12.阿弥陀の光も銭次第-2

「ハッハッハァ!彼が金庫番のルカロだ!ちなみに彼はモンスターでもオバケでもないぞ!人間だ!」


「どうもー、人間のルカロです。この姿はクラス特性のスキルでして、オバケとか呼ばれるとショックなのでやめて下さい・・・」


「あっこれは失礼しました」


 星雲は頭を下げる。


「コイツは『メンタラー』、フクオカの怪獣じゃないぞ?幽体や精神、超能力を操るクラスだ。コイツは引きこもり体質でな!普段はIEAの宿舎にこもっているんだ。で、呼ばれたら幽体だけ出して飛んでくる正しく幽霊社員なわけだな!」


「えぇー、そんなのでここのセキュリティは大丈夫なんですか?」


「あ、そこは安心してください。私が千里眼で常に見張っています。あとココの扉は私しか通れないように障壁を張っていますので」


「・・・メンタラーすげーですね。でもあなたしか入れないならどうやって物品を運ぶんですか?」


「そうですね、試しに何か大きなモノを出していただけますか?」


「・・・では、コレを」


 星雲はキンゾ君を取り出す。すると一瞬でキンゾ君が消え去ってしまう。


「え?消えた!消えましたよ!」


 こともなげにルカロは言う。


「転移させました。人間は無理ですがね」


「・・・メンタラーすげー・・・」


「と、言うわけでだここにどんどん吐き出していっていいぞ!あと今後はマツリに渡せば諸々の手続き含めてやっておくようにしたからここまで来なくてもいい!」


 星雲は言われた通りに魔道具や武器、防具などオークションにかけるモノをこれでもかと吐き出していく。出しては消え、出しては消えが繰り返されるので少し楽しくなっていた。

 吐き出される品物の数々を見ながらアイサッドは若干引き気味だ。


「お前、これ売上金がもの凄いことになるぞ・・・まだ魔石やモンスターも、のこっているんだよな?」


「そうですね。ところでオークションはいつから始まるんですか?」


「すでに始まっているぞ、ここの金庫に入った瞬間に物品を読み取り、鑑定士のクラスを持ったやつがモニターで確認、IEAのサイトに順次更新をしていく。で、落札期間は24時間だな。なので星雲は明日の今頃には大金持ちだ!良かったな!」


「えぇ、それはもう楽しみですねぇ!」


「脳汁だろ?」


「いやぁ、そりゃもうドバドバですよ!」


「ハッハァッ!分かる!分かるぞぉ!この快感を知ってしまったらもう抜け出せない!俺もたまにダンジョンに行かないと気が済まない体になってしまっていてなぁ!宝物庫はないかと探し回るんだ!」


「宝物庫を見つけた時の快感と言ったら!たまりませんねぇ!あっ、ダンジョン行きたくなってきた」


「「へっへっへ」」


 ちなみに彼らの様な人間は一部からダンカスと呼ばれています。


「あのー、ダンカスのお二人はそろそろ出て行ってもらえますか?私もう帰りたいんですけど」


「おぉ!済まない!つい話し込んでしまった!星雲よ、そろそろ帰ろう。解体業者も紹介しないといけないんだった。営業担当者が待っているんだよ」


 忘れていた、とアイサッドは頭を叩く。


「お待たせしているんですか?それはいけませんね、向かいましょう。ルカロさんありがとうございました」


「いえ、仕事なので。それでは」


 喋りながらルカロは壁の中へと消えていく。やっぱりオバケにしか見えないと思う星雲だった。

 次に星雲が案内されたのは応接室だった。応接室にはいかにも営業マン!といった額を出して髪を短く刈りそろえたピチッとしたスーツの男性が待っていた。

 アイサッドはその男性に気軽に話しかける。


「いやぁ、笠松君!待たせて申し訳ない!つい話が弾んでしまってね!」


「大丈夫ですよ、私が押しかけたようなものですし。それで、こちらの方が朧さんですか?」


「おう!星付きを2つも所持していて、わずか半月で1等級のエクスプローラになったまさに新星!しかも深層のモンスターを一万体持っている朧 星雲君だ!要するに君にとってのいい金ヅルだな!星雲、こちらは第4地区大手の解体業者、Hagitoriハギトリ Abattoirアバトワール lnc.の笠松君だ」


