47.九頭龍ダンジョン、デカいは強い

『ゴォァァァァ!』


「うるさい!デカい!強い!しんどい!帰りたい!お家が恋しい!お酒飲みたい!ゆっくり寝たい!タバコ吸いたい!焼き鳥食べたい!ラーメン食べたい!」


「お前、割と余裕あるな?」


「そんな訳ないでしょう!?ネレイド!氷と雷に魔力を回してください!」


『承知しました。割と余裕に見えますが?』


 【凍雷鳥とうらいちょう】氷の鳥が雷風を纏って高速で舞う。


「ネレイドまで!?ドラゴンに囲まれたこの状況でどこに余裕があるんですか!?」


「だって態々魔法を改良して鳥の形にまでしてたら、なぁ?」


『そうですね、余裕があるとしか思えません』


「それは!ノアが!王の魔法を作れ!と!言うから!色々と考え!ながらやってるんです!」


 そこまで考えられるのならやはり余裕なのでは?とノアとネレイドは思った。

 ここは第4地区、X等級『九頭龍』の500階層だ。ドラゴンと龍の巣窟である。

 星雲達は二日前からダンジョンにやってきていた。ノアも今回ばかりはいきなりモンスタートラップに行けとは言わなかった。

 それくらいには龍種は特別だ。X等級の中でも最難関の部類に入るダンジョンでもある。

 しかし、ノアはセイウンを休ませることなく48時間ぶっ通しで戦闘をさせている。少しでも魔力を高めるためなのだが、それだけではなくノアは星雲に課題を出した。

 王の魔法の開発と魔力の増大だ。

 魔力に関しては言わずもがな、ネレイドによって混沌から魔力を生み出すことに成功してからは魔力の心配はほぼないが、混沌から魔力を生み出すための呼び水は結局は星雲の魔力なのだ。ということで本体の魔力を増やしておかないと深淵部では通用しないと言われてドラゴンちゃんたちと戯れている。

 そして中々に厄介なのは王の魔法だった。

 星雲の魂には魔法が刻まれている。しかし、その魔法自体は誰でも扱えるもので星雲自身が生み出したものではない。ノア曰く、王の魔法を取得した時、黄金の魔力を持つ者はようやく花開くそうだ。

 なので、星雲はなるべく魔法主体で戦いながら魔法への理解を深めている最中だった。

 ついでに言っておくとノアはモンスタートラップにあと1日したら星雲を放り込むつもりだ。何故かって?そのほうが龍種の素材もガッポガッポで懐が潤うからだ。


「あと、一体!おらぁ!」


 【雷炎之楼閣らいえんのろうかく】最後の青色の龍は雷炎の柱が閉じ消し炭になった。


「お前ぇ!せっかくの素材を炭にしてどうする!?アレ一体でいくらすると思っているんだ!?」


「五千万くらいじゃないですか!?知りませんけど!!どうせ明日にはモンスタートラップにぶち込むつもりなんでしょう!?一体くらい誤差ですよ!誤差!」


「・・・いやぁ?そんな酷なことしないよ?」


 ノアは呆ける。


「あのねぇ、これでもずっと一緒にいるんですよ?流石にノアの考えていることくらい分かりますから。あと、一対一から始まって今、一対何でしたか?20?いや、23でしたね。こんなもん対多数戦闘をやらせる気満々の増え方じゃないですか」


「・・・だってその方が効率いいし」


「それに素材もたくさんでガッポガッポですからね?」


「そうです!スマン!!焦りすぎた!もっとゆっくりでいい!」


「は?いや、一眠りしたらモンスタートラップに行きますけど?」


 星雲は当然のように言い放つ。ノアは流石に無理だと言う。


「・・・死ぬ気か?」


「いいえ全く?今の戦闘を見てたでしょう?ぶっちゃけますがふざけるくらいには余裕がありました」


「お前ぇ!やっぱり余裕だったんじゃないか!」


「そりゃ確かに今までのモンスターに比べたらデカいし強いですが・・・ノアの方が強いですし。ネレイドもそう思いませんか?」


『クソ異世界人のことを認めるようで癪ですが、実際のところ、そうですね』


 星雲はノアと本気の戦闘を繰り返していくうちに強さへの感覚がバグっているのだ!

 500階層の龍種は一体に対してX等級のエクスプローラがパーティーを組んで倒すものだ。そんなことは他のエクスプローラとダンジョンに潜ったことの無い星雲は知る由もない。


