7.不弧有隣 その1

「・・・おや?私は眠ってしまったのですか」


「おぉ、起きたか!どうだ?感覚は?」


 星雲は両脚と右腕を意識してみる。


「・・・何やら幻肢痛とは違う感覚ですね。自分の手足が無いのに魔力の手足があるような」


「うむ、魂の形が魔力を通して認識できるようになるからな。これで義肢にしても魔力は通せるし強化も可能になった」


「じゃあ早速、装着しますか。悪いんですが持ってきてもらえます?」


 ノアが先ほど製作した義肢を星雲の元に持ってくる。星雲は受け取り右腕から装着をする。


「にゃぁぁぁー」


「なんだ変な鳴き声を上げて、気持ち悪いぞ?」


「神経がつながる時、ゾワッとするんですよ」


 義肢の動力源は魔石が埋め込まれている。肘と手関節の伸展、屈曲、回内外、内外旋など基本的な動作を確認し、問題ないことを確認する。


「よし、問題なく動きますね。じゃあ次は両脚ですか」


「にゃぁぁぁー」、「にゃぁぁぁー」


「だから気持ち悪いって」


「言っているでしょう!私だって恥ずかしいんですよ!全く・・・」


 星雲はゆっくりと立ち上がり、神経が接続されていることを確認する。


「おぉ、やはりスキルで無理やり動かすのとは違いますね。それに魔力が通る。」


 星雲は動作確認をしながら一歩一歩慎重に進んでいく。数分すると慣れてきたのか走ってみたり、反復横跳びをしてみたり、最終的には魔力を込めて強化しジャンプをする。

 天井に頭をぶつけて落下してくる。


「・・・イテテ、調子に乗りすぎました。でもコレ凄いですね!」


「フフン!そうだろう!ワレに感謝しろよ!」


「感謝しますとも!いやぁ、この施術が一般的になればものすごいことになりますよ!」


「いや、無理じゃないか?この世界の人間だとここまでの魔法は使えないだろ」


「へ?そうなのですか?」


「そうなのですよ、セウインさん。私はスキルの力で魂が見れるからな、それとかなり高度な魔法の理解が必要になる」


「あぁ~、そうでしたね」


「まぁ私はセイウンの工房で働く予定だからな!お前の知り合いくらいなら施術しても構わんだろ!」


「おぉ!ありがとうございます!」


「構わんよ!自由にしてもらったお礼だ!それよりご飯にしないか?」


「そうですね、また肉でも焼きますか。じゃあテントの中に行きましょうか」


 星雲はそう言って適当に切り分けた肉を取り出していく。


「・・・おい、セイウンよ」


「ん?どうしました?」


「お前なぁ、素人にもほどがあるだろ。血抜きもしてない、適当に切り分けている、これは肉だが精肉ではないじゃないか」


「そりゃあ、素人ですし。肉の部位なんて分かりませんよ。ましてやモンスターの肉なんてなおさらです」


「あぁー!もう、外に出ろ!ワレがやる!ワレは250年以上ぶりの食事だぞ!?こんなもの食えるか!」


 それからノアはセイウンにまだ解体していないモンスターを出させて指導しながら解体していく。


「まず血抜き!それでココはこう!ココはこうだぁ!覚えろよ!?だぁ!ハラヘッタぁぁぁ!」


 星雲はあまりの速さに覚えれるわけないじゃないですか、と心の中で思いながら適当に話を合わせておく。これからはノアに解体を任せることを誓った。

 テントの中に戻ってもノアのモンスター料理講座は続く、気が付けばテーブルには美味しそうなステーキが出来上がっていた。


「ほれ!食うぞ!もうワレは限界だ!」


「ハイハイ、じゃあ食べましょう」


 2人はステーキにかぶりつく。星雲は驚くことになる。


「ウマッ!何ですかコレェ!?」


「・・・はぁぁぁぁ、250年ぶりの食事、最高だぁぁぁ」


 2人はそこから無言で1㎏以上あるステーキを平らげていく。


「最高でした、ありがとうございます。今後の料理は任せて大丈夫ですね」


「最高だったな。おい、お前もやるんだぞ」


「じゃあ私は寝ますので・・・おやすみなさぁい」


「おい!お前も覚えろよ!おい!本当に寝やがった・・・自由な奴だ」


 パッと目が覚める星雲の横ではノアがいびきをかきながら寝ている。ダンジョンの中で過ごしているし時計もないのですでにどれくらい時間感覚はすでになくなっている。


「ふぁ・・・ねむ、さぁて起きますかぁ。あぁ、コーヒーが飲みたいなぁ」


 星雲はテントから出て手付かずだった武器防具をみることにした。


「まぁ星霊の剣せいれいのつるぎが使い勝手いいので武器はいいとして、防具は必要ですよねぇ」


 そう、現在の星雲は防具をつけていない。ダンジョンに入ってきた時に装着していた『Nebula-Brace,全身Ver.』は最初に脚を切られた時にぶっ壊れたのですでに廃棄している。


