49.円卓の騎士のダンジョン①

 星雲が目覚める。


「・・・なぜダンジョンにいたのに今は飛行機の中にいるのでしょうか?」


 気絶した星雲をノアがチャーターした飛行機に放り込んだからだ。


「九頭龍での目的は果たした。今は第3地区に向かっている」


「イギリス領ですか?・・・まさか『円卓』の深淵部に向かうのですか?」


「おっ?よく分かったな、そうだ」


 星雲が起き上がり操縦室に駆け込む。


「機長さん!今直ぐ第4地区に引き返して下さい!私はお家に帰りたい」


「えぇ?無理ですよ。飛行機は緊急時以外はそんな急に行き先を変えれませんて」


「なら私が緊急事態にしてあげましょうか!?」


「ハイジャック犯にでもなるつもりか!黙って座っていろ!」


「え〜、一回帰りましょうよぉ。よりにもよってなんで初めての深淵部がX等級のダンジョンなんですかぁ、嫌ぁ。帰りゅのぉ、お家でゆっくりしゅるのぉ」


 星雲が幼児退行してしまった。


「うわキモ・・・」


「シンプルに傷つく!理由!理由を教えて下さいよ!」


「今さら一等級に行くのなんて面倒くさい。そんな場所他のエクスプローラに任せておけ」


「・・・本音は?」


「同じ時間を潜るなら利益率のいい方に行きたい」


「金の亡者が!死亡リスクを考えて!?」


「考えているさ」


「どこが!?いきなり初見のダンジョンに行って深淵部に潜ることのどこが!?」


「ワレも戦闘に参加する」


 星雲が目を見開く。


「・・・マジすか」


「マジだ。深淵部であればワレも鍛えられるからな。ソレに奥まで進んでガッポガッポ稼げるぞ?」


「・・・あっ、ヨダレが」


 結局星雲もダンカスなのだ。


「まぁ、とりあえず着いたらホテルを取って2、3日休んでからダンジョンに行くぞ!目指せ深淵部の宝物庫!まだ見ぬ鉱物!お宝!魔道具!」


「ひゃっほぉう!高まるぅ!!」


『これが脳汁に支配された人間の末路ですか』


 ネレイドの呟きは2人には聞こえなかった。




 そしてやって参りました!第2地区!飛行機を降りたらまずはホテルに向かう。


「パブはチェックしたか!?」


「ロンドン一番と言われるところがホテルの近くにあります!」


「ヨシ!では風呂に入ったらロビーに集合!では一旦解散!」


「りょ!」


 2人はシャワーを済ませてその日はビールとフィッシュ&チップスを楽しみ、ちょうど日曜日だったのでサンデーローストもたらふく食べた。ベロンベロンになった勢いで魚のパイも食べたがそのせいで少しだけテンションが下がった。


