第6話 ブへへへwww
リビングから誰かは降りてくる足音がする。
聞き馴染みのある足音の大きさなのでこれは来客の女性ではなく兄だと分かり、全二は頭を抱えるのをやめて立ち上ってリビングに入ってきた兄に尋ねる。
「ちょ…ちょっといいか?あのさっき来た人だけどさ…本当に友達なのか?」
「え、なんだよ、俺の彼女とでも思ったのか?
いや~残念ながらまだそういう関係じゃないぞ」
(いや~話して初日なのに泊りに来てるし、俺の事を隅々まで調べ上げるぐらいには俺に執着してるからな。この関係が深まるのもそこまで時間かからないだろう。
下手すると今日で俺は童貞を卒業する可能性もある)
普段よりもテンションの高さの差が凄まじく、声と顔が明らかに違うので全一が調子に乗っているのが目に見えて分かった。
弟はもう少し二人の関係について詮索する為に質問を続ける。全一はお茶の準備をしながらその質問に答えていく。
「あの人に何か奢ったりはした?」
「いや、まだそういうのは無いぞ」
「じゃ、じゃあ二人で出掛けたりはしてないって事?」
「ああ。学校以外で合った事は無いな」
「あの人と学校でどんな事を話してる?趣味の話とかはするのか?そもそも趣味は合うの?」
「まだそういう話はしてない…って、なんだよ。詮索すんなって」
「いや流石にするだろ。正直あの人が友達間の罰ゲームで兄貴に嫌々絡んでるんじゃないかって思ってるからな」
「いいや、それは無いな。あいつはそんな事をする様な奴じゃない」
今の全一はこれが罰ゲームであるなどと微塵も思わなかった。
これが罰ゲームだったら自分のメンタルが崩れて病む気がし、本能的にその択を頭から瞬時に削除し続けていたのである。
「まだ趣味の話もしてなく、何処か出掛けた事もない。それなのに泊りに来たってか?
ありえないだろ、一旦正気を取り戻せよ。いつも通り疑い深い性格になって考えてもみれば分かるだろ」
「やめろって、別にそれぐらい普通だろ。
向こうから話し掛けてきたし、なんか色々俺の事知ってるみたいだから、多分元々俺の事が好きだったんじゃないか?
それなら何となくあり得る気もするだろ」
全一はそれだけ言うとお茶とコップを載せたトレーを運んで階段を上がって行った。
リビングに取り残された全二の頭は相変わらず混乱したままで、もはや今から勉強再会など出来そうもない。
(もっと話を詳しく聞かんと分からないが…絶対になにか裏があるとしか思えない。
本当にあの人が兄貴に一目惚れしてて、今日泊りに来たって可能性も零じゃないからな。いや、普通一目惚れとかして好きなら趣味の話とかお互いの事とか話すけどな。シャイな人って言ってたし距離の詰め方がとてつもなく下手なのかもしれない。
とにかく話を聞かないと埒が明かない、聞き耳立てて会話を盗み聞いてやる)
全二はそう決め、物音を立てずに階段を上がって行った。
全一が持ってきたお茶を飲みながら、二人は今後について話す。
「とりあえず色々戻る方法を考えてみたのだが、やっぱ一番はあの時と同じ状況を再現するって事だよな。
でも流石にわざと階段から落ちるってのは無理。そんで色々調べてたら一つ良さげな画像が目に入ったんだ」
「ん、なになに?」
偽善田はスマホの画面を見せる。
それはとあるアスレチックパークの公式サイトであった。そしてその写真には、様々なアスレチック、ハンモックなど色々載っていた。
そして下に画面をスクロールしていくと、フワフワのクッションで出来た階段があった。
「明日ここに行って、この階段で今日の再現をしてみないか?そしたら元に戻れるかもしれないし」
偽善田が急にこの提案をしたのには理由がある。
全一が居ない間に隠されたエロゲが何なのか確認する為に部屋を探してそれを発見したのだが、それがかなりハードな、SM系統のシーンが多いものであると分かり、確実に善田に幻滅されてそうだったので少しでも役に立つ男として働き印象を取り戻す為だった。
なので偽善田は全一が帰って来るまでの数分間、全力で色々検索して案を考えた。
一方全一からすると、善田がごっこ遊びをしながらデートの誘いをしてきている様にしか思えずテンションの向上はとどまる所を知らなかった。心の中で何度もガッツポーズをする。
「それいいわね!そうしましょ!」
(しゃぁぁぁぁぁぁ!デートの誘いキタァァァァァァ!
全二は色々心配してたが、これが罰ゲームだとかやっぱ有り得んわ!)
当然全一はその提案を断る事なく、嬉しさを隠し切れずに同意する。
その嬉しそうにする全一の反応を見た偽善田も、心の中では何度もガッツポーズをしていた。
偽善田:(しゃぁぁぁぁぁぁ!善田も凄い同意してくれてるし悪い印象を変えられたぁぁぁ!
