53.超絶真面目案件
ノアが飛び出して行ってから2日目、星雲がネレイドとの訓練を終えて、リビングでグータラと朝の時間を過ごしていると突然魔法陣が部屋に現れて光が溢れる。
星雲は瞬間的に臨戦体制へ移行、何の迷いもなく魔法陣へと向かって剣を振り下ろす。
しかし、星雲の剣はたったの指2本で止められてしまう。
そして、光が収まるも男女が出てくる。女性はもちろんノアだ。
「ほらな?言っただろ?家の中に転移するのはやめろって」
「いいだろ?時間がもったいない。やぁ、朧 星雲君だね?初めまして、ジレムド・ジャイルです。ノアとは友達なんだ」
「どうも初めまして。まさかIEAの長官とノアが友達だったとは驚きました」
その間も星雲はなんとか剣を押し込めないものかと抵抗しているが剣はピクリとも動かない。
「セイウンよ、無駄だ。今のワレより強いんだぞ?あと、こいつブレーン156からの腐れ縁だから」
「サラッとそういう爆弾発言しないで貰えますか!?IEAの長官がクソ156の人間だなんてスクープどころの騒ぎじゃないですよ!?」
「そうなんだ、だから黙っておいてくれ。ヨロピコ」
「軽い!もっと頼み方ってもんがあるでしょうが!」
「ハイ、コレ。今回の深淵部で見つけた魔導書、ポーション、魔道具、倒したモンスターの素材やその他諸々のIDS規格の認定書ね」
「長官殿に忠誠を誓います。秘密は墓場まで持って行きます」
まさか2日で用意してくれるとは驚きである。
「こんなクソに忠誠を誓うなバカタレが!コイツは星雲が苦労した元凶でもあるのだぞ!」
「元凶?」
星雲は首を傾げる。ノアは諸々をぶっちゃける。ジレムドは勝手にコーヒーを淹れている。
「ほうほう、マギ粒子をブレーン914にばら撒いた張本人で?凶星スキルを定めた張本人で?私の手足を切り落とした時に暗躍していた張本人?それが今コーヒーを勝手に淹れて私の朝食をバクバク食っている人物だと?」
ちなみに戦いうんたらは星雲には伝えないことにノアとジレムドは決めていた。
ジレムドは星雲の朝食だった食パンと目玉焼きとソーセージを食べ終えて言う。
「そうなんだ、ごめんね」
「罰ゲームとして今食べた私の朝食を買って来てください。あんバターパンとブルーベリージャムパン、あとコーヒーはスタバのホワイトモカで」
「了解ー」
「お前もっと怒れよ!?」
ノアは星雲が大暴れすることを想定していたのに朝ごはんをパシリするだけで許すとは思っていなかったらしい。
「えー?別にそこまで怒る要素ありましたか?」
「あるだろ!?スキルでの差別とか!手足を切り落とされたこととか!」
「マギ粒子は別に好き好んでばら撒いた訳じゃないんでしょう?そして、スキルは危険なモノでした。ノアがいなければこうして制御ができて朝ごはんが食べられないほどに危険なモノです。それを規制するのは当然。あと私の足を切った名前も忘れた男は自らの復讐の為に動いていました。ジレムドさんは別にそこまで関係ないです。と言うことでぶっちゃけ別にどうでもいい」
「お前、心が広いのか馬鹿なのか分からんわ。セイウンのご両親の死にも間接的に関係しているのだぞ?」
「いいんですよ、両親のことはもう踏ん切りがついていますし。それに両親が死んだのは私がビビってアラサーになるまでスキルと向き合わなかったせいです。逃げていたのは私、それは他の誰のせいでもありません」
「・・・お前がそれで納得しているのならそれでいい。ワレは何も言わん」
「じゃあそれで終わりで!ジレムドさん!ノアの分の朝食も買って来てください!」
「はーい」
10分後、ジレムドが買って来た朝食を食べながら星雲たちは雑談をしていた。
「それで?これから何が起きるんですか?」
唐突に星雲がノアとジレムドに聞く。2人は顔を見合わせてどうしたものかと考える。
「あのですね、ノアの最近の焦っている様子に気が付かないほどに馬鹿ではないと言ったでしょう?それにスキルの件もそうですがあからさま過ぎます。これからこの世界で何が起きると言うのです?」
「ノア、君が話しなよ」
「いや、お前IEAの長官だろう?偉い人から話す方がいいって」
「いや、朧君と仲良いのは君じゃないか」
2人がいやいや、言い出したので星雲が待ったをかける。
「いやいやうるさい!さっさと喋りなさい!でないと『軍』での宴会には参加させません!」
「「はい!申し訳ございません!」」
星雲は腕を組み仁王立ちで2人に指示をだす。
「ではジレムドさんから!」
「・・・ブレーン914が攻めてくる」
「ノア!その話は本当ですか!?」
「多分、きっと、本当だ」
「分かりました!ではどうやって攻めてくるんですか!?ジレムドさん!」
