2.江戸の敵を長崎で討つ
さて、やってまいりました。エクスプローラになってからの初めての出勤日、社会人の制服と言えばスーツですが、エクスプローラの制服は戦闘服です。
ここに持ち出したるは自作の最新装具、会社から追い出される前にこれだけは持ち出してきました。名を『Nebula-Brace,全身Ver.』・・・えぇ、自分の名前を英語読みしただけですとも。ネーミングセンスなんぞ期待しないでください。
では、気を取り直して鏡さんから餞別として頂いた
「テメーが朧 星雲か?」
「・・・はい、監視員の方ですかね?」
「ッチ!そうだ、IEAの監査部所属のバーレンだ。これから1年、お前を監視する担当者だ。さっさとスキル暴発させるか死んでくれねーかな。俺らはテメーみたいな凶星スキルホルダーが憎いんでな」
周りにわざと聞こえる声で凶星スキルのことを言いふらす男は嫌ですね。周囲の目が痛いです。まぁ、どうでもいいんですが。
「・・・よろしくお願いします」
「ッケ!ほら、さっさと入場して人のいない場所に移動しろ。スキルの確認を行う。」
・・・気を取り直してやっていきましょうか。どこにいるかって?私は今、第4地区にありますは5等級No.17412ダンジョンです。ちなみにダンジョンとエクスプローラは5等級から1等級、更にその上にX等級と言うのが存在します。5級が一番低く、X等級が一番高いとでも思っていただければ結構です。
ちなみに各ダンジョンは入場制限などはありません。どの等級に挑もうがエクスプローラの自己責任、勇んで高ランクのダンジョンに挑み死んでも変わりはいくらでもいます。むしろそんなバカは死んだ方が世のためになるということで自由主義である現代においてはすべてが自己責任となるわけですね。
私は金が必要とは言え、いきなりX等級に挑もうなどと思っていませんよ。まずはクラスを得て、スキルを習熟してから高ランクに挑んでいく所存です。まぁ1年しかないのでかなり無理をするつもりではいますが。
星雲は自分の装備を確認しダンジョンゲートに入っていく。ダンジョンゲートは扉のようになっており、扉を開くとダンジョンの中へと進むことができる。
「この陰湿な空気、26年前を思い出しますね。はぁー嫌だ嫌だ。これから切った張ったをするわけですが気乗りしませんね・・・お?どうやらクラスを獲得したようです」
星雲の腕時計型のデバイスにクラスが表示される。これは魔力値とクラス、スキルが表示されるエクスプローラ向けのARディスプレイ型デバイス『Magi Digitizer』だ。エクスプローラたちはMDと呼んでいる。
星雲の腕を力いっぱいにつかみ自分の方へと持ってくるバーレンに対して強引な人だなぁと思いながら黙って従う。
「見せろ・・・フン、クラスは義肢装具士か、まぁ前職がそのまま反映された形だな。それにしても、本当に凶星スキル持ちか。ほらこの区画に行け、このダンジョンは元々人が少ないがここは完全に無人区画だ」
バーレンはMDにマップを表示させるとさっさと移動しろと急かしてくる。星雲はそれに従う。
クラスは格闘職から技術職まで様々だ。クラスを得るまでに何かしらの技術を持つ場合はそれがそのまま反映される場合が多い。
ちなみにクラスは3つまで取得可能で特定の動作を行うことでレベルがVまで上がることが確認されている。魔力はモンスターを倒すと上昇する仕組みとなっている。
「凶星スキル持ちですよ、不本意ながら。まぁせいぜい堕天しないようにコントロールしてみせますよ」
しばらく無言で2人は無言で目的地へと進む。モンスターは出てこない、恐らくすでに間引かれているのだろう。目的地に着くと2人はスキルを確認するために準備を進める。
「はぁ、外したくないですね。そろそろいいですか?」
「さっさと始めろ」
「承知しました」
そう言って星雲はネックレスに加工しているアンチスキルを外す。瞬間、周りの空気が凍てつく。体の周囲に氷雪が嵐のように渦巻き、紺碧の魔力が体内から溢れる。
「グッ・・・!26年ぶりに発動しましたがやはり、コレは・・・」
星雲の心象はカオスが荒れ狂う。決して交わらない感情が心を見失いそうになる。
これはマズイ、とてもマズイですよ!まるで自我が消失していき新しい自分に書き換えられるような感覚・・・そうかコレが堕天か。この感情に身を任せてしまおうか・・・いや、待て待て待て、自分は何をしにココに来た?自分は何のためにエクスプローラになった?金を稼ぐためだ!両親の死を意味のないものにするのか?