「・・・チッ!じゃあさっさと宝物庫に行って寝るぞ!」


 ノアは星雲の成長に嬉しくてつい照れてしまう。


「いやっふぅ!やっぱりドラゴンや龍の関係の宝物や魔道具があるんですかねぇ!?」


「そりゃそうだろうなぁ!いやぁ!いつだって宝物庫はワクワクさせてくれる!」


 2人は肩を組んで歩き出す。ネレイドは2人の信頼関係に少しだけ嫉妬するのであった。

 そして、一時間後、2人のダンカスっぷりに失望する。


「「の、脳汁がぁ、止まらないぃぃぃぃぃ!」」


「こっちは等身大の24金の龍の彫り物だぁ!」


「こっちは青龍刀の魔道具!なんと龍を1分だけ召喚出来るみたいですよぉ!!」


「「うへぇ、脳汁がいくらあっても足りませんぜぇ・・・あっイッチャイソウ」」


『このダンカスどもめ、休むなら早く休みなさい!』


 ネレイドが宝物庫のモノを一気に虚実の空間にしまい込んでしまった。


「「あぁ、私(ワレ)の脳汁がぁ・・・」」


『早く休まないと主様との契約は破棄して冥府に帰らせて頂きますが?』


「「すぐ寝ます!おやすみなさい!」」


 2人は拡張テントを急いで張って就寝した。


『さて、お宝の吟味といきましょうかね。グッフッフ』


 まさかのネレイドもダンカスだった。2人は知る由も無いがこうして夜な夜な空間内にある宝を見ては悦に入るのがネレイドの楽しみだったりするのだ。


『主様、クソ異世界人、起きてください。6時間経ちましたよ』


 そして、ネレイドは何事もなかったように2人を起こす。


「さて、いよいよモンスタートラップですね・・・ここは気合を入れて・・・「オラ!」勝手に押さないで!?気合を入れさせて!?」


「うるさい、一々気合どうこうで殺し合いなんてするな。やるなら一方的に殺れ」


「・・・おっしゃる通りで。じゃあいっちょやってやりますか」


「「「ガァァァァァァァァ!!!」」


 龍種のモンスタートラップ、数も圧も今までとは全く異なる。


「・・・やっぱりやめませんか?」


「アレ一体で数千万動くと思ったらやる気出てこないか?」


「オラァ!かかってこいやぁ!」


 なんとも現金な性格だ。あっという間に星雲は龍種の群れに飛び込んでいく。


「まずは一発」


 【末候・水仙堂【雷】】氷雪魔法と雷風魔法の複合技、破壊も付与してある。雷が泉のように吹き出し龍種を屠る。


「ネレイド、身体強化。クラススキル【鉢特摩】」


『承知しました』


 【氷霆之太刀ひょうていのたち】今度はクラススキルとの複合技、血も出ないほどに切り口は凍てつく。


(セイウンの奴め、もう少し手こずると思っていたんだが。可愛げの無いほどに成長しているな)


 普段はおちゃらけているが本気の戦闘となると星雲はガラリと雰囲気を変える。

 ノアは規格外なので例外だが、殺戮の意思を内に込め、ソレを技に乗せる姿は普通のエクスプローラが見ると畏れすら抱くほどだ。

 ちなみに動画も撮っている。深淵部と魔法の公表と同時に配信するつもりで撮り溜めてあるのだ。星雲には黙って。


 その後も星雲の蹂躙は続き、5000体いた龍種を4時間程で全て倒し切ってしまった。


「4時間かぁ、3時間は切りたいですねぇ。それなら1日4セット、10万体が5日で終わるのに」


 ちょっと何を言っているのか分からないです。星雲の感覚は完全に麻痺している。

 流石にノアも少しだけ引き気味だ。


「そ、そうだな。もっと効率を上げるなら広範囲攻撃を使ったらどうだ?」


「え?いいんですか?」


「まぁ、王の魔法を見つける訓練も兼ねているからな。色々試していいと思うぞ?」


「なら3時間は余裕ですね!次行きましょう!次ぃ!」


 星雲はズンズンとダンジョンを進んでいく。


『流石に成長率に驚かれているのでは?』


「王星を2つだぞ?あんなもんだ、あんなもん」


『そもそも王星を二つ持つこと自体が異常なのですが・・・』


「まぁな、一つ持てば世界を統べる力だ。ソレを二つ、さらに木星を入れれば三つ・・・正直言ってワレはそのうち抜かれるだろう」


『クソ異世界人にしては随分と弱気ですね?』


「黙れクソ精霊。ワレは事実を言ったまで。ブレーン156でもそんな人間に出会ったことなどない」


『・・・これから起こる争いには通用すると思いますか?』


「まだ足りん。深淵部へ向かい強化をせねばならん。スキルも目覚めておらん。この調子ならさらに予定を短縮してもらよさそうだな」


『王の魔法の開発はどうするんですか?』


「今の感じだと最終日にはなんとかなるのではないか?セイウンには王の術式も刻んであるからな」


『わたしが手を貸してもいいのですが?』


「ダメだ。セイウンが自ら気づいて自ら発動させねばならん。鍵は揃っている。後は扉を開けるだけだ」


 ノアとネレイドは星雲を黙って見守る。そんな星雲はあれやこれやと魔法を使い魔法に対する習熟を深めていた。


(術式は揃っているとノアは言ってましたし、ノアの言う王の術式が鍵なのは分かりますが・・・どうやって発動するんでしょうかね?)


 星雲はずっと王の術式を発動させようとしているが何故か発動しない。何かが足りない、だが、何が足りないか分からない。


(ご都合主義的に何か強敵が出てきて急に覚醒する的なイベントは無いだろうか?)


 ちなみにノアは龍種のモンスタートラップが覚醒イベントになると予想していたが星雲の成長を見誤っていたのだ。

 まさか九頭龍の500階層で3時間ローテーションを組むなどと思ってもいなかった。


 そして時間は経過して5日目のモンスタートラップ。星雲は言った通り、3時間ローテーションで最後のモンスタートラップに挑んでいた。


(何か掴めそうな気がするのですがあと少し・・・王やらカリスマなんて意味わかりませんし、黄金の魔力とか言われてもねぇ?黄金の魔力?今まで意識したことはありませんでしたが今私の周りには青系統の魔力をずっと纏っている・・・いや、確か無意識に黄金の魔力を纏っていた時があったはず・・・IEAにカチコミかけた時か!あの時はブチギレていましたし自動的に魔力が切り替わった?愛する人間を傷つけられたから?)


「ネレイド!全魔力カット!制御をこちらに移してください!」


『戦闘中ですよ?承服致しかねます』


「黙って言われる通りにしろ、クソ精霊。セイウンの奴、何か掴みかけているぞ」


 ノアがネレイドに星雲に従うように促す。


『ハァ、知りませんよ?・・・全魔力カット、制御を主様に移します』


「どうも!」


 そして星雲は全てのスキルと魔法を解いた。

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