「そうか、無いなら作れば良いじゃないか」


「何をだ?」


 ぬっと星雲の横にノアの顔が現れる。


「うぉ!?あぁ、ノアですか。驚かさないで下さいよ。いやね、防具を見ていたんですがどうも私の美的感覚に合うものがないのでいっそのこと戦闘用装具を作ろうかと思いまして」


「ほう!いいな、それ!私も手伝うぞ!」


「そうですか!じゃあ朝食を食べたら作っちゃいますか!」


 星雲たちは朝食にまた肉を食べさっさと作業に取り掛かる。


「義肢部分は強度は充分なので断端から体を覆う様な構造で、平面充填の良いハニカム構造にして、更にフレームで動きを補助できるように、その動力は魔石で補うと」


「うむ、それで良いな。あとは私が付与すればいいだろう」


「付与?」


「そうだ、魔法金属にはな魔法で色々と効果を付与できるんだ」


「おぉ、凄いですね!そんなことこっちの世界では出来る人などいませんよ!」


「ハッハァッ!ワレは凄いんだよ!そうだな、とりあえず強度上昇でいいな!頭部には視界が狭まらないように透過を付与しておこう!あと私はこのデザインがいいな!」


「フゥゥゥ!いいですね!楽しくなってきましたねぇ!」


 付与という技術はこの世界でも研究されているがまだ実現不可能な技術だ。

 ノリノリの2人は全く気がついていない。後に知ることになるがまぁいいかと済ませている。


「色はどうしますか?私はメタリックな紺色にします!」


「ワレは黒!マットな方がいいな!」


 キンゾ君にデータを打ち込み加工を行う。キンゾ君改めてまじ神。


「出来ましたね!早速装着しましょう!」


「そうだな!」


 2人は出来上がったらすぐに装着してみる。装着が終って使用感を確かめようとしたら剣が首筋に当たる。


「なんですか?剣を突きつけるのが趣味なんですか?」


「違う違う、実際に戦ってみれば性能もわかるだろう?それに鍛えて欲しいのだろう?今のセイウンの実力を確かめておこうと思ってな」


「まぁ、確かに。では胸をお借りします」


 そう言って星雲は星霊の剣せいれいのつるぎを抜き。全身に魔力を込める。義肢にも魔力が行き渡り強化されているのが分かる。


「では、行きますよ」


「うむ、いつでも来い」


 星雲がスキルを発動し、一気に距離を詰め袈裟斬りを狙うがノアは素手で剣を受け止めてしまう。


「マジですか、スキルものせてるんですが」


「マジなのだ、魔力の操作が雑すぎる、スキルへの理解が浅すぎる、そして魔力量が少なすぎる」


 星雲の腹に衝撃が走る。ノアが前蹴りを繰り出したようだ。


「ガハッ!」


「装具の性能は抜群だな!その程度の魔力強化でも体が千切れないのは及第点だ!」


「うげぇ・・・ギモヂワルゥ」


「おい、ばっちいから吐くなよ。人の吐瀉物なんぞ見たくないぞ」


「クッソ、ダメダメですね。それなりに戦えるつもりでいましたが」


 ノアは首を振って呆れたように言う。


「精々、モンスターを百程倒しただけだろう?甘い甘い、せめて万は倒して魔力を育ててようやく、と言ったところだな。まぁ大体方針は決まった」


「ぜひ方針をご教示頂きたいですね」


「今言っただろう?万を倒せ」


「はい?」


「だから、モンスターを1万倒せと言ったのだ」


「ここは深層ですよ?一階層分抜けてくるだけで必死だったのに?」


 星雲は教えを乞う相手を間違えたことを理解した。


「あほか、ここは深層ではない。お前らが勝手に名前をつけただけだろう、本当の深層はまだ先にある」


「マジですか」


「マジなのだ」


「はぁぁぁぁ・・・分かりました。万だろうが億だろうが倒してやりますよ!」


 星雲は決意を固めて拳を握る。


「ヨシ!じゃあ1日千体、合計10日で1万体だな!あっ、毎日寝る前に私と模擬戦な」


「やっぱり辞めます。今までありがとうございました」


 星雲はきれいにお辞儀をして逃げるようにテントの中へと入っていく。


「逃げるな!」


 ノアは星雲の首根っこを掴んで引きずりだす。


「ホレ、今から行くぞ!」


「明日から!明日からやりますから!」


「明日やろうはバカ野郎だ!」


「い~~~~やぁ~~~~~」


 ズリズリと引きずられ星雲は宝物庫の外に連れていかれていった。

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