 翌日から二日間は観光と休養に充て、いよいよ『円卓』に挑む日が来た。


「そういえばミチオキさんは呼ばなくて良かったんですか?絶対に連れて行けって言ってませんでしたっけ?」


「うん、素直に忘れてた。今から呼び出したら待つのは面倒だし、コレを買った!」


 ノアが取り出したのはドローンだった。


「撮影だけしてあとは丸投げ的な?」


「その通り!どうせならIEAにも見せてやろうと思ってな!あと、動画も後日配信するし。足手纏いはいない方がいい!」


「ハァ、まぁそうですね。じゃあいきましょうか!」


「うむ!」


 円卓の騎士のダンジョンは人型のモンスターが主体で円卓と言われるのには500階層のボスが関係している。


「本当に円卓を囲んでモンスターが座っていますよ?」


「あれだな、アーサー王伝説のあの絵にそっくりだな。そして本当に襲ってこないと・・・」


「これ、やっちゃっていいんですかね?」


「いいんじゃないか?騎士道精神とやらで先手は譲ってくれるらしいぞ?」


「・・・モンスターの分際で?」


「ワレも知らん!さっさとやれ!」


「はぁい」


 【氷王・飛虎龍】氷の虎と龍が円卓ごとモンスターをバラバラに砕く。


「ハイ、終わりました。なんか申し訳ないことをしたような気になってきましたね」


 星雲の気持ちとは裏腹に赤いポータルが出現する。


「ホレェ、早く行くぞぉ!」


「なんかもっとないんですか?せっかくの深淵部でのまともな突入ですよ?」


「オキナワで入っただろうが!早くいけ!」


「はぁい」


 星雲とノアはポータルに飛び込む。いよいよ深淵部での探索に乗り出すのだ。星雲は決意を新たにする。一瞬でも気を抜くと死ぬ可能性だってある。オキナワで感じたあの空気、果たして自分はどこまで通用するのだろうか・・・


「ハッハァ!こんなもんかぁ!オラァ!」


「ハァ・・・まぁ、どうせこうなると思ってましたよ」


「オラオラァ!足りん!こんなものではワレは止まらぬ!」


 ノアが深淵部に入ってから暴れ倒しているのだ。

 X等級の深淵部の空気はとてつもなく重いものだった。星雲がびびってしまうほどに。

 だが、ノアにとっては深淵部1階層なぞ屁みたいなものだ。


 明らかに強者の雰囲気を出している甲冑を一刀で斬り伏せ、魔法で貫き、素材に変えていく。


「面倒くさくなってきた。一気に100階層くらいまで行けないかな?」


 なんてことを言う始末である。


「誰も到達したことのない階層にポータルはありませんよ・・・」


「じゃあ道案内はしてやるなら次からはお前がやれ」


「1人で?」


「モチロン」


「危なくないですか?」


「なんだぁ?ビビってるのかぁ?」


「やってやらぁ!」


 と言うわけで選手交代である。星雲もあの時とは違う。確実に成長しているのだ。


 豪華な甲冑が星雲に向かってくる。


「あれ?遅くね?」


 星雲は軽々躱してノアと同様に一刀で斬り伏せてしまった。


「当たり前だろうがバカタレ。あれからどれだけのモンスターを屠ってきたと思っている。それに深淵部とは言えここは1階層、そりゃ上のモンスターよりは強いがこんなもんだ」


「なんか拍子抜けですね・・・」


「今のセイウンなら150階層くらいがちょうどいいかな?と言うわけで行くぞ!モンスターはほとんど無視して『書庫』と『宝物庫』探索だぁ!」


 ノアが身体強化をして走り出す。星雲も遅れまいと走り出す。


「ひゃっほぉい!」


「「おったから!おったから!」」


 星雲とノアは深淵部をものともせずに進んでいく。ノアが戦闘に加わることにより安定感は増して討伐速度は桁違いに早くなる。

 気付けばすでに49階層、そしていよいよお目当ての場所にぶち当たる。


「あからさまな金属扉・・・宝物庫のように隠されているわけではないんですね」


「深淵部は親切設計だぞ?ここまで辿り着ける者がそもそも少ないから宝物庫も同じように扉から入れる。宝物庫の扉は豪華だぞぉ?


「宝物庫の扉なんてみたら脳汁枯れちゃいそうですねぇ」


「まぁな、ともあれまずは書庫だ。魔導書は一体いくらで売れるんだろうなぁ?」


「鼻血でそうですねぇ!何せ世界初の発見!でもIEAに50冊も進呈するんでしょう?そんなにたくさん魔導書はあるんですか?」


「まぁみれば分かる」


 そう言ってノアは扉を開け放つ。書庫には本棚が立ち並び、古びた本から真新しい本まで様々な様式の本が詰め込まれている。

 星雲は思った。


「ノア、50冊はケチ過ぎです」


 パッと見ただけで千冊はある。


「フン、タダで渡してやるのだ。50冊でも多いくらいだ。ワレは書庫に眠っている蔵書数は言っていないからな。IEAが魔法を確認して発表した瞬間にばら撒いてやるのだ!ワッハッハァ!」


