50.円卓の騎士のダンジョン②

「・・・ツッヨォ、もうこれ、私は要らない子なのでは?」


「このままだとワレ、ネレイド、セイウンの順でお前はべべだ。ザマァないな」


 ここは『円卓』深淵部134階層。ネレイドが無双している場所だ。

 ネレイドは魔法で大剣型の属性剣を二本創り出し、ぶん回している。どうやら創剣魔法と言うらしい。高速で動き回る剣のおかげでモンスターはネレイドに近づくこともできない。


「お疲れ様でした。ネレイド様、肩でもお揉み致しましょうか?」


 主従関係が逆転している。


『怒っていませんからその変な態度をやめて下さい』


「ほんとにぃ?」


『最初から怒っていません。呆れただけです。さぁ、書庫へ案内します』


「やっほぉい!魔導書ゲットだぁい!」


 主様は現金なことに関して切り替えが早すぎる。まぁ、良いところではあるだが・・・


 その後もネレイドの無双は続き星雲たちは書庫を三ヶ所と宝物庫を一ヶ所に立ち寄る。

 そのおかげで星雲とノアはトリップ状態でアヘアヘ言いながらネレイドについて来るだけだった。


『ほら、正気に戻って下さい。目的の階層に着きましたよ』


 ネレイドが2人をタコ殴りにして無理矢理意識を覚醒させる。


「「イダダダダ!そんな剣の腹で殴らないで!?」」


『正気に戻りましたか?戻りましたね?』


「「戻りました!申し訳ございません!」」


『ハァ、でれあば後はお任せします』


「と言うかネレイドに武器は必要なんですか?今みたいに属性剣を魔法で創れるのなら不要なのでは?」


『今回のはデモンストレーションと言ったはずです。ですが、わたしが余計な魔力を垂れ流し、あまつさえ使い切ってしまって休眠状態に陥って、主様の魔力制御が甘くなり、死んでもいいのなら是非そうしましょう。お疲れ様でした』


「人生にお疲れ様って言わないでください!?作りましょう!スピリタニウムで極上の武器をノアに作ってもらいましょう!」


「セイウンよ、茶番で遊んでないでさっさと行くぞ」


 ノアが星雲をせっつく。星雲はため息を吐きいつもの見慣れたトラップを踏み抜く。

 すると、黄金の鎧が数千と現れ、星雲たちを囲い込む。


 星雲にとっては深淵部で初のモンスタートラップだ。今までに体験したことの無い圧倒的な殺意に星雲は足を半歩だけ下げた。


「引くな。引けば最後、後は崖から落ちるのみ」


「・・・助走のために足を引いただけですが?」


 星雲は強がってみせる。


「フッ、そうか。では、行くぞッ!」


 2人は王の魔法を使用する。


 【冥王・蛇尾之雷だびのいかずち】雷が蛇の如く鎧を呑み込む。

 【法王・断罪刀】巨大な大剣が出現し横薙ぎに鎧を分断する。

 今の攻撃で半数の鎧を屠った。後はノアから近接戦闘で、と指示が出ているので星雲は身体強化魔法に魔力を回す。王の魔法を得たことにより強化魔法も飛躍的に進歩している。星雲と曜天之剣は黄金の魔力を纏いながらモンスターを倒していく。

 そして、王の魔法を浴びた曜天之剣も形状こそ変わらないものの海王星と冥王星の紋様が装飾のように施され切れ味はより鋭くなっている。


 しかし、ノアが深淵部に入った時に言った通り、星雲にとって150階層のモンスターはギリギリ同格くらい。剣は止められるし、攻撃も受けてしまう。その度に再生で傷を癒すがノアから檄が飛んでくる。


「コイツら程度でそんな傷を負うのか?もうクソ精霊と2人で探索しようかなぁ!?」


 これでも頑張っているんでよ!と心の中で叫ぶが口に出せるほどの余裕はない。

 黄金の鎧たちはひっきりなしに攻撃を仕掛けて来るしその度に星雲は死線を潜ることになる。


 ノアが自分のノルマを達成してから2時間後、漸く星雲はモンスターを倒し切った。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・」


 星雲は息も絶え絶えである。


「まぁ、最初はこんなもんか。ヨシ!次行くぞぉ」


「30分、いや!10分でいいから休憩させて下さい・・・」


「ダメだ」


「ダメかぁ・・・」


 がっくしと頭を落として星雲はとぼとぼ歩き出す。


 そして、2セット目が開始される。


(キツイ!流石にキツイ!)


 最早星雲に喋れる体力など残っていない。


「理想を現実に変えるのがお前のスキルだろうが!理想を高く待て!そして自分を引き上げろ!」


(んなたぁ分かってるんですよ!クソッ!)


