54.ノアの体と星雲の義肢とネレイドの剣

「さぁて、ここに取り出したるはスピリタニウム。新しい義肢を作っていきますよぉ!?」


「ヒィィィィア!」


「お前、さっきとテンション違いすぎない?」


「アレはアレ、コレはコレ。何事も切り替えが大事です」


「まぁいいけどさぁ・・・(怖かったし)」


「何か?」


「何でもありません!」


「じゃあとりあえずノアはネレイドの剣をお願いしますね?桜さん!」


「はーい」


「どっちが見たいですか?」


「どっちも!」


「じゃあ頑張って工房を回してくれていたお礼にどっちも見せちゃう!」


「いやぁっふぅ!」


「ということでノア、まずは私の義肢からいきましょう」


「はーい。でも、そこまで変える必要ないだろう?」


「まぁぶっちゃけそうです。スピリタニウムの特性を活かすには外装だけでも構いませんのでメッキ処理にしたって良いくらいです」


「えぇぇぇぇ・・・面白くなぁい」


 うんうんと星雲は頷く。


「そう!面白くない!桜さん!スピリタニウムの特性とは!?」


「はい!まずは何と言っても強度!各種様々な金属に添加することで強度を爆上げボンバーします!そして何と言っても所有者の魔力、スキルの増幅効果!効果は15gで約1割とも言われています!」


「その通り!ということはですよ!?純スピリタニウムの支柱と外装で覆えば増幅効果は一体いくらになるんでしょうね!?」


「・・・今の星雲さんの片脚の義足重量が約60,000g、内支柱は10,000g・・・666倍!?悪魔召喚できそうですね!」


 666倍ではない。頭がこんがらがっている。

 だがこれが冗談ではなく実際ネレイドによって出来るようになる予定なのが困ったところだ。


「更に、戦闘用装具を純スピリタニウムで作ったらぁ!?」


「けっ計算が間に合い間さぇん!」


「お前ら楽しそうだな?」


「「そりゃもうウッキウキですよ!」」


「・・・水を差して悪いんだがそうはならんぞ?」


 星雲と桜が首を傾げる。


「「ナンデェ?」」


「・・・スピリタニウムとはスキルや魔力を増幅させるのではないからだ」


 ノアからこっちの世界では知られていないことがぶっこまれる。


 再び星雲と桜が首を傾げる。


「「ドーユーコトー?」」


「お前ら仲良いな!でも気持ち悪いからやめて!・・・スピリタニウムとは名の通り魂の増幅装置だ。魂の存在力を強化することで確かに魔力とスキルは増幅されるが魂の器は決まっている。そこに無茶してアホみたいに強化した魂が膨れ上がるとどうなると思う?」


「あれ?これってもしかして破裂案件ですか?」


「その通り」


「コレだもんなぁ!?せっかくテンション上がったのにぃ!」


「まぁ、今のセイウンなら良くて150g添加の10割増までが限界だろう」


「いやいや、星雲さん。10割ですよ?普通に考えたら充分過ぎますって。2倍ですよ?今までの2倍」


 桜は正気に戻って正確に算数ができるようになったようだ。


「む?確かに言われてみればそうですね?」


「そうですよ!」


「そうですねぇ!?ではさっさとやっていきますか!?」


「イェェェェイ!」


「・・・うるさいなぁ」


 と言うことで星雲と桜は作業に取り掛かる。基本はイドメネオのパーツだが、支柱と外装は一旦溶かしてからスピリタニウムを添加していく。

 出来上がったのは今の流線型から真逆の無骨なデザイン。各パーツをあえて角ばらせることで一昔前のクラシックカーのようなカドを出した。もちろん面取りはしている。

 支柱と外装の強度が上がったことで小型化させて内部に空間を作り、義手には五門の魔力砲と臨時の魔力刀を備えてある。両義足には桜の開発した推進機構はもちろんのこと足先から剣が出たりしたらスパイ映画みたいでかっこいいよね!という桜の一言で搭載した。


「何だか戦闘に特化したような見た目をしていますね?」


「安心して下さい。流石に戦闘時以外は使用しません」


「ではどうするんですか?」


 星雲は不敵に笑う。


「フッフッフ、こうします!換装!にゃぁぁ」


 深淵部で魔力が爆増した星雲が新たに刻まれたのは換装魔法だった。虚実の空間とリンクさせることで瞬時に義肢を変えることができる。


「・・・最後のにゃんにゃんがなければかっこいいのに」


 桜は残念な人を見る目をしている。


「これでもだいぶ短くなったんですよ!?」


 星雲と桜が言い合いにならない内にノアが声をかける。


「さぁ、では次に曜天之剣を出せ。スピリタニウムを添加する」


「・・・せっかくここまで育てたのにまた一からやるんですか?やだなぁ」


「安心しろ。魔法で添加するので形状は変わらん」


「ちなみにどうなるんですか?」


「純粋な強度のアップ、より少ない魔力でより効率的に付与効果が得られる。そして、色が鮮やかになり、より星々が輝いているように見える!」


「カッコいいですね!」


「だろぉ!?」


 色が変わるは正義なのだ。

 というわけで魔法で作業したので特に見所もなく終わってしまった。が、性能は段違いに上がっている。


「ヨシ、あとはネレイドの剣とワレの体だな!」


「もう骨格はスピリタニウムで削り出してますけど?」


「ならあとはバイオ君にぶち込んでドボン!あとは九頭龍で取った龍の細胞と深淵部の鎧の一部、最後に人間要素としてセイウンの細胞をドボン!」


「なんでしょうか・・・こんな簡単に人間の体って作って良いんでしたっけ?」


 桜が当然の疑問を投げかける。


「桜さん、これは創造ではありません。これは生体パーツを使った『義肢』です。心臓は動いていませんし脳も活動していません。ノアの魂が入って初めて動く『人形』なのです」


「バチクソにこじつけですね!」


「ハッハァ!バレなきゃいいのだ!では、待っている間にネレイドの剣を作るか!ネレイド!」


『はい、希望は純スピリタニウムの大剣、刃渡は180cmで、肉厚、幅は20cmを希望します』


「え?そんなもの持ったら魂が破裂して死なないんですか?」


「コイツは冥府からの使者、無垢なる魂の集合体、ワレらとは魂の構造がそもそも違う。恐らくこの世界で唯一スピリタニウムを全力で扱うことの出来る生命体だ」


 チート過ぎん?『円卓』で見せた戦闘よりも更に強化されると?羨ましい。

 星雲が嫉妬に狂っているとノアがトカス君にスピリタニウムをぶち込み、鍛造を開始していた。今回は手作業のようだ。まぁ、手作業と言っても魔法をバンバン使うので普通の鍛冶では考えられないスピードで仕上がっていく。


「付与はどうする?」


『先鋭化と修復を、各種属性は敵に合わせて自身でかけます』


「そうか」


 もうネレイドがいれば自分なんて要らないんだなぁ、と星雲が凹んでいると剣が完成する。


「出来たぞー!かっちょいいだろ!?」


 無骨な大剣だが、細部に妖精の羽と冥府をイメージした炎の装飾が施されていてかっちょいい。


『ありがとうございます』


「銘は何がいい?」


『・・・では妖之冥剣ようのめいけんで』


「まんまだな!?まぁいいか!・・・ほれ!」


『ありがとうございます。これで主様と一緒に戦えます』






 10時間が経ってノアの体が出来上がった。


「じゃあアレよろしく」


「ハイハイ、感触が気持ち悪いんでさっさとやりましょう」


 ノアが胸をはだけさし、星雲が胸に手を当てると桜が驚く。


「何やってんですかぁ!?」


「アレ?桜さんはコレ見るの初めてでしたっけ?」


「コレ!?星雲さんのセクハラですか!?」


「あぁ、はたから見たらそう見えますか・・・」


「紛うことなきセクハラ案件ですよ!?って手ぇ!手が体内にぃぃぃ!?」


 星雲とノアはこいつウルセーとしか思っていない。

 そして、もう無視して済ませようと星雲がノアの魂が入っている結晶を取り出すと今までノアとして動いていた体が糸が切れた人形のように倒れる。


「のののノアさん!?」


—なんだぁ?—


「ピィ!?クリスタルが喋ってる!?」


 桜のリアクションを無視して新しいノアに星雲は結晶を突っ込む。


「フン!」


「ぎゃぁぁぁ!?また胸に手が入っていく!」


 パチッと新しいノアの目が開く。


「・・・うるさいぞサクラ!あの結晶がワレの本体だ!」


「言っておいて下さい!最初から言っておいて下さいよ!そんな不思議現象を当たり前のように行わないで下さい!」


 よくよく考えてみるとそれもそうだ2人は思った。


「「ごめんなさい」」


 2人は素直に頭を下げておくことにした。


「・・・まぁ、良いですけど。それで?これから何が起きるんですか?星雲さんの義肢もノアさんの体もバリバリの戦闘仕様にして・・・」


「それは僕も気になるなぁ」


 トシがひょこっと現れる。星雲はこの2人には最初に言っておきたかったので真剣な顔になる。


「異世界との戦争です。我々はその中心となって戦うことになります。どうやら私のスキルのせいでね。なのでこの工房は他社への技術供与を行い外注先を作って規模を大きくすることになるでしょう。お二人には戦争の準備までは手伝って頂きたい。それが終われば争いが始まるまでに安全な場所を確保しておくのでそこに逃げて「嫌です(だね)」・・・くれませんか?どうしても?」


 桜とトシは決意の籠った目で星雲を見つめる。


「絶対に最後まで付き合います!それに工房が大きくなるってことは私は古参メンバーとして工場長の座に!」


「そうだねぇ、異世界との戦争なんてどこに行ってもどうせ危険だろう?それに僕がいなかったらお金の管理なんて出来ないだろうし・・・ねぇ?」


「いや、でも、危険ですよ?」


「舐めてもらっては困ります!ここは私たちの工房です!私はここに来て救われたんです!」


「そうだね、僕だってこの工房は愛すべき場所だ。そんなところから逃げ出すなんてあり得ない。そんなことしたら弓月に叱られてしまうよ」


 救われたのは自分なのだ。愛すべき愉快な仲間たち、私はこの3人を守れるのだろうか。私はこの場所を守れるのだろうか。私は・・・



「「絶対に最後まで付き纏いますから!」」









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