第5話 息子への最高の土産
非行の家に泊る事が決定し、先ず偽善田は非行に住所を教える。
偽善田から見ると善田が自分の家の場所を知らないのでこれは必要な工程だったが、非行自身は彼女のこれを演技だと勘違いしているので(設定に忠実だな~、俺の住所も予め調べておいたんだな~)としか思わなかった。
そして次に、偽善田は家での自分の話し方等々色々非行に説明した。
「俺は家だと学校にいる時とは違ってもっとハキハキ喋るんだ。あ、今の俺の喋ってるこの感じだな。
なんかこんな事になって冷静になれてないのか学校で素が出てるけども、とにかくこの話し方をマネしてくれ」
「ええ」
(凄いな善田、全部合ってるぞ~)
「そんで家の間取りも言っておくけど、取り敢えず今日は基本的に二階で過ごすつもりだから、今は二階についてだけ言っておこう。
階段に上がって直ぐの部屋がトイレ、そんでトイレの右側にあるのが弟の部屋で、左側にあるのが俺の部屋だ」
(凄いな~全部調べ済みか~)
もはや何を言っても「事前調査をしておいたのか」としか思わず頭がバグっている非行であった。
その他にも弟の事など色々話し、事前の話合わせをした。
取り敢えず二人は恋人ではなく友達で、善田の都合で急遽泊る事になったと弟には説明する。
仮面で美少女なのを隠し、この事は他言無用で頼むと言っておけば弟もわざわざ噂を広めたりなどしないと踏み、計画を立てた。
「でも流石に一緒に歩いている所を見られる訳にはいかないよな?
だから二人とも他ルートで家に行こう、俺は少し南側に回り道して行くよ。その時に仮面も買っておく」
「そうね、じゃあ何となく分かったし行きましょうか」
(ひゃっほー!初めて女子を家に招くぞ!)
「ほ、本当に大丈夫か?
俺みたいな奴のマネなんて善田には難しいと思うのだが…」
「安心して、歩きながら頭の中で何回かイメージトレーニングをしておけば出来るはずだわ」
「よし、じゃあ善田は親に「今日は友達の家に泊る」って連絡をしておいてくれ。流石に連絡無しで泊るのは両親が心配するだろ。
じゃあちょっと俺は先に仮面が売ってる店探してくる」
偽善田はそう言うと、非行に善田のスマホを渡す。
そして非行を置いて昇降口へ向かって行った。
空き教室には非行一人残され、彼は「ふぅ」と一息つく。
非行:(全く…不用心過ぎる、相手が俺じゃなかったら悪用されてるかもしれないぞ。やれやれ、信用しているといえこれは流石に心を許しすぎじゃないか?)
そんな事を思いながら非行も立ち上がり、昇降口へと向かっていった。
善田のスマホの検索履歴だとかを色々見ながら。
非行は一人でいつもの通学路を歩いていた。ただ手に持っているのは善田のスマホで、いつもより晴れ晴れとしたにこやかな表情だった。
(よーし、善田が来るのは大体20分後になりそうだしそれまでに部屋を綺麗にしておこう。使用済みティッシュ、エロ漫画、エロゲーとかは絶対に隠そう。
でも身体入れ替わり系の物語が好きな善田ならアニメのフィギュアだとかは隠さなくても良いはずだし、何なら話が合って盛り上がるかもしれない。
検索履歴だとかには特にそれらしいものは無かったが、多分履歴消して隠してるだけだよな。
あ!それとゲーム機も用意しておこう、今日一晩過ごすんだし暇つぶし出来る様にな!)
