頭を下げた。


「そうですか…遂にお嬢様の全て理解してもらえる相手が現れたのですね…それなら納得です。

あっ、土足で上がってしまい申し訳ございません!ただちに靴を脱ぎ階段と廊下を綺麗にいたします!」


「頭を上げよ。主を守る事こそが使命なのだから、先の行いは罪に問わん」


今の王様みたいな発言をしたのは全一だった。

偽善田に続いて突然王族ごっこを始めた全一に、この場にいる3人全員が目を向ける。


(おいいいい!なんでお前まで王族ごっことかいう訳分からない事すんだよ!

本当にお前俺のなのか!?俺だったら絶対にしないぞそんな事!)

(いや、さっきのあれで役を演じるのになんかハマっちゃって遂…)


二人はお互い目線だけでそんな会話をする。

半蔵はその全一の対応に


「おおっ…お嬢様が見込んだ事はある…流石です全一様。

お嬢様が真意を曝け出せる相手であることが私の目から見ても分かります。ですがまだ身体を許す関係になるのは早いかと…」


「そうわね、流石に早すぎたわね」


「分かってくださいましたか…では今日はもう日が暗くなってきたので車で帰りましょう。さ、お嬢様。帰宅の準備を」


なんとか窮地を脱する事は出来たが、ここからどうするかは全く考えが浮かばない。

元の善田もそこそこの変人だったので演じれる可能性は増加したものの、偽善田は出来れば今日善田の家には帰りたくない。


(どうしよ…まだ情報が無さすぎて一晩演じ続けるなんて無理だし、出来れば今日は俺んちに泊りたい…

でも泊まるなんて言ってこの半蔵って奴は許してくれるか?)

「は、半蔵。ちょっと今日は全一君の家に泊っても…」


「流石にそれは許容できません。まだ館に招待するというのなら良いですが」


「あっ!じゃあ今日は私の家に全一君を呼びましょう!

館の紹介をしたいわ。主な紹介は半蔵に任せるけど」


「えっ!」


偽善田は半蔵が口にした提案に乗り、それに全一が驚く。ただ少し考えると悪くない考えだと思い、全一は偽善田自分を褒める。


(流石俺だ。あくまでお客様への紹介という定で半蔵に館を案内させるって事か)


(そういう事。情報を集められ館も満喫出来る良い手だろ。

それにお前がいれば心細さも多少軽減されるからな)


「そ、そういう事なら構いません。館なら安心ですからね」


半蔵もそれは承諾してくれたので、二人は心の中でハイタッチをする。

こうして今日、二人は未知なる館で泊まる事となった。


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