「・・・いいわけがない!」
「あぁ、このまま生かしておいていいわけがないな」
「はい?」
星雲がバーレンの方を振り向くのとバーレンが剣を横薙に振り抜くのは同時だった。
星雲の両脚が大腿部の3分の1ほどを残して消し飛ぶ。星雲はだるま落としの要領で地面に落下していく。
血の池にうつ伏せで沈む星雲、バーレンは満足そうに頷き、何やらキューブ状の物体を弄っている。星雲は痛みがないことに驚きながらも現状が分からず言葉を発する。
「な、何をされているんです?」
「今すぐ死なれては困るからな。俺のスキル、『治癒師』で切ったそばから傷口を治したんだ。そうすればご覧の通り、お前の足が切れても傷口は塞がっているという状況が作り出せる」
「あぁ、どうりで痛みがないと思ったら傷が塞がっているんですか。いえ、そういうことではなくてですね。なぜ私にこんなことになってるいんですか?」
星雲の質問にバーレンは目も合わせずキューブを操作している。
「で、だ。お前の海王星だがな?26年間ですでに次の候補者が捕捉されているんだ。もちろんお前が死ぬまでそいつのスキルがアクティブになることは無いんだがお前がこのダンジョンに入った時点で拘束の手筈は整っているんだ」
「はい?そんなことが可能なんですか?」
「可能になったんだよ。ブレーン915の研究者Zが記した看板は知っているな?」
「まぁ、世界一有名な看板でしょうし」
なぜ自分はこんなにも冷静なのか?と思いながら星雲は会話を続ける。この会話が終わった瞬間が自分の死期であると本能的に理解してしまっているからだ。
「それでここ最近凶星スキルの発現パターンについての研究が進展したんだ。今までの統計と合わせてかなりの精度で予測できるようになったんだよ。仮説を立てた後は何をすると思う?そう、実験だよ。そんな中ノコノコとIEAに合わられた海王星ホルダー、これを見逃す手はないだろう?」
「・・・今現在拘束中の凶星ホルダーで実験すればいいじゃないですか。確か2人いたと記憶していますが」
「もちろん、そんなことすでに済ませてある。何百と繰り返してすでに仮説の域は出た」
「なので次は私でと?ではなぜさっさと殺さなかったのですか?」
「知らないのか?星付きスキルは殺した奴に移ってしまうんだ。木星の奴は実力もないのにX等級に挑んでモンスターに殺されたからな。今はそのモンスターが持っている。星付きが赤の他人に移るのは自死や事故など他人を介さない場合のみ。さて、効率よく他人やモンスターを介することなく死んでもらうにはどうすれば良いか?」
「・・・自殺でもしろと?嫌ですよ。私はスキルをコントロールしてエクスプローラを続けるんです」
「そうだろうな、自殺なんてしてもらえると思っちゃいない。そこでコレだ」
バーレンは先ほどから弄っていたキューブを星雲に見せる。
「これは転移キューブだ。指定されたダンジョンの指定された階層にひとっ飛び。まぁ実際にこのキューブを持っていって地点登録をしなければならないんだが、中々便利だろう?」
「エクスプローラにとっては喉から手が出る程の代物ですね」
「そうなんだよ、コレはとある場所の地点が登録されているんだ。どこだと思う?」
「さてね、どこでしょうか?」
「第4地区にあるX等級No.4の深層51階層にあるトラップルームだよ。このキューブは木星の奴が持っていたモノだ。そしてお前が今から行くところだよ。良かったな、木星ホルダーと同じところで死ねるぞ」
星雲はなんとか考える、この場を凌ぐ方法はないかと。
星雲は必死に考えるが何も案は浮かばない。加えて脚は切り落とされている。眼前に迫る死を前にして星雲の心は混沌に支配される。それは堕天の兆候、紺碧の魔力が立ち昇り周囲を氷塊が破壊していく。星雲の髪も黒から紺碧へと変容していく。首筋には海王星の象徴である『♆』の紋様が徐々に浮かび上がっている。
「すでに堕天の兆候が現れているな。何が『堕天しないようにコントロールする』だ、お前らは人類の呪い、消え去るべき象徴だ。俺の妻と娘もお前らに殺されたよ。これで一つ復讐を果たせる」
ケタケタと笑いながらバーレンは転移キューブを発動させ星雲の方へと投げつける。キューブの周り2mが発光し光の柱が出来る。星雲と
星雲は思う、復讐も何も私何もしていませんが・・・
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