「いやぁ、怒られませんかね?」


「そんなもん知るか!エクスプローラは自由なのだ!」


「・・・まぁ、いっか!これだけあれば多少安く設定して売り捌いてもそれなりになりますねぇ!」


 エクスプローラの世界が変わる程の発見なのだがその辺はIEAに丸投げである。


「ホレ、とっとと魔導書を空間に放り込め!」


「合点でい!」


 全ての魔導書をしまった2人は更に下へと進んでいく。

 現在137階層、星雲にとってはモンスターの強さがそろそろキツくなってきている。

 モンスターも鎧に彫刻が入るなど豪華になり、星雲の剣を受け止める者まで出てきた。


「ハァッ、しんどくなってきました!」


「弱音を吐くな!モヤシ野郎が!」


「殺すぞ!?脳筋ババアが!」


「「あぁん?」」


 2人共イライラしている。何故か?宝物庫が存在しなかったからだ。書庫の方は6つ見つけたが宝物庫がない。要は激アツリーチを外しまくって大当たりが引けずハマっている訳である。そうなると当然イライラする。

(わからない人は分からないままの方がいいよ!)


 そんな中、ネレイドが福音をもたらす。


『見つけました。宝物庫です』


「「ヒャッハァ!!」」


『はぁ、フェイクだったら殺し合いでもするんでしょうか?』


 ネレイドの案内通りに道を進んでいくと煌びやかな装飾が施された大きな扉が現れる。


「ノア、トンじゃいそうです」


「ワレも」


『開けないんですか?』


「「開ける!せーのっ!」」


 2人は片方ずつ扉を押し込む。見えた先は黄金に輝いていた。


「「桃源郷はここにあったのか・・・」」


 2人はテンションが上がり過ぎて涙を流している。ちなみにネレイドも体を震わせている。


『早く!早く物色しましょう!』


「「ヒョウ!!」」


 もはや言葉すら忘れてしまったようだ。


「何カラットあるのかも分からんダイヤだぞ!というか辺り一面宝石だらけだ!貴金属に鉱物のインゴットも!」


「こっちは・・・なんですかこれ?薬瓶?」


 ノアが星雲の持っている瓶を見てこともなげに言う。


「あぁ、それポーションな。ゲームでも良くあるだろ?」


「ぽぽぽぽぽぽぽ!?」


 星雲の語彙力が崩壊した。


「なんだよ?深淵部だぞ?ポーションの一つや二つくらい出てくるだろ?・・・あっ」


 そこでノアが気がつく。


「そうですよ!深淵部の探索は私たちが初めてなんですよ!?つまりポーションなんて代物は今まで世に出回っていません!どれくらいの効果があるんですか!?!?」


「ここは150階層手前だろ?まぁ、千切れた手足がくっつくくらいかな?」


「とんでもないですね!?」


「まぁスキルや魔法の方が発動は早いがな。それらを持っていない人は重宝するだろうな。何本くらいありそうだ?」


「木箱に1ダース入っているのでそれが・・・いっぱいです!」


『800箱です』


「だそうです!」


「ワレらには無用の長物だが世間的には垂涎ものだなぁ!いくらになるか楽しみだぁ!しかも下の階層に行けば行くほど効果の高いポーションが出るぞ!万病に効く万能薬なんかもあるはずだ!」


「「ゲっひゃっひゃっひゃっ!」」


 2人はおかしくなり過ぎてゴブリンみたいな笑い声が響く。


「おや?この魔道具は?」


 星雲が伸ばした手をノアが焦った顔で払う。


「触るなッ!」


「何ですかいきなり。そんな血相を変えて」


「封印の魔道具だ・・・魔力を流した途端に魂を引き剥がされるぞ。ワレもコレでやられた。まぁまだ浅い階層のモノだから魂を持っていかれることはないが良くて意識は剥奪されて植物状態だろうな」


