11.阿弥陀の光も銭次第-1


「そうだな!思い切って換金してしまおう!いやぁ、やっぱり一発当てて大金を得る!自分のことではないがやっぱりこの感覚は脳汁がたまらんな!」


「分かりますよ!もう今脳汁ドバドバです!いくらになるか想像するだけで涎がとまりません!」


「おぉ!星雲君よ!これにハマったら抜け出せなくなるぞぉ?脳汁地獄だ。もうなぁ、どぴゅっと出て堪らないんだぞぉ」


「「うっへっへっへぇ」」


 注:ギャンブラーの話ではありません。ダンジョンの話です。



 ◇2分前◇


「ん~、これは残しておきたいですね。自分の製作所を持とうと思うので」


 星雲は検査を終えて明日までの余った時間で鏡と病室で何を売って何を残すかを話し合っていた。


「おっ、義肢装具士も続けるのかい?」


「ええ、エクスプローラと兼業ですが」


「じゃあ1人は雇った方がいいな、星雲君がいないときの留守番も兼ねて」


「要りますかね?私が探索に行っている間は閉めておこうかと思ったのですが」


「受注は止めても急なメンテが入ったらどうするよ?」


「あぁ、う~ん・・・でも人を雇うのはなぁ。まずは業績を上げてからの方が」


「アホか、俺を含め星雲君の担当していた顧客は全員行くんだぞ?あと君の両親の顧客もだ」


「えぇ?新しくできたナカムラ製作所でしたっけ?そちらに顧客は移っているのでは?」


「シンプルに技術が無くて評判が悪い、俺含め朧家に世話になっていたやつは頭を抱えている。だから星雲君が生きているって聞いて皆嬉しがっていたぞ。ついでにキサラギ先生にも伝えておいたら泣いて喜んでいたよ!」


「それは、なんとまぁ嬉しい事です。製作者冥利に尽きますよ」


「と、いうことでだ。目下、星雲君には金が必要なわけだ」


「そうですねぇ、まぁ宝物庫2部屋分とモンスター1万体の素材と魔石があるので売り払えばどうとでもなるわけですが・・・悩みますね」


「そうだな、どれくらい素材を残しておくかだな」


「・・・ぶっちゃけ聞きますけど妖怪型モンスターの義肢って欲しいと思います?」


「・・・全く要らないな!」


 きっぱりと鏡は言い切る。妖怪型のモンスターは食用でもあまり人気はない。一応素材としては優秀なのだが日陰の素材として扱われている。


「ですね!じゃあ全部売りましょう!なんか呪われそうですし!あと魔石も最低限残しておいてあとは売ればいいですね!ダンジョンに潜ればいくらでも手に入りますし!あと武器はいりませんね!鏡さんから頂いた剣もあるので!」


「・・・お前その妖怪の肉食ってたんだろ?もう呪われているんじゃないか?」


 ちなみに一部の界隈では呪いがかかるとして呪物扱いされていたりもする。もちろん迷信だ。


「・・・やめて下さい、あれは豚肉でした。何の疑いもなく豚肉だったんです!」


「いや、豚の妖怪・・・」


「豚肉です!」


「まぁ、そうだな。モンスターの肉は一般にも旨い食べ物として出回っているしな・・・」


「そうです!アレは旨い肉でした!それ以上でも以下でもありません!」


「うん、そうだな。きっとそうだ!そうに違いない!さ、さぁ売るものを決めようじゃないか!」


 鏡は無理やり話題を戻す。


「そうですねぇ、やはり鉱石は残しておきたいです」


「キンゾ君見つけたんだって?しかも超高性能のヤツ」


「そうなんですよ、これがまた便利でして。鉱石からの精錬も可能なんですよ。あっ、でもワングレード下のキンゾ君なら売りに出してもいいですね、これはオークションの方がいいのですか?」


 鏡は頷く。


「基本的に武具や魔道具はオークションにかけた方が値は付きやすいな。ちなみにオークションはIEAが主に仕切っているからな。手数料5%になるのはデカいぞ、普通は10%だからな」


「とりあえず今から貴金属のインゴットをいくつか売って当面の生活費を用立てましょう。あとは武器ですかぁ、ちなみに鏡さんは妖刀の類とか使いますか?」


「全く使わんな!」


「じゃあ武器類でもあまり高額はつきそうにないと・・・」


 鏡は首を横に振り星雲の意見を否定する。


「チッチッチ、星雲君よ甘い、甘すぎる!妖刀や特殊効果がついた武器防具なんかはかなりの高額で取引されるのだぁ!」


「なんですって!?なぜですか!?」


「フフーン!それはな!クラスにある!」


「クラスですか?」


「そう、世の中には多種多様のクラスがあるわけだ。剣士だとか魔法師だとかが一般的だな?」


「えぇ、よく聞きます」


「それが派生クラスとなると話は別!クラスが一気に化ける!妖刀のデバフを防いで能力を底上げできる妖刀使いやデバフをあえてつけることで条件付きの強化を行えるクラスが世の中には溢れているのだよ!なので我々からしてみればいらない特殊能力でも一部の人間からしてみたら喉から手が出るほど欲しいレアアイテムとなるわけだ!特に深層の武器防具となると値段は天井知らず!まさに「チッ時短かよ、からの潜伏確変!残保での引き戻し!一発逆転の裏ドラで数え役満にあがるほどの衝撃!」


