55.宴会(仮)

「・・・らっしゃい」


「あの、大将・・・我々割と常連ですよね?今さら無理ですよ?」


「・・・今日は何にいたしやしょう?」


「大量の龍肉を持ち込んだじゃないですか。マジでやめてくれません?」


「では、始めさせていただきやす」


「・・・娘さーん!大将がごっこ遊びしているので助けてくださーい!」


「はーい!ありゃ!」


 パカーンと気持ちのいい音がなる。


「それ痛いからやめろって!全く、朧さん・・・今日くらいいいじゃあないですか。なにせ龍肉ですよ?しかも『九頭龍』500階層モノと言えば滅多に出回らないレア中のレア、それに初めてのお客さんだっているんですから。ここはビシッと龍肉を捌く寡黙な職人っぽさ溢れる人間でいかしてくださいよ」


 そう、ここはサクヤと星雲がいい感じになった店、『軍』である。本日は星雲たちの貸切だ。超絶人気店なのだが500階層の龍肉を捌いてくれと言ったら星雲たちが常連ということもあり、すぐにオッケーが出た。


 そして本日は宴会である。理由は様々あるが深淵部に到達したことや、ノアの体を新しくしたこと、本日付けで深淵部と魔法の情報が解禁されて星雲たちのドキュメンタリーが放映される予定だったり、色々なことがあったのでもう関係者全員集めて宴会しようぜ!というなんともエクスプローラらしい結果になった。


「邪魔するよぉ」


「本当に邪魔だから帰って下さい」


「ヒドイ!めちゃくちゃ仕事頑張ったのに!」


 アイサッドとチカ、鏡がやってきた。


「ふぃー頑張って編集してきましたよ!」


 ミチオキがやってきた。


「やぁやぁ、今日はご招待頂いて済まないね。部下もお呼ばれしてしまって、テンション上がりっぱなしだよ」


 アサが黒姫事務所の面々を連れてやってきた。


「悪いな!俺たちまで招待してもらっちゃって!」


 ニシキ他、工房を贔屓にしてくれているエクスプローラがやってきた。


「おぅ!久しぶり!あの動画の続きが見れるんだって!?」


 スタイラー夫妻がプラハからわざわざやってきた。


「いやぁ、今日は忙しかったぁ。マカベ君は大活躍だったよ」


 サクヤがマカベを連れてやってきた。


「あっじゃまぁー」


「ジ、ジレムド長官!」


 ジレムドがやってきてアイサッドの背筋が伸びた。


 私にはこんなにも仲間が出来た。スキルで忌み嫌われていた数年前まで考えられなかった光景、私はこの日常を守ることが出来るのだろうか。


「オラァ!今日は宴会だぁ!店は貸切!出てくる料理と酒は絶品!騒げ!騒げよ!?では、乾杯だぁ!」


「「「カンパーイ!!」」」


 宴は始まる。だが、星雲の表情は浮かない。取り繕ってはしゃいでいるが見ている者には分かってしまう。特に工房の面々とサクヤには。

 それでも宴は続く。星雲たちのドキュメンタリーが放送された時には最高潮に達していた。


「星雲君よぉ、俺は謝らないといかん」


 宴もたけなわといったところで鏡は星雲に話しかける。


「何故ですか?鏡さんには恩しかありませんが?」


「俺は君がエクスプローラになるのを止めた」


「・・・そうでしたね」


「正直スキルを制御できる訳なんか無いと思っていた」


「・・・そうでしたか」


「君を信じてやることが出来なかった。それがどうだ?君は星を三つも体に宿して今ではトップのエクスプローラで工房の主だ」


「・・・まぁ、ほとんど流れでそうなったんですが」


「でも、俺は君を信じてやれなかったんだ」


 鏡の小さな泣き声が響く。

 星雲は空間から一振りの剣を取り出す。


「・・・鏡さんから頂いた星霊の剣せいれいのつるぎ、コレが無ければ私はここにいません。最初にモンスターに食べられそうになった時に助けてくれたのはこの剣なのですよ?聞けば大層な剣らしいじゃないですか・・・あの時にこの剣が無ければ今の私はありません。つまり、まぁそういうことです」


 最後の方は照れてしまい星雲は言葉を濁すが気持ちは伝わったようだ。鏡は涙を流し続けて「そうか、そうか」と繰り返していた。

 そして寝た。そんな所も鏡らしい、そう思い星雲は1人チビチビと酒を飲む。


 その後もゲロを吐いた桜をマカベが甲斐甲斐しく介抱したり、アイサッドがジレムドに緊張して全く酔えなかったりと色々あった。


「オラァ!皆食ったか!?飲んだか!?」


「「「ウェーイ」」」


「大学生か!まぁ、楽しんでいるのならヨシ!で、お前らにワレから話がある。話というより頼みだな」


 やけに真剣なノアの声色に全員が姿勢を正す。


「コレからこの世界ブレーン914にダンジョンを送りつけてきた異世界ブレーン156の奴らが攻めてくることになるだろう」


「ノアッ!」


「いいから黙っていろ」


 星雲の静止をノアは振り解く。


「正式な詳細は後日、IEAから発表があるからそれを聞いてくれると助かる。お前らには直接言っておきたくてな」


 ノアは全員を見渡して頭を下げる。


「・・・どうか、セイウンの力になってやってくれ」


 ノアの願いはたった一言、それだけだ。あのいつもふざけるか高圧的なノアがただだ懇願をしたのは星雲を助けてやってほしいということ。


 周りは静まりかえる。そして、今まで寝ていた鏡が黙って杯をあげる。


「大将!一番高い酒を持ってきてくれ!」


「アイヨォっ!」


「俺たちはエクスプローラだ!」


「「そうだ!」」


「俺たちは自由で気高い!」


「「そうだ!」」


「俺たちは深淵部へ向かう!それは誰のためでも無い!」


「「そうだ!」」


「星雲君!それは『助け』になるか!?」


 なるに決まっている。


「もちろんです」


「だそうだ!もう一度言う!我々は『深淵部へ向かう』!」


「「応!」」


「では、改めて!乾杯!」


「「乾杯!!」」


 時代遅れの熱血、友情?バカ言ってはいけない。いつだって人を動かすのは熱だ。冷めたり、熱くなったり人の心はうつろいやすい。だが、ここにいる人間は熱を帯びているのだ。


 そして、星雲は思う。

 いつも助けてもらってばかりのはずなのにまたこの人たちは自分を助けてくれる。自分からみれば弱っちい奴もいる。そんな人にさえいつも助けてもらってばかりだ。

 どうやって報いればいいのか分からなくなるのだ。

 ここ最近の私の心は混沌そのもの、スキルはココロを現す。まさしく私の心は混沌としている。


「桜さん!」


「りょうちゃん!」


「「僕たち(私たち)、結婚しよう!!」」







なんだか変な回でしたね。私にもなぜこうなったのかよく分かっていません。


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