彼は家に入ると、真っ先に二階の弟の部屋へと向かう。
ノックして部屋に入ると、そこには宿題のワークを進めている最中の弟がいた。
弟の名前は『非行
……と言うよりかは、兄の能力が低すぎると言った方が正しいだろう。兄の全一は勉受験が終わってからは勉強をサボりっぱなしで、運動とコミュ力は端から低い。
顔はお互い中の上ぐらいだが、それ以外の場所が雲泥の差であった。
そんな二人の今の仲は普通。仲悪いとも言わないし、仲が良いとも言えないレベルだ。
なので適度に話す程度の仲である。だが今日は珍しく兄が帰ってきたと思ったら真っ先に自分の部屋に来たので、弟の全二は驚いていた。
「な、なんだよ。帰ってきて真っ先に俺の部屋にくるなんて珍しい…」
「ああ、ちょっと今日は俺の友達が泊まりに来るんだ。それを伝えておこうと思ってな」
「あーはいはい、学校のオタ友ね。夜騒がしくしないなら別にいいよ」
「…実はそれが女子なんだ」
弟の全二は「ついに妄想と現実の区別がつかなくなったのか」と一瞬思うも、女性のアニメオタクの友達が出来たいう可能性は否定できなかったのでそれは口には出さなかった。
ただ、女子のオタ友とはいえ普通は男の家に泊りに来たりなどしないから、念のため質問をしておく。
「…トロールみたいな見た目?それか頭のネジが外れてるタイプの人?」
「いや、スタイルは良いし頭も良い子」
「じゃあ顔は?」
「完ぺk………普通ぐらいだ。シャイな子だからずっと仮面を被ってる」
(仮面って事は頭のネジが外れてるタイプの人じゃん。ま、そうだよな。普通の女性と兄貴が友達になって、更に家に泊るとは思えないし)
「そうか。ま、別に騒がしくしなければいいや」
弟は兄が連れてくるという女性がどんな人なのか気になってはいたが、口では無関心のふりをする。
すると全一は「そっか」と安心すると同時に、弟に一つ頼む。
「ちょっと頼みがあるんだけどさ、俺が変な事言ったりしてもあまり詮索とかしないでくれないか」
「変な事?」
「そうそう。罰ゲームでそんな事言わないといけなくなったりしているかもしれないから」
「ん、まぁ分かったわ。でもあんまテンション高ぶってはっちゃけ過ぎんなよ」
「おう」
弟のその返答を聞いて全一は部屋から出て行った。
兄が居なくなってので再び勉強に取り掛かるも、心の中では兄が連れてくる女友達がどんな人なのか気になっていた。
あの兄が女友達ね…
あの悪知恵働く兄の事だから良い様に金づるとして使われてたりはしてないだろうが…少し心配だ。
一方偽善田は、善田の身体であるのを良い事に近くのショッピングモールへ足を運んでいた。
パーティーグッズの仮面は既に購入済みで後は家に向かうだけだが、偶然この店が目に入ってしまい、気が付けば女性用下着を眺めていた。
(駄目だなのは分かっているけど…つい入ってしまった。好奇心に抗えなかった…)
もしもこの入れ替わりが元に戻れば、もう二度と一人では踏み込むことが出来なくなる領域。そう考えると入らないという選択肢を取る事は出来なかった。
急がねばならない身なので1分ほど見て回るだけにしておこうかと思ったが、下着を見ていると、彼の頭に邪な考えが浮かんできた。
(今…善田の身体が着けている下着はどんなのなんだろう…)
そして彼は、その邪な考えを打ち消す事が出来るほど強い意思の持ち主では無かった。
偽善田は多目的トイレに入ると服を脱ぎ始めた。
シャツ、スカートを脱いで自分の着けている下着、そして身体をジロジロと確認する。
(いいな…この黒の下着。てっきりさっきの店にあったフワフワとした可愛い下着を着ている印象があったが、この美しいスタイルがより際立つこれも悪くない。
だが…興奮はしているのに15年共にした息子が居なくて何の反応も無いのは寂しいな。胸があって動きにくいのは学校で走ってた時に思ったが、やっぱり下半身の方の違和感が凄い。
新しく出現した胸より、苦楽を共にした息子が居ない事の方が身体に違和感を感じさせる。あいつが少し恋しくなってきた。
失って初めて気が付く大切なものとはこれの事だったのか)
偽善田は取り敢えず服を着なおそうと荷物に手を伸ばした所で、自分のスマホが目に付く。
自分というのは、善田のスマホではなく非行のスマホという事だ。
…ゴクリ
偽善田は最低な考えが頭に浮かんで喉が鳴る。
(今このスマホで…この姿で自撮りしたら…この入れ替わりが治っても残るんだよな、写真。俺の息子への最高の土産になるよな…絶対)
10分後、非行家のインターフォンが鳴った。
部屋の片づけをしていた全一は善田が来たのだと分かり、直ぐに一階に降りて玄関の扉を開ける。(これ以降主人公は非行ではなく全一と書きます)
すると思った通り、そこには魔法少女系アニメの主人公のお面を被った善田がいた。
「あ、い、いらっしゃい。上がっていいよ」
「あ、お、お邪魔しますね…」
女性を初めて家に呼ぶので話し方がぎこちない全一。
自分の家に入るのに「お邪魔します」と言う違和感のせいで言い方がぎこちない偽善田。
両者共に変な距離感の感じになっていた。
ただ偽善田が先に話を切り出す。二階にいる弟に聞こえない様に小声でだ。
「どうだった?弟にしっかり友達が泊るって言えたか?」
「ええ。それに自分が変な事を言っても、それは罰ゲームで言ってるだけだから気にしないでとも言っておきました」
「マジか!全二と初対面なのによくそこまで怪しまれずに出来たな!」
「イメージトレーニングの成果ですわ」
偽善田:(やっぱり俺とは格が違うな、底辺っぽい俺のマネなんかイメトレすれば完璧ってか)
二人が小声でそんな会話をしていると、二階で扉が開く音がする。
そして全一の弟である全二がスマホをいじりながら降りて来た。
全二は来客の容姿を確かめる為にお茶をリビングに飲みに来たという定で階段を降り、玄関にいる来客の姿を見に来たのだ。
そして全二は玄関に立っている兄と同じ学校の制服を着ている女性と仮面越しに目が合うと、驚きながらも軽く会釈する。
「あっ…どうもっす」
「え、ああ…初めまして、お邪魔してます」
そして来客の姿を確認した全二はそのままスマホをいじりながらリビングへと向かって行った。
(あれ、全二っていつもはもっと明るい感じじゃなかったっけ?)と二人は思うも、とりあえず色々話す為に全一の部屋へ上がって行った。
リビングで一人、全二は来客の姿を見て頭を抱えていた。
(顔は見えなかったが分かる。あれ絶対兄に釣り合わないレベルで可愛い人だ!