「ふぉぉぉぉぉ!脳汁!脳汁案件ですね!?」


 と、ここで会話が冒頭に戻るわけだ。ね?ダンジョンの話だったでしょう?

 その後も2人はあれやこれやと売るものを決めていく。しっかりと徹夜して深夜のテンションも乗り越えて今は2人とも少し冷静になってきていた。


「いやーすっかり朝じゃないか。調子に乗りすぎましたね。おっ?エクスプローラ用口座に振り込みがありました。これでしばらくホテル暮らしでも大丈夫そうですね」


「本当か?良かったな、じゃあ俺はそろそろ帰るわ。また新しい家が決まったら連絡くれよ。その時は一杯やろう。あぁ、あと退院したらまずMD買い替えておけよ。星雲君のそれ、生存ビーコンに細工されているから」


「えぇ・・・それ早く言ってくださいよ」


「そんなこと言っても俺だって職員をボコっている時に知ったんだから無理言うなよ。じゃあな」


「はい、何から何までありがとうございました」


「気にするな俺と星雲君の仲じゃないか。今度会う時は異世界のお嬢さんも紹介してくれよー」


 星雲の顔が強張る。


「・・・異世界人って私言いましたっけ?」


「言ってないけど現在この世界での星付きの顔は全員知っているからな。多分アイサッドも気づいていると思うぞ。まぁ俺は深くは聞かんよ。星雲君なら上手いことやるだろ」


「まぁ、はい、ありがとうございます?」


「ハハッ、なんだそれは。じゃあな!」


 鏡は軽い足取りで部屋を出ていく。星雲は少し今後のことで不安になるが、考えても仕方のないことだと諦めて少しだけ眠ることにした。



「朧さーん、起きてくださーい。退院の許可が下りましたよー」


「んぁ?あぁすいません。ちょっとだけ眠る無理つもりが随分と寝てしまったようで」


「大丈夫ですよ、それよりも退院の許可出ましたのでココにサインをお願いします・・・はい、ありがとうございます。じゃあこれで手続きは完了しまさので、荷物・・・はありませんね。なのでいつ出て行ってもらっても大丈夫です!」


 星雲は電子証明にサインしながら看護師の言葉で着替えが何もないことに気がつく。さすがに宝物庫から出てきた防具を着て外に出るわけにはいかない。


「あのー、もう少しここにいてもいいですか?帰るための服がないことに気が付いてしまいました」


「ハイ,本日15時までに出て頂ければ問題ありませんよ」


 星雲は看護師に許可をもらい早速服を手配する。MDを使用してオンラインで注文すれば1時間もしないうちに服が届いたので星雲はさっと着替えて病院を後にした。

 これからどうしようかと思いながらとりあえずコンビニに寄ってタバコを買い、喫煙可能な喫茶店に入り久しぶりに火をつける。


「はぁ~嗜好品なんていつぶりでしょうか。借金があったから本当にたまにしか吸ってなかったですし、お金から解放されたタバコは美味いですね~」


 そして星雲はあることに気づく。


「・・・いやいやいや、そういえば借金返していませんねぇ!?生きて帰還できたことに喜んですっかり忘れていました。これは早急に換金してお金を用立てせねば」


 星雲は言いながらMDを起動し、鏡と話し合った分の品物を全て売却手続きを行う。魔石と貴金属のインゴット系はIEAへ、魔道具と武器防具はオークションへ出品する手はずを整えて配送にするか持ち込みか選択するように求められたので一度アイサッドに確認することにした。

 通話をタップしアイサッドを呼び出してみる。1コールもならないうちに通話が開始された。


「星雲君か!昨日ぶりだな!どうした?何かトラブルでも?」


「どうも、アイサッドさん。いえ、トラブルというわけではないんですが今ダンジョンから持ち帰った品物の売却手続きを進めていたんですが、量がかなり多いのでどうすればいいかと思いまして。全部配送にしてもいいんですが配送料も馬鹿にならないですし、私なら直節持って行ってそこで取り出せばいいだけなのでそちらが良ければ伺いたいのですが。」