 笠松と星雲は向かい合って挨拶をする。


「初めまして、笠松と申します。ご紹介のとおりHA社で営業をしております。どうやら大口の取引があるとアイサッドさんから伺いまして、急いで伺った次第です。よろしくお願いいたします」


「これはご丁寧に、朧です。よろしくお願いいたします。大口の取引と言うのは私が所持しているモンスターのことですね?」


「はい、なにせ1万体ですからね。大手のエクスプローラ事務所の約半年ほどの討伐数です。それをなんとエクスプローラになって僅か半月でやってのけるのとは素晴らしい限りですね!凶星スキル?そんなもの関係ありませんとも!ぶっちゃけ私は儲かればなんでもよろしい!あっ、もちろん合法の範囲内で、ですよ?」


 ダンジョンを出てからなんかこういう人ばっかりだなぁと思う。アイサッドがスキルのことを気にしない人員を手配している訳だが、星雲からしてみれば異常事態だ。今まで疎まれていた状況から一変しすぎて困惑している。


「は、はぁ、では解体をお願いできるのですか?」


「もちろんです!専属契約を結んで頂きたい!」


「専属契約ですか?」


「そうです!ふつうは大手事務所としか結ばないんですが今後もエクスプローラを続けられるのですよね?」


「まぁ、そうですね。製作所との兼業ですが、自分で材料を採ってきた方が自分の満足度も材料費も浮きますし。恐らく余剰分は売りに出すということになりそうです」


「で、あればもちろんモンスターもたくさん狩ることになりますよね!?そうですよね!?」


「ま、まぁモンスタートラップが一番効率良いですからね。そうなると思います」


「と、いうことは最低でも一回の探索で千体は最低でも確保できるということですよね!?そうですよね!?」


 笠松の圧がすごい。鼻息も荒い。ついでに言うと涎も垂れている。


「そ、そうですね。」


「そうであれば是非!弊社と専属契約を!モンスターはそのまま持ってきて頂ければこちらで全て解体致します!手数料は売却益の9%でいかがでしょうか!」


「9%と言うのが適性なのか分かりませんから何とも言えないのですが・・・」


「おおっとぉ!これは失礼しました!通常のエクスプローラ事務所からの委託であればダンジョンからの配送手配、解体、売却の代行で15%を頂戴しているのですが!9%というのは大量供給が見込める大手事務所やX等級エクスプローラと同等の料金になります!」


「それは、いい条件・・・ですよね?」


「もっちろん!もっちのロンですとも!弊社には怪我や加齢によってエクスプローラを引退したインベントリ持ちのエクスプローラを大量に雇っていましてですね!配送もその社員が担当しているため何度も何度もトラックやら、容量の少ない拡張バッグなどで往復しなくてもいいのです!ダンジョンから出てきたら電話一本!第4地区内(日本列島)のダンジョンであればなんと!なんと!1時間以内に伺えるように整えてあります!どうでしょうか!素晴らしくないですか!?良いですよね!?」


 星雲はもうどうでも良くなってきていた。


「あっ、そうですね。ではお願いします。契約は「こちらに用意しています!」・・・何から何まで準備万端と・・・では、ここにサインを?・・・ハイ、書きました。では、今持っているモンスター「すでにエントランスに配達員を待たせてあります!」・・・もはや芸術的ですらありますね・・・では一万体の解体はどれくらいの時間がかかりま「解体士のクラスを持った人員を増員して待機させているのと機械はラインを1つ空けて待機させているので2日あれば!その後IEAに配送しますのでそちらでの査定が1日ですので入金まで計3日ですね!」・・・はぁい、もう何も言うことはありませぇん」


