6.回天之力
「・・・骨格にはミスリルとチタンの合金の方が良くありませんか?それに筋肉はモンスター素材がありますよ?もしくは私の細胞をそこの魔道具で培養すればより生体に近づけますが」
―チタンと言うのはこの世界の物質で?・・・ほうほう、ソレはいいですね!ではそれで行きましょう!あぁ、筋繊維や表皮、内臓はモンスターとあなたの細胞を合成させましょう!より魔力が伝藩しやすくなります!―
「そうなのですか?では、筋繊維はミスリル銀とアダマンチウムを編み込んだらパワーが出ますよ?それで表皮は培養細胞でいいでしょう」
―フゥゥゥ!いいね!これは傑作が生まれる予感!―
話し込むこと数時間、あれやこれやとお互いの技術を積み込みながら話を進めていく星雲と石。そしてキンゾ君で骨格と筋繊維を合成し、コンゴ―君を使って組立。バイオ君にモンスターと星雲の細胞と出来上がった体をぶち込み、表皮と戦闘に関係ない部分の内臓やら表情筋やらを設定。そして、とんでもないキメラが完成することになる。
見た目は160㎝後半に整った肢体で美しい女性だが中身は狂暴そのものだ。
「・・・出来ましたね。魂を移すにはどうするんです?」
―ワレを胸部に押し付けてくれますか?―
「こうですか?」
そう言って星雲は胸にクリスタルを押し付ける。そうするとクリスタルはズブズブと出来上がった体の中に入っていく。
「おぉー、キモチワルイですねぇ」
クリスタルが入ってから数十秒、キメラの目がパッと開く。
「キモチワルイとか言わないで下さいよ!こんな美しい見た目なのに!」
「いやー、体に鉱物が入っていくんですよ?ホラー以外の何者でもないでしょう。うまくいったようで良かったですね。体の調子はどうですか?」
「あっ、そうでした!ありがとうございます!体はばっちりですよ!ほらこの通り!」
そう言ってジャンプをすると勢い余って天井に頭をぶつけて墜落してくる。
「いやぁ、とんでもないパワーですね。調子に乗ってヤバいものを作ってしまった気がする・・・」
「そうですか?私はとっても調子がいいですけど?まぁ練習は必要ですが。なんせ約300年ぶりの感覚ですから」
「・・・うーん、まぁいいか!どうなっても私は知らぬ存ぜぬで通しましょう!それであなたの名前は?」
全然よくない。魔法を自在に使う異世界人、しかも肉体のスペックは人を軽く超えるモノ。人類にとっては脅威以外の何者でもない。
「あぁ忘れていました。ノア・ハルチャンドです。どうぞノアと呼んでください、よろしく」
ノアはきれいなお辞儀をして星雲に挨拶する。
「ノアですね、私は朧 星雲です。敬語でなくて結構ですよ」
「そう?じゃあヨロシク、セイウン。あなたももっと砕けた口調でいいぞ?」
「いえ、性分なのでこのままで。とりあえず服が無いと不便ですね。これでも着ておいて下さい」
「あぁ、ありがとう。と言うかセイウンさぁ~この体見ても何とも思わないのか?」
体を星雲に寄せながら上目遣いで問うてくるノア。
「何とも思いませんが?中身は人間を超えた化け物、外側は自分の細胞を混ぜたんですよ?」
ガクッと頭を落としてしまうノア。
「さぁ、さっさと私の義肢を作るのを手伝って下さい、あと直結術も。もう腐敗臭がひどくてスキルで動かすにも限度があるんですよ」
「聞いていて思ったんだけど義肢でいいのか?ここにある設備なら手足を再生できるじゃないか。しかもワレもいるし、パパッと出来るぞ?」
星雲は首を振り申し出を断る。
「いや、これは私の戒めとして残しておきます」
「戒め?」
「えぇ、スキルに振り回され続けた弱い自分への戒めです」
「ふぅん、スキルねぇ。星付きだろ?」
「そうですよ。良く分かりましたね」
なぜ分かったのかと星雲は首を傾げる。
