52.長官

 ノアは【はじまりのダンジョン】前にあるIEA本部のビルの屋上に降り立つ。

 そこにいたのはIEA長官、ジレムド・ジャイルだった。


 ノアが獣のような顔でジレムドを睨みつける。


「久しぶりだな、ジレムド。約250年ぶりか?まさか出迎えてくれるとは。もっと早くに会いに来てくれても良かっただろう?」


 ノアの殺気を浴びてもジレムドはどこ吹く風だ。


「あぁ、懐かしい魔力反応が接近してきていたのでね。噂は聞いているよ、ノア。相当、こちらの世界の【今代の王】に入れ込んでいるみたいじゃないか。我々は最早、外様。あまり干渉するモノでもないぞ?それに我々の関係はあまり知られたくないモノでね」


「そういう貴様こそIEAの長官だと?干渉しまくっているではないか。それにセイウンの奴に【冥王星】を移したのもお前の仕業だな?」


 ジレムドは間髪入れずに頷く。


「そうだ」


「お前こそ、こちらの世界に随分と肩入れしているように思うが?」


 2人の魔力が高まっていく。ノアが動き出そうとした瞬間、ジレムドが手を前に突き出す。


「待て、ここでは場所が悪い」


 瞬間、2人は砂漠のど真ん中に立っていた。


「・・・転移魔法か。どこだここは?クソ暑いところに飛ばしやがって」


「アフリカのどこかさ、何せ急だったもので人のいない場所に設定するのが限界だった」


「そうか」


 ノアの姿が消える。ジレムドは剣を召喚してカウンターで迎え撃っていた。

 ノアの頬に小さな傷がつく。


「チッ、衰えてはいないのだな」


「そう言うノアは随分と肉体性能が落ちているじゃあないか。本当の深層・・・深淵部と呼ぶことにしたのだったかな?深淵部へ潜っていくにはいささか不便ではないか?」


「黙れ」


 【法王・原初の罪】ノアの本気の魔法がジレムドに炸裂する。ジレムドは障壁を張って攻撃を防ぐが今度はジレムドに傷がつく番だった。


「ガハッ・・・魔法の腕は健在か。それにしてもよく今代の王とノアが出会ったものだ」


「黙れ、それもお前の仕業だろうが。大方、ワレの封印されているダンジョンにセイウンが向かうように職員を使って誘導したな?あからさまに相性の良い【木星】までそのダンジョンに用意までして」


「まぁ、そうだな。だが、予想外のことも起こった。中々思う通りにはいかないものだ」


「予想外のこととは?」


「朧くんだよ。ノアの手助けがあったとはいえ、ここまで成長するとは考えてもいなかった。彼の役目は本来、王星二つと木星を所持した状態で僕にスキルを奪われる予定だったのだ。要はただの器だな、計量カップみたいなモノだ」


「ヨシ、死ね」


 【法王・召喚『原初の龍』】ハリエットとリズベットの本来の姿が顕現する。


 【暴王・不愛の拒絶】ジレムドの結界が二体の龍の動きを止める。


 どうせ止められると思っていたノアは曜天之剣を取り出してすでにジレムドに接近する。どうせノアが近接戦を仕掛けてくると思っていたジレムドは余裕をもって迎え撃つ。

 2人の剣と魔力がぶつかり合い火花を散らす。衝撃波は砂を吹き上げ魔力によって嵐に変えられる。


「星雲を使って何をするつもりだ?」


 剣を押し込みながらノアが問う。


「今となっては別に何も。敵意も無ければ悪意も無い。強いて言うなら応援くらいか?」


 ジレムドは真剣に返答するがノアにとっては予想外のものだった。


「は?冗談だろ?」


「まさか、本気だよ。元々ブレーン914の王星スキルを束ねて来るきたる争いに備えるつもりだった。そして最早その目的は達成された。あとはブレーン914の住人に魔法を広めてエクスプローラが更に成長すればれば僕の狙いは達成だ。いやぁ、あの動画は感動すらしたね!この世界の住人に王星が2つも宿るなんて思っても見なかったんだ!彼は魂の強度が段違いだね!もうファンになっちゃったよ!今度遊びにいっていいかな!?」


 シリアス展開だったのにぶち壊しである。ノアですら困惑している。


「いや、先遣隊・・・としてマギ粒子拡散装置を持たされてブレーン914に強制転移させられただろう?」


「いやいやいや、あれからノアも言ったじゃないか。250年以上前の話だよ?私のはこちらにマギ粒子をばら撒いた時点で終わったんだ。それにこちらの世界で愛する人とも出会ったし、今はその一族と共に楽しく暮らしているよ」