「あぁ、なるほど。そうだなぁ、そうしてくれると助かるな!IEAの場所は知っているかい?」


「えぇ、登録の時に伺いましたので。何時ならお手すきですか?」


「そうだなぁ、じゃあ2時間後の15時でどうだい?」


「承知しました。では15時に伺います」


「あぁ、では2時間に」


 星雲は紫煙を吐き出してとりあえず最短でお金は工面出来そうだと安心する。


「あぁ、そうだ。今日泊まるホテルを予約しておこう・・・安宿で良いですね、連泊する予定ですし、ダンジョンの中に比べればどこでも安眠できる気がします」


 星雲はとりあえず寝床を確保してノアをいつ起こすか考える。


「ん~・・・今起こしたらアイサッドさんは絶対話を聞くって言いだすでしょう?となるとホテルで?いやぁ、でも2人分の宿泊費を出すのはもったいないですね、なんせ空間内に放り込んでおけばタダなわけですし・・・とりあえず今はいっか!」


 まさかの思考放棄である。それからコーヒーとタバコを楽しみながら時間を潰し、IEAに15時に着くように出発して14時55分に到着した。

 星雲は受付に要件を伝える。ちなみに受付は人間だ。受付用AIボットも存在しているがIEAは採用していない。


「15時からアイサッド・バドルさんと約束をしている1等級の朧です」


 受付は何ともまぁ、奇遇と言うべきか星雲がエクスプローラの登録の時に担当していた人物だった。笑みは引きつっている。


「・・・朧様ですね、確認が取れました。少し前の予定が押しているようなのでしばらくお待ちいただけますか」


「承知しました」


「・・・制御できたらしいですね」


 受付が唐突に口を開く。


「はい?・・・あぁ、スキルのことですか。ええ、そうです。それに木星スキルまで手に入れましたよ。皆様にはお礼をしたい気分ですね」


 受付嬢の顔が恐怖に塗られる。


「・・・殺すつもりですか?」


「まさか!そんなことしませんよ。これからエクスプローラとしてお世話になっていく身ですからね。持ちつ持たれつでいきたいところですね」


「・・・では私から一つだけ忠告を」


「何ですか?」


「あなたの命を狙っている人はまだたくさんいるということです。バドル部長はダンジョンにも潜る現場タイプで朧様にも理解を示されていますが、事務方はそうではありません。疎ましく思っている者もかなりの人数います。なので、気を付けて下さい」


「・・・あなたは私を拘束したがっていた側の人間なのでは?」


「そうですよ?それはスキルの制御なんて出来るわけがないと思っていたから、その1点です。それがX等級ダンジョンに放り込まれ、凶星スキルを制御し、木星スキルまで手に入れたわけです。というわけで私が朧様のことを疎ましく思う理由はなくなったということですね。これからも人類に貢献していってくださいね」


「現金な人ですねぇ」


 星雲は苦笑いだ。


「あら?嫌でしたか?」


「いいえ、全く。むしろ好感が持てます」


「それはどうも、マツリ・ソノダです。どうぞマツリとお呼びください。今後、担当をさせていただきます」


 マツリは手を差し出す。星雲と握手を交わすが疑問が湧いてくる。


「よろしく、マツリさん。ところで担当と言うのは?」


 マツリは首を傾げる。


「部長から伺っていませんか?」


「全く伺っていませんね」


「ハァ・・・1等級以上のエクスプローラにはそれぞれ担当がつくのです。なにせダンジョンから持ち帰ってくる質も量も2等級以下とは桁が違うからです。ダンジョンから帰ってくるたびにエクスプローラに煩雑な手続きをやってストレスを与えるより、更に潜ってもっといいものを漁って来いというわけで、担当に丸投げしていただけたらその辺の手続きは全てこちらで行うからIEAと仲良くしてねということですね」


「あぁ、なるほど。では改めてよろしくお願いします」


「はい、お願いされました・・・あぁちょうど部長の予定が終わったようです。こちらに降りてくると言っていますのであちらのソファにでも座って待っておいて下さい」


「承知しました、ではまた」


 星雲は指定されたソファに座りボーッと天井を眺めていると視界に大男が映る。


「おぁ!?びっくりさせないで下さいよ!アイサッドさん!」


「ハッハッハァ!すまんすまんあまりにもボケっといていたのでつい、な。待たせてすまない。オークションに出品するための保管庫があるから案内しよう」


「ありがとうございます」


 2人はエレベーターに乗り地下へと向かって行く。

 地下8階に着くとエレベーターの扉が開く。


「ここですか?随分と殺風景な場所ですね」


 そこには白い壁に金庫らしき扉があるだけのシンプルな部屋だった。


「まぁな、金庫番を呼ぶから少し待っていなさい」


「は?呼ぶとは?」


 アイサッドが笛を鳴らすと壁から半透明の若い男がぬっと現れる。


「おばっ!?オバケ!!アイサッドさん!オバケぇ!」

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