 心の中で毒づくが星雲はやることはやっている。そして、成長もしている。

 常に死線を抜けると言う頭のおかしい行為を繰り返すことで星雲の動きはより洗練され理想を現実に変えていく。

 3セット目が終わる頃には傷を受けることは少なくなり、4セット目には一方的な殺戮へと変わっていった。


「今日はこの辺にしておくか」


「よし、何とか・・・切り抜けたぁ・・・」


 星雲の体力は限界だった。魔力が残っているだけ成長の証だ。


「まずまずだな、こらなら200階層に行っても良いだろう」


 星雲が聞いていたら全力で拒否する案件だがノアは星雲を担ぎ歩き出して200階層へ向けて歩き出す。


「ネレイド、道中は任せて良いか?」


『ノア、お任せください』


 2人は少しだけ仲良くなったおかげでクソ呼びはやめることにした。

 そして、星雲が気絶している間に200階層まで一気に進む。書庫は二ヶ所、宝物庫はなかった。




 星雲の意識が覚醒する。


「起きたか?」


「・・・寝てしまっていましたか」


「というか気絶だな」


「・・・一応聞いときますが今150階層ですよね?お願い、そうであると言って・・・」


「安心しろ、200階層だ」


「ほぉらね!絶そんなことだろうと思ったもんね!絶対にそんなことだろうと思ったもんね!ボイコットしまぁす!私はこのベッドから出ませぇん!」


「そうか?この階層には宝物庫があるんだが・・・ワレとネレイドで楽しむとするか」


「ボイコットは中止となりました!すぐに宝物庫へ行きましょう!」


 星雲のボイコットは3秒で終わった。


「モンスタートラップで一太刀も受けなければ連れて行ってやる」


「そんなもんすぐやってやりますよ!宝物庫のためならば1セット目でクリアしてやりましょう!」


 星雲たちはモンスタートラップのある部屋に移動して星雲は勢いよくトラップを発動させる。


「オラァ!かかってこいやぁ!・・・ん?なにやら鎧に混じってローブがいますね?」


「あぁ、この階層には魔法を使うモンスターがいるからそれだろうな」


「最初に言って!?クッ!?」


 【氷王・霹靂】ローブの放った炎の塊とぶつかりなんとか防御に成功する。


「王を使ってようやく防げる魔法とかどんだけですか!?」


「だから身につけさせたのだ。ほら、今度は鎧が来るぞ」


「ダァァ!連携も取ってくるし!面倒なッ!」


 確実に格上、しかも遠距離と近距離の連携有り。遠距離のローブは時間差で絶え間ない魔法を放ってくるし近距離のローブは陣形を組み星雲を攻め立てる。


 当然、星雲は攻撃を受けることになる。どれもが致命傷になりうるモノだ。


「・・・流石に無理があったか?」


 ノアはモンスターを倒しながら星雲の方を見る。


「セイウン!ネレイドと連携して「いりません!」・・・死ぬぞ?」


「このくらいでへこたれる訳にはいかない!引けば後は崖から落ちるのみ、でしょう!?」


「引き際を見誤るなとも言う」


「ハン!であれば今ではありませんね!」


「ネレイド、一応だが準備しておけ。ワレもすぐにサポートに回る」


『承知しました』


 そんな心配をよそに星雲はスキルの本質をより理解していく。

 理想を描くだけではダメなのだ。現実に投射しなければ絵に描いた餅でしかない。

 そして、より具体的に。

 鎧から突きをくらってしまう。・・・今のもそうだ。剣が伸びてくることは分かっていた。理想は避けることではない。相手の先を行くことだ。


「ネレイド!思考補助全開!脳が焼き切れても構いません!再生で片っ端から直して行ってください!」


『・・・』

 

 ネレイドはえ?まじでやるの?とノアを方をチラチラ見る。


「やってやれ」


『承知しました』


 その瞬間、星雲の見る景色は切り替わる。自分の理想で描いた世界だ。思うように体は軽く。思うように敵を切る。

 そしてやってくる全能感。


(あっ、これ癖になりそう・・・)


 星雲の動きが変わった。敵が剣を振り上げた瞬間にはすでに敵を切り裂いているし魔法の着弾点には星雲はそこにはいない。

 最早予知や確率操作に近い能力で星雲は数分も経たない内に全滅させるに至る。


 だが、当然リスクもある。


「いやぁ、気持ち良かったぁ!最早私に敵はいないのでは?それに1/8192引き放題なのでは?」


 そう言って星雲はスキルを解いた。そして襲ってくる魂の痛み。


「ギィィィィやァァァァ!」


 ノアは盛大にため息を吐く。


「当たり前だろうが。時間は不可逆なモノ、そして確率は世の理だ。それを無理矢理自分の都合のいいように改変してなんのリスクも無いなどと思うな」


「いいいい今まではなんともなかったじゃあないですか!グッッ!」


「それは自分にだけ使っていたからな。今回は周辺にまで効果範囲を広げていただろ?」


「そそそそそう言うのは、はやく言って!?あっ、意識が・・・」


 星雲が気を失う。


「まぁ、今回はこれくらいで探索を終えるか・・・何日経った?」


『26日目です』


「ふむ、まぁIEAに魔導書も渡してやらんといかんから一旦帰るとしよう・・・だが、その前に、なぁ?」


『えぇ、モチロン』


「「ウヒヒヒヒ」」


 星雲抜きで異世界人と精霊のコンビは宝物庫を堪能した。

 星雲が目を覚ましたのはまたしても飛行機の中だ。星雲は宝物庫にアレがあったコレがあったと2人から自慢されて血管が破裂しそうなほど悔しがっていた。






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