あの仮面で覆えるサイズの顔の大きさ、腕とか首の白さ、そしてバランスの良いスタイル。顔以外はもう非の付けようが無いレベルだ。
仮に顔がとてつもない不細工でも、これだけでもうあの兄には勿体ないレベルの人なのは確実。
ただ不細工って事は無いだろう、あそこまでスタイルに気を使えてる人ならメイクも得意だろうし、普通レベルの顔ぐらいはあると思う。
なんだよ…全然思ってた相手と違うじゃねえか。クソッ!なんか負けた気がしてムカムカしてきた!
てかあの捻くれ者に引っかけられたあの人が不憫でならん!)
全二は兄に対して敗北感を味わっていた。
兄弟仲はそこまで悪くないが、正直なところ今の彼は兄の全一を低く見ている。
全一は幼少期の頃から運動や勉強も出来てはいなかったが、自分を守ってくれる良いお兄ちゃんと思っていたので全二は兄にべったりくっついていた。
だが全一が中学生の時に起こしたある事件以来、彼の性格の捻くれ具合が分かり、そこから尊敬の念だとかは無くなった。
(…あれと気が合うって事は、あの人も相当性格に癖があるのか?
それとも遂にあの兄も取り繕うって事を覚えたか?)
偽善田は自分の部屋に着いた瞬間、背筋が凍りつく様な感覚に襲われた。そして「しまった」と思った。
自分の部屋にあるはずのものが見当たらないのだ。
偽善田:(無い…あれが見当たらない!
俺が雑に部屋に置きっぱなしにしてたエロゲだとかが無いぞ!はっ、それにゴミ箱も綺麗にされてる!
親が朝家を出た時間と俺がゴミを捨てた時間的に、親がキレイにしたとは思えない。となると…先に家に着いた善田が掃除したとしか思えない。エロゲも、ティッシュも)
自分が先に善田に一人で部屋に行かせてしまった事を悔やむ。
だが全一の姿をした善田は一切こちらに不審な目を向けてなど来ず、言及もして来ない。そしてそれがより一層恐怖を引き立てた。
エロゲのパッケージは無い事に驚き固まっている偽善田に全一は気が付く。
「ん?どうしたの?」
(もしや憧れの俺の家に来れて感銘を受けているのか?)
「い、いや…何でもない…かな」
(善田が何も言って来ないのが一番怖い…今コイツは俺の事をどう思ってんだ?
幻滅されているのか、それとも仕方ないと容認してくれているのか…うぅ、見られたエロゲなんだっけ。ハードなやつじゃなければ良いが…)
偽善田はぎこちない動作でとりあえず部屋にある小さな丸机に座る。
とりあえず全一は彼女をもてなさねばと、リビングにまでお茶を取りに行く事にした。
「ちょっとお茶取ってくるね」
「ちょ、一階には全二がいるんだぞ?大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、安心して。部屋の間取りとかは全部覚えたからある程度は違和感無く動けるはずだよ」
(おおっ、俺の家でも演技は健全だ。とことんやるつもりだな。
さ、俺も彼女の期待に応える為に全力でやりますか。グへへへ、今晩が楽しみで仕方がないぜ!)
全一が普段絶対しない様な笑みを見せて部屋から立ち去った。
今自然と出た笑みは今の全一の心がそのまま現れたもので、本人は気が付かないが、絶対に自分ならしない様な輝かしい顔であった。
その自分の顔から出た100点の笑みを見て、偽善田は驚く。
偽善田:(あいつ適応能力すげぇな、まだ家に来て30分ぐらいしか経ってないだろうに。
でも今俺に見せたあいつの笑顔、あれは俺が絶対にしない顔だ。やっぱりガチで中身が入れ替わってるんだなぁ…
それにしても…善田が笑顔が得意なのは分かったが、もしも俺を演じるのならああいう顔はしない様に言っとかないとな。全二や親に見られたら絶対に気味悪がられるし。
あっ…てかあいつが居ない内に消えたエロゲの行方を捜しとこ、何を見られたのかだけ確認しておきたいし)
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