第14話 禁断の書物

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20:30自由時間

23:00就寝


5:20起床

5:30朝食

6:00勉強

7:30登校

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晩飯後の時間と起床時間を変え、なんとか2時間半オンラインゲームをする時間を作る事が出来た。

館にあるPCにそのオンラインゲームをダウンロードしておく事で全一と一緒にプレイ出来るので、使用人にそのゲームダウンロードを頼んでおいた。


そして晩飯後、自由時間となる。

春川に連れられ偽善田と全一が向かったのは、善田の寝室であった。


ただ寝室は二人が想像していた様な、ぬいぐるみだとかが置いてあるいかにも女の子っぽい部屋とは程遠く、壁一面には本がぎっしり詰まった本棚があったり、床には何か書いてある紙が散乱していた。

この部屋だけでそこらの家の敷地並みの広さがある程広く、目に入る物の情報量はすさまじい。


「ど、どうしてこんなに散らかってるの?」


「…?お嬢様は昔から使用人に勝手に私物を弄られるのが嫌いで、使用人達が勝手に物に触るのを許可していないじゃないですか。

お嬢様は記憶力が良いので目的のものが何処にあるのか直ぐに分かりますが、私達はここのお嬢様の物に関しては理解が届いておりません。何か不手際がございましたらなんなりとお申し付け下さい」


「ああ、そうだったわね…」

(これは酷い…善田って結構片付けられないタイプだったのか?それとも自分なりのこだわりがあるってだけ?)


偽善田は試しにそこらに落ちている紙を拾ってみて、内容を読んでみる。


〔おうじさまとけっこんするほうほう

かわいくなる、れいぎただしいレディーになる、せいじつなひとになる、ダンスパーティーできれにおどる、がっきをきれいにひく、かしこくなる、どくリンゴでねむってキスされておきる、プリンセスヒーローとしてせかいをまもる〕


子供の字で書かれたその紙を二人が見ていると、春川もチラッとそれを見て、昔を懐かしむ様に


「ああ、とても懐かしいですね~

お嬢様が5歳の時に彼に出会い、一目惚れした時に書いたものですね。そして今でも後半の二つ以外を達成する為に努力し続け…お嬢様は本当に努力家で、一途で、私達使用人一同も尊敬しております。

それが一体どうしていきなりこんな男を館に…」


春川は今は偽善田がいるから口調は優しいものの、一瞬だけ全一と目が合った時の春川の目は完全に敵対の目で、最後の方はぶつぶつと不満を漏らしていた。

彼女に信用されてないのはもう分かってはいたが、全一は一つ不自然に思っている事があるので聞いてみる。


「そういえばさ、土器だとか色々な話を半蔵さんは話してくれたけど、どうして初対面の俺にこんな重大な話してくれたんだ?

この館だってあの車じゃなきゃ来れない特別な所だし、今日知り合ったばかりの俺にこんな事簡単に言っちゃ駄目じゃないか?」


「この館にある最大の効果を持つ土器、それは善田家の者に敵意、悪意を持った者の頭をパーにするというものがあります。

例えばお嬢様に妙な欲情を抱いて襲うなどと頭に浮かべた瞬間、その先祖代々受け継がれてきた土器の力でお嬢様に関する記憶が消えて頭がパーになるのです」


「頭パーになるっていうのが何なのかは分からないが…なるほどな、悪意を持つ者だったらどうせ記憶は消えるから、色々話しても問題無いと」


「ええ。ちなみに今は大丈夫でも突然善田家への反逆の意思が少しでも芽生えたりしたら頭がパーになりますからね。しかもその土器に近づいた者ほど判定は厳しくなります。なので全一様もお気を付け下さい」


(ほー、ここで働ていている者達も全員その効果を受けているから、ここで働いている全ての者の裏切りの心配は無いと。

凄い…って、なんかもう凄い力を持つ土器について普通に受け入れちゃってるな。状況が状況だから仕方ないけど)


土器の力とやらに感心する全一に対し、偽善田はその話を聞いて震えあがっていた。

(俺、エロエロな写真を撮ったけどあれは大丈夫か?あ、あれは悪意判定に入らないよな!?

頭がパーになるっていうのが何なのか知らんが、俺は大丈夫だよな…?)


偽善田はそう不安になりながらも、なんとか全一と二人きりになる時間を作ろうとする。


「春川、これから全一君と二人っきりで話すから貴方は部屋を出なさい」


「お言葉ですが…お嬢様をこの男と二人っきりにするのを私は認められません。

現に今日貴方に一人で忘れ物を取りに向かわせてからこんなにおかしな事になってしまったのですから。『あかちー』という昔呼んで下さっていたあだ名をお嬢様の口からまた聞けて浮かれていた私のミスでもありますけど…

土器の力が発動しないという事は彼にお嬢様に対する悪意など無いのは分かっていますが、どうかここに居る事をお許しください。それかこの男の何処に惚れたのか詳しく説明してください」