「そりゃあ、ワレも星付きだしな。あと、ここに入れるのを星付きだけにしたのだ。それに星付きのスキルは惹かれ合うのだ、星々が引力で引かれ合っているように。この世界じゃあんまり知られてないのか?」
「知りませんね。もしかしたら他の人は知っているかも知れませんが。そもそも私はダンジョンに来たの今回が初めてなので」
「は?なんで?星付きはダンジョンの申し子、英雄だろ?星付きスキルなんて生まれてきた時点でその町総出で祝うようなことじゃないか」
次はノアが首を傾げる番だった。
「いえ?私は凶星スキル持ちということで疎まれてきましたが?」
「うん?凶星スキル?」
「えぇ、凶星スキル海王星、この世界では吉星スキルと呼ばれる5つが英雄で凶星スキルと呼ばれる5つが極悪人扱いなのもで」
「はぁ?じゃあ今までどうやって生きてきたのだ?」
星雲はところどころ掻い摘んで今までのことをノアに話す。十数分後、ノアは涙を流しながら星雲をあやしていた。
「うぅ~、そうかそうか。セイウンは苦労してきたのだなぁ。ヨシヨシ、いい子いい子してあげるぞ」
「しなくていいです。子供じゃあるまいし」
冷たくあしらう星雲だがノアの親身になってくれる姿勢には少しだけ嬉しく思っていた。
「ところでノアのスキルは何なんです?」
「あぁ、私のスキルは『法王星(アンブローズ)』というスキルだな。魔力増殖、魂観測、龍召喚、剣聖がセットになっているぞ」
「剣聖は分かりますが、龍召喚と魔力増殖というの・・・は?」
星雲が言い切る前にノアの体が消えて目の前には2体の龍が大口を開け、首筋には剣が当てられていた。
「とまぁ、こんな具合で2体の龍が召喚できるのと、1の魔力で体外のマギ粒子を10の魔力に変換できるのだ。まぁ龍は魔力消費が激しいので滅多に使わないがな。普段は剣と魔法を使う。お前の復讐にも全力で手を貸してやるぞ?」
ノアの説明が終わると龍は霧散し、剣が首筋から離される。冷汗をかく星雲。やはりヤバイモノと出会ってしまったと思うが時すでに遅し、出会ってしまったモノは仕方がない。それに星雲はふと疑問に思う。
「復讐?私そんな話しました?」
「おや?IEAとやらに随分と煮え湯を飲まされたのだろう?今ココにいる理由だってそいつらが殺すつもりで飛ばされたのだろう?悔しくないのか?」
「あぁ、そういう意味ですか。うーん、悔しくはありますが私はエクスプローラを続けますよ?ここにある金銀財宝を売り払ってから、そうですねぇ・・・何をしましょうか?」
「おいおい、そんな覇気のないことでいいのか?ワレなら組織ごとぶっ壊そうとするぞ、まぁそれが失敗して魂を封印されたわけだが、ハッハッハァ!」
「・・・まぁ、とりあえず義肢装具の製作所でもひらきますかねぇ」
「いいな!じゃあワレもそこで働こう!元々研究畑の人間だしな!私は武器防具でも研究しようかな!この世界にはブレーン156に無い元素もあるみたいだし!」
「いいですね、武具や義肢装具を扱う工房にしましょう。とりあえずはこのダンジョンを脱出してからじゃないとどうにもなりませんが」
「それはワレに任せておけ!この程度のダンジョンなら一か月もあれば攻略できるぞ!」
魅力的な提案に星雲は心躍るがすぐに首を捻って悩みだす。
「ん?どうした?」
「いやぁ、ノアは強いですよね?」
「ん?まぁな、研究は好きだが戦闘も同じくらい好きだぞ、それが?」
「私を鍛えて下さい。ここから出ても私は凶星スキル持ち、今後どうなるか分かりません。まぁ、吉星スキルも取得したので何とかなる気がしますが・・・私には今強さが必要です」
決意の眼差し。金が必要だと言っていたがこの宝物庫だけで十分手に入る。そしてスキルを受け入れたことによって重要度は低くなった。誰にも屈しない強さが欲しい。