「・・・あっぶな!ネレイド!空間内で障壁を張ってしまっておいて下さい!」


—承知しました—


「ヨシ!じゃあ気を取り直して物色するぞ!」


「よくあんな厄介モノを見つけた後に魔道具を触れますね・・・」


「あんなものそうそう出てこないから安心しろ。あっ、でもあそこのネックレスは触るなよ?食人衝動に囚われて人を襲うようになるから」


「ゾンビネックレス!?深淵部になってからヤバいモノが出てきますね!?」


 そりゃそうだとノアは言う。


「魔道具だぞ?有益なものもあれば無益どころか呪われたモノだってあるさ」


 星雲はこれからは不用意に魔力を流さないようにしようと心から誓った。


「ほらこれなんて有益なモノだぞ。魔力を流してみろ」


 ノアは星雲に向かってキューブを放り投げる。


「爆発しませんか?」


「ワレを何だと思っている!?」


「クソがつくくらいのサディストです」


「その喧嘩、買った」


「冗談ですってば」


 星雲はキューブに魔力を流す。するとキューブが半透明に透けて拡大する。


「距離を取らないと潰されるぞ?」


「ほらね!?そう言うところですよ!」


 星雲は急いで前に投げる。しばらく待っていると拡大したキューブは再び色をつけて銀色に変わった。そしてドアが現れた。


「うん?トレーラーハウスみたいな見た目ですね?」


 ノアがおもむろにドアを開ける。


「入るぞー」


「待って下さいよ!・・・おぉ!?これは!!」


 中には2LDKの部屋が広がっていた。


「『トレーラー光、マンションタイプ』だ!」


「何ですかそのインターネット回線みたいな名前は・・・」


「でもすごいだろう?風呂もあるし魔石をぶっ込めば電気も通るぞ?このトレーラーハウス自体に不可視と結界が付与されているのでダンジョンのどこでも寝れるぞ」


「今まで使っていたテントの魔道具は売ってこっちを使いましょう!」


「そうだな」


 その後も物色を続けて大量の魔道具(一部呪物)と大量の金属類を獲得した。


「「あっかん、脳汁が・・・あっかんでぇ」」


 すでに2人の脳汁はカラカラだ。だが、2人は大物を最後に残しておいた。


「最後にコレですか・・・」


「コレだなー」


「もしかしてですけどスピリタニウムだったりします?」


「ご明察」


「マジかぁ・・・見たところラージバーのインゴットが100は超えていますよ?」


「うむ」


『正確には134本です』


「ラージバーが一本あたり12.5kgとして・・・1675kg?世界で発見されているスピリタニウムの重量の140倍?」


「そうだな」


「・・・どうします?」


「当然、ワレらの製作物の素材だな!」


「ヒャッホゥ!幻の金属で義肢が作れるぜぇぃ!」


「曜天之剣もパワーアップできるな!」


『わたしの武器も作って下さい』


「え?ネレイド戦えるんですか?」


「は?お前気づいていなかったのか?」


『え?知らなかったんですか?』


「え?」


「「「・・・」」」


 ノアがキレた。星雲の頭を全力で殴る。星雲は何とかガードした。


「お前ぇ!コイツは冥府からの使者だと言っただろうが!それに普段から飛翔魔法でハエみたいに高速で飛び回っていただろ!?」


 ネレイドも流石に呆れている。


『わたしに攻撃の指示を出さないのは修行の為だと尊敬していたのですが・・・まさか知らなかっただけとは・・・』


「いや!見せましたか!?一度でも戦ってる姿を見せましたか!?私が九頭龍で死にかけた時だって待機していたじゃあないですか!?」


『私は指示待ち精霊です』


「現代っ子か!気付く訳ないでしょう!?あくまでも私の補助として生み出したんですから!」


「お前、生み出した時に成長するように設定もしていただろうが!コイツはスキルこそないが魔法も使えばお前のスキルだって使えるんだぞ!?大体虚実の空間やらスキルの制御を行っている時点で気付くだろ!?」


「・・・っあ」


「・・・もういいわ、疲れた。寝る」


『わたしも今日は休みます。散らかっている魔道具やらは主人様が片付けておいて下さいね』


「ちょっと待って下さいよ!?ねぇ!スピリタニウムについて語り合ったりネレイドの武器を何にするかとか話し合いましょう!?ねぇ!ごめんなさい!本当に悪かったです!アホでごめんなさい!ねぇ!」


 その日、ノアとネレイドは少しだけ仲良くなった。






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