これで役立たずの特殊フェチ野郎だなんて印象も無くなるだろう。はぁ…本当によかったぁぁぁ~)
二人はお互い歓喜し、話は盛り上がる。
色々アスレチックがあるので階段落ちで成功しなかった時に他にも何処かで出来る事がないかなど、色々話合った。
そして全二は、全一の部屋の前で聞きを耳立ててそれを聞いていた。
二人共楽しそうというのは分かったが、会話の内容は訳が分からなかった。
全二:(明日何処かに行こうって話をしてるのは分かったが…一緒にクッションの階段から落ちるってなんだよ。それに謎に兄貴が女口調なのもゾッとする。
でもまぁ…これは流石に嫌々兄貴に絡んでるって感じの声じゃないよな。本当に楽しそう…っていうか安心している様な声だし。一緒に居ても襲って来ないと兄貴を信頼してるんだろう。
…ま、これで良いのか。あの兄にあんな女友達がいて負けた気はしたけど、フワフワの階段から落ちたり、一緒にでんぐり返ししてみるだとか、会話から察するに女性の方も相当癖がある人だろうしお似合いだ。
ここは弟として祝福しよう。あの捻くれ者の兄の出会いを)
全二はそう考え、聞き耳を立てるのを止める事にした。二人は純粋に気が合うのだと分かり安心し、自分が介入する必要が無いと考え、自分の部屋へ戻ろうとする。
だがその直後、全一の部屋から仮面を被っていない偽善田が出てきた。
偽善田はトイレに行こうとしていたのだが、お茶を飲むときに仮面を外したのを忘れていたのだ。
「「「…え?」」」
3人は口を揃えて驚き声を出し固まる。
ただそれぞれの頭の中を駆けまわる思考は全員が全く別のものだった。
偽善田:(は?もしかして
なんだよこのクソ弟!てか今の会話聞かれたのマズくないか!?
善田が予めこいつに「罰ゲームで色々変な事言うかもしれない」だとか言っておいたらしいたけど、流石に怪しまれるよな!?)
全一:(おいおい、何で聞いてんだよこいつ。さっき色々疑ってたし、もしかして善田がどういう奴なのか確認しようとしてたのか。
でもマズイな、仮面を付けてないから俺の善田が超可愛いのがバレたぞ。あちゃ~流石に全二もこれには嫉妬するし、両親に色々言ったり噂ばら撒くだろうな。
やれやれ、善田の為にもあまり公にするのはやめてほしいんだけどな。やれやれ)
全二:(なっ、なんだよこの綺麗な人…こんな人が
やっぱありえない、これ絶対に裏で何かあるだろ!俺に見栄を張る為に高い金払ってこの人を呼んだとか無いとおかしい!
てかこんな人と同じクラスだなんてズルいし、さっきまで兄貴がこの人とあんなに楽しそうに話してたんだと思うとムカつく!さっき調子乗ってた兄貴をぶっ飛ばしておけば良かった!)
全二は思いもよらぬ美女の登場に顔を赤くして慌てるも、視線を偽善田の顔から離す事は出来なかった。
偽善田はそのいつもとは全く違う弟の反応が少し面白くなり、もっとイジってやろうと悪ノリを始める。この時、心の中では悪い顔した全一が笑っていた。
「どうしたのかな全二君?私の顔に何か付いてる?」
「え、あ…あ、いや…随分とお綺麗な方だと思いまして…」
「本当!?ありがとね~全二君もカッコイイ方だと私は思うよ~」
偽善田は、春川の前では出来なかったとびきりの笑顔で全二に向かい微笑みながらそう言うと、そのままトイレへと入って行った。
今の全一がしっかり善田の魂が入り込んでいる演技が出来ている様に、この男、悪ノリとなると途端に能力が覚醒する様だった。
偽善田の笑みを近くで見てしまった全二はかつてないほど顔が赤くなり、さっきまで数時間かけて勉強して覚えた内容が全て善田の顔に置き換わるぐらい頭の隅まで彼女の事しか考えられなくなる。
そして全二は口を開けっぱなしの状態で固まる。
全二:(ななななななななな…な、なんだ今の女神!?
やばいぞ、あれはヤバイ、あの笑みはヤバイ。刺激が強すぎてもうあの人の事しか考えられん!
この胸の高鳴り…知ってる、これ知ってる!小学生の頃に始めて好きな人と手を繋いだ時の感覚と同じだ!
こ、これが一目惚れってやつか)
全二は幸福な感情に包まれながらドアの前で固まり続けた。
そして彼をこんな状態にした、現在トイレにいる張本人も心は幸福に包まれ上機嫌だった。
偽善田:(ブへへへwww
今の全二の顔クッソ面白かったなwwwあんな分かり易い惚れ方あるかよwww
散々今まで「俺は兄貴と違って女友達とかいるから」とか言ってた癖に、俺の演技であの様かよ。いやぁ~あいついじるの楽しいぃぃ!)
さっき仮面まで買って弟に噂を流されない様にした事だとか全て忘れ、今偽善田はひたすらに弟いじりの余韻に浸っていた。
二人とも幸福な気持ちに包まれている。
だがこの場でただ一人、二人の幸福感を打ち消す程の憎悪を抱いている男がいた。
全一:(カッコイイ…?今…善田はカッコイイって全二に言ってた?
しかも俺とは違いごっこ遊びの演じじゃなく、素状態で。演じるのよりもあいつに普段の自分を取り繕う方を優先したって事だ。
おいおいおいおいおい、そりゃあ話が違うだろ。せっかくノッテ来たのに冷めちゃったじゃん。
ま、取り戻す全二には消えてもらうとして、善田には後で今の全二に向けた言葉の真意を聞こう)
彼女が他の者にカッコイイと言っただけで寝取られた様な感覚になり不機嫌になったというのもあるが、一番は、この遊びよりも全二からの印象を優先されたのが悔しかった。
だがこれにより、全一はさっきまでの変なテンションが消え少し冷静さを取り戻す事が出来た。
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