ノアはじっと星雲を見つめ続ける。しばらく無言で見つめ合う2人。
「・・・ヨシ!いいぞ!とりあえずはセイウンの義肢から作らないとな!・・・恩のあるお前に言いたくはないがさすがに臭いぞ?」
「うっ・・・!わ、分かっていますよ!さっさと手伝って下さい!」
自分も気にしていたことを言われて恥ずかしくなり、作業へ向かう。とりあえずは義肢の製作だ。
「こちらの世界ではどのような技術が一般的なのだ?」
「昔からあるソケット式で表在筋電を拾うタイプと断端部を施術して直接神経を直結させる直結式とありますね」
「ふむふむ、では魔力との併用式は無いのだな?」
「併用式ですか?」
「そうだ、神経を義肢に直結させるだけでなく魔力回路を拡張させて魔力を結合させるのだ。これなら本来肉体にしか宿らない魔力を義肢にも通わせることができる」
「ほう、そんな便利なものが。いいですね、ではそれでいきましょう!」
「だが一個だけ問題があるんだ」
「問題?」
「本来、魔力回路とは目に見えないんだよ。魔力回路は魂に刻まれるんだ。で、体を失うときに一緒に魔力経路も切断されるんだよ。それをもう一度繋ぎ直すなるとかなりの苦痛を伴う」
「具体的に苦痛というのは?」
「そうだなぁ、右をハンマーで潰されながら左をナイフで切り刻まれているような感覚かな?」
「地獄じゃ無いですかそれ・・・」
「だ、だがな!メリットもあるぞ?生身を魔力で強化できるように義肢でも魔力で強化が可能になる!」
「ほう、ソレは確かに魅力的ですね、スキルで無理矢理動かす必要もなく、更に強化も出来るとは」
「だろう?だから痛みに耐えられるなら断然併用式の方がオススメだ」
星雲はしばらく悩むが結局提案を受け入れることにした。
「分かりました。では併用式でいきましょう。じゃあ早速作業を始めましょうか」
2人は作業を開始する。
「骨格と筋繊維はノアと同じでいいですね。あとはそうですね」
「そうだな。あは真皮部分をアダマンチウムにしてミスリルメッキで覆ったらどうだ?」
「その心は?」
「ミスリルは魔力の伝導率がいいからな、強化率が跳ね上がる。アダマンチウムはシンプルに硬い。見た目を人体に近づけなくて良いならだがな」
「見た目は気にしないのでその方向で」
方針が決まったらさっさと作業開始、2時間ほどで作業が終了する。キンゾ君、まじ神である。
「あっという間に出来上がりましたね。さて、次は手術ですか・・・本当に任せても大丈夫なんですね?」
「任せておけ!そもそもこの機械たちはブレーン156の機械だぞ?私は使用経験もある!ほれ、さっさと寝っ転がれ!」
背中をグイグイ押して手術台に星雲を寝転がす。
「じゃあお任せしますよ。」
直結術自体は1時間ほどで問題なく終了。そして魔力経路の再接続に移る。
「いいか?今から魔法でお前の魂に干渉して無理矢理繋げるからな、とりあえずコレを噛んでおけ」
「・・・これは?」
「舌を噛みきらないようにするためだな!ホレ、さっさと咥えろ」
「うへぇ・・・憂鬱だ」
そう言って星雲は何やら金属の棒を噛む。そして体を手術台の上に拘束していく。
「では行くぞ?」
ノアが何やら呪文のようなものを唱えると、星雲の体が光りだすと同時に両脚と右腕の断端から激痛がはしる。
「グッ・・・ギギギギギギギッッッッッ!」
「あと5分程耐えろよ~」
「ガッ!?(あと5分!?)」
星雲にとっては地獄のような痛みが続く。気を失おうにも激痛でそれどころではない。
「グゥッッッッ!」
「もう少しだぞー。ガンバレー」
5分後、星雲は気を失っていた。
「ふむ、よく頑張ったな。今はゆっくり眠りなさい、今代の王よ」
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