「はい、ありがとうございます!では配達員を呼んできますので少々お待ちください!」


 飛ぶように笠松は応接室を後にする。


「・・・エネルギッシュな人だなぁ」


「ハッハッハァ!面白い奴だろ?」


 アイサッドが笑いながら問いかける。


「いや、まぁ面白いですが社会人としてどうなんでしょうか?」


「何を言っている、エクスプローラの周りなんて変人ばかりだぞ。今まで会ってきた奴も、もちろんお前も含めてな!」


 笠松やその他と同類と言われてまともだと思っていた星雲はショックを隠し切れず絶句している。ちなみに脳汁がどうの言っている奴がまともなわけがない。


「何を驚いた顔をしている?喜び勇んで深層のモンスタートラップに入って、戦闘に愉悦を感じて、ソロで50階層も踏破する奴がまともだと思っていたのか?ハッハッハァ!こりゃ傑作だ!星雲は間違いなくだよ!変人仲間としてよろしくやろうじゃあないか!」


「私は真面目で誠実で善き人間のハズ・・・そ、そんなバカな」


 ショック過ぎてまともに立っていられなくなった星雲は笠松が配達員を連れてきてからも焦点の合わない目で言われたとおりにモンスターをインベントリへと流し込んでいくロボットと化した。


「はい!これで全てですね!では目録はMDに送っておきますので!では!失礼いたします!」


 笠松は最敬礼で挨拶を終えて配達員と共にダッシュで去っていった。


「おーい、そろそろ正気に戻れー」


 アイサッドが星雲の頬をビンタする。


「ハッ!?・・・意識が飛んでいました。笠松さんは?」


「もう帰った。お前のモンスターを持ってな。目録をMDに送っておくって言っていたぞ」


 星雲はMDを確認する。そこには預けた証明書と共に内訳が細かく書かれていた。内容を確認している星雲のMDを見てアイサッドがため息をつく。


「星雲よぉ、MDを買い替えろって、健四郎から言われていなかったか?」


「ん?あぁ、言われていましたね。すっかり忘れていましたよ。この後、ホテルに行く前に機種変更してきます」


「そうしろ」


 破壊音が応接室に鳴り響く。星雲のMDは破壊され、マチェットを持ったアイサッドと星霊の剣を持った星雲が対峙していた。


「・・・何をするんですか?」


「お前のMDにはな、ビーコンが壊されているだけじゃない、マルウェアも思いっきり仕込んであるんだよ。盗聴もされているし個人情報も全てダダ洩れだ。健四郎が言っていただろう、買い替えろって」


「そういう意味だったんですか・・・」


「全く、お前は・・・あのなぁ、俺はお前のことが気に入っている。権限を使って守ってやれる範囲は手を尽くすつもりでもいる。だが、自分の身を守れるのはいつだって自分1人だぞ?星付きを2つ得たからと言って星雲は凶星スキル持ちなんだ。殺したい奴、利用したい奴なんぞごまんといるんだ。ダンジョンから生きて帰ったからって気を抜くと何をされるか分からんぞ?」


「では、ダンジョンから出てきて私が出会った人物たちは・・・」


 フッとアイサッドが笑い、武器をしまう。


「そこは安心しろ、俺が直接調べているし鏡は言わずもがなだろう?」


 疑心暗鬼になりかけていた星雲は少し安心する。


「ありがとうございます。で、大元のアイサッドさんは信頼して良いのですか?」


 星雲が距離を詰め胸に剣先を突き付け、再び緊張が張りつめる。


「信用ならんなら今ここで殺してくれて構わんよ」


 沈黙が続く。それを破ったのは星雲だった。


「はぁ、やめておきます。あなたになら騙されていても文句は言いません」


「ほう?なんでだ?」


「勘ですよ!」


「ハッハッハァ!勘か!」


「そうです、清濁凶星スキルと併せ吉星スキル持つエクスプローラの勘です。それに星付きは惹かれ合う、私もアイサッドさんのことを嫌いになれそうにありませんので。ところで・・・」


「ん?なんだ?」


「お金貸してもらえます?私、昨日ダンジョンから出てきたんですよ?クレジットカードもキャッシュカードもない今、MDしか支払方法を持ち合わせていなかったんですが・・・」


「・・・調子乗りました。ごめんなさい」

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