「ほ、惚れた理由は…私の恥ずかしい趣味を彼が受け入れてくれたからよ」


「お姫様になりきるという趣味を受け入れてくれたという話は半蔵殿から聞きました。ですが本当にこの男は受け入れてくれたのですか?口だけという可能性もありますよ。

それを確かめる為にも、お嬢様のこの部屋にある日頃から書き連ねていたモノを見せてみてください」


春川がそう提案してくるので、偽善田はそれに乗る。

春川はとある本棚を指差す。そこにはいくつものクリアファイルがあり、2023年から2012年と年が表面に記載されていた。

取り敢えず偽善田は適当に2020年のファイルを手に取り、適当なページを開いて全一と共に見て見る。


〔愛しのmy princess…君の宝石より綺麗な瞳はあの日僕の心を奪った。それから十数年、やっと会えたと思ったら君は毒リンゴで囚われの眠り姫になっていた。

でもそれで今晩で終わりさ、今夜、僕が目覚めた君の心を頂くよ。


王子は眠り姫にキスをすると、姫の目は覚める。そして王子様は目覚めたばかりの姫にこう囁いた。


「鳥は最初に見た相手を親だと思い込むんだ。これは刷り込みといってね、鳥には親の背後を着いて行くという習性があるから、ずっと他の者を親だと勘違いしてその後を付いて行く様になるんだ。どう、君も僕に刷り込まれてみない?」〕


((なんだこれ))

一体何を読んでるのか、二人は訳が分からなくなった。


「なぁ、これ途中でページが途切れたりしてないか?

なんか急に王子が雑学の話を始めたぞ」


「こんな事になっているのには理由があります。お嬢様の想い人であった方はその王子様の様に痛い…というかロマンチストです。

今はまだマシですが結構アレな発言をするので、お嬢様はそれらの発言に耐えられる様になる為にこうして痛い文章を書いて耐性を付けています。

ただ、お嬢様は途中で書いてて恥ずかしくなってくると急に雑学の話に方向転換する癖があってこうなっております。

ま、これを理解出来ないのなら、やはり全一様はお嬢様の理解者にはなれないかと」


春川は困り顔になる全一を見てしてやったりという顔をする。春川としてはこのまま善田から離れてもらいたいと思っている。

だが全一と偽善田にも、この善田がやっている事は少し分かった。


((あ~要するに恥ずかしくなってきた自分の心を誤魔化す為に雑学を挟むのか。

熟女もので致した後の賢者タイムで「俺は若い子の方が好きだ」って自分の息子に問いかけるあの感じかね)


「いや、分からなくはない。大丈夫だ」


「そ、そうですか…では今度は2021年のキツイ…あっ、いえ、何でもございません」


春川は「キツイ」と言おうとしていたが、偽善田の方を見て口を閉じる。

その春川の様子を見て、全一と偽善田はお互いに視線を合わせる。


(俺がいるから気を遣って止めたな…ま、そりゃ書いた本人の前で酷い事は言えないもんな。もう既に結構酷い事言ってるけど。

…だとすると俺が一旦離席して、もう一人の俺が春川を説得するって手もあるな。俺がいたら春川も本音で話せなさそうだし)


(ああ。キツいってのがどんなやつなのかは知らんが、痛い発言だとか割と嫌いじゃない俺ならカバーしきれるはずだ。春川をどうにか説得してみせる)


という事で秘密の作戦会議は終了し、一旦偽善田はトイレに向かいこの場を離れた。

部屋に二人っきりになったので、春川は普段の学校の態度に戻る。


「…2021年の一番キツいやつを見てみろ」


「どういうキツさか知らんが、あんまり俺を舐めるなよ」


春川の言う通りに全一はファイルを開いて中身を見て見る。


〔王女様が乗っている馬車は盗賊に襲われ、高レベルの護衛の騎士も死んでしまった。今にも服を剥がれて犯されそうな状況だ。

盗賊達はグへへと舌なめずりしたり、よだれを垂らして王女の身体を視線で楽しむ。

ただそこで、一筋の光が舞い降りる。その光は高速で盗賊達の間をスルスルと抜けると、次の瞬間には盗賊達の首がぽろっと地面に落ちた。

王女様を助けたのその閃光は正体は、目にも止まらぬ速さで動いた剣を持っている男だった。その男はポカーンとした顔の王女を見ると、頭を掻き

「レベルが低い盗賊だったし楽勝だったな。

ん、あれ?もしかしてまた俺何かやっちゃった?」

とぼけ顔でそう言う彼に、命の恩人である彼に、王女は一瞬で心奪われ、彼に求婚を申し込んだ。

そしてその日、彼を王城に招いた。夜に二人共警備の穴を抜け出し、誰もいない城の庭で体を重ねる。

彼のピストンはまるで大地を揺るがす地震の様に激しく木々が揺れる程のものだった。だが城は免震構造という建物の下部に免震装置を付けて建物と地面から離す特殊な構造をしていた為、彼のピストンの揺れは城には伝わらずその行為は二人の秘密となった〕


「…これは想い人の方がなろう小説にハマってた時期か?

馬鹿じゃなければこういう無自覚系の主人公もイイよな」


「チッ…な、ならこの話ならどうだ!

魔王に囚われて触手攻めを受けている王女。その王女を助けに向かう勇者であったが、魔王城に付いた頃には彼女の身体は魔物の苗床に…」


「苗床堕ち良いね!肉体改造系のやつは十分俺の守備範囲内だ」


「話を遮るのが早い!

じゃ、じゃあ実は王女は男であって今まで女装を…」


「男の娘も可愛ければOK。可愛いければ野郎の息子さんが見えても許せる!」


「じゃあ呪いで悪魔の様な姿にn…」


「次第にサキュバス化して最終的に人間に戻れなくなる展開大好き!」


「なんだこの多数性癖所持野郎!さっきとは違う意味でお嬢様の傍におけんぞ!」


「俺は逆に善田とその想い人とやらにもそういう性癖があったのかと興味が湧いてきたぞ。ちょっくらエロ本探しでもするか」


「貴様!勝手にお嬢様の部屋を漁るなぁぁ!」

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