第55話
空を飛んでいるような感覚があった、一面真っ白な世界で自分と遠くに1人の少女が居た。
遠くて分からないがその少女は髪型も服装も仕草も口癖も何もかもが真夏に似ていて……俺はその少女に近づこうとするが一向に距離が縮まらない。
俺が走って近づこうとすると、その少女は「さよなら、奏介くん」と言い、そして白い世界のどこかに消えてしまった。
そして俺に残ったのは虚無感と悲しさのみだった……。
※※※
「真夏……」
暗い部屋、隣にはレアがいて、いつもの場所で目覚めたが、なんだかいつもと違う場所のような気がした。
確実にあの白い世界での出来事のせいだろう、真夏が自分から離れていく夢……だといいな……。
とりあえず気分を落ち着かせるために隣にいるレアを撫でて時間を確認しに立ち上がる。
4:44──────
なんとも不吉な時間に起きてしまったものだ、あの夢の事もあってこれ以上眠れそうにもない。
「このまま起きておくとするけど……まぁ真冬さんには正直に言った方がいいかな」
もう眠れそうにないのでそれならこのまま朝まで起きていた方がいいと思った俺は普段飲むことの無いコーヒーを飲んでいた。
あの夢の事が気にならない訳はなく、ずっと離れていった真夏の姿を思い浮かべている。
(あれが夢で終わればいいんだけどな……現実であんなことになったら俺は絶対に立ち直れない)
なるべく音を立てないようにコップを片付けたのだが俺が起きていることに気づいたのか、レアが部屋から出て来ていた。
レアは空気を読んでくれているのか甘える時の鳴き声を出さずに静かに俺の腕の中へと収まった。
「やっぱりレアは可愛いなぁ……レアも真夏と同様大切にするからな」
「にゃ」
奏介が小さくそう呟くと、レアも小さく返事を返した。
レアはいつも通り奏介の膝の上で寝てしまった。
あの夢の事が気になって、撫でて癒されないと気持ちが落ち着かないので、いつもみたいに布団に移動させることをせずに撫で続けた。
真冬さんがいつも俺を起こしに来るのは6時なのでその時には着替えを済ませていることから5時半くらいには起きてることが予想できる。
「それまではレアと過ごすとしようかな、というかそれ以外に選択肢がない」
それから数十分の時が流れて真冬さんがリビングにやってきた。
「ん、起きるの早いですね……私より早いなんて」
「それはまぁ嫌な夢を見ちゃって寝ようにも寝られなかったから1回起きたその時からずっと起きてたんだよ」
「今日学園ですよ? 大丈夫なんですか、体調とか色々」
俺は真冬さんに夢で見た内容を詳しく伝えて、今日1日真夏に甘える許可を得れた。
それから急に眠気が襲ってきたが、学園には行かないといけないので真夏の前では平然を装いながら学園へと向かった。
途中で疑われたが何とか放課後までは持ち堪えていたのだが放課後になったのを境に力尽きた。
※※※
「やっぱ寝ちゃったか……って真夏?」
「やっと起きた……ほら早く帰るよ」
「起こしてくれてよかったのに……」
「いや起こしたよ!? 何回も起こしたよ! でも気持ちよさそうに寝ている奏介くんの邪魔するのもあれだなぁって思って途中からやめた」
放課後ということなので早く外に出ないと色々と不味いことを2人走っているので鞄を背負うなり駆け出した。
幸いなんとか間に合ったようで門の外に出ることが出来た。
「危なかったぁ、奏介くんが起きないからじゃん!」
「ごめんって、何でもしてあげるからさ」
「何でもって、アレなことでも?」
「え、何? 真夏ってそういうことしてみたいの?」
「うぅ……」
今の俺は真夏の願いなら本当に何でもする気でいたのだな少しからかいすぎてしまって真夏から胸をポコポコ叩かれる。
真夏の頬がみるみる赤くなっているのが見えるが、夢の中の真夏に離れられたので現実の真夏は絶対に離さないためにもしっかりと手を握っていた。
「もう、恥ずかしいって……今日の奏介くん、なんかいつもより積極的になってるし」
「夢の中の真夏に悲しまされたから現実の真夏で補ってるってことだよ」
「夢の中の私って……意味わからないよ!?」
結局、真夏にも夢の内容を全て話すことになってしまった。
それを聞いた真夏がニヤニヤしながら「なるほどねぇ」と俺の方を見つめてくる。
「夢の中の私に離れられて寂しいから現実の私に甘えてきてたんだねぇ、大丈夫だよ私は絶対に奏介くんから離れないから」
「本当に?」
「本当、だから安心していいよ。あ、いつでも甘えてきてくれていいからね」
今回は夢のことがあったからこその異例でも奏介から甘えてきているが明日になったら奏介は普通に戻っているし甘えてくるのは真夏になるだろう。
「それじゃあ今日だけになると思うけど俺の方から甘えようかなぁ」
「なんで今日だけなの〜」
「そりゃあ自分から甘えてきて俺に甘やかされて恥ずかしがってる可愛い真夏が見たいからだけど?」
「そういう事を不意に言うから私が恥ずかしがるんだから自重してよね、ほんと……」
2人は手を繋ぎながら帰路を歩いているが奏介がいつも通りになって、真夏が褒められまくって恥ずかしがるという光景になっていた。
部屋の中に入ってからはしっかり奏介は真夏に膝枕をしてもらって甘えていた。
今回は真冬にも事前に説明して許可を得ているので甘えても、甘やかしても何も言われない。
「真夏は可愛いし、スタイルいいし、本当に最高の彼女だなぁ」
「きゅ、急にどうしたの? そんなに褒めても何も出ないよ」
「いや、その可愛い姿が出てるので満足です。彼氏というのは彼女の可愛い姿だけで満足するのだよ」
俺だって不意にキスされたり抱き締められたりするとさすがに恥ずかしくなるかなぁと考えていると普通にキスされた。
「私ばかり恥ずかしい思いをして不公平です! 奏介くんも少し恥ずかしい思いをしてください、そういえばさっき何でもするって言いましたね」
まぁそれから奏介は頭を撫でられたり抱き締められたり色々された。
「俺に恥ずかしい思いをしてもらうんじゃないのか……? 普通に自分の欲求満たしてるじゃん」
「付き合ってるんだからこれくらいはいーじゃん!」
「無防備なのはやめた方がいいよ、いつ俺が手を出すか分からないからな」
「奏介くんになら手を出されても……いいよ?」
一瞬真夏が何を言っているのかが理解できなかったがすぐに理解した。
真夏は俺になら手を出されてもいいと言ったのだ、さすがに俺を信用しすぎだし気も早すぎる。
「えへへ。今、奏介くん恥ずかしい思いをしたよね〜?」
「あ、当たり前だ! こんな可愛い彼女にそんなことを言われたら恥ずかしいに決まってるし戸惑うから、もっと先の話にしてくれ」
「つまりその時まで私と付き合ってくれて、その時になったらそういう事もしてくれるってことかな?」
イタズラっぽさが含まれた声でそう言う真夏に俺は手を出しそうになったので「さあな」と言って部屋を出ていった。
最後に確認できたのはレアを撫でながら俺の方も向いて微笑む真夏の姿だった。
(あんなの、反則だろ……)
隣の席の美少女を事故から庇ったら同棲することになった 桜木紡 @pokk7
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