「お前、マジかよ。家族が出来たのか!?あの461股とか言う意味の分からん女との付き合い方をしていたお前が!?今度会わせろよ!!」


 シリアス・・・もう、いいや。


「あぁ、是非会ってくれよ!今はひ孫がいてね?可愛いったらありゃしないんだ!写真見るかい?」


「見る見る!でも姿はどうしているんだ?」


「偽装魔法でおじいちゃんになってる。妻には嘘をつきたくないから本来の姿だけどね?若々しくて羨ましいっていつも怒られるよ。妻が亡くなったら僕も仕事を済ませたら死ぬ予定だ」


「・・・良い出会いが見つかってよかったな」


「全くだよ!そんな悲しい顔をするなよ!僕とお前の仲じゃないか!」


「いや、ワレが封印された時にデートがあるからって助けに来なかっただろうが」


「・・・何百年も前のことは忘れたね!」


「はぁ、まぁ良いや。おかげでワレもこちらの世界に来れたし。良い仲間とも出会えたしな。それで、お前が死ぬ前にする仕事は何なんだ?」


 ジレムドは真剣な表情に戻る。


「ブレーン914の勝利、その為にエクスプローラ制度を作り、人類を成長させ続けてきた」


「・・・王星スキルを凶星スキルと忌み嫌わせたのは?」


「朧君のような魂の強度を持つ者が現れなかったためだ。制御できなければ王星はただの暴君となる。君もわかっているだろう?」


「・・・魔法をひた隠しにして来た理由は?」


「エクスプローラの社会への適合とマギ粒子の浸潤が未成熟だったためだ。最近やっと条件が揃った」


「・・・ワレをずっとダンジョンに閉じ込めていた理由は?」


「良き出会いがあると私の星占いで出ていた」


 ノアはフゥーっとため息を吐く。様々な感情がその息には込められていた。


「・・・お前の占いは当たるからなぁ」


「すまない。なんなら今ここで八つ裂きにしてくれても構わない」


 ジレムドは剣を落として魔力を霧散させる。ノアはそれをしばらく見ていたがすぐに臨戦体制を解いた。


「やめだやめ、お前を殺した所で家族に恨まれるだけだ。それに・・・良き出会いは確かにあった」


 星雲、桜、トシ、アイサッドや鏡をはじめ、ノアの武器を使う連中の顔がノアの脳裏に浮かぶ。この世界で肉体を得てからは楽しいことばかりだ。


「そうか・・・すまない」


 ジレムドは頭を下げて、ノアはその頭を軽く叩く。


「ホレ、これで終いだ。気にするな!帰るぞ!全く、お前があちら側の陣営に鞍替えしていたと思ってヒヤヒヤしたぞ!」


「僕があんなクソみたいな連中に!?ハッ!それこそあり得ないな!今代の王には是非頑張って貰いたいものだ!むしろブレーン156全体をぶち壊してくれても良いくらいだね!」


「ハッハァ!セイウンならやりそうだな!そうだ、今度第4地区に来いよ!500階層の龍肉でパーティーをするんだ!」


「行く行くぅ!なんなら妻を連れて行こうかな?」


「来い来い、宴会は人数は多いほど楽しいものだ!」


「ついでにノアの肉体も改良しようか!スピリタニウムを見つけたんだろう?アイサッドから報告が上がってたよ!」


「そうかぁ?まぁ確かに必要か・・・最近セイウンの奴がな?ワレにどんどん近づいて来ていてな!魔法で誤魔化すにも限界が来ていたんだよ!」


「ノア、先程も言ったが我々は・・・」


「分かっている。外様だろ?分かってはいるがどうしても愛してやまない人が死ぬのは見たくないのだ。それに戦争にルールなんてあるか?ワレらが肩入れしたとして困るのは146の連中だろう?じゃあ連中の嫌がらせも兼ねて敗北者なりに精一杯足掻いてやろうじゃないか」


「・・・それもそうだな。ヨシ!じゃあ久しぶりに飲みに行こうぜ!本部の近くにいい飯屋があってさ!」


「いいな!その前に砂だらけだからシャワーだな!」


「「ワッハッハッハ!!」」


 こうして2人の異世界人は再会を果たした。ノアがもっとエクスプローラに興味を持っていたらもっと早くに再開できていたのに・・・





 ほんのすこーしだけシリアス展開でした。

 あと、今回の話はこの作品の加速装置的な役割ですがしばらくわちゃわちゃしたり自由に動いたり真剣な展開で話が進んだりする予定です。



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