「はい!・・・おそらく【はじまりのダンジョン】や各地のX等級ダンジョンからだと思われます!」
「なぜダンジョンが出来てから今まで攻めてこなかったんですか!?ノア!」
「マギ粒子の濃度の問題です!あちらの世界の人間はマギ粒子がないと生きていけません!」
「ではダンジョンを始めとする魔道具や魔石などは一種のテラフォーミングだと言うことですか!?ジレムドさん!」
「仰る通りです!」
「で!?なんで2人はこっちの世界に来たんですか!?」
「ワレらが王をはじめとしたワレら王族は侵攻に反対だったのだ・・・それを【Z】をはじめ侵攻に賛成の輩は疎ましく思って王族は現王とワレを残して全員殺された。隣にいるジレムドは反対派の貴族でな・・・見せしめにこちらの世界に強制転移させられてマギ粒子拡散の贄とされたのだ」
「今の話は本当ですか!?ジレムドさん!」
「本当です!」
「・・・ヨシ!私は二度寝します!世界が終わるのですから仕事なんてやってられません!そして明日は近所の店から略奪を始めます!ではおやすみなさい!」
星雲はズンズンと寝室へ進んでいく。
「「諦めないで!?!?」」
星雲を2人は引き留める。
「はーなーしーてーくーだーさーいー!」
「今頑張らなくてどうする!?」
「そうだよ!?王星スキルを持つ君が一番前に立って戦わなくてどうするんだい!?」
「知るか!厄介なスキルを押し付けやがって!全部お前らのせいだ!」
「お前、さっきと間反対のこと言ってるぞ!?」
「人間とは都合の良い生き物なのです!ダブスタ万歳!離せー!」
「離さないよ!?朧君には頑張ってもらわないといけないんだから!」
「あんたたちが戦えば良いでしょうが!法王星に暴王星でしょう!?王星スキルを持っているじゃないですか!!」
「「それは無理(なのだ)!!」」
「何故ですか!?まさか同郷の人間を殺さないなんてクソみたいなこと言うんじゃないでしょうね!?」
ジレムドは服を捲って胸を見せつける。そこには魔法陣が刻まれていた。
「・・・それは?」
「【隷下の法】という魔法の一種だ。王星スキルを持つ者に対して刻まれる魔法で、これにより僕たちはブレーン156の人間には攻撃が出来ないんだよ・・・僕たちは王から【堕とされた】のさ。僕たちは今代の王、朧君に仕えて支えることしかできない」
「ノアにもあるんですか?」
「・・・最近になって浮き出て来た」
ノアも少しだけ下着をずらして隷下の魔法陣を見せる。
星雲は大きく息を吸う。
「・・・クソがァァァァァ!!!!」
星雲はキレた。どうしたものかと2人はあたふたしている。まるで子供の駄々のようだ。
「クソッ!!クソッ!!クソッ!!」
星雲は血管を浮き上がらせ、眉間に皺を寄せている。瞳は黄金に変わり、黄金の魔力が体から吹き出して暴走している。魔力は周囲をめちゃくちゃにしてしまう。魔力は部屋全体におよびガラスの割れた音が鳴り響いた。
落ちたのはトシが入社したときに撮った工房の記念写真だった。
それを見た星雲は写真を広い数瞬のあと、魔力を引っ込める。
魔力がなくなったと言うのに星雲の瞳は黄金のままだ。そのせいか周りの空気は張り詰めたまま、星雲は王としての片鱗を覗かせる。
「貴様ら」
「ハッ!」
「今代の王は私だと言ったな?」
「ハッ!」
2人は傅くことしか出来ない。そもそも星雲に有無を言わるつもりはない。
「では、文字通り私に仕えてみせよ。ジレムド!」
「ハッ!」
「各地区への調整は任せる。早急なエクスプローラの育成を。魔導書は私たちがとってくる。全てIEAで買い取り、適任者への売却、もしくは譲渡を行うように」
「畏まりました」
「ノア!」
「ハッ!」
「ウチの持つ技術を広め、世界中の武器や防具、義肢装具の性能を引き上げる。工房を拡張するぞ。それと桜の育成もだ。さらに私を早急に鍛えろ。貴様を指先で捻ることが出来るくらいが理想だ」
「畏まりました」
「ネレイド!」
『なんでしょうか?』
「貴様もある程度事情は把握していたな?」
『仰るとおりです。申し訳ございません』
「構わん。だが、冥王として冥府の住人を召喚が出来るにはしておきたい。交渉に行って来い」
『畏まりました!』
「では、貴様ら。励めよ?」
今の星雲を見て断れる者などいない。
「「『ハッ!!』」」
そして空気は霧散する。
「さぁ、では私は工房に行きます。ここの片付けはやっておいて下さいね?」
星雲は写真を大事に抱えたまま工